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2話 またしても着せられてしまった濡れ衣
しおりを挟む「なにするの! 貸しなさい!」
「きゃ──────っ!!」
ブランシュがハサミを取り上げた途端、パトリシアの口からつんざくような悲鳴が発された。
「……?」
「本当に鈍くさいわね、あなたなんか失格よ」
状況が飲み込めていないブランシュを馬鹿にするように小さな声でぽつりと呟いた。
制服をもみくちゃにしながらパトリシアはふらふらと歩いて階段の方へと近づいていく。
「誰か……誰か助けて! 殺されてしまうわ!」
パトリシアの腕には溢れ出てきた血が伝っていて、指先から床へぽたぽたと落ちていく。
階段には悲鳴を聞いて駆けつけてきた生徒がいた。何段か飛ばしながらものすごい勢いで上ってきた。
透明感のある黄金色の髪が、動きに合わせて揺れる。腕から血を流すパトリシアの身体を支えると、心配そうに顔を覗き込んだ。
「大丈夫かい、パトリシア? なんて酷い怪我なんだ……! すぐに医務室へ行こう」
「アルドゥール様! あ、あの人が……! ブランシュにやられたの!」
アルドゥールと呼ばれた男は同じ学園の制服を身につけている。ブランシュが初めて見る顔だった。
パトリシアの言葉を聞いたアルドゥールは、身体の向きを変えて切れ長の目に怒りを滲ませながらブランシュを睨み付けてくる。
「私は、なにも……!」
ブランシュは弁解しようとしたが、手にはパトリシアから取り上げたままのはさみが握られていることを忘れていた。
「医務室まで着いてこい」
低く命令すると、パトリシアを横抱きにして階段をおりていった。
「これから、どうしたらいいんでしょう……」
ブランシュが傷つけたわけではないと証明する方法もなく、その上はさみを手にしている姿まで目撃されてしまっている。
本当に退学処分になってしまうかもしれない。いや、それだけでは済まず家を巻き込んだ大きな騒ぎになるかもしれない。
パトリシアはこの日のために長い時間をかけて、何度もブランシュを貶めてきたのだろうから。
これから先のことを考えるとブランシュの頭の中は恐怖と不安で埋め尽くされていく。
ガクガクと震えだす足にぐっと力を込めながら、一段一段ゆっくりと下りる。
医務室の扉を前にしてブランシュは長く息を吐いた。意を決してドアノブに手を伸ばした瞬間、誰かがブランシュを呼ぶ声が聞こえてきた。
声がしてきた方向に目を向けると、今おりてきたばかりの階段の上から手招きする腕だけが見えた。
上の階にいたのはブランシュとパトリシアのふたりだけだったはずなのに。
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