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────4話*水面下の戦い

2・そりゃ、そうでしょ

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****♡Side・課長(唯野)

──今頃、どうなっているのやら。

 唯野は苦情係の自分のデスクで、コーヒーを飲みながらまるご〇バナナを咥えていた。苦みと甘みが良いバランスだ。
「課長! 今二人しかいないんですから、真面目に働いてください」
「はいなっ」
 板井に怒られつつ。

 根回しは完璧なはずだ。あの社長のことだから想定外のことにはならないとは思うが。
 課長じぶんのお墨付きというモノがあれば、社長も上手いこと収められるはずだと思っている。そもそも苦情係を塩田中心の人事にしたのは社長。
 となると、塩田に辞められてはこの部署の存続は怪しい。しかも、なんだかんだで優秀な部下たちだ。
「辞められちゃ、困るんだよ」
「ナニ、ぶつくさ言ってるんだ」
「お」
 唯野の背後からツッコみを入れたのは、塩田である。
「お帰り、どうだった?」
「勝訴、勝訴」
 塩田は珍しくニコニコしていたが、一緒に戻って来た電車は複雑な表情をしていた。

──なんだ? どうしたんだ。

****♡Side・電車でんま

「どうした、紀夫」
「うん?」
 デスクに腰かけるなり塩田に声をかけられ、電車はそちらに顔を向けた。
 先ほどのことが脳裏を過る。何も知らなかったのは自分だけなのかと思うと、またため息が出た。
 彼を守りたいと思いながら逆に守られていたのだと気づき、自分に落胆していたのだった。

「俺……全然、塩田のこと守れてないなって思って。守られてばかりでさ」
と電車がデスクに顎を乗せると、彼は隣に腰かけ髪に触れる。
「何言ってるんだよ。お前がいるから俺は……」
 電車は、自分の髪に触れる彼の手に手を添えた。優しく撫でる温かい手。
「必死になれるんだぞ」
「塩田」
「気にするなよ」
「うん」
 頷いてみたものの、気にしないなんて無理な話。付き合う前も、付き合った後も彼に頼りっぱなしな自分が嫌だ。

「なあ、紀夫」
「うん?」
 デスクにへばりついたまま彼を見上げると、
「帰りに何処か食べに行こう」
と誘われる。
 自分だけに優しくて、気遣いをしてくれる彼。
 今回は別れさせられるかもしれなかったのだ。自分のせいで。自分があとさき考えず行動してきたせいで。それなのに、彼はちっとも責めない。
「うん、何処行こうか」
 電車は、瞬きを一つすると微笑んだ。すると彼は嬉しそうに目を細める。何も、外食が嬉しいわけではない。電車の笑顔に彼が反応したのだ。

──そうだ、俺が暗い顔してたら塩田が悲しむ。
 塩田は俺に笑っていて欲しいって、言っていた。
 俺は無力だし、頼りないかもしれない。
 でも、自分が笑顔でいることで塩田が幸せなら……。

「塩田、大好きだよ」
「俺も」
 二人で見つめ合っていると、
「お前ら、いつまでもいちゃついてないで、仕事しろよ」
と唯野に怒られたのだった。
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