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4話
しおりを挟む連れてこられたのは社会科準備室。授業の準備で何度か入ったことはある。3階の端に位置しており教室からは結構距離があるので、他のクラスの係の子は行くの面倒くさいと愚痴を溢している。
しかし何でここに来たのか。この時間だとこんな校舎の端っこは人通りがないため教師と2人で教室に入って行っても怪しまれないけれど。
窓側に机、その周りには資料が詰め込まれた本棚、教室の中央には長机とパイプ椅子が数脚並べられていた。先生は私にパイプ椅子に座るように促すと、自分はその正面の椅子に座る。
「悪いな、埃っぽいところに連れて来て」
「いえ、大丈夫です」
言うほど埃っぽくはない。定期的に掃除をしているんだろう。それは多分目の前にいる人な気がする。
「…それで、私は何で連れてこられたんですか」
「ん?事情聴取」
「何ですか、私悪い事してないですよ」
「そうだな、まだしてない」
何だその言い方、まるで私がこれから悪いことをするみたいじゃないか。
「佐上、俺が来なかったらあのままフェンス乗り越えてただろ」
「そんな…するわけないじゃないですか」
「お前誤魔化すのそんなに上手くないな。目が一瞬泳いだ」
私は瞠目する。外面は完璧だったはずなのに。ちょっと図星を突かれただけであっさりバレるなんて。
まあ先生の言い分はあながち間違ってない。あのまま誰も来なかったら…フェンスを乗り越えていた可能性は否定出来ない。
そうなっていた場合、当然ながら騒ぎになり生徒たちの好奇の目に晒されていた。あの時の私は自分の築き上げていたものがどうなっても良いとすら思っていた。自暴自棄になっていた節すらあったかも。
「俺も隙あらばゲームしたり、誰も近寄らないことをいいことにここに好き勝手に出入りしている奴だけど、これでも教師だから。悩んで思い詰めてる生徒を放っておく程薄情でもない」
「…教師みたいですね」
「俺は最初から教師だ」
不貞腐れる先生は何だか少しだけ可愛く見えた。
「でも、こういう時保健室とかスクールカウンセラーのところ連れて行きません?」
うちの高校には生徒の悩みを聞くスクールカウンセラーが常駐している。私は行ったことがないけど、優しく話を聞いてくれる人らしい。そっちに連れて行った方が先生としては楽だったと思うのに。
「俺もそうしたかったんだが、高崎先生は午後から出張で保健室閉まってるし、カウンセラーの染谷先生は体調不良で休み」
「何てタイミングの悪い」
「俺もそう思った。けどお前あのまま放っておくのは忍びなかったからこうして連れて来た。まあ、俺のことは置き物か何かと思ってくれ。さっきも言ったが誰かに漏らすことは無いから」
さあどうぞ、と言わんばかりに私に笑いかけた。友達にも誰にも自分の家族のことや悩みを打ち明けたことは無いのに、担任でも無い先生に話してしまっていいのか。
…いや、私はこうなることを望んでいたのかもしれない。さっき先生が切羽詰まった顔でフェンスに登る私に駆け寄って来た時から。
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