富豪デスゲーム

JOKER

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三日目

三日目

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三日目

「……どういうことだよ」

「……どうしてだよ」

「……」

「……おい、やめろ! やめろって!!」

「あぁぁぁあぁあ!!!」


 彩香は起きてすぐに激しい頭痛に襲われた。頭を抑えてベッドにうずくまる。耳鳴りがこれまでにないくらい大きく高い音で彩香を苦しめた。その耳鳴りの音が小さくなっていくと、その音が廊下から聞こえる騒音に変わった。
 壁の向こうから聞こえる騒ぎ声と床を駆ける足音。様子がおかしいことを彩香は素早く察知した。様子を見ようと立ち上がると、立ちくらみで足がふらついた。
「……もう、だめかも」
 思わず弱気の一言が漏れてしまった。
 体にムチを打って歩き出し、ゆっくり扉を開いて廊下を覗く。
「どうなってんの!?」
「……訳がわからない」
「なんで朝なのに死体があるんだよ……」
 彩香は目を見開いて、部屋を飛び出した。そこにいる者の視線が集まった。全員が和也の死体に視線を向けた。和也の目には光がなく、口からは泡を吹いて壁に寄りかかった状態だった。
「……おい!もう1人倒れてるぞ!」
廊下の奥から健の声がした。
「そ、そんな……」
彩香は言葉に出来たのはこれしか無かった。そこには彩香の想い人、祐介がうつ伏せの状態で倒れていた。
「祐介! どうしたの! 起きて!」
詩織が駆けつけて、必死に声をかけている。
「……いや、祐介は生きている!まだ脈があるぞ!」
後から駆けつけた、誠が言い放った。どうやら、誠いわく祐介は気絶していただけのようだった。医者を目指している誠にはこのような対処は朝飯前のようだ。
「とりあえず祐介の部屋まで運ぼう」
こうして朝の騒動は静寂へと向かっていった。


「……痛った」
祐介が目を覚ます。
「起きたんだね」
彩香は祐介の身体の状態に安心した。部屋には二人のみ。
「どうして俺はベットの上で寝ているんだ?」
祐介は何か怯えているようだった。
「朝の事で何か覚えていることはない?」
短い沈黙が起きた。
「……和也……」
「和也?」
「和也に……殴られたんだ」
彩香は祐介が発した言葉の意味を理解するのに時間がかかった。祐介の右の頬が赤く少し腫れているようだった。
「……でも、なんで?」
「解らない。あいつが俺に何か言ってきたんだ」
「いつ? なんで言ったか覚えてる?」
「すまん。覚えていないんだ」
祐介は下を向いて答えると、部屋の扉が開いた。
「……祐介?」
入ってきたのは詩織だった。彩香は彼女を軽く睨みつける。
「祐介、大丈夫なの?」
「大丈夫。心配かけてごめんな」
その会話の横で聞いていた彩香は我慢の限界にきていた。
「……じゃあ和也はルール違反で死んだってことなのね」
二人の会話を遮るように声を出した。その声に、祐介は無言でうなずいた。
この時、彩香には疑問があったが聞かないことにして、早足で部屋を出た。


「……祐介は?!」
ホールへ移った彩香をみて、座っていた健が言った。
「祐介は目を覚ましたから大丈夫。少し部屋で休むって」
それを聞いて、健はほっとした様子だった。
「だけど、和也が……」
12席あった椅子の4席はホールを隅に置かれていた。ホールの雰囲気は暗いままだった。
「昨日の出来事があった時、物音とか、人影とか何か知っている人はいないのか?」
健の質問に意味はなかった。
「なんで、みんなが寝た後に、祐介と和也が廊下にいたんだろうな。和也が祐介に意味も分からず殴りかかったのも考えられない」
誠が顎に手をやって、悩んでいる様子で座っていた。誠特有の真剣に考えている時の姿勢だ。
「カード確認しないの?」
彩香の隣でそう言った麻結の手にはカードが握られていた。椅子の下からカードを剥がして、そのカードを横から見られないように手で覆い、ゆっくりそれを見た。
彩香の表情が一気に曇った。









「これからどうするの?」
昨日のように結衣の部屋に集まった。麻結が結衣に問うが返答はない。祐介は部屋で休んでいて友也も死んでしまって、ここにいるのは女子3人。
「とりあえず、カード伝えないと」
まだ朝だが、彩香には焦りがあった。急ぐようにポケットからカードを取り出すと同時に結衣が言った。
「……待って」
「え?……」
「グループ作ってるの私たちだけじゃない」
彩香には意味が分からず、再び聞く。
「昨日の投票思い出して」
昨日の夜の記憶を蘇らせる。彩香はグループの作戦通り友也に指先を向けた。選ばれたのは友也と楓。
「楓に6票入ってた。友也に2票入れて、楓に3票入れるようにみんなにお願いした。結果は、友也4票、楓が6票」
「……まさか」
麻結が口に手を当てた。彩香もその理由が分かった。
「そう。あの投票で票が綺麗に集まると思う? 楓は確かに嫌われるような人物かもしれない。でも、楓の3票は明らかにおかしいよ。そして、友也の4票。これは偶然かもしれないけど、もしも、もう一つグループがあるなら、私たちのグループと同じことをしてる」
「だったら人を増やせばいいじゃん」
「もし、誘った人が敵グループだったら? 向こうも五人だろうから誘えるのは2人だけ。失敗したら投票されるよ」
「じゃあ、どうするのさ」
部屋は無音に包まれた。解決策が分からないまま、時間は流れた。
「もういいわ」
痺れを切らした麻結が部屋から出ていった。
「今日の投票はどうするのつもり?」
「……」
「何でもいいから答えてよ……」
結衣が手元を見つめたまま、顔を上げることはなかった。


「祐介、具合は大丈夫?」
グループ会議も中途半端に終わり、行く先がない彩香は再び、祐介の部屋を訪れた。祐介の顔色は良く、元気そうだった。
「心配かけて悪いな。まだ少し、頭が痛いけど大丈夫」
頭に手をやり答える。
「そう」
「今日の投票はどうするんだ? 会議、あったろ?」
「会議……」
今日の会議は少し言い争いがあった。全員のカードも投票先も彩香は知らない。
「……結衣が私たち以外にもグループがあるって」
祐介はそんなに驚いた顔をしなかった。
「結局、まだ何も決まってない。みんなのカードを知らない」
「そうか……」
「そういえば、カードは?」彩香が聞く。
胸ポケットからカードの上部だけを裏向きで見せた。
「朝、詩織が来た時に。彩香もその時にいただろ?」
詩織というワードを聞いた彩香は口調を強めた。
「朝に詩織と何を話したの?」
「え?」
祐介の目が左右に揺れたのが分かった。
「何を話したの?」
真っ直ぐだった視線が下に落ち、祐介が言う。
「このゲームについて話してただけだよ」
「本当に?」
「本当だよ」
静かで冷たい空気が部屋を包んでいた。
彩香には聞きたいことが一つあった。聞くべきか、辞めておくか迷ったが、聞かずにはいられなかった。
「祐介は詩織のこと好き?」
聞いて後悔したときにはもう、遅かった。
「もちろんだよ」
答えを聞いて、彩香の投票先が絞られた。


祐介の言葉を彩香はまだ、信じることが出来なかった。呆れて、動く力も湧いてこない。仕方なく、部屋で身体を休めていた。
祐介の最後の一言はあまりにも衝撃的だった。なぜ、祐介と詩織なのか。考えるたびに怒りがこみ上げて、それを抑えるために毛布を握りしめた。
 彩香はまだ、分からないことは山ほどあった。
 なぜここにいるのか。集まったのはクラスメイトの一部。理由があるとすればクラスに関係があるのは間違いないだろう。
 ここで目覚める前の記憶もないのも不思議だった。記憶のある者は誰もいなかった。
 このゲームの開催者の味方が12人の中にいるかもしれない。しかし、大員数のプレーヤーを一人で集めてここに連れてくることは可能なのだろうか。
 彩香はそんなことを考えていた。
 コン  コン
 途方に暮れていた彩香の部屋にノックの音がして、ゆっくり扉を開けると結衣がそこにいた。
「今すぐ来て」
それだけを言った結衣がすぐに振り向いて歩き出した。
彩香も結衣を追いかけた。
結衣の後に部屋に入ると、みんながいた。
「グループ会議の始まり~」
祐介がふざけたような声を出した。彩香は彼を睨みつけた。もちろん、バレないように。
「みんなの持ってるカード教えて」
結衣の口調が強かった。朝のこともあるせいか、祐介以外全員、イラつきがある様子だった。
「早く教えて、時間がない」
時計の針は七を指していた。あと二時間、確かに時間がない。
続々とカードを取り出し始めた時、祐介が言った。
「すまない。俺、カードを部屋に忘れしまったわ。今日は4だったから」
祐介のあと、順番にカードの強さを伝えた。
「一番強いのは……」
「……私……だよね?」
Aを持っていた彩香だった。
「やっぱりね。朝、カード見た時に大体予想してた」
思わずため息をついた。でも、嫌な感情はなかった。Aに勝てるのは2だけ。負けることはないだろうと思った。
「今夜指すのはどうするの。誰でもいいなら彩香が決めてもいいんじゃない?」
麻結が提案した。
壁に寄りかかり、足元を見ていた彩香の頰が上がった。彩香が投票したい人はとっくに決まっている。
「詩織がいいんじゃない」
「それじゃダメだ」
即座に反論したのはもちろん祐介。彩香は睨みつけて言う。
「なんで?」
「昨日、数人の人が誠の部屋に入って行くのを見たんだ。もう一つのグループがあるんだろ? だとしたら向こうのリーダーは誠なんじゃないかな?」
彩香は痛いところを突かれてしまい言葉を失った。理由があるなら投票する意味があるが、詩織を指す理由が個人的な恨みしかない。
「グループのリーダーを潰すのもありだと思う。誠でいこう」
結衣が最終決定した。
友也を失い、味方への票と、敵の票を二票ずつ分けることにした。
「四人か。向こうが仲間を増やしてたら負けるかもな」
祐介がふと言った。やはり、仲間を増やすべきだったかと、後悔した。
「負けた時はそのとき。最後の五人に残っていればいい。少なくとも、票が集まらなければ生きられる」
彩香は、結衣の言葉に隠された裏の意味を感じとった。裏切ることも大切だと。
このグループもあくまで、口約束で組まれた集団だ。裏切ろうと思えば裏切られる。先に裏切るか、裏切られるか。
 不安の積もる中、彩香は投票の時間まで待つことにした。


ゴーン、ゴーン、ゴーン

9時になり死を告げるような安らかな音色の鐘が響いた。

『ソレデハ今宵モゲームヲ始メルトシマスカ~?』

「……」
誰も反応を見せることがなかった。

『ト、ソノ前二ルールノ変更ヲオ知ラセヲシマ~ス』

彩香を含めて残りの9人がその言葉の意味を瞬時に理解することが出来なかった。
「ど、どういう事だよ!いきなりルール変更だなんて」
健が不意に叫びだした。

『ダ~カ~ラ、最初ノ日二話シタハズデスヨ~』
『10人以下二ナッタラルールヲ変エルト』

普段の彩香ならルール変更の知らせに恐怖しただろう。だが彩香はこのルール変更に掛けた。憎き人を殺せるかもしれないチャンスを。

『変更サレルノハ対戦相手ノ選ビ方デ~ス』
『私ガ1人指名スルノデ指名サレタ人ハ対戦相手ヲ選ンデ下サ~イ』

彩香の胸は今まで人生で感じたことの無い喜びに満ちていた。

『記念スベキ最初ノ人ハ~』

全員が恐怖している中、彩香は、自分を指名しろと心の中で何度も叫んでいた。

『祐介サンデ~ス』

マスターの使命があっても場の空気は変わらなかった。様子が変わったのは一人だけ。
「なんで俺なんだよ!」
取り乱したように立ち上がる祐介。一人で叫んでいて、周りはそれを見るだけだった。
「他の人にすればいいだろ!」

『祐介サン。モウ一人、指名シテクダサ~イ』

マスターの指示も聞かず、祐介は叫び続けた。もう、何を言っているかも分からなかった。しかし、突如、祐介の身体に異変が現れた。立っていた祐介が突然倒れ、床で転がった。声も出さず首を抑えている。

『言ウノヲ忘レテイマシタガ、消去方法モ、少シ変ワリマス』

そう言うと、咳き込みながら祐介が立ち上がった。

『モウ一人ヲ、指名シテクダサーイ』

祐介はよろけながらまだ、咳き込んでいる。そんな彼が指を指した。その先にいるのは美咲だった。
『美咲サンデース』
美咲は座ったままだったが、膝の上の拳が震えていた。
「なんで、あたしなの?」
「カードを早く出せ。もう、勝負は決まってる」
彩香は今の言葉に疑問を覚えた。彼のカードを思い出す。

『美咲サン消去デ~ス』

彩香が記憶を探っている内に勝負がついた。一瞬の出来事に驚き顔を上げた。美咲が人間とは思えないように手足をばたつかせていた。しかし、彩香には音を感じなかった。感じられなかった。無音の映画のワンシーンが目の前に流れていた。
美咲がゆっくり力尽きて行くと少しづつ現実に戻されて行く。
「……何これ」
結衣がカードを拾い上げて呟いた。
「触るな! さっさとそれをよこせ!」
カードを奪いに行った祐介が結衣を突き飛ばした。結衣が壁に激突し床に倒れる。カードは空中を落ち葉のように彩香の足元へ落ちた。そのカードの持ち主は、それを急いで拾い上げ、ホールから飛び出ていった。一瞬だったが彩香にはカードが見えた。カードの表全体に描かれていたピエロマーク。その血だらけのピエロは不気味な微笑みを浮かべ、こっちを見ていた。


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