死んでも言わない

瀬楽英津子

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死んでも言わない〜2

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「男のくせに乳首ピンピンに勃ててるとか反則だろ……。色も赤くてヤラしいし……」

「あひッ! だッ、だめぇッ!」

 硬くなった乳首を捻り上げられ、マヒロがピンク色に染まった身体をビクンと震わせる。
 マヒロのシミひとつない綺麗なペニスを乱暴に扱いて射精させると、高橋は、マヒロのお腹の上に飛び散った精液を手のひらで回し広げながら湿った指先を胸元に伸ばして乳首を摘み上げた。

「んあぁぁッ!」

 払い除けようとする手を軽々と毟り取り、親指と人差し指で根元を挟んでぐにぐにと揉み潰す。
 ペニスに向けられていた高橋の関心は、マヒロの射精を見届けるや否やその先にある硬く尖った乳首へと矛先を変えた。

「ちっせぇのに、すっげぇコリコリ。男でもこんなんなるんだな……」

「いひぃッ!」

 子供が新しいオモチャに夢中になるように、高橋は、マヒロの乳首を、精液のべっとりとついた指で揉んだり摘んだり引っ張ったり爪を立てたりしながら、マヒロの乳首が揉み潰されて赤らみ変形するさまを嬉々とした表情で見詰めている。
 高橋の指に乳首を捻り上げられるたびに、マヒロが、白い身体をくねらせながら鼻から抜けるような甘えた喘ぎ声を上げる。

「は……やめっ……も……あッ」

 後孔には、まだ射精していない、いきり勃ったままの高橋のペニスが深々と突き刺さっている。
 それが、乳首をいじる合間に気まぐれに奥を突いてはマヒロの身体を揺さぶり上げる。
 反動で背中が跳ねる。喘ぎ声が悲鳴に変わる。

「いあッ! やだやだッ、あひィッ……いぁあッ!」

「気持ち良くしてやってんだから大人しくしてろって!」 

「あッ……ぁはぁぅんんッ!」

 左右に割られた足は高橋の腰を跨いでMの字型に大きく開かれ、度重なる突き上げに爪先をピンと天井に向けて硬直している。
 乳首への執拗な愛撫と前立腺を狙った激しい突き上げ、痙攣の止まない媚肉を抉りながら抜き差しする熱い昂ぶりに、一度は萎えかけたマヒロのペニスが再び勃ち上がる。

「マジで感じやすいのな……こういうの“モロ感”って言うんだろ? ヘタな女よりよっぽどエロいって……」

「あああッ、あッ、ああッ、あッ」

 マヒロのもつれるような喘ぎ声が高橋の興奮に拍車をかけているのは言うまでもない。
 そうでなくとも、押し寄せる快楽に火照りを上げた後孔が、ただでさえビクビクと震える肉壁を、よりいっそう犇めき合わせて高橋のペニスをキュウキュウと締め上げる。

「あんま締めんな……」

「んッ……しらな……いひッ!」

「だから締めんなってッ!」

 絡み付く肉の感触と悩ましげに身悶えるマヒロの姿が、触覚と視覚の両側から高橋の官能を煽り立てる。射精が近い。

「うおおおッ!」と、獣のような雄叫びを上げながら、高橋が一番奥に突き入れたペニスを慌てて引っこ抜く。
 同時に、ぬらぬらと光る先端から精液がビュッと飛び出し、高橋は二度目の射精を終えた。

「ッぶねー、また中に出すとこだった……」

 息を荒げながら、傍に転がるボックスティッシュに手を伸ばして二、三枚引き出し、ペニスについた精液を拭う。
 マヒロはひっくり返ったカエルのように両足を浮かせたまま、開きっぱなしになった後孔を晒している。
 質量を失った肉壁が赤く腫れた粘膜をヒクヒク喘がせながら体液とローションの混じった粘液を、ドロッ、ドロッと、嘔吐えずくように外へ吐き出す。
 ペニスは置いてきぼりを喰らったままお臍を向いて勃ち上がり、濡れた先端を光らせながらピクピク震えている。
 一歩タケルは、目の前で繰り広げられる高橋とマヒロの淫猥な交わりをまんじりともせずに眺めていた。
 マヒロの汗ばんだ額、紅潮した目元、濡れた口元から吐き出される湿った吐息。高橋に弄られすぎて赤く腫れた乳輪、尖った乳首、ヌラヌラと光りながら先走りの糸を垂らすペニス。
 ほんの目と鼻の先にある光景にもかかわらず、遠いどこかで起こっているような、自分には関係のない知らない世界の出来事のように感じられる。
 呆気に取られると言うよりも、胸の奥がどんどん冷えて頭の働きが恐ろしく鈍くなっている感じ。
 お試し程度だろうとたかを括っていたところをものの見事に裏切られ、タケルの思考が一瞬止まる。それも束の間、ふいに白けたような寒々とした感覚が湧き上がり、胸の中が空洞になっていくような虚無感に襲われた。
 高橋の常軌を逸した行動にももはや何の感情も湧かない。今はただ、全てがバカバカしく、全てがどうでも良かった。

「あんま締めるから、また先にイッちまったじゃねぇか。どうすんだこれ。お前が代わりにやる?」

 高橋が何か言っている声が聞こえるが、耳に流れ込むだけで言葉の意味が頭に入らない。茫然と眺めていると、ペニスを拭き終えた高橋が、丸めたティッシュをゴミ箱に放り投げながら、「おいッ!」とタケルを呼んだ。

「ぼぉっとしてねぇで何とか言えよ!」

「は……?」

「だから、マヒロ、まだイッてねぇし。ーーーてか、お前、全然チンコ勃ってねぇじゃん。マヒロにしゃぶって勃たせてもらえよ」

 状況を飲み込む暇もなく、熱い粘膜がタケルの亀頭を包み込む。マヒロが素早く体勢を変えてタケルの股間にむしゃぶりついたのだ。
 虚無感から一転、ぞわぞわしたものが背筋を駆け抜け、タケルは思わずブルッと身震いした。
 それが、高橋の言葉に即座に反応するマヒロに対しての動揺の表れであることにタケル自身が気付くのにたいして時間は掛からなかった。
 誰がこんなことをしろと言った。
 これは誰の命令だ。
 声にならない叫びが頭の奥をぐるぐる回る。
 混乱するタケルとはうらはらに、マヒロは、タケルの股間に顔を埋め、萎えたペニスを一心不乱に頬張っている。

「ふっ……ぐ、ふぅんッ……んッ……」

 竿の根元を指で摘んで直立させ、真上からずっぽりと咥え込んで亀頭を舌で転がす。
 柔らかい頬肉がねっとりと纏わり付き、薄い舌が波打つようにカリ首を這い回る。
 いつもの濃厚なフェラチオだ。タケルが己の快楽のためだけにマヒロに覚えさせた、タケル仕込みのタケルのための舌使い。暗黙の了解のもと、マヒロが、ペニスの先端を上顎の溝に押し付けながら、舌先を尖らせて裏筋をチロチロと舐め上げる。
 粘ついた唾液が亀頭に絡み付く。ピチャピチャと卑猥な水音を立てながら、上から下から縦横無尽に亀頭を舐め回し、鈴口をこじ開けて先走りを吸い上げる。
 まるでそれしか見えていないかのように、タケルのペニスを両手で掴んで隅々にまで熱心に舌を這わせ、それが済むと、今度は一気に根元まで咥え込み、頬を窄めながら激しく頭を上下させる。
 自分好みに仕込まれた舌技にタケルが快感を覚えないわけがない。
 最初は生気を抜かれたように萎えていたタケルのペニスも、弱いところを絶妙に突くマヒロのフェラチオに、いつしか雄々しく根元を勃ち上げていた。

「そろそろいんじゃね?」

 充分に反り返ったタケルのペニスを見ながら高橋が唇の端を吊り上げる。

「そのまま下から入れちゃえよ」

 興奮めいた声とともに、マヒロの舌の動きがピタリと止まり、唇が、先走りと唾液の混じった粘液の糸を引きながらペニスから離れた。

「俺、タケルがマヒロに入れてるとこ見てみてぇ。ほら、これ。こんなふうに後ろからガバッと突っ込んでさぁッ!」

 言いながら、高橋が、スマホ画面をタケルとマヒロの顔の前に交互にかざす。
 画面の中では、裸の男女が剥き出しの淫部を晒しながら激しい性交を繰り広げている。
 男が女を膝の上に乗せ、背後から女の両足を大股開きに抱え上げ、子供にオシッコをさせるようなポーズで愛液の滴る淫部に凶悪なペニスを突き立てる。
 男が腰を突き上げるたび、猛り勃ったペニス がヌラヌラと光りながら結合部を押し広げ、女の赤く熟れた淫部が喘ぐように捲れ上がる。
 知らない体位ではない。
 鏡張りのホテルの部屋で何度もやった。バックから腕を掴んで上半身を引っ張り起こし、膝立ちの姿勢で挿れた後、ベッドにお尻をついて膝に乗せた状態で下から突き上げる。
 ヘッドボードにもたれて腰を浮かし気味にすれば、膝の上のマヒロが背中を仰け反らせるような格好になり、結合部がハッキリと曝け出される。
 この状態で、後ろからマヒロの股間に手を伸ばし、手加減なしに扱いてやるのがタケルは好きだった。
 それを今ここでやれと高橋は言っている。
 3Pなら何度も経験している。自身の挿入はもちろん、他人の挿入行為や愛撫を見ながら興奮を高めるのが3Pの醍醐味だ。複数プレイの目的から言えば、高橋の要望は当然と言える。
 それなのに、この胸糞の悪さは何なのだろう。
 タケルは思ったが、状況は、タケルに考える暇を与えてはくれなかった。
 気配を感じて我に返った時は、マヒロが背中を向けて膝の上に跨り、後ろに手を回して、自分からタケルのペニスを握ってお尻の割れ目に当てがった。

「あッ……んんんッ……ぅぅぅん」

 途端に、熱い粘膜がタケルの亀頭を包み込み、肉壁が誘い込むように竿に吸い付き波を打った。

「マ……ヒロ……」

「はぁぁ……た、タケルく……ん……タケ……ルッ……くッ……」

 グチュグチュと音を立てながら、タケルのペニスが、先走りとローションでトロトロになったマヒロの後孔を出入りする。正確には、マヒロがタケルの胸に寝そべるように背中をもたれさせながら、お尻を上下に弾ませて後孔に咥え込んだペニスを何度も出し入れする。
 マヒロが腰を沈めるたび、窄まりの皺が目一杯引き伸ばされ、剥き出しになった結合部がメリメリと広がりながらタケルのペニスを飲み込む。
 粘膜の熱さとキツい締め付け、びくびくと蠢きながら吸い付き、締め上げる肉壁の感触に、タケルのペニスが質量を増していく。

「んはぁぁッ! 大っきくなった……タ、タケルくッ……」
 
 マヒロが身体を捩りながら喘ぎ、高橋がそれを見て「へへへ」と笑う。

「ケツ、捲れ上がっちまってるけど大丈夫か?」

 高橋は、マヒロの足元に座り、タケルのペニスが体液の糸を引きながら後孔に出入りするのを身を乗り出して眺めている。
 マヒロの背中に遮られているせいでタケルの位置からは死角になっているものの、高橋が結合部を食い入るように見詰めていることは気配で解る。
 視界に入らないなら入らないでタケルにはむしろその方が有り難い。見なくて済むなら見たくはない。しかしそう思ったのも束の間、タケルの思惑を見透かしたように、高橋がふいにマヒロの肩を掴んで上体をグイと横向きに返した。
「ひぃぃッ!」と引き攣った悲鳴が上げながら、マヒロがタケルのペニスを咥え込んだまま腰を斜めに滑らせる。
 身体を捻られた拍子に、八分目まで入れていたペニスが根元まで入ってしまったのだ。不意打ちに1番奥を突かれ、マヒロがビクンと身体を硬直させる。

「これで見えるようになっただろ? ほら見ろよ。マヒロのやつ、お前のチンコ咥えながら自分のビンビンに勃たせてやんの」

「あッ! 触っちゃ、やぁぁッ……」

 お腹に貼り付かんばかりに反り返ったマヒロのペニスを握りながら、高橋が、充血した鈴口を親指の先でグリグリと撫で回す。
 耐え難い刺激に、マヒロの後孔がビクビク痙攣する。
 上下運動をしている余裕はない。
 マヒロはタケルの膝の上に横向きに座り、タケルの肩に腕を回してしなだれかかりながら熱い息を吐いている。

「チンコしゃぶるだけで勃たせるとか可愛いすぎんだろ。お前、ホントに惚れられてるんだなぁ。なんか妬けちまうぜ」

 息も絶え絶えに喘ぐマヒロをよそに、高橋は、握り締めたペニスを乱暴に扱きながら、背中を屈めてマヒロの股間に顔を近付ける。
 マヒロが、「いひぃッ!」と奇声を上げた時には、高橋の鼻先が亀頭に触れ、舌先が鈴口をペロリと舐め上げた。

「あッああッ、あッ、やめ……」

 片手で竿を扱きながら、真上からレロレロと先端を舐め回し、舌の先で鈴口を割って吸い上げる。
 そのまま竿へと舐め下がり、這いつくばるような姿勢で蟻の門渡りを舐め、結合部に舌先を当てる。
 タケルのペニスに広げられて伸ばされたシワをチロチロと舐められ、マヒロが鼻にかかった甘え声を上げながら身体をくねらせる。

「んんッ……ダ、ダメぇぇぇッ、そこッ……」

 一方タケルは、目の前で繰り広げられる高橋とマヒロの痴態を、低俗なポルノビデオでも見るような冷めた目で見詰めていた。
 初めて男を抱くとはとても思えない高橋の行動も、最初の衝撃が大きすぎて今はさほど驚かない。
 それよりも今は、マヒロに対してのモヤモヤとした感情がタケルの胸をざわつかせていた。
 何が起こっているのか解らない
 マヒロは一体何をしているのか。
 そもそも誰がこんなことをしろと言ったのか。
 俺は何も命じていない。
 沸き上がる感情を逆撫でするように、高橋の助平ったらしい声がタケルの脳を突き刺す。

「止まってないでちゃんと動けよ。タケルのチンコでガンガン突いて欲しかったんだろ?」

「あッ! ぁあんッ! やッ!」

 マヒロのペニスを弄びながら、ふいに顔を上げてマヒロとタケルを交互に見る。

「タケルもちったぁ協力してやれよ。いっつもヒィヒィ言わせてやってんだろ? ほら、もっと下から突き上げてッ!」

 胸に渦巻く激しい感情が、高橋に向けられたものなのかマヒロに向けられたものなのかはタケルにも解らない。ただ、高橋の下衆なしたり顔を見た途端、堪えようもない荒々しい感情が身体中を駆け回り、反射的に怒りを爆発させるように腰を突き上げていた。

「あッ、やぁッ、待っ……!」

 マヒロの脇腹を抱えながら、マヒロの身体を跳ね飛ばすような勢いで上へ上へと腰を突き上げる。
 セックスというより暴力に近い。肉と肉がぶつかる音が高らかに響き、高級ベッドが豪華な様相には不似合いな軋みを上げる。

「まっ、まって! や、止めてッ、そ……な、突かないでッ……突ッ、突かないでぇぇッ!」

「ひゃははッ! こいつぁイイや! やれやれッ! タケルっ!」

「んんッ……ダ、ダメッ! も、突かないでッ! あぅんッ、んッ、うぅんッ、あッ、ああぁッ……」

 タケルの猛攻に、マヒロの身体が弾き飛ばされて膝の上でバウンドし、反り返ったペニスが白いお腹をバチンバチンと叩きながら上下にしなる。

「良かったなぁ、マヒロ、チンコ一杯もらえて。大好きなタケルの生チン、ずっぽり入ってるぜ? 繋がってるとこもっと見せてみろよ」

「やぁッ! も、無理ぃッ!」

 マヒロの愚図り泣くような喘ぎ声と高橋の興奮に上擦る声。二人の反応がタケルの衝動に拍車をかける。
 快楽というより怒り。抑えきれない荒々しい感情が激しい破壊欲となってタケルを突き動かす。
 そうとは知らない高橋は、スピードを増すタケルの突き上げを興奮の証だと信じて疑わず、さらにタケルを煽り立てる。

「ギンギンにおっ勃ててどの口が言ってんだ? タケルの生チンコに犯されて気持ち良いんだろ? このまま中にぶち撒けて欲しいんだろ?」 

「あッ、ィッ、いやぁぁッ……」

「マヒロ、中に出して欲しいってよ? 熱くて濃いのたっぷり出してやれよ、タケル!」

 雄の匂いが立ち込め、部屋中の空気が淫猥な熱を帯び始める。
 やがて、タケルが感情を吐き出すように射精を迎えると、殆ど同時に、マヒロが感電したかのように身体をビクビクと痙攣させながら射精した。

「スッゲェ! なんもしてねぇのに出たッ! 見た? 今の。マヒロのチンポの先から、ビュビュッ、って!」

 放心状態のタケルとは対照的に、高橋のはしゃいだ声が、静まり返った室内に場違いなまでに明るく高らかに響き渡った。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 高橋との3Pは、タケルとマヒロのセックスに当てられ興奮状態となった高橋の熱気に飲み込まれるかのように、その後も、マヒロを相手に、高橋とタケルが場所を変え体位を変え責め方を変えながら入れ替わり立ち替わり明け方近くまで続けられた。
 もともと乗り気ではなかったタケルだが、欲望をぶち撒けてもなお湧き上がる荒々しい感情には抗えず、気付けば、我れ先にとマヒロの中に押し入り、鬱憤を晴らすかのように突き回していた。
 マヒロの細い身体を折り曲げ、押し潰し、壊れた蛇口のようになったペニスの先から締まりなく垂れ流れる精液が粘り気のない透明な液体に変わるまで追い詰め、やがて精も根も尽き果て、マヒロの上に覆い被さるように倒れたところで意識が飛んだ。
 次に目覚めた時には、タケルは、陽光の射し込むベッドの上に寝転がり、霞がかった視界の先に揺れる、つらそうに腰を曲げながら散らかった部屋を片付けるマヒロの後ろ姿をぼんやりと眺めていた。
 高橋の姿は見当たらない。
 起き上がろうとシーツをめくると、気配に気付いたマヒロが、掃除の手を止めてタケルを振り返った。

「あっ、お、おはよう。高橋くんなら少し前に帰ったよ?」

 いつもと変わらないマヒロの表情に、一瞬、昨夜の出来事は全て夢で実際には何も起こらなかったかのような錯覚に捉われたが、起き上がった途端にのしかかった疲労感と身体にへばり付く雄臭さに、タケルはすぐさま現実へと引き戻された。
 夢などではない。
 絡み付く粘膜の熱さと、うねりながら締め付ける肉壁の感触。ほんの少し意識を向けるだけで、昨夜の自身の昂ぶりと、激しく喘ぎ乱れるマヒロの姿が生々しく甦る。
 同時に、その時感じたドロドロした感情が再び湧き上がり、タケルの胸をどうしようもなく波立てた。
 唯一の救いは高橋が一足先にコテージを後にしていたことで、そのお陰でタケルは高橋と顔を合わさずに済み、これ以上感情を揺さぶられることからは免れた。
 もしも高橋のニヤケ顔を見ていたら、タケルはどうなっていたか解らない。

 コテージを出ると、無言のまま車を走らせ、マヒロの家の近くで車を止めた。「ここで降りろ」と命令すると、助手席のマヒロが叱られた子供のように肩をビクつかせる。

「どうした? 早く降りろよ」

 何か言いたげな視線を無言であしらい、後部座席に置かれた荷物を運転席から手を伸ばして掴んでマヒロの膝の上に置いた。
 視線を逸らしたままドアロックを解除すると、マヒロがうつむきながら膝の上のスポーツバックをおずおずと胸元に手繰り寄せる。
 持ち手を握る手が震えているのが視界の端に映る。
 タケルの理不尽な怒りにも決して逆らわず、ただひたすら身体を震わせ萎縮する。いつもは快感すら覚えるマヒロのこの従順さが今はやけに鼻につく。
 マヒロの傷付いた顔を想像するだけでイライラする。
 御曹司であるが故のプレッシャーもあるのだろう。タケルの内面は、知的でスマートな外見とはうらはらな荒々しい感情をそこかしこに宿し、くすぶらせていた。
 些細なことでキレやすく、気に入らないことがあればすぐに感情を剥き出しにする。
 マヒロに対してはことさら強く現れ、気分次第で叱りつけ、八つ当たり同然に怒鳴り散らした。
 しかし、今はとてもそんな気になれない。
 正確には、いつものように振る舞えない。
 マヒロを怒鳴れば、自分がマヒロに怒りを抱いていることがバレてしまう。
 いつもは関係のないことまでマヒロに罪をなすりつけて当たり散らすタケルであったが、今はむしろ必死で怒りを抑えていた。
 そもそも何に対して怒っているのかタケル自身にもよく解らないのだ。
 自分自身にも理解出来ない感情に自分で振り回される。苛立ちが込み上げるが、下手に感情的になって怒りの根源を探られるのは我慢ならない。たとえ一時的な誤解であったとしても、嫉妬などという不本意な理由を付けられるのはどうにも耐えられなかった。

「あの……タケルくん……?」

 マヒロの問い掛けにも微動だにせず受け流す。
 半ば根比べのようにだんまりを決め込むと、やがてマヒロがもじもじと背中を丸めてドアに手を掛けた。

「じゃあ……また……」

 蚊の鳴くような声が空気に溶けて一瞬で消えてなくなる。
 ドアが開き、小さな背中がもたつきながらシートを離れ外の景色にまみれる。
 ゆっくりと閉まるドアを耳だけで確認しながら、マヒロには目もくれず、慌ただしくアクセルを踏んだ。

「なにが、『また』だ……」

 茫然と立ち尽くすマヒロの泣き出しそうな顔がパックミラー越しに見える。
 いつまでも見送るシルエットを振り払うように、タケルはさらにアクセルを踏み込んだ。


 翌日。
 昨日のことなど何も無かったかのように、マヒロはいつも通りタケルのマンションにやって来た。
 片手には夕食の食材らしきものが詰まった買い物袋。それを一瞥し、開口一番「帰れ」と吐き捨てると、マヒロの顔が瞬時に引き攣り、奥二重の大きな目が、タケルを見上げてまん丸く見開いた。

「あの……それってどういう……」

「どうもなにも言葉の通りだよ。解ったらとっとと帰れ。てか、しばらく顔出すな」

「し、しばらくって……?」

「しばらくは、しばらくだよ」

「そんな……俺、どうすれば……」

「さぁな……」

 一目で動揺していると解る顔。黒目がちな瞳があたふたと泳ぎ出し、唇が小さくわななきだす。
 扉を開けた時のはにかんだ表情から一転、まるで信じられないものでも見るかのようにタケルを見、狼狽えながらマヒロは言った。

「あのッ……おっ、俺、なにかタケルくんに悪いことした……?」

「べつになんもねぇよ。てか、お前なんてただの家政婦じゃん。雇い主の俺が、なんも用事ねぇっつってんだから来る意味ないだろ」

「で、でも……これ……食事……」

「飯なんかそこらへんで食う。いいからほっとけ」

「タケルく……」

 縋り付く手を振り払い、肩を突き飛ばして玄関ドアを閉める。
 文字通り門前払いを喰らわせ、ドアの前で尻餅をつくマヒロの傷付いた顔を思い浮かべながら、リビングに戻り、飲みかけのアイスコーヒーを一気に飲み干した。
 突き飛ばされた拍子に、買い物袋がマヒロの手から離れて中身が飛び散る様子がドアの隙間から見えた。今頃マヒロが一人で片付けているのだろう。背中を小さく丸めながら散らばった食材を一つ一つ拾い上げるマヒロのしょんぼりとした後ろ姿が目に浮かぶ。
 理不尽なことをしている自覚はある。
 マヒロを痛め付けてやりたいわけではない。ただ、思い知らせてやりたかった。
 しかし一方で、「なぜ」という疑念がタケルの脳裏をよぎる。
 一体自分はマヒロに何を思い知らせてやろうと言うのか。
 高橋の口車に乗せられたとは言え、引き受けたのは自分でありマヒロにそうさせたのも自分だ。
 マヒロは、自分の命令に従ったにすぎない。いつもように、素直に、当たり前に。
 お陰でタケルは、高橋から、さすがはタケルだと感嘆の眼差しを向けられ、常日頃からマヒロのことを自分の言いなりだと豪語している自身の体面を保つことが出来た。
 お喋りな高橋のことだ。もしもマヒロが駄々を捏ねて高橋の誘いを断っていたら、今頃何をどう吹聴されていたか解らない。
 そういう意味では、マヒロは身を呈してタケルを救った恩人であり、感謝こそすれ疎ましく思う理由は微塵もなかった。
 にもかかわらず苦々しい感情を抱いてしまうのは、タケルの一方的な鬱憤以外のなにものでもない。
 そうするように仕向けておきながら、昨夜の一件を済んだこととして受け流すことが出来ない。何事もなかったような顔をしているマヒロがどうしようもなく癇に障る。昨夜の今日で普通に笑うマヒロが腹立たしい。冷たく傷付けて、その平然とした顔を悲しみに歪ませてやりたい。
 理不尽であると自覚しつつも、タケルは、込み上げる感情を抑えることが出来なかった。
 
「ーーーったく、胸クソ悪ィったら……」

 脳裏に貼り付くマヒロを振り払うように言い、リビングの大きな窓を開けてベランダへ出た。
 眼下には、美しく整備された街路樹が等間隔に連なり、鮮やかな緑を残暑の日差しに煌めかせている。
 その間を縫うように、片手に買い物袋を下げ、タケルのいる方向を見上げながらノロノロと歩くマヒロの姿が見えた。
 行き場をなくしたウサギのように、そわそわと落ち着きなく、おどついた目でタケルを探す。
 いい気味だ、と、冷酷な言葉がひとりでに漏れた。
 もっと傷付けば良いと思う。
 一方的に追い帰され、何が起きているのかも解らないまま、どうして自分がこんな目に遭うのだろうとあれこれ頭を悩ませ、不安で胸を一杯にすればいい。
 突然の仕打ちに対応できず、頭の中をぐちゃぐちゃにしながら慌てふためくマヒロが見てみたい。
 しかし、またしても「なぜ」という疑念がタケルの脳裏をよぎる。
 どうして今回に限ってこんなに心が波立つのか。
 冷静になろうとすればするほど感情が昂ぶり乱暴な気持ちが湧き起こる。
 腹の底がムカムカして何かに当たり散らしたい気持ちになる。
 一週間。
 取り敢えず一週間距離を置こう、とタケルは考えた。
 それはマヒロに対する戒めであり、タケル自身の冷却期間でもある。
 一週間もあれば、この、自分自身でも説明のつかないマヒロへの感情の昂ぶりも少しは治まっているに違いない。
 もっともそれまでマヒロが耐えられるかどうか、だが。

「どうせすぐに泣きを入れてくるに決まってる……」

 表通りへと続く並木道をとぼとぼと歩くマヒロを眼下に見下ろしながら、タケルは、忌々しげに呟いた。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 
「誰ぇ?」と、しなだれかかってくる女の胸を肘で遮りながら、タケルは、騒々しく鳴り響く着信音を慣れた手付きで止めた。

「出なくていいのぉ?」

「ああ」

 素気なく答え、握り締めたスマホをズボンのポケットに捩じ込む。

「ひょっとしてまた新しい女ぁ?」

「テメェには関係ねぇ」

 ソファーから腰を上げると、隣に座った女がすかさずタケルの腕を掴む。

「ちょっと、どこ行くのよぉ」

「どこでもいいだろ? 離せ、ブス」

「なによそれッ!」

「まぁまぁ」

 一触即発の雰囲気に、同席していたパーティー仲間の真田が慌ててフォローする。

「ごめんねマリちゃん。コイツ、最近機嫌悪くって」

「ひどぉい! タケルが大っきい胸がイイって言うから、痛い思いして大っきくしてきたのにぃ!」

 キーキーと喚く女の金切り声を尻目に、タケルは、ダンスフロアの人混みを抜け、トイレに併設されたドレッシングルームの椅子に腰を下ろした。
 一息ついてから、ズボンのポケットにしまったスマホを再び取り出し、関係の無い着信を履歴から消去する。
 着信音が鳴るたびスマホを取り出し、相手を見ては着信拒否に切り替える。
 さっきからずっと同じことの繰り返し。
 電話はあるのに、肝心な電話は一向に入らない。
 マヒロに門前払いを食らわせてから早五日。一週間も持たないだろうと踏んではいたが、翌日早速着信があり、その日の夜に長文の謝罪メールが届いた。
 タケルを怒らせたショックで気が動転していたのだろう。謝る理由など何もないにもかかわらず、嫌われたくない一心で謂れのない罪をも簡単に受け入れる。
 マヒロらしい浅はかな選択に、タケルのこめかみがチリチリと疼き出す。気弱な性格であるが故に、目先の不安に駆られて本質を見誤る。
 今に始まったことではない、むしろ想定内とも言えるマヒロの反応に過剰な苛立ちを覚えてしまうのは、タケルの気持ちがそれだけ不安定になっている証拠とも言えた。
 深く考えもせずに結論を出す軽率さ、謝まれば済むと思っている弱者ならではの短絡的な自己犠牲。いつもは鼻で笑って済ませられるその気弱さが何故だか無性に癇に障る。
 気付くとタケルは、発作的にマヒロに電話を掛けていた。
 ワンコールもしないうちに応答したマヒロに、『もう連絡してくるな!』と一方的に吐き捨て、電話を切った。
 マヒロがどんな反応をしたのかは解らない。
 しかし、ほとぼりが冷めてふと我に帰った時、マヒロが着信とほぼ同時に電話に出たのを思い出し、おそらく自分からの電話を、スマホを片時も離さず握り締め、画面を覗き込みながら今か今かと待ち侘びていたのだろうと推測した。
 それほどまでに待ち焦がれた電話を、ものの数秒でガチャ切りされたのだ。マヒロがどれほどショックを受けたかは想像するまでもない。
 証拠に、それを最後にマヒロからの連絡は途絶えた。
 出会ってこのかた、顔を合わさなかった日など一日も無い。三日にあげずタケルの元へ通い詰め、タケルが少しでも素気なくしようものなら、マンションの前や行きつけのクラブ、キャンパス内のカフェテラスや広場など、タケルが立ち寄りそうな場所に先回りしてはタケルを待ち伏せ、縋るような目で見上げたあのマヒロが、待ち伏せどころかメールの一つも送ってよこさない。
 まさか、クソ真面目に言い付けを守っているのだろうか。
「ばっかじゃねえのか」と、憎しみにも似た嘲りの言葉がタケルの口から漏れる。

「言うこと聞いてりゃ済むとでも思ってんのか? 俺が『死ね』っつったら死ぬのかよ、テメェは……」

 週末のクラブのドレッシングルームは、身だしなみチェックに余念のないナンパ目的の輩で賑わい、タケルの独り言も周りの雑音に掻き消されて殆ど聞こえない。
 仮に聞こえていたとしても、あからさまに不機嫌な顔をしたタケルに声を掛ける者は誰もいない。
 トップモデルとして活躍した母親譲りの端正な顔立ちにアッシュブルーに染めた艶やかな髪、ただでさえ近寄り難い雰囲気を醸し出しているその整い過ぎた横顔が、今にも歯軋りしそうに険しく歪んでいるのだからなおさらだ。
 百八十を超える長身をソファーの真ん中にどっかりと据え、長い手足を投げ出して一点を睨み付ける姿はワイルドで人目を引けれど、同時に、何人をも寄せ付けない鋭い刃のようなオーラを放っている。
 いつもタケルが一人になるのを待ち構えたようにやって来る抜けがけ目当ての取り巻きたちも、今夜ばかりはタケルの怒気に押されて遠巻きに見守るのがやっとといった状況だ。
 その中にあって、ただ一人、タケルの顔色もピリついた空気も読まず、ソファーに近付く影があった。

「よお」

 緊張感の欠片もない声にタケルは咄嗟に顔を上げた。
 高橋だ。別荘で別れて以来初めて顔を合わせる。避けていたわけでは無かったが、積極的に関わる気にもなれず何となく距離を置いていた。
 愛想笑いとも言えないニヤケ笑いを口元に浮かべながら言うと、高橋は、睨み上げるタケルをものともせず、ソファーに踏ん反り返るタケルを真正面から見下ろした。

「怖い顔してどうしたよ」

「どうもしねぇよ。それより何の用だ」

「ああ。この前のアレのお礼を言おうと思ってさ。それと、スッゲェ良かったから、出来たらまた来週末にでもお願い出来ねぇかな……と」

 瞬間、タケルの心臓がドクンと跳ね上がる。一旦は逸らした視線を反射的に高橋に戻すと、高橋は、まるでタケルの反応を見透かすように、「なぁんてね」とおどけた顔で笑った。

「そう言おうと思ってたけど、これ以上怒らせたらマヒロが可哀想だからやめとくわ」

「マヒロ? なんでマヒロが出てくるんだ」

「だって、マヒロのことシカトしてんだろ?」

「は?」と、思考が一瞬止まる。
 目の前には高橋の含みのある薄ら笑い。見ているうちに、ドロドロとした感情が唐突に湧き上がった。

「なんでお前が知ってるんだ? あいつに会ったのか?」

 動揺を悟られまいと、震えそうになる声をわざと話すスピードを抑えて誤魔化すタケルを横目に、高橋は、鼻歌でも唄うようにフフンと笑った。

「会ったよ? 気になる?」

「べつに……」

「べつに、って顔には見えねぇけどなぁ」

 タケルの顔を覗き込み、「まぁいいや」と一方的に話を終わらせ、ソファーの真ん中に座るタケルの隣にお尻を割り込ませた。

「どけよ、暑苦しい!」

「まぁそうカッカしなさんなって。マヒロとは研究室行く途中に偶然会っただけだ。お前が心配するようなことはなんもねぇって」

「誰が心配なんかッ!」

 声を荒げるタケルをよそに、高橋は、タケルが声を荒げるのが愉しくて仕方ないというように、今にも笑い出しそうな嬉々とした表情で強引に肩組みをした。

「俺も、あんなことした手前責任感じてんだわ。もちろん一回こっきりの遊びだけど、そのせいで二人の仲がこじれるなんて嫌だもんよぉ」

「こじれるも何も、マヒロとは何もねぇよ」

「あんなセックスしといてか?」

「あんなセックス ?」

「めちゃめちゃ凄かったじゃねぇか。見てるこっちがおっ勃っちまうぐらいイヤラシイ絡み方してさぁ」

 自分こそ、マヒロにあんな真似をしておいてどの口が言うのか。
 喉元まで出かかった言葉を飲み込み、タケルは高橋から目を逸らした。
 実際、高橋の方が何倍もマヒロと絡んでいた。高橋は、あたかもタケルがマヒロと濃密なセックスをしていたかのような口ぶりで言ったが、タケルは、自分がマヒロとどんなセックスをしたかなど殆ど覚えていない。むしろ、高橋とマヒロのセックスの方を鮮明に覚えていた。
 あの晩、高橋に組み敷かれて身悶えていたマヒロの姿。執拗な愛撫にざわめく肌、何度も吸われて赤く腫れ上がった乳首。鼻先に突きつけられたペニスを躊躇いもなく咥え、舐めしゃぶった唇。
 前髪を掴まれ股間をぶつけられ、喉奥を突かれながら、それでも高橋のペニスを口一杯に頬張りディープスロートで啜り上げる蕩けるような瞳。
 細い腰をガッシリと掴まれ、後ろから激しく身体を貫かれながら、自らお尻を振って快楽をねだる淫猥な身体。ほんの少し意識を傾けるだけで、あの晩のマヒロの乱れる姿が鮮烈に脳裏に甦り、タケルの頭をジリジリと焦がす。
 叫び出したい衝動に駆られるが、感情的になったところで高橋を喜ばせる結果にしかならないことは解っていた。

「くだらねぇ」

 こびりつく残像を振り払い、タケルは、敢えて冷静に答え、肩に回された高橋の腕を剥ぎ取った。

「別にあんなの何でもない」

 高橋は、剥がされた腕を引っ込めながら、なおもニヤニヤと口元を歪めながらタケルを見た。

「そうかぁ? 俺には嫉妬心丸出しの逆ギレプレイに見えたけど? よくも他の男とりやがったなー、誰のモノか身体にたっぷり教えてやるー、みたいな?」

「バカかお前」

「でもマヒロのこと怒ってるんだろ? 『もう連絡してくるな、って言われた』って死にそうな顔して言ってたぜ?」

「用がないから、来るなっつっただけだ」

「あんだけ毎日通わせといて? こんなこと言えた義理じゃねぇけど、いつまでもヘソ曲げてないでいい加減許してやれよ」 

「ヘソなんて曲げてねぇ!」

「怖い顔してよく言うぜ。可哀想に、マヒロのやつ、あの調子じゃろくに寝てないぜ?」

「知るか。だいたい言いたいことがあるなら俺に言やぁいいだろう? 何でわざわざお前に言うんだ」

「お前が、連絡してくるな、っつったんだろ? お前の言い付け素直に守ってんじゃねーか。全く一途で泣かせるぜ」

 一途? と、タケルの胸に疑念が走る。
 果たしてこれが一途なのだろうか?
 白だろうが黒だろうが関係ない。真実も嘘もない、ただ言われたことだけを忠実に守り従う。言葉の意味も背景も考えず、目に見える上っ面だけを疑いもなく信じて、バカ正直に。
 まるで、ボタン一つで簡単に動くロボットだ。
 あれのどこが一途だというのか。
 バカにしやがって。
 悟られまいと平静を装っていたが、急速に冷えていく胸の内を隠すことは出来なかった。

「あんなの一途でもなんでもねぇよ」

 感情を吐き出すと、隣に座る高橋が、したり顔でタケルを覗き込んだ。

「やっぱ怒ってるんじゃねぇか。俺がマヒロとやったこと気になってるんだろ?」

「気にしてねぇよ」 

「ホントかぁ?」

「ああ」

 頷くタケルに高橋がふと真顔になる。

「なら、また、やらせてくれよ」

「は?」

「怒ってねぇんだろ? なら、またマヒロとらせろよ」

 一瞬何を言われたか解らずタケルは唖然とした。
 高橋の言葉が頭の中で繰り返し再生し、身体が強張り喉が引き攣る。
 絶句しながら固まるタケルを、高橋は、真顔で見据え、追い詰めるように顔を近付ける。

「どうした? 怒ってねぇなら平気だろ? この前みたいにまた三人で楽しもうぜ?」

 口調は軽いが目は笑っていない。
 不穏な沈黙。互いに睨み合うだけの状況に、心臓がドクドクと熱い血を巡らせる。
 嫌でも高まっていく緊張感に身構えると、直近に迫った高橋の目がふいに弛み、「なぁんてな」と笑った。

「冗談だよ。こんな戦闘バリバリみてぇな顔した奴にそんなこと言えるかよ」

 尖った空気を一掃するように、高橋が大袈裟に顔を歪めて笑う。
 タケルはと言うと、突然の展開にまたしても唖然とした。
 驚いたと言うよりも、高橋の言葉を聞いて安堵している自分に絶句する。
 この手の冗談は好きではない。他人に揶揄われるのも大嫌いだ。
 にもかかわらず、高橋の態度に、怒りを覚えるよりも先に安堵を覚えている自分に戸惑う。
 おかしい。
 らしくない、と自分でも思う。
 反応しなければと思いながらも、頭が混乱して上手く言葉が出ない。
 悟られまいと必死に表情を作るタケルとはうはらはに、高橋は、空気も読まずニヤケ笑いを浮かべながらタケルを見る。
 その無神経な視線から逃れるように、タケルは高橋の身体を押し退け、ソファーから立ち上がった。
 すると、
 
「まだ話しは終わってねぇぞ?」

 間髪入れず、高橋が、立ち去ろうとするタケルの腕を掴んで引き止めた。

「どうでもいいけど、マヒロのこと早く許してやれよ? ああ見えて、結構モデるからなアイツ。いつまでも意地張ってっと、後で後悔するぜ?」

 何が後悔だ。
 思いながら、高橋を振り払って出口へ向かう。

「おいッ! 聞いてんのかぁ?」

「クソが……」と、呆れたように叫ぶ高橋に吐き捨て、入り口カウンターを抜けたところでズボンのポケットからスマホを取り出した。
 通話画面を開き、見慣れた名前を睨み指を添える。
 一瞬躊躇い、再び、「クソッ!」と、吐き捨て、タケルは指先を強く押し込んだ。



☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 限界まで硬くなったペニスを喉奥から引き抜くと、タケルは、腰に絡み付いた手を掴んでベッドの上にうつ伏せに引き倒した。

「あんッ! もっと優しくしてよぉっ!」

 振り向こうとする身体を両肩を掴んで押さえ付け、四つん這いにして背中を反らせてお尻を突き出させる。
 尻たぶを開くと、縦に割れた薄っすらと盛り上がった後孔が顔を出す。物欲しそうにヒクつく窄まりを、縁に指を当てて左右に広げると、中に仕込んだローションがとぶんと溢れて蟻の門渡りを伝う。
 粘液の溜まった溝に硬く張り詰めた亀頭を当てがい挿入すると、その界隈では名の知れたウリ専ボーイは、奥まで入るようわざと膝を曲げてお尻を突き出した。

「……んあぁ……! 凄いッ! お尻、開くッ……どんどん入ってくるッ! んあぁ……あッ……」

 鼻にかかった甘え声。ハァハァと苦しそうに息を吐くわりに、後孔は大した抵抗もなくいきり勃ったペニスをすんなりと飲み込んで行く。
 根元まで押し込み抜き差しを始めると、ローションにまみれた孔の奥から空気が漏れ出すようなゴボッという音と肉壁が擦れるグチュグチュという音が卑猥に響いた。

「あうぅッ……深いッ……そ……な……深いとこッ……おっ、おかしくなるぅッ……」

「こんなにズボズボ入れといて何言ってやがる。自分から咥え込むこのガバマンが……」

「酷いッ……あっ……あぁッ、そこぉッ……」

 腰を下から持ち上げるようにして奥に突き入れると、自らお尻を振って感じる部分に先端が当たるよう腰の角度を調整する。
 媚びるようにしなを作る背中を見下ろしながら、タケルは、ナンバーワンウリ専ボーイとのセックスとはこんなものなのかと拍子抜けしながら腰を振っていた。
 男好きする顔に感度の良い身体、痒いところに手が届く洗練されたテクニック、わずかな快楽も逃さまいとする貪欲さ、男を悦ばせることにかけては右に出る者はいないと評される売れっ子ウリ専ボーイを相手にしながら、自分でも呆れるほど気分が乗らないのは連日のパーティー疲れのせいでも久しぶりに付けたコンドームのせいでもなかった。
 むしろ、コンドームを付けたことで、会ったばかりの縁も情もない男の粘膜に直接触れずに済んで良かったとさえ思う。
 本当を言うと、ベッドに入ってすぐ、ねちっこく絡み付いてくる肌に触れた瞬間から、すでにこうなる予想はついていた。
 それでも行為に及んだのは、マヒロに対する当て付け以外のなにものでもない。
 高橋に言われたことを気にしていたわけではなかったが、結局タケルは、自分からマヒロに連絡を取り、一週間近く続いた無視状態を終わらせた。
 その時のマヒロの感極まった様子をタケルは今でもハッキリと覚えている。
 たかが電話一つに、まるで九死に一生を得たかのように喜びを溢れさせ、タケルの名前を繰り返し呼びながら咽び泣いていた。その嘘偽りのないストレートな反応に心が動かされなかったと言えば嘘になるが、一度ケチのついたモノを元に戻すにはそれなりのケジメが必要だった。
 ウリ専ボーイを呼んだのは、それが一番堪えるだろうという悪友のアイデアだ。
『女なら諦めもつくだろうが、自分と同じ男となりゃ話は別だろ?』
 悪友の言う通り、タケルからの久しぶりの呼び出しに喜び勇んで部屋を訪れたマヒロは、ベッドの上に全裸で座る見知らぬ男を見た途端、それまでのはにかんだ笑顔から一転、凍ったように顔を引き攣らせた。
 そして今、マヒロは、ベッドの傍に置かれた椅子に全裸で座らされ、タケルと男の行為を見せ付けられている。
 顔面蒼白になりながら、今にも泣き出しそうに眉を顰め、血の気の引いた下唇を噛み締めながら必死で悲しみに耐えている。
 本当は逃げ出したいだろうに、タケルに『目を離すな』と命令されているせいで視線を逸らすことも出来ない。その痛々しいまでの従順さが、タケルを意固地にさせていることなど露ほども気付いていない様子だった。

「ナンバーワンだけあって流石だな。どこかの誰かさんとは大違いだ……」

 マヒロの方を振り向きながら、タケルは、鷲掴みにした腰をこれみよがしに股間に引き付けた。

「あ……あんッ……あッぁ……きッ、気持ちイッ……」

 根元まで入れたペニスを抜ける寸前まで引き戻し、挿入しているところを見せつけるように再びグンッと奥を突く。タケルが腰を引くたびに、男のぷっくりと膨れ上がった窄まりが内側の粘膜を捲り上げ、突き入れるたびに中に押し込まれる。

「男のケツも、野郎によって全然違うのな。お前も近くで見てみろよ。こいつのケツ、すっげぇヤラシイぜ?」
 
「ああぁん! 見ちゃいやぁんッ!」

 尻肉を開いて腰を反らせると、結合部が一層露わになり、タケルのヌラついたペニスが後孔を出入りするさまがマヒロの目の前に赤裸々に曝け出される。
 マヒロに見せ付けるためにわざとそうしていることは言うまでもない。
 マヒロは、蒼白だった顔を紅潮させ、目蓋に溜まった涙がこぼれ落ちないよう眉頭に力を入れて必死に堪えている。
 膝の上に置いた握り拳を傍目にもわかるほどわなわなと震わせながら、それでもタケルの言い付けを守り、目を逸らさず真っ直ぐ見詰める姿が痛々しい。
 しかし、そんなマヒロを目の当たりにしながらも、タケルの胸は、同情でも憐れみでもない歪な感情で騒めき立っていた。
 もっと苦しめばいい、と心に巣食う悪魔が囁く。
 すると、タケルの心を見透かしたように、偶然にしては出来過ぎたタイミングでウリ専ボーイがマヒロに声を掛けた。

「お兄さんは……やんな……い……のぉ?」

 四つん這いになった身体を大袈裟に揺らしながら上目使いでマヒロを見上げる。
 タケルに貫かれているのを見せびらかすような挑発的な目付きに、マヒロとタケルの関係はもとより、今がどういう状況なのか薄々気付きながら、わざと素知らぬ顔で問い掛ける男の底意地の悪さが透けて見える。
 気丈に耐えていたマヒロも、これにはさすがに悔しそうに視線を逸らした。

「ねぇ……そっぽ向かないで……お兄さんも一緒に楽しもうよぉ……」

 男はしつこく挑発するが、マヒロはうつむいたまま微動だにしない。
 タケルはというと、男の後孔に腰を突き立てながら、マヒロの、うつむき加減の前髪から覗く睫毛と、痛みを堪えるように噛みしめた唇を見ていた。
 タケルが命令すれば、マヒロは間違いなく男の誘いに乗るだろう。
 他の男の身体に埋めた昂ぶりを突っ込まれるのはどんな気分なのだろうか。
 さすがのマヒロも屈辱に顔を顰めるのだろうか。それとも、いつものように難なく順応するのだろうか。
 想像するほど思考が嗜虐的に傾いていくのが解る。
 いっそ絶望の淵に沈めてしまおうか。
 そう思った矢先、突然マヒロの両眼から大粒の涙がポタボタとこぼれ落ち、タケルは、はたと我に返った。

「あれぇ……? 泣いちゃったぁ……?」

 そうなるよう仕向けた張本人である男が気付かない訳はない。
 タケルが我に返るのとほぼ同時に、男がめざとく反応した。

「なんでぇ? ……ほら、気持ちよくしてあげるから泣かないでぇ……」

 甘ったるい声で言い、四つん這いにした片手を持ち上げ、マヒロの膝へ伸ばす。

「……こっちおいでよ……口でも手でも……どっちでもしてあげるからぁ……」

 伸ばした手を、空気を掻くように動かしながらマヒロの膝を探る。
 その手がマヒロに触れようとした時だった。

「やめろッ!」

 突然頭にカッと血が昇り、タケルは反射的に男を引き倒していた。

「いったぁいぃッ! なにすんだよおぉッ!」

 ベッドの上に倒された男が、うつ伏せにひしゃげた身体を捻りながらタケルを睨み上げる。
 男の問い掛けに答えるよりも先に、タケルの口が、「触るな」と勝手に動いていた。
 
「こいつに触るな!」

「なんだよッ! 可哀想だから仲間に入れてあげようと思っただけだろぉッ?」

「余計な世話だ」

 男の腕を掴んでベッドから引き摺り下ろし、チェストの上に畳んで置かれた服を胸元に突き付けた。

「え? なに?」

「帰れ……」

 男の口が、はぁ? と言いたげに半開きで固まる。

「ちょっと待ってよ! なにいきなり……」

「金なら払う。さっさと帰れッ!」

「痴話喧嘩の当て馬代わりに呼んだくせにいざとなったら嫉妬、って?」

 男は噛み付くようにタケルを睨み付けていたが、タケルが引かないことを察すると、やがて、「やってられるかッ!」と捨て台詞を吐いて部屋を出て行った。

「ったく、鬱陶しいヤロウだぜ……」

 マヒロは、ガックリと項垂れたまま、膝の上に置いた握り拳に涙をポタポタと垂らしながら啜り泣いている。

「テメェも、いつまでも泣いてんじゃねぇよ」

 腹立ち紛れに椅子の脚を蹴ると、マヒロが、ビクッと肩を震わせ、恐る恐る顔を上げた。

「タケルぐ……ん……おっ……俺……」

 ひどい顔だ。
 ショボショボの目、赤い鼻、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになりながらしやくり上げるひしゃげた口。
 しかし、その、お世辞にも綺麗とは言えないマヒロの泣き顔を見ながら、タケルは、萎えていたはずのペニスが再びズキズキと疼き始めているのを感じていた。
 まさか自分がこんな無様な泣きっ面に欲情を駆り立てられるとは夢にも思っていなかった。しかし、下腹部を襲う痺れるような熱さとペニスに大量の血液が流れ込んでくるような強烈な疼きは誤魔化すことは出来ない。
 もっともそれはタケルの加虐的な性癖による興奮と考えるのが一番自然だが、その奥に、加虐的なそれとは少し違う、胸がスッとするような微かな充足感が含まれていることにタケルは気付いていた。
 マヒロの、悲しみに打ちひしがれる姿がやけに胸に刺さる。
 ひょっとしたら自分は、この顔が見たかったのかも知れない、とふと思う。
 高橋の誘いを受けた時、高橋と別荘へ行った時、もしもマヒロがこんなふうに泣いていたなら、あんなにムシャクシャすることは無かったのかも知れない、とも思う。
 しかし一方で、そんなことを思う自分に戸惑った。
 そもそもどうしてムシャクシャしなければならないのか。
 マヒロはただの家政婦だ。
 マヒロより綺麗な男や女は他にもたくさんいる。マヒロになど拘らなくとも、その気になれば代わりはいくらでもいる。
 しかし、ならば、この胸の騒つきはどう説明すれば良いのか。
 マヒロの泣き顔を見た時、それまでタケルの中にくすぶっていた怒りがスッと引いていくのを感じた。
 懲らしめてやったとせいせいする気持ちではない。マヒロが、ウリ専ボーイと自分の行為を目の当たりにしてショックを受けているのだと想像すると、唇がムズムズするような、安堵にも似た高揚感が込み上げた。
 ごくごく僅かな感情ではあるものの、それがタケルの胸の片隅に引っ掛かり、存在を主張している。
 しかし何故。
 考えようにも、下腹部に渦巻く熱とドクドクと脈を打つ甘い疼き、高まっていく興奮と止むことなく膨張し続ける昂ぶりに意識を乗っ取られ、それ以上考える余裕を奪われていた。
 快楽への衝動のまま、タケルは、マヒロの身体を両腕を掴んで椅子から持ち上げ、ベッドに放り投げた。

「タケルく……ん……?」

「うるせぇ、さっさと股を開け!」

 マヒロの足首を掴んで両脚を頭側に返して後孔を露出させ、ベッドボードに置いたローションを手に取りボトルを逆さまにして会陰の膨らみから尻の溝に垂らし込む。
 尻肉を左右に開いて窄まりに溜まったローションを指先で回し広げると、マヒロが逆さになった両脚をピンッと跳ね上げた。

「やぁッ……」

 閉じようとする脚を内側からこじ開け、太ももの間からマヒロを見下ろし、「じっとしてろ」と叱りつける。
 マヒロは、泣き濡れた目でタケルを見上げている。
 その、すがるような目を見返しながら、窄まりに添えた指をプツリと後孔に押し込んだ。

「んぁッ……」

 マヒロが、切なそうに眉を顰めて唇を噛む。
 人差し指の先だけを入れて浅い部分をほぐし、指先を鉤型にして入り口の縁に引っ掛けながら弾くように出し入れすると、快感に耐えるように唇を固く噛み結んでいたマヒロが、限界とばかり大きく口を開いて喘いだ。
 
「ああッ! それッ……ダメッ……」

「何がダメだ。こうしてネチネチしつこくされるのが好きなくせに」

「はあああぁッ!」

 狭い入り口を割り開き、肉壁を押し広げながら少しづつ指を中へ埋めていく。
 マヒロは両手でシーツを掴んで身悶えている。
 根元まで埋め、肉壁がびくびくと締め付ける感触を楽しみながら抜き差しを繰り返し、柔らかくなったところで指を二本に増やしてさらに奥を拡げる。

「あああッ、あッ、あああッ、はぁッ、はぅッ、はッ……」 

 二本の指を曲げたり伸ばしたりしながら弱い部分を押し撫でると、マヒロが、それまでとは明らかに違う鼻にかかった甘ったるい嬌声を張り上げる。

「んっんっんあっ、あ、あ、あっ……っ……」

 固く閉じた目、悩ましげに顰めた眉、時折り薄目を開けて見返す潤んだ瞳が、タケルの官能に突き刺さる。
 ペニスはこれ以上ないほど昂ぶりズキンズキンと脈を打っている。
 すでに限界。
 後孔に埋めた指を引き抜き、マヒロの腰のくびれに手をかけて手前に引き寄せた。

「あああんッ……待って……」

 中腰になり、上を向いたお尻に乗っかるように跨ると、マヒロの後孔が、昂ぶりが近付く気配を感じて窄まりをヒクつかせる。
 硬く膨れた先端をその入り口に突きつけ、

「お望み通りくれてやる」

 ズブズブと中に突き入れた。

「はぁあんッ……あッ……んッ……んあぁああッ……」

 はち切れんばかりに膨れ上がったペニスに肉ヒダが絡みつく。ねっとりと熱い粘膜の感触。狭い後孔を、肉壁をメリメリと割り裂きながら根元まで突き入れてゆっくり引き戻すと、肉壁と擦れた部分から得も言われぬ快感が湧き上がる。
 マヒロを気使う余裕はない。
 まるで、これしか考えられないかのように、頭に浮かぶ思いや胸に迫るさまざまな感情を振り払い、自ら快楽の渦に逃げ込むように飛び込み、溺れる。

「お前なんかこうしてやるッ!」

「はぁああぁんッ! 待ってッ! そ……な……激しくしたらッ……」

「うるせぇ、この淫売がッ!」

 マヒロの両足を押さえながら、内臓を突き破らんばかりに激しく突き、カリ首で肉壁を擦りながら戻す動作を繰り返す。
 タケルの熱り勃ったペニスが奥を突くたびに、溢れたローションが結合部で飛沫を上げ、マヒロの身体がグンッとしなる。

「ぁあぁッ! もッ、ダメッ……壊れ……ちゃうぅッ!」 

 切ない喘ぎが、ひっくり返ったような悲鳴に変わる。
 両脚を肩に担いでさらに奥を突くと、逃げ場を失くした脚がビクビクと痙攣し、後孔がギュッとペニスを締め付ける。

「ああああッ、あッ、こっ、壊れるッ……壊れ……ッ……ああッ……」

「まだだ!」

「ダメダメッ! んあぁぁぁッ!」

「まだだ! まだだ!」

 気持ち良いのか苦しいのか解らない。
 狂ったように泣き悶えるマヒロに昂ぶりを打ち付けながら、タケルは、容赦なく雪崩れ込んでくる快感に背筋を震わせた。
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