水と言霊と

みぃうめ

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第56話    魔力⑦

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 あっくんは私と一緒にシーケンをやれたから、もう一度、今度は一人でやらせてみる。
 まぁ、出来ないわけないっすよねー。完璧ですわ。

 あっくんのセンスには脱帽だ。
 それでなければ、天性の才能か。

 弟子達を見て、選りすぐられた者ばかりなのにどうしてヤツに言われることが出来ないのか、凄く不思議だったことがある。シーケンを教えたこともあった。でも、出来たのは長い時間をかけてたったの一人。元旦那だけ。
 
 言われていることは理解できても、実際に自分に落とし込むまでに10年かかっても出来ない人も沢山いるのだ。
 如何に常識に囚われないか、自分の中の常識をぶっ壊せるか。如何に自分自身を信じられるか。
 これが日本人ともなると更なる難題となることに気がついたのは大人になってからだ。全ての事において、大抵の場合まず否定から入るからだ。否定の後に肯定されても、すんなりと受け入れる事は難しくなる。
 ナニクソ!と立ち向かって行ければいいが、否定され続けながら何千回やっても出来なければ心が折れるのは道理だ。やっている理由すら見失ってしまうかもしれない。
 日本の在り方は心を折る為のようだと思った。

 普通であって常識。これは産まれた頃からの刷り込みに他ならない。これを壊す事は容易ではない。
 人とは常識に囚われながら生きているからだ。

 私は産まれた時から実家でのことが常識だった。殴られたくなければひたすらの努力。試行錯誤を重ねて如何にそこからの脱却を図るか。試行錯誤の結果がシーケンなのだ。
 そして実家を出てからは、実家での常識を良い意味で壊され続けて生きてきた。
 だから常識を覆すことが比較的簡単に出来る。一つのことに縛られない。
 だが、あっくんは違うだろう。ある程度の常識は持っていたはずだ。私とは逆で、悪い意味で常識を壊され続けてきたんだろう。
 
「しーちゃん!俺どうだった?」
「完璧!」
「良かったぁ。一人で不安だったんだよ。ちゃんと出来て安心した。
 ところで、動かなくてもシーケンて出来るんだね。しーちゃんが一緒にやってくれた時、ただ立ってただけだから。」
「何を考えてやるか、どれだけ自分を信じられるか、それが大切なだけ。だから、私と一緒にやったのは座禅に近いよ。シーケンはね、気を練り上げることに特化してるの。動きをつけることで、よりイメージし易くなって、より早くあの場所に到達出来る。私はジッとしたままでやると、ジッとしてないと出来なくなっちゃう気がしてね。」
「なるほど。俺もそうなりそうだ。」
「うん。
 あのね、えっと、うーーーーん。」
「しーちゃんが言い淀むって、何か俺にお願い事?」
 あっくん!?何でニヤニヤしてるの!?
「いや、えっと、なんて言っていいかわからなくて。
 ちょっと!とりあえずこっち来て!!」
 あっくんの親指を掴みながら部屋の隅に連れて行く。他の人に聞かれてはマズイ。内緒話をしようと思って…しまった!あっくんアホみたいにデカかったんだった!耳打ちしようと思ってたのに、耳への距離遠っ!
「しーちゃん、俺これからどうすればいいの?」
 端に連れて来られたはいいが、此処でもウオサオしている私が可笑しかったんだろう。またニヤニヤしている。
「もう!ニヤつくな!
 そうだ!ここで座って!」
「正座?胡座?」
「正座でも胡座でも小山座りでも何でもいいから!」
「あははっ!小山座りって!」
 この筋肉ダルマに小山座りは確かにないな。
「もう!なんでもいいから座って!」
「はいはい、で?ほんとに何するの?」
「内緒話。」
「ここまで連れて来られて座らされて、するのが内緒話なの?」
「だってあっくんがデカ過ぎるのがいけない!耳打ちしようとしたら届かないんだもん!耳への距離が遠いんだから仕方ないの!」
 胡座をかいているあっくんが頭を抱えている。何で?内緒話ってそんなに変なことだった?
「しーちゃん、俺はしーちゃんが可愛すぎて心配だよ。」
「はぁ?何訳のわかんないこと言ってんの?」
「まぁいいや。じゃあ、しーちゃんおいで。」
 胡座のまま私に手を広げてきた。
 意味がわからない。なんなのほんとに。
「何してんの?」
「俺の胡座の中においでよ。するんでしょ?内緒話。」
 はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?
「そこに座らなくても話はできるから!」
「でも小声で話すんでしょ?離れてたら聞こえないよ?」
「耳元で話すから大丈夫なの!」
「耳元なら膝の中が一番良いんじゃない?」
「やだ!」
「何で?もしかして本当は俺のことまだ怖い?怖くなっちゃった?」
 こっっっこいつ!!!!
「怖くない!怖くないけど、人にはパーソナルスペースってもんがあるでしょ!必要以上に近づくと不快なの!」
「不快なの?俺はしーちゃんならどれだけ近づいても大丈夫なのに。」
「もう!いいからジッとしてて!話が進まない!」
「わーかったよもう。しーちゃんはツレナイねぇ。」
 やっと引いてくれたよ。あんまりしつこいとモテないよ?
 あっくんの左側に行き耳打ちしようとしたら腰に手を回され左腿の上に座らされた。
「ここなら胡座の中じゃないし距離近くて内緒話しやすいね。」
 そう言って胡座の体制のまま後ろに両手をついた。
 拘束されているわけじゃない、両手は後ろ。つまり、座らされはしたけどいつでも立ち上がれる。私のお尻があっくんの左腿に乗っているだけで私の両足も外側だ。
「これ、あっくんの譲歩ってやつ?」
「あ、分かっちゃった?」
 あっくんニコニコしている。はぁ。もういいかこれで。あっくんの耳の位置も丁度いいし。
「これから言うことに大きな声を出さないで。」
「わかったよ。」
「あっくんてカオリンから聞いて以降魔法の勉強した?」
 と耳打ちする。
「少しはしたよ。でも、魔力が何かわからないし、もし使えたとしても制御するのって大体3年くらいは平均でかかってるって書いてあったからさ、興味がなくなった。使えないモノあれこれ調べたって結局使えないんじゃねぇ。」
「じゃあ、使えるなら使いたい?」
「そりゃあ、使えるなら。どんなのが使えるか興味はあるよね。でも使えないでしょ?」
「使えるって言ったらどうする?特訓する?」
「え?まじで言ってんの?」
「多分使えると思う。」
「…ねぇ、それ聞くためにわざわざ此処に来たの?」
「そうだよ。
 他の人が使えるかわからないの。
 もしあっくんみたいに、使ってみたい!って思ってるんなら、使えなかった時にどうして期待持たせたんだ!って恨まれちゃうでしょ?」
「待って待って。さっきから俺は使えるみたいに言ってるけど俺だって使えるかわかんないでしょ?何で俺は使えると思うの?」
「あっくん魔力があるから。」
「はぁぁぁ?」
「ちょっと!声大きいよ!」
「あ、ごめんごめん。
 ねぇ、いつ魔力があるって気が付いたの?もしかして最初から?え?ってことはしーちゃんも使えるってこと?」
「気がついたのはさっき。
 で、多分私も魔力ある。
 あのね、あっくん、、あっくんは地球に帰りたいと思ってる?」
「そりゃあ、帰れるなら。
 此処には仕事道具も図案の資料も何も無いし
 じぃちゃんばぁちゃんの墓参りもしたい。
 もしかしてしーちゃん、地球に帰りたい?」
「帰りたい。何をしても何をおいても何を犠牲にしても帰りたい。出来るだけ早く。一緒に戻る方法を探すの協力してほしい。一緒に地球に帰ろう。」
 視界が涙で滲む。
 私が決意したのは、あっくんをこちら側に引き込むこと。目的を明確に示してそこに突き進むこと。今現在魔法が使える可能性のある人はあっくんだけ。シーケンの習得を、そこに至るまでの過程を見て、この人の自分を信じられる心の強さ、それに裏打ちされる確かな実力、目的に突き進むスピードとパワーに圧倒された。私とは違う純粋さも持ち合わせている。こんな特別な選ばれた人、出会ったことがない。
 もし、今断られても、私が地球に帰るために頑張っているのを見て協力してくれる気になるかもしれないという小狡い気持ちもある。
 

 これは私の決意表明だ









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