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第三章異世界の常識

閑話 腹黒勇者の雑談

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光に包まれ、目を開けた景色はさっきと全く違う場所だった。
ユリナは状況がわからずにいたが、聞くところによると異世界というところに召喚されてしまったらしい。
さらには勇者として戦ってくれと言われた。

ふざけんな!自分たちでなんとかしろ!
と、叫びたいユリナだったが、こんな状況で自分が不利になる言動など控えるべきだ。
良い扱いをされるそうだし、まあ仮に自分が強くなかったとしてもこんな可愛い少女を見放したりしないだろう。
そう思い、ユリナはここを健気で優しい女の子としてやり通すつもりだった。

しかし現状を理解しない、頭の悪い女がいた。
目つきの悪い女は、この国を見捨てようとしていた。馬鹿なやつだ。そんなことをしても自分の立場が悪くなるだけ。
ユリナは心の中で彼女を笑い、文字通り健気な女の子を演じた。



「面倒くさいわ。ユリナさんもそう思うでしょう?」

そう言ったのは、ユリナと同じ「健気な女の子」、マミだった。
マミは可愛らしくおとなしい女だった。その女の本性を見た。しかし、驚きはしなかった。薄々気づいていたのだ。

この女のことを兵士にでも告げ口して、評判を落とし、自分がマミより良い立場に座ることもできたが、ユリナはやらなかった。証拠が不十分だし、良い子を演じていた疲れを発散させたかった。

「ええ、まったくだわ」

だから、自分の本性も見せた。
相手が私にこのような態度をとったのだから、きっと私の本性もバレているのだろう。
ユリナはそう思い、マミとだけ自分の素顔を見せていた。

王宮での生活も慣れてきた時、実力調査とかいう面倒くさい実戦が行われると聞いた。
勇者なのだからあたりまえだが、もう少し王宮での生活を楽しみたかった。
馬車に乗り、荒地に着く。兵士の話では、下級のモンスターを倒せというらしい。

なんで自分がこんなことを。そう苛立ちながらマミとユリナは話していた。二人でいるときはストレスの発散になる。今日は特にイライラしていたので注意力が鈍くなっていた。

気づいたら目つきの悪い女に見られていた。
自分の本性がバレた。こんな女に。
ユリナはアリサに怒りを覚えた。この女をどう口止めしようか。

そう思っていた刹那、マミが悲鳴をあげた。
すぐに兵士たちが駆けつける。マミは「アリサが私達を殺そうとした」、そんなありもしない話を作っていた。
なるほど。
と、ユリナは思い、すぐに乗った。こんな女と自分、どっちが悪になるかなんて、分かりきったことだった。
予想通り兵士はすぐに信じた。
本当、人生イージーモードである。

「でも殺人未遂犯に仕立て上げるだなんて、あそこまでしなくてよかったんじゃないかしら?」

ユリナはマミに問う。

「あの程度の女が私達の会話を聞いたのよ?乙女の純情を汚す害虫は排除しないと」

マミは笑いながら言う。

それもそうか。と、ユリナは思った。何よりも勝手に聞いたあっちが悪い。

その後、私達が下級の魔物を次々と倒し、兵士たちが歓喜する様子はとても心地良かった。これなら魔王も倒せるかもしれない。そうユリナは喜びに浸っていた。
しかし、ユリナとマミには国の警備だけしてもらいたいという。警備といっても、魔物が王都を襲ったら戦うという程度だ。まぁ、そっちの方が楽でいい。

実力調査が終わると、再び馬車に乗り、来る時も通った崖を通る。
しかし、そんな時に現れたのがグアンナという魔物だった。
ユリナやマミは兵士に避難指示を出され、素直に従い、馬車を離れた。しかし、皆アリサがいないことに気づいた。
グアンナが去ったことを確認すると、馬車へ戻った。
しかし、馬車がひとつ無くなっていた。それはアリサが乗っていた馬車だった。

崖の底は暗く、よく見えなかったが、馬車が落ちたと判断された。
逃げ遅れたアリサはグアンナに喰われたかそのまま落ちたのだと言われた。
人が亡くなったが、心を傷めないでほしい。心配そうに兵士に言われたが、ユリナは何も感じていなかった。
死んだ人間に興味はない。
むしろ私達の嘘の証拠がなくなり、ラッキーだ。と、ユリナは気楽に考えていた。

王宮へ着き、ユリナとマミは再び二人きりになる。

「関係ない話だけど、これからは王宮で暮らすだけでいいの?あなたは何かやりたいことはないのかしら?」

マミに問われる。

「私はこの国のイケメン王子でも捕まえて、王妃にでもなるつもりよ」

「へぇ、頑張ってね。応援するわ」

マミはそう言って、ニッコリ笑う。だからユリナも「ありがとう」と微笑んだ。
しかし、心の中は笑ってなどいなかった。

(知ってるわ。あなたも、王妃の座を狙っているんでしょう。でも残念。勝つのは私。だって私の方が可愛いんだもの。あなたが隙を見せたらあの女のように地に叩き落としてやるわ)

ユリナは心の中で笑う。


どちらかではなく、どちらも地に叩き落とされるのだが、それはまた別のお話。


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