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近衛騎士団編 ~小鬼の王~
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しおりを挟むさて、向かいました洞窟へ。
近くまでは先にライラとオリアナが露払いに進んで行った。
ターニャは私のそばに。さらにセバスが警戒に当たる。
洞窟までは1時間ほどで付いた。…途中まで杖で移動しましたけどね。ホント便利よ、あれ。
小鬼の王が潜む洞窟の前。
アナスタシアが焼き潰したという洞窟跡も見る。…岩石って溶けるんですね?アナスタシアの魔法見た事ないけど、やっぱりタロットワークなのよね、凄いわ。
「あちらです、エンジュ様」
「あれが、そうなの?…見張りがいてもおかしくないと思うけど、いないのね」
「それは既に私達が仕留めました」
「ヒッ」
スっと現れるオリアナ。だからさ、いきなり現れるの止めようよ…驚くわよ。しかしターニャはうんうん、と何かを頷いている。まさか、ターニャもできるのでは…?
どうやら3匹ほど外にいたようだが、オリアナとライラでサクッと仕留めて埋めたらしい。
「しっかり埋めたのね」
「痕跡を残すのは美しくありませんので」
「・・・魔物、だからよね?」
にっこり、と微笑むオリアナとライラ。
あ、えっと…これ以上は聞かない方が…いいのかな?
洞窟の入口から少し離れた茂みから、入口を観察。
中から出てくるかしら…と思っているとまたも3匹ほど普通の小鬼が出てきた。
…どんなもんなのかと思ったけど、ほんとにアレね、小鬼って感じ。餓鬼みたいに見えなくもない。アニメや漫画みたいにお腹がポッコリして、皮のような服を来ていた。肌は緑色。
「服、着てるのね」
「通常の小鬼は、布や皮を腰に巻く程度です。あのように服を誂えて着る、そして棍棒を持つ、というのは進化の兆しに他なりませんね」
「通常ならば、棒切れすら持っていない?」
「たまに木の棒を持っている個体もいますが、あれはきちんと細工された棍棒です。・・・人の住む村などから強奪したのでなければ、あれらを加工するだけの知能と腕をもった個体がいるという事です」
「・・・人と言葉を交わし、村を作るという事はないの?」
「私が生きてきた上で、聞いたことはございません」
ラノベのように、魔物にも知能があって、種族毎に村を作ってコミュニティを形成している…という筋はなさそうだ。
そうであるのなら、話し合いで住む場所を区分けすれば共生も可能かもしれないと思ったのだけど。それは無理そうだ。
だとすると、やはり退治しないといけないんだろうな。
迷宮の魔物を狩っていた時はそこまで拒否感はなかったのだけど。…今更何もしていません、だなんて言うつもりはないけれど。
「エンジュ様?」
「倒す、しかないわよね」
「・・・そうですね、これを放置しておけば、近い内に近隣の村が襲撃対象になるでしょう。その前にアナスタシア様とカイナス伯爵が討伐に動くと思いますが」
「彼等ばかりに押し付けてもいられないわよね。・・・犠牲も、出るのでしょう?」
「恐らくは。洞窟内へ討伐に入るしかありませんので、犠牲は避けられないかと。中はあまり広くはありませんので、騎士達が得意とする戦法は使えません。各個撃破していくしかありませんが、多勢に無勢となるでしょう」
それもまた騎士の役目といえば役目ですが、とセバスは言う。
騎士となったからには、『国の為、力無き人々の為に力を尽くす』のが役目なのだそうだ。
…その『力無き人々』の中に私は入るのか。普通の人間よりは遥かに恵まれた『力』のある私は。
「エンジュ様、気乗りしなければいいんですよ?」
「ターニャ・・・」
「私達でバビッとやっつけてきますよぉ?」
「そうです、私達で滅殺可能ですので」
…『滅殺』って何だろう。
某戦乙女RPGの女神様の決め文句、『あとに残らないだけ塵よりマシよね?』という声が脳裏に蘇る。もしかしてライラはフ〇イ様の生まれ変わりですか?もしかして必殺技は『奥義!エーテルストライク!』とかやらないわよね?
ターニャとライラは『殺ってやる!』とばかりに漲らせている。…この2人放し飼いにしたらあの洞窟が血で染まるのでは?
そんな風に思ったら、なんだかふっと気分が軽くなった。
ダメだなぁ私。覚悟、足りないね。
「うん、・・・ごめん、大丈夫。行くわ」
「エンジュ様ぁ・・・」
「ご無理は・・・」
「平気、2人が傍にいてくれるでしょう?
セバス、私が先に行けばいいの?それとも誰か先に行く?」
「ターニャ、ライラ、先行しなさい。召喚獣の邪魔にならないように。オリアナはそのまま周囲の警戒に」
「了解ですっ」
「かしこまりました」
「御意に」
「エンジュ様は私と参りましょう。召喚獣を掻い潜って近付く魔物は私が消滅ます」
なんだろう、消すって言葉に『消滅』って雰囲気出たわ。
これがセバスの本気ってやつなのかしら。
そっと洞窟の入口へ。
ターニャとライラが先に入り、私はごくりと息を飲んで1歩を踏み出した。
********************
結果、誰1人欠けることなく、最奥へ到着。
入口で『ペ〇ソナ、召喚!』と調子に乗って呼びかけてみれば、柩の冥王がズガーン、と出現して『@&☆$Awp#PM!!!』とよく分からない雄叫びを上げて突っ込んで行った。
それを追いかければ、洞窟にひしめいてた小さいのから大きい小鬼がサクサク消えてく始末。
なんていうの?スキル最強って言うの?
小鬼出てくる→タナトス吠える→何らかのスキル発動→大半の小鬼掻き消える→残りはタナトスがぶった斬る、の繰り返し。
ありゃ最強だわ…合体繰り返して通常にはないスキルくっ付けてた?ってくらい大暴れ。
ダンジョンの時のように、スコン、と倒れていくのでそこまで嫌悪感はなかった。
なんというか、もっと血とか体液とかブシュっと出てきたりだとかやだなって思ったんだけど、多分呪系魔法?使ってるのかしら?スコンと倒れていくのよね…でも白目向いてるからお亡くなりになってるとは思うんだけど。
「・・・ねえセバス、これこのまま放置していいのかしら」
「できれば燃やすなりした方が良いですね。このまま放置して屍鬼化したら困りますし」
「うーんと?『チェンジ!カルメン!』」
きらり、とタナトスが光り、シルエットがボヤけて変化する。
ゴウ、と炎を纏わせて現れる、炎系ペル〇ナの炎の踊子。
くるり、と舞い踊ると私やセバスを避け、炎が舞い踊る。
炎が消えた後には、魔石だろう石がコロリと転がっているのみ。
…マハラギオンですか?いやマハラギダインか?
「素晴らしい威力ですね」
「やり過ぎな感もあるけど・・・まあ頼りになるわよね。あ、タナトスに戻った」
「$∪*&☆∂☆」
「・・・わからん」
やはりわからない。スライム達みたいにそのうち話したりするのだろうか。それにはもっと使ってあげるべきなのか、それとも常時外に出しておいてあげるべき?
ちなみに、スライムは砦の部屋でお留守番。ぴょこぴょこ何処かに行ってしまったら、探すの大変だし。お留守番ね、と言ったらニュッと触腕?を生やして敬礼して見せた。…騎士達を見て学んだのだろうか。
とにかくここは先に進まないとね。
私は洞窟の奥、広くなっている場所へと入った。
その場には、将軍級と思しき小鬼が、ターニャとライラにギッタギタに絞られている場面が。
「クソ雑魚いですねっ」
「全く汚らわしいにも程がありますね。ご到着ですか、エンジュ様」
「・・・貴方達2人で終わるのでは?」
「そーんな、もったいない」
「セバスチャン様の出番も残しておかなければと」
「え?セバス、戦うの?」
「エンジュ様がよろしければ、後は私めが」
いや…うん、いいけどね、別に。
うじゃうじゃいた小鬼達は、今もタナトスが追いかけてスキル発動させまくってパタパタ倒している。後は最後にカルメンに変えて燃やすだけですし。
奥に、大柄な小鬼に守られるように、小鬼の王と思われる個体が。
周りに杖や槍が落ちているのを見ると、ターニャとライラでゴブリンメイジなんかを仕留めておいたようだ。
…やっぱり2人でなんとかなったんじゃない?
ふと、耳に聞きにくい唸り声のような声が届いた。
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