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────0話*出会いと恋

22・塩田を捜して

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****side■電車

 塩田の気持ちに気づかない電車でんまは、ただただ焦っていた。
 いつも苦情係にいるはずの塩田が不在なだけでこんなに焦る理由がわからない。そこに副社長の皇もいないのであれば、ここまで不安に感じることはなかったのだろうと思う。
 どこに行ってしまったというのか?

 塩田の行動範囲は狭い。休憩は必ず誰かと一緒に行くし、業務で行くべき場所も決まっていた。
 苦情係の面々は担当が決まっていて、業務内容からフットワークが軽いのはダントツ板井だ。彼は企画部や総務などへも用がある。
 しかし塩田の主な業務は電話での”クレーム対処”。その日の業務をまとめたモノを資料室へ持って行きはするが、その資料室は苦情係のある階にあり、廊下を出てすぐそこだ。

 休憩時間には板井と屋上へ行くこともあるようだが、一人で行くのを見たことがない。休憩室なら各階にもあるからだ。
 もっとも、彼が黙って苦情係を出るのは業務以外には考えられない。

『さっき、お前のとこの課長が、七階の仮眠室に入っていったぞ』
 塩田を探していたらそう教えてくれる社員がいて、嫌な予感がしている。
 そんなところに用があるはずは無い。
 仮眠室なら苦情係りのある階にもあるからだ。

 塩田がそこにいる保障は無いけれど、課長唯野が塩田を探している可能性ならある。転がるようにして駆けつけた仮眠室を開け、電車は驚愕した。

──塩田ッ!

 電車は入り口脇のソファーにあったクッションを掴むと、唯野の後ろから思いっきり振り下ろす。痛がる唯野を押しのけ塩田の腕を掴む。
「塩田が嫌がってるだろ! やめろよっ」
 どうしてこんなに塩田は狙われるのだろうか? 気が気じゃない。電車は優しく彼を抱き締める。
「塩田、大丈夫?」

──もう、俺のものになってよ。
 守ってあげるから。

 言葉に出来ない代わりに願う。彼がぎゅっと抱きついてきて驚いた。塩田がこんな反応するなんて、よっぽど怖かったのだろうか?

──可愛い、塩田。
 どうしてくれよう?

「何、凄く可愛いんだけど?」
 正直、鼻血が出そうだ。彼はほぼ全裸。
 好きな人に抱きつかれて平静で居られるほど人間が出来てはいない。
 ドキドキしていたら”遅い”と文句を言われるが、待っていてくれたのかと嬉しくなる。
「なんだよ、やっぱりデキてるのか」
 背後で唯野にそう言われ、電車は青ざめた。
 何と答えていいのかわからない。
 違うといえば、塩田は……?

「塩田」
 呼べば、離れたくないというように抱きつく腕に力が入る。
 ”今だけ、恋人のフリして”
 小さく囁けば、彼はこくんと頷いた。
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