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08 お披露目舞踏会
1 舞踏会の準備
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公宮では急ピッチで舞踏会の準備が進められ、当日。
リズは早朝に起こされ、貴族令嬢が出てくる小説によくあるフルコースの美容を受け、ぐったりとしていた。
しかしこの小説のヒロインは、このような扱いはされていない。着古したドレスを投げ捨てるように侍女から渡され、一人で身支度を整えたのだ。それに比べたら過剰な贅沢も、リズは感謝の気持ちで受けられる。
リズが虐められることなくこの日を迎えられたのは、アレクシスのおかげであり、魔女への偏見をなくしてくれた侍女達の、誠意によって成り立っている。
「魔女様、とてもお美しいですわ」
夕方。身支度が整うと、リズは姿見の前へと案内された。ふんわりと整えられた髪の毛に、繊細に施された化粧。この日の為に仕立てられたドレスは、舞踏会で映えるよう揺れ動くパーツが散りばめられている。
「わぁ……。みんな、本当にありがとう!」
この時ばかりは、ヒロインに生まれ変わって良かったと、リズはしみじみと感じながら、鏡を見回す。その横ではメルヒオールも、リズと同じように角度を変えながら鏡を覗き込んでいた。
メルヒオールは今、リズのドレスと同じ生地で作られたスカートのようなものを、穂の付け根に巻きつけている。これは、メルヒオールのためにと、衣装係の侍女が夜なべして作ってくれたのだ。
(でもメルヒオールって、おじいちゃんだよね……)
可愛いものを身に着けて、嬉しいのだろうか。リズは疑問を感じずにはいられなかったが、本人としては気に入っているらしい。クルクルと回っては、スカートの広がりを確認している。
「魔女様。出発前に、スープをお召し上がりくださいませ」
「うん、そうだったね。みんなも、しっかりと飲んでから出かけてね」
カップに注がれた『リズ特製ブーケガルニスープ~魔法薬仕立て~』を受け取ったリズは、それを一気に飲み干した。今日は悠長に味わっている暇はないので、具材なしバージョンとなっている。
もはやこのスープは、栄養ドリンクとして第二公子宮殿で親しまれるようになってしまった。
「リズ。準備は終わった?」
ちょうどい良いタイミングで、アレクシスがリズの部屋へと入ってきた。リズは表情を明るくさせながら、アレクシスへと振り向く。
「アレクシス! 見て見て、こんなに可愛くしてもらっちゃったよ!」
このドレスのデザインを考えたのは、アレクシスと衣装係の侍女だが、侍女の話ではアレクシスのこだわりは相当なものだったのだとか。
きっと着用した姿を見たがっていると思ったリズは、兄への特別サービスとして、その場でくるりと一回転してから、スカートを広げてみせた。
すると、アレクシスは立ち止まったかと思えば、なぜか瞳をじわりと潤ませ始めた。
「えっ……。なんで涙ぐむの……」
「僕が育てた妹が、麗しいお姫様に成長したから、嬉しくて……」
(あ……うん。二ヶ月くらいね……)
おおげさすぎるアレクシスの反応に困ったリズは、侍女達に視線を向ける。しかし、なぜか侍女達もアレクシスと同じ反応を見せながら、アレクシスの元へ駆け寄るではないか。
「公子殿下……!」
「皆も今まで、よく頑張ってくれたね。後で、特別手当を出すから」
「とんでもございません! 私達は、感無量でございますわ」
(なんか、皆の絆が深まってない……?)
リズだけ蚊帳の外な気分は、これが初めてではない。慣れつつある状況を、読者気分でリズは傍観した。
(これが縁で、侍女の中からアレクシスと結婚する人が出たりして)
アレクシスは二十歳だというのに、婚約者どころか想い人の陰すらない。当て馬なので、ヒロイン以外には目もくれないという設定のようだが、リズとアレクシスは兄妹としての関係を築いている。これからは、ストーリーから外れた出会いがあっても、良さそうなものだ。
「あれ? アレクシスが着ている服の刺繍と、私のドレスの刺繍が同じだね」
ふと目に入ったアレクシスの上着と、自分のドレスをリズは見比べる。するとアレクシスは、照れるように微笑んだ。
「気がついてくれた? 僕達は兄妹だから、お揃いの部分を入れてみたんだ」
(そんなの、聞いてないよ……!)
この歳で兄とペアルックは、正直恥ずかしい。リズは思わず頬が熱くなってしまう。
「リズ。お兄ちゃん大好きなのはわかってるけど、顔に出されると僕も照れてしまうよ」
アレクシスはまるで、付き合い始めの恋人のように、照れた表情でリズを見つめる。
(自分で仕掛けておいて、私より照れないでよ……)
アレクシスが異性に興味を持つのは、まだまだ先のようだ。アレクシスに恋人を作るには、まずは妹離れから始めるべきだと、リズは確信した。
リズは早朝に起こされ、貴族令嬢が出てくる小説によくあるフルコースの美容を受け、ぐったりとしていた。
しかしこの小説のヒロインは、このような扱いはされていない。着古したドレスを投げ捨てるように侍女から渡され、一人で身支度を整えたのだ。それに比べたら過剰な贅沢も、リズは感謝の気持ちで受けられる。
リズが虐められることなくこの日を迎えられたのは、アレクシスのおかげであり、魔女への偏見をなくしてくれた侍女達の、誠意によって成り立っている。
「魔女様、とてもお美しいですわ」
夕方。身支度が整うと、リズは姿見の前へと案内された。ふんわりと整えられた髪の毛に、繊細に施された化粧。この日の為に仕立てられたドレスは、舞踏会で映えるよう揺れ動くパーツが散りばめられている。
「わぁ……。みんな、本当にありがとう!」
この時ばかりは、ヒロインに生まれ変わって良かったと、リズはしみじみと感じながら、鏡を見回す。その横ではメルヒオールも、リズと同じように角度を変えながら鏡を覗き込んでいた。
メルヒオールは今、リズのドレスと同じ生地で作られたスカートのようなものを、穂の付け根に巻きつけている。これは、メルヒオールのためにと、衣装係の侍女が夜なべして作ってくれたのだ。
(でもメルヒオールって、おじいちゃんだよね……)
可愛いものを身に着けて、嬉しいのだろうか。リズは疑問を感じずにはいられなかったが、本人としては気に入っているらしい。クルクルと回っては、スカートの広がりを確認している。
「魔女様。出発前に、スープをお召し上がりくださいませ」
「うん、そうだったね。みんなも、しっかりと飲んでから出かけてね」
カップに注がれた『リズ特製ブーケガルニスープ~魔法薬仕立て~』を受け取ったリズは、それを一気に飲み干した。今日は悠長に味わっている暇はないので、具材なしバージョンとなっている。
もはやこのスープは、栄養ドリンクとして第二公子宮殿で親しまれるようになってしまった。
「リズ。準備は終わった?」
ちょうどい良いタイミングで、アレクシスがリズの部屋へと入ってきた。リズは表情を明るくさせながら、アレクシスへと振り向く。
「アレクシス! 見て見て、こんなに可愛くしてもらっちゃったよ!」
このドレスのデザインを考えたのは、アレクシスと衣装係の侍女だが、侍女の話ではアレクシスのこだわりは相当なものだったのだとか。
きっと着用した姿を見たがっていると思ったリズは、兄への特別サービスとして、その場でくるりと一回転してから、スカートを広げてみせた。
すると、アレクシスは立ち止まったかと思えば、なぜか瞳をじわりと潤ませ始めた。
「えっ……。なんで涙ぐむの……」
「僕が育てた妹が、麗しいお姫様に成長したから、嬉しくて……」
(あ……うん。二ヶ月くらいね……)
おおげさすぎるアレクシスの反応に困ったリズは、侍女達に視線を向ける。しかし、なぜか侍女達もアレクシスと同じ反応を見せながら、アレクシスの元へ駆け寄るではないか。
「公子殿下……!」
「皆も今まで、よく頑張ってくれたね。後で、特別手当を出すから」
「とんでもございません! 私達は、感無量でございますわ」
(なんか、皆の絆が深まってない……?)
リズだけ蚊帳の外な気分は、これが初めてではない。慣れつつある状況を、読者気分でリズは傍観した。
(これが縁で、侍女の中からアレクシスと結婚する人が出たりして)
アレクシスは二十歳だというのに、婚約者どころか想い人の陰すらない。当て馬なので、ヒロイン以外には目もくれないという設定のようだが、リズとアレクシスは兄妹としての関係を築いている。これからは、ストーリーから外れた出会いがあっても、良さそうなものだ。
「あれ? アレクシスが着ている服の刺繍と、私のドレスの刺繍が同じだね」
ふと目に入ったアレクシスの上着と、自分のドレスをリズは見比べる。するとアレクシスは、照れるように微笑んだ。
「気がついてくれた? 僕達は兄妹だから、お揃いの部分を入れてみたんだ」
(そんなの、聞いてないよ……!)
この歳で兄とペアルックは、正直恥ずかしい。リズは思わず頬が熱くなってしまう。
「リズ。お兄ちゃん大好きなのはわかってるけど、顔に出されると僕も照れてしまうよ」
アレクシスはまるで、付き合い始めの恋人のように、照れた表情でリズを見つめる。
(自分で仕掛けておいて、私より照れないでよ……)
アレクシスが異性に興味を持つのは、まだまだ先のようだ。アレクシスに恋人を作るには、まずは妹離れから始めるべきだと、リズは確信した。
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