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一章

〈魔力の暴走〉

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「モウ、イヤダァァアアアアアアアアア!!!!」

 空を切り裂く様な金切り声が、肺活量を忘れ鳴り響く。

 叫び声には魔力が宿り、音波だけで森の木々、周囲の空気を切り裂き、地面を抉った。

 周囲にいた人間全てが、音波から発生した風圧によって吹き飛ばされる。

 飛ばされた全員は、なんとか受け身を取った。

「セス……?」

 レオンが呼びかけるが、セスからの返事は無い。
 そしてセスの髪が白く光り出し、セス周囲からは大量の強い風が発生し続けた。

「危ない!」

 チャールズが、呆けているレオンを庇って突き飛ばす。
 レオンの元に飛んで来た刃の様な風が、チャールズの肩を引き裂いた。

「チャールズ!!」

 アルノルトが、側に駆け寄る。
 我に帰ったレオンが、次元魔法を展開しアルノルトとチャールズを異次元へと転送する。

「無事か! クロード!!」

 レオンが、自分の方に飛んでくる木やら風やらを魔法でいなしながら周囲を確認する。
 クロードは、立ち竦むアランの横で、セスを呆然と眺めていた。

「これは……魔物化、しかしそんな馬鹿な……白変する魔物化など聞いたことが無い……」

 クロードが、独り言の様に呟く。
 セスの腕からは、徐々に白い鱗が生え始め、指には白い甲胄かっちゅうの様な甲殻こうかくが現れ、空色だった瞳は、銀色に変わりつつあった。

「しっかりしろクロード!! このままセスが魔物化した場合被害は……周囲の被害はどうなる!!」

 クロードがハッとする。

「文献では、町が一つ無くなったと……ただ、元々の魔力量に比例する様に被害が大規模であったと記されていて、一番新しい物で千年前の文献にしか乗っておらず……」
「なんだと?!」
「ハハッ……笑えないな、それ」

 ここは確かに山の中だが、近くの、麓には中規模な市街があり、この勢いでは確実に被害を受ける。
 レオンとクロードは、猛スピードで飛んできた飛んできた大木を協力して止める。

「参考までに、セス姫様が使える魔法の種類は」
「それがまた笑えないことに……全てだ」
「は?」
「私の知る限り、彼女に適正がない魔法は、無い!!」

 クロードが驚いて、レオンの顔を二度見する。
 レオンは、セスの方へ歩き出す。

「セス止める。セスが正気を取り戻せば、まだ望みはある」

 レオンが言う。
 するとレオンの後ろから、風の刃が飛び、背中に突き刺さる。

「グゥ!!」
「クロード!」

 アランが叫ぶ。

「それよりもっと早い方法があります。セス姫様を止めるには、殺めるのが一番手っ取り早い……」

 クロードは、レオンに攻撃を仕掛け続ける。

「悪いけど、何があってもその要求は飲めない」

 レオンは、セスが居る方を庇う様にしてクロードに応戦する。

「この状態で、やるおつもりか?」

 クロードが、笑う。

「私にとっては町一つよりセスの方が大事だ!!」

 レオンが叫ぶ。

 レオンとクロードが交戦状態に入る中、アランは一人、セスの元へと向かった。
 風の刃が飛んできて、アランの体を引き裂く。

「国王陛下!! 貴方では無茶だ!!」

 クロードが慌てる。
 隙をついてレオンがクロードに抗議を仕掛ける。

「グゥゥ!!」
「何をする気だ! アラン!!」

 アランの方へ、風の刃や木の破片、音波が飛んでくる。
 アランの身体の傷が、徐々に増えていく。

「国王陛下!! お戻り下さい!!」

 クロードが叫んで駆けつけようとするが、すぐ前のレオンに遮られてしまう。

 セスの近くに来るにつれ凶悪化する魔法攻撃に耐えながら、アランはセスのすぐ目の前まで辿り着いた。

「セス」

 アランが、呼びかける。
 頭を抱えたまま、涙を流すセスは、酷く混乱しているようで聞こえない。

「セス……」







 誰ダ?

 私をヨぶのハ誰ダ

 ふわりと暖かい感触が私を包む。

 母ハ、何処へ行ッタ

 アァ、そうか、もウ死んでシマったのだった……

「すまない」

 思い出シたくナイ……

 もう、思イ出しタくナカッた……

「すまない、セス」

 もう二度ト、家族ヲ失いタく無カった……

 目の前デ人が死んでイくのヲ、

 黙ッテ見ルのハ嫌だっタ……

「そうか、辛かったなぁ」

 何が分かル……

 お前二何が分かル!!

「分かるとも……。同じ人間だもの、父親だもの……」

 ウルサイ!!!!

 父ハ死んダ!!

 家族ハ皆シンダ!!

 私ハ誰一人……誰一人救エなかっタ!!

「そんなことは無い、私は……私は救われた。
 話を聞いて貰えて、一緒に過ごせて」

 誰ダ……

 オ前ハ誰ダアアァァァァ!!!!



 目の前を、血飛沫ちしぶきが跳ねる。



 私の手が、傷だらけの父の腹を貫いてる。

「こんな、何もしてやれない父親で、すまない……なぁ……セ……ス……」

 父は倒れるその時まで、決して私を抱き締める手を離さなかった。
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