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近衛騎士団編 ~小鬼の王~
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しおりを挟む「──────ギギ、」
「・・・ん?」
「グギ、コノヨウナ、コトニ」
「・・・まさか、喋ってる?」
「ワレラノ、ヤボウ、コレマデカ」
驚いた。多分私だけでなく、セバスも驚いた様子。
ピクリ、と手が動いたからね。
「話せる、の?」
「オモイアガルナヨ、ニンゲン。ワレラモ、ヤラレルダケ、デハナイ」
「・・・行っちゃえタナトス」
「∪∂☆$☆$」
「ヤメロ、ヤメテクダサイソレダケハ」
ダチョウ倶楽部か、と突っ込みたいくらいあっさり言ってる事翻してるし。この小鬼の王、もしかしてタナトスが怖い、のかしら?
タナトスはフワッと回り込み、私の前に。
まるで小鬼の王と対するかのようだ。
「ええと?何だったかしら?」
「フン、ソノヨウナモノヲ、シエキシタカラトイッテ、ワレラニカッタトオモウナヨ!」
「えーと、タナトス、『冥府のと』」「スミマセンデシタ」
スキル発動させようとしたら、何故か土下座した。
ていうか、小鬼に土下座の文化があるのか?
なんだか毒気を抜かれてしまった。
どうしようこれ。セバスもターニャとライラを下がらせて、私に目をやる。お任せします、とでも言うように。
「ねえ、小鬼の王さん?」
「ウグ、ナンダ」
「人間に危害を加えない、と誓うのであれば、見逃してもいいわ」
「ナッ!?」
「エンジュ様?」
「あまり数を増やされると困るのだけど・・・森の奥にひっそり村を作って生活、というくらいならばいいのかなって」
「・・・ナサケヲカケル、トイウノカ」
「というか、人間を襲うっていうルール違反がなければ、魔物にも生きる権利はあるのかなと。貴方はこうして私達と話す事が出来るのだし、問答無用に襲ってくるでもないし」
まあむしろ問答無用に襲ったのは我々で。
小鬼達の異常増加や、近隣の村に被害が出なければ、彼等を退治しなくとも良いのだ。
この辺りの山岳地帯には、一説には竜種も住んでいる…と聞く。
その麓の森深くならば、小鬼達が住む場所くらいあるのではなかろうか。
「・・・タシカニ、ヤマノヌシハイルガ」
「やっぱりいるのね、言い伝えも馬鹿にしたものではないわね」
「そうですね、立派な竜種が棲息していたはずです」
「・・・セバス?まさか貴方見た事」
「はい、昔ですが。恐らく今でも居るのではないでしょうか」
「グギ、ヌシニアッタコトノアルニンゲンガイルトハ・・・」
小鬼の王は、タナトスだけでなく、山の主…竜種に会って生きている人間がいる事にもう戦う意志を無くした様子。
そんな様子の小鬼の王に、周りの人化小鬼もまごまご。
結果的に、私が殆ど退治してしまったので、残っているのは小鬼の王含めて10匹程度。
それでも逃してくれる、という事に従ってくれるらしい。
山岳地帯の奥、森の奥に村を作り、ひっそり暮らしたいと言っている。…小鬼達で何か薬草とか山菜とか育てて村に卸しに来たりしないかしら?
人化小鬼ならば、頑張れば優しい魔物的な感じで、物資交換とか出来たりしないかしら。
セバスに相談してみたが、さすがに今の時点ではそれは無理があると。
もう少し進化を促し、言葉を話したりする個体が生まれれば、それも可能であるとの事だが…まだ未来の話になりそうだ。
「グギ、ニンゲンノオンナ」
「ん?私?」
「・・・カンシャスル」
「えっ?」
「コロサレルダケ、ダトオモッテイタ。ヤラレルマエニ、ヤル。コレ、ワレラノオキテ。
ダガ、キョウシャニシタガウ。コレモ、ワレラノオキテ。ヤクソク、マモル。イツカ、オンガエシ、スル」
「・・・ありがとう。貴方達も、気をつけて。
人間は皆がみんな、戦いを避ける訳ではないから」
「ワカッテイル。タロットワークノヒメ、マタイツカ」
そう言うと、小鬼の王は他の小鬼達を連れて走り去って行った。
…え、そっちに逃げ道あるの?抜け道ですか?賢いな。
ていうか、最後のあれって…
「えっ?ねえ、セバス?さっきあの小鬼の王、私の事『タロットワークの姫』って言わなかった?」
「言いましたね。不思議な事もあるものです」
「というか、さっきセバスチャンさん、あの小鬼に何か耳打ちしてましたよねえ」
「ターニャ、余計な事は言わない方がいいですよ」
ターニャとライラの小声が耳に届く。
…なんかセバス話してるな?って思ったらもしかして脅したんじゃないわよね?
やっぱりセバスが人類最強なんではなかろうか。
帰りは4人で歩きながら、そこらに落ちてる小鬼の魔石を回収して帰りました。
こんなのでも、換金すればそれなりの金額になるものね。
近隣の村の補修とかの材料費にでもしてもらいましょう。
********************
「・・・、なんだ?」
向かってきた小鬼を斬り捨てる。
人化小鬼の数も多い。革鎧を着て、古びた剣を持った個体もいるので、気が抜けない。
数もかなり多いので、囲まれないように気を使いつつ、騎士が各個撃破していく。
俺もかなりの数を倒し、遭遇した群れの半分を撃退した…所。
ふと、小鬼達の統率が乱れたように感じた。
これまでは群れがひとつの生き物のように、一体となって襲いかかってきていたように見えたが、ふと、バラバラになったような気がする。
近くにいる小鬼も、何かを探すようにキョロキョロと落ち着かなくなった。
俺と目が合うと、さっきまでは果敢に襲いかかって来たのに、一目散に逃げ惑う。
…なんだ?何が起こった?
「副長!小鬼達が逃げて行きます!」
「こちらもです!」
「・・・っ、必要以上に追わなくていい!倒せるだけ斬り伏せろ!」
俺もすり抜けていく小鬼達を斬り捨てる。
あえて追いかける事はしないが、剣に届く限りは倒す。
また別働隊として襲いかかって来られても困るのだ。
結果的に、群れの2/3は討伐。
逃げたのも10数匹程度だろう。これだけ削げば、今の所は大丈夫そうだ。
騎士達にも疲労が見える。大怪我をする奴もいなかったから良かったのだろう。
しかし、小鬼達の動きが気にかかるが。
「砦に戻るぞ。馬に乗れない怪我の奴は互いに補助しろ」
「了解!」
「了解です!」
周りの騎士を、オルガとジェイクがまとめる。
俺は愛馬に乗り、近くの騎士達をまとめて砦へと帰還した。
砦に戻れば、既にアナスタシア様の隊と、クーアンの隊も帰還していた。数名、重症に近い者がいるが、星姫や神殿の巫女達の回復魔法で治療済らしい。
「帰ったか、カイナス」
「お疲れ様でした、カイナス副団長」
「戻りました。・・・やれやれ、クーアンにも負けたか」
「いや、カイナス副団長が一番遠い区域を担当してくださったのですから、当たり前です。俺達は砦に近い区域でしたから」
「大事がなくて良かった。王国騎士に怪我は?」
「数人、大怪我をしましたが、星姫のおかげで大惨事は避けられました」
「クーアンの向かった区域には、小鬼将軍が3体いたらしい。手こずったようだ」
「3体!・・・それは災難だったね」
「いえ、力不足を痛感しました」
「私の方は2体だったな。後は小型ばかりだった。
お前の方はどうだった?カイナス」
「こちらにも2体いましたね。どちらかというと、中型の人化小鬼が主体でした」
将軍級が2体だったので、オルガとジェイクに任せて、俺は他の騎士と人化小鬼を相手した。
オルガもジェイクも、それなりに苦戦していたのを見ていた。まだ鍛え方が足りていないなと思ったが。
あれを3体という事は、クーアンも苦戦を強いられたのだろう。
クーアンは俺に報告を終えたあと、部下の様子を見に行くと食堂を出ていった。
それと同時に、執事殿が入ってくる。
「お疲れ様でした、アナスタシア様、カイナス伯爵」
「お前こそ大義だったな、セバス」
「いえ私めなど。手助けの範疇でしかありませんよ。
たまには思い切り羽目を外してみたいものですが」
「よくも言う」
ははは、と朗らかに笑うアナスタシア様。
…執事殿の『思い切り』というのはどの様なものになるのか。考えるのも少し怖いものがある。
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