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近衛騎士団編 ~小鬼の王~
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しおりを挟むなにやらセバスがまだ話し足りない事があるようだ。
私はお茶を飲みつつ、言葉を待つ。
「セバス?何かまだ伝え足りない事でも?」
「小鬼の王の出現ですが、こちらの情報はまだアナスタシア様のみが知る事です」
「・・・ん?シオンには?」
「私はお伝えしておりません。アナスタシア様からは、エンジュ様の判断を待てと言われております」
「私?」
「如何致しますか?」
如何も何も…放置しておいたらそれこそ魔物大発生の引き金になるのでは?
普通なら即座に殲滅…って話になるんじゃないの?
冒険者ギルドや魔術研究所の過去の資料からは、過去の小鬼の王により、徐々に小鬼達に進化や知能の増加が認められるとかありましたけど?
そもそも、今周囲で確認されている小鬼将軍とかもその進化によるものなんじゃないの?
私がそう言うと、セバスはそうですとばかりに頷く。
「だからその小鬼の王を倒す為の一環として、増えている群れを一掃するって事よね?
という事は、それが終わったら洞窟内の小鬼達を退治に行くんでしょう?」
「アナスタシア様の中では、おそらくその段取りとなっているでしょう。
ただし、それはエンジュ様によります」
「えっ、だからなんでそこで私?」
「エンジュ様の召喚獣であれば、即座に殲滅が可能です」
「・・・もしかしてタナトス出せって事?」
「奴等は洞窟内に潜んでおります。未だ出てくることはないのでしょう。そこにいる事で、人間がそう簡単に来る事は無いとわかっているのだと思われます」
「もしかしてそんなに広くない?」
「はい、少数が戦う範囲しかないでしょう。ですが奴等の本隊は小柄な小鬼です。最奥の広間はかなり広くなっておりましたので、戦うには充分な広さがあるのですが、そこに至るまでは数人が動けるくらいかと」
「なんでそんな所に・・・機を待つ、ってやつなのかしら。
ああそうか、だからこそタナトスって訳」
確かにアレならば一体で充分なのかしら…
マハエイガオンとか使ったらサクッと勝てそうだし。
さすがに小鬼の王ともなれば、BOSSクラスだし、即死耐性ありそうだから1発では無理かもしれないけど。
周りの壁が無くなっちゃえば、タナトスの物理攻撃でノックアウトかしら?むしろオーバーキルなのでは?
「・・・んっ?待ってよ、そしたら私が洞窟に行って退治するって事?」
「もちろん我々もお供致しますが」
「待ってよ、それってアリなの?なんていうかこう・・・騎士達に倒させないと武勲とか名誉とかそういうのとか」
「そもそも小鬼の王を出現させない為に群れを一掃する事にしていますので、ここでエンジュ様が倒してしまったとしてもどうという事もありません。
むしろ、進化のきっかけともなる存在を消すわけですから、これ以上の敵戦力の増加を防ぐ意味合いもあります」
もしかして小鬼の王って存在してるだけで、同族の強化に役立ってるって事?
何らかの同調でもあるのかしら。無意識下で樹状に繋がっているとか?
そうだとしたら厄介だな。このままだと普通の小鬼が進化しまくっていったら、それこそ魔物大発生のきっかけになるとも限らない。
未だに何が始まりとなるのかわかってないって言うんだから、困ったものよね。記録はしっかり残しておいてもらいたい。
「・・・責任重大じゃない?」
「いえ、エンジュ様が動かなくても構いません。この後、アナスタシア様とカイナス伯爵が隊を編成して向かうと思われますので。
ただ、アナスタシア様にはエンジュ様には報告しておくように仰せつかっております」
「そもそも『探ってきて』とお願いしたのは私だものね」
「率直に申し上げますと、私はエンジュ様が出る必要はないと思っております」
「・・・何故?」
「この世界の事はこの世界の者が解決するべき事です。
今回、解決に動くべきは王国騎士、ならびに近衛騎士ですので」
力があるのだから、解決できるなら行け…と思っているのかと思ったけれど。セバスはそういう考えではなさそうだ。後ろに控えるターニャやライラは何も言わない。
「えっ、じゃあなんで私なら倒せるって・・・」
「エンジュ様、あの召喚獣を試す場がないと消沈しておりましたので。一応、存分に振るえる場がある事だけは報告しておかねばと」
ああーーー!確かに『タナトス使い所ないわよねえ』と何度か零してた私!!!
あっそうか!洞窟内=私達しか行かないって事か!
他の人にバレる事無く、思いっきりぺ〇ソナ試し放題って事!?
…なんかそう思ったら、行くのも吝かではないとか思ってしまった。
「アナスタシア様もその事を心配しておりました。何せあの召喚獣はかなり有効ですが、見た目が魔物寄りですので、他の者に見られるのはあまり喜ばしい事ではないのかと」
「んー、まあ、確かに見た目は神秘的とか神がかってはいないわね」
ある意味、神がかってますけどね!あくまで私の感覚において、ってだけだからね!
うーん、どうする?私の召喚獣の試し打ちに小鬼の王退治に行っちゃう?ていうかそんな簡単に行っていいのか?
「・・・勝てる、と思う?」
「おそらく我々の手助けがなくとも、エンジュ様の召喚獣だけで事足ります」
「いや、相手も即死耐性くらいはあるでしょ?」
「その『そくしたいせい』が何かは私には推察出来ませんが、単純にあの召喚獣の術が効かずとも、直接攻撃で勝てると思います。
もちろん、エンジュ様の守りは我々が当たりますので、エンジュ様は召喚獣の制御のみに気を使って頂ければ良いかと」
うーん…上手く乗せられてる気持ちもあるけど。
申し訳ない事に、ぺ〇ソナ召喚獣を好きなだけ使えるという誘惑に勝てない。生き物を殺す、という点であまり褒められる行為ではないし、やったらやったで道を踏み外す感もなくはないのだが。
あの黒いGを殺すのと同じ感覚で…挑めばいいのか…?
「如何致しますか?」
「い、行っちゃおうかなあ・・・なんて」
「かしこまりました、ご用意致します。ターニャ、ライラ」
「はい、かしこまりました」
「15分後に外へおいでくださいませ」
ターニャとライラは揃って一礼。
それぞれキッチンと外へ向かって行く。
…キッチン行くって、もしかしてお弁当でも用意するつもりですか?ピクニックですか?
私が残りの紅茶を飲み干し、御手洗に行って外へいけば、砦の出入口にはちゃっかりターニャの姿。
ライラはディーナや神殿の巫女達に、外に警戒に出ると伝えに行ったらしい。彼女達には、ここで砦を守るという任務があるものね。
********************
通信魔法の魔法の鳥が届く。
私の手に止まると、セバスチャンの声で報告が来た。
その様子を見て、カイナスが寄ってくる。
「何かありましたか?アナスタシア様」
「いや、大した事はない。カイナス、ここからは別れる。お前も気を引き締めて事に当たれ」
「はっ、了解しました」
「厄介な役職持ちはこれ以上増やしてはならん。何としても予兆は食い止める。我々の手で、だ。いいな」
「承知しております。その為に我々騎士がいるのですから」
愛する人を、国を守るために剣を取る。
騎士になる、というのはそういった覚悟を必要とする。
たとえ自身が散ろうとも、その想いを仲間が受け取り、礎となる。
任務の為に自らの命を惜しんで戦わない騎士はいないだろう。
どの騎士にも、覚悟の光が目にある。
…いい部下達を持ったものだ。この命を、光を消さないために、我々が頑張らなくてはならない。
「騎士の誇りに賭け、自らの信じる行いをせよ。
我々の振るう剣が、愛する者達の未来を切り開くものと心得よ。
───誰一人命を落としてはならない。行け!」
「「「はっ!!!」」」
激を飛ばせば、一丸となって返事が返る。
カイナスを筆頭とし、一団が別の方向へと滑らかに軌道を変えていく。
私の隊はそのまま進み、ひとつの群れがいるポイントを目指す。
さて、エンジュに負けないように私も気張らなくては。
小鬼の王が討たれても、その他の小鬼が進化しては元も子もない。
同時に収束できるならば、それに越した事はないのだから。
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