水と言霊と

みぃうめ

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第38話    side亜門⑥

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 シューさんとやらが、本当に39か聞いてきた。
 歳ってそんなに大事か?
 俺を見たら分かるだろう、若く見られた事なんてありゃしねーよ。軽いノリで女を褒めてるからまだ年相応のチャラいオッサンに見てもらえてんのに、何も喋らなかったら誰も近寄ってこねーよ。

 は?20代前半に見える?
 何言ってんだこのジジィ。耄碌しやがったか?

 みんなもそう見えてんのか?
 おかしいだろ。見えるわけが無い。
 でも確かに、言われて身体を動かしてみると異常に身体が軽い。身体を動かした時袖口からチラッとタトゥーが覗く。スッと腕を引きそのままシャツの中に隠す。日本人はタトゥーに馴染みがないからな、ビビらせる必要はない。だが、トレーニングしてるとはいえ、最近は身体が重く感じていたのに。さっきから言ってる魔法ってやつか?

 するとジジィが「二人が若返ったんじゃないかと思うんだよ。」などと戯言を言い出した。

 呆れて物が言えない。さっきから訳わかんねえ適当な事ばっかり言いやがって!おちょくってんのか!?
 俺はまだいいけどこの子をこれ以上巻き込むんじゃねぇよ!
 それに千早って前の名前で呼びやがったのも許せねぇ。

 もう1人の女の子の言う通り、鏡見て顔確認すりゃ分かるか。
 だがこの女の子、自分が歳を取ったようだと言う。
 一体何だってんだ!!

 待てよ、もし魔法っていうのが本当にあるんなら、俺らは人体実験でもされたってことか?この女の子は老けたから失敗。俺とこの子は若返ったって言ってるから成功?
 巫山戯んなよ!勝手に人の身体弄りやがって!絶対許さねぇ!

 鏡を覗いたこの子。驚きと困惑。
 俺も鏡を貸してもらい確認する。
 嘘だろ。俺でもわかるぞ、めちゃくちゃ若い頃の俺だ。一体どれだけ若返ったんだ?あのジジィが言ってた通り少なくとも20代だろう。軍に入った頃くらいにも見える。

 俺は1人で悶々としている。

 シューさんは1人で捲し立てて
 羨ましいやら何で僕じゃないのかと喚いていた。






 なんだ?
 急にこの子の様子がおかしくなった。
 ……震えてる。
 急に若返った事にビビってんのか、それともやっぱり元の名前で呼ばれたのが嫌だったのか。


 いや違う!
 両手で自分の二の腕を掴みガタガタ大きく震え出した。それに顔の血の気が引いてきている!肩も全く上下していない!まさか息をしていないのか!
 まずいぞ!

 俺は慌ててこの子に近付き右手を背中に回し左手を膝の裏に差し込み、横抱きそのままに胡座で座り込み、胡座の中に座らせた。
 背中をゆっくり撫で呼吸を確認するが、やはり息をしている様子はない。
「落ち着いて、息を止めてはいけません。まずはゆっくり息を吸いましょう。」
 慌てさせてはいけない、焦らせてもいけない。既にパニック状態なんだ、こういう時は低い声の方が安心出来る。
 ゆっくり、焦らないで、落ち着いて、大丈夫、思いつく言葉をなるべくゆったりと言いながら同じペースで背中を撫で続ける。

 周りの人間も息を飲み状況を見守っているが、今更だ。
 俺はこの子を追い詰める人間は許さねぇ。


 短くない時間を使い、ようやく呼吸が整ってくるが、震えが止まる気配はない。
 もしかして若返った事によって精神年齢も引っ張られて若返ってるのか?
 そうなると怖いのは両親。
「どうしました?怖いですか?大丈夫ですよ。貴方が若返っても、ここには貴方に危害を加える者はいません。いたとしても俺が守ります。」
「ちがっ………」
 違う?違うのか?両親の暴言や暴力が怖いのではない?
 一体何を怖がっている?何がそこまで貴方を苦しめ追い詰めているんだ!

 悩んでいると、また呼吸が乱れてきた!
 駄目だ!このままじゃ今度は過呼吸を起こす!


 仕方ない
「何が怖いですか?」
 聞こえていないかもしれないから、少し大きめにハッキリと聞く。
「っっあ………じ、じか、ん………………戻っ………」
 応えてくれないかと思いながら問いかけたが応えてくれた。
 理由は分からないが、とりあえず時間が戻ったかどうかが恐怖の起点だなと当たりをつけた。

 当たりはつけたが、時間が戻ったのかどうか、そんなのどうやって確かめるんだ!どうすればいい?どうすればこの子は安心出来る?どうすれば…

 そこで頭を過ったのはさっき身体を動かした時に裾から覗いたタトゥーだった。
 あの手首のタトゥーは去年入れた物だ。
 あ!もし時間が戻ったんならタトゥーがあるのはおかしくないか?
 正解か分からないがカケだろう。
 応えてくれたお礼を言い、確認する手段があること、確認してみるかを問う。
 目を見開き、それから俯いて動かなくなってしまった。
 確認するのが怖いのだろう、やはりこうなったのは時間が巻き戻ったか否かが重要だ。そして恐らく、時間の逆行ではなくただの若返りを望んでいるはず。俺の証拠は過去はそのままに、身体だけが若返った説だ。この子が納得してくれればとりあえず今は大丈夫なはず。
 だが思い切れないのだろう、動かない。このままの状態が長引くのは避けたい。だが出来れば無理矢理証拠を見せるのも避けたい。
 少しだけ顔を覗き込み、答えを促してみる。
 覚悟を決めてくれるはずだ。

 俺の顔をじっと見つめ……頷いてくれた。
 よし!

 怖がらせないように背中の手を外す。
 逃げられないと思わせないようになるべくこの子と俺の身体を離し、左手のみを使いボタンに手をかける。
 ボタンを一つ外したところでこの子の身体がビクッと跳ね上がる。なるべく怖がらせないように、ゆっくりボタンを開けていく。この子の目は俺のボタンを外している手首のタトゥーに釘付けだ。見たことがないせいなのか、怖くて目が逸らせないのか…
 少しでも怖がらせないようにする為、なるべく身動きしないように、指先をなるべく向けないように細心の注意を払いながら左腕のシャツの裾を口で引っ張り手を抜き、腕をシャツから抜いていく。凄く苦労したがどうにか腕は抜けた。左側の上半身だけどうにか出せた。

 ここから説明に入った。これは何歳の時、これは何歳の時、こっちのは…
 一通り説明し、困ったような顔を見せているが

「これで分かったかな?
 時間が戻ったのなら、俺の身体にタトゥーはほぼないと思わない?
 でも、ちゃんとある。
 23からのモノ全て。
 遡って考えるなら15年分の全て。
 若返っただけじゃないかな?どう?」


 この子の力がふっと抜けた。
 安心出来たかな?と思っていると

 叫ぶように泣き出した









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