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十話

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 生誕祭が始まった。

 

 聖女の加護が続くことを喜び感謝する祭り。つまり、前世の私が誕生したお祝いになる。
 アンデッドの噂があり、市中に混乱が広がる中。
 王家の一部には中止を求める声があったものの、それは不可能だろう。
 民衆たちの不満を解消する意味でも、中止することは叶わないとの意見が王城を支配しているようであった。

 祭の混乱に乗じ、私たちは王都を脱出する。
 その実、民たちは結束し、ヴァンハイアー家の王都離脱を援助しようとしている。
 ガリウスの策により全ての商会は王家に武器等の供給を遅らせているので、スティーヴが準備をする間に私は王都から居なくなる算段だ。
 民たちは無償で私たちに協力してくれた。

 その気持ちが嬉しく、しかし私にとってかなりの重圧となってのしかかる。

「カテリーナ様のためならば。殺されたって、王子に協力するものか!」
「足りないものがあれば、なんなりとオラたちに言っておくれ」
「わたしはカテリーナ様がいたから、ここまで生きてこれました。次は、わたしが恩返しいたします……」

 ああ、なんという、けなげな方たち。
 このような優しい民たちを置いて、私は王都を脱出しなければならないのか。
 いったいどうすれば。
 私がこの場から動けば、アンデッドが溢れてしまう。
 ですが、領土に戻らなければ戦争どころか、家族と家臣共々殺されてしまいます。

 いくら多勢に無勢だからといって、民を置いて逃げ帰るのが正義なのでしょうか?
 私は苦悩します。


『やれやれ。カテリーナは頑固すぎる。そこがいい所ですが』


「精霊神様! 私は、どうすれば。このままではあの方たちを見捨てることになってしまいます!」

『困ります。いくら精霊の神である私でも、全てを救うことはできない。ですが……カテリーナの強い祈りは伝わっております。王都へのアンデッドの侵入を、いくらか遅れさせましょう』

「ああ、いと慈悲深き精霊神様!」

『こんなことをするのは、貴女にだけですよカテリーナ。王都など滅びても構いませんが、貴女が涙を流すとなれば話は別です』


 安心しました。
 精霊神様は、善良な民に限って、私が王都を離れてアンデッドに対する守護を失ったとしても守って下さると約束して下さいました。

 後顧の憂いを取り除いた私たちは、商会連合と下町の民の案内により、祭の混乱に紛れ外門を脱出。

「こちらです、ヴァンハイアー伯爵。カテリーナ様と奥様はこちらに!」

 用意していた駿馬と、機動力のある馬車に乗り込み、ヴァンハイアー領へと向かう。
 道中、ガリウスは髭に手をあて、

「うまくいきすぎですな。お嬢様、ご油断めされるな。アーサー殿はお嬢様にびったりくっついて守るように」
「ガリウス様、言われなくとも俺は羽虫の一匹もカテリーナ様の馬車に近づけん。この命に変えても、必ずだ!」
「ほっほ。若者は血気盛んでよいのう」
「からかうな御老人」


 ガリウスはしきりに考え事をしています。
 このまま領土に帰れれば、なんとかなる。
 はずなのに……。
 私も、ガリウスと同じように、なにか心に引っかかりを覚えるのでした。
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