水と言霊と

みぃうめ

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第105話    sideラルフ③

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 部屋へ戻る道中、2人の護衛にも改めて確認する。
「お前達、心せよ!
 状況は最悪だ!失敗すれば国が滅びる!
 他の騎士達に心を許すな!
 少しの情報漏洩も許されん!
 なんとしてもお守りするぞ!」
「「はい!」」
「お前達は戻ったら残った騎士達に状況を伝え、希望を聞くように!
 私は川端様へ報告をする!」

 部屋の前へ辿り着き、2人の護衛騎士は残った者の元へ向かい、私は川端様と話をすべく部屋をノックした。
「誰だ。」
「ラルフです。ただいま戻りました。川端様、少しよろしいでしょうか?」
「待ってろ。今出る。」
 扉を少しだけ開け周りを確認した後、川端様と紫愛様が出てきた。紫愛様がいては話が出来ない。紫愛様をチラリと見た後、川端様に目配せをする。
 やはり川端様。私の目配せを理解してくださった。
「しーちゃんは中にいていいよ。後でみんなの前で報告するからさ。しーちゃんがいないと不安がるよ。」
「え?でも部屋の前だし大丈夫でしょ?」
「しーちゃん、油断は禁物。俺もしーちゃんに外にいられると不安なんだよ。ね?」
「うん、分かった。じゃあよろしくね。」
 バタンと扉が閉まったのを確認し
「内密の話か?」
 と問われる。
「はい。
 たった今、皇帝陛下と宰相と護衛3人で話して参りました。
 皇帝陛下も宰相も、地球の皆様を心配しており、利用されることを危惧されておりました。かなり明け透けに申されておりましたので、偽りではないと思います。
 宰相はわかりませんが、皇帝陛下に関しては昔から情に厚く、人の話に耳を傾けてくださる御方です。
 皇帝陛下に、無作為にここを訪れて地球の皆様を気に掛ける様を周りに見せつけてほしいと嘆願して参りました。もちろん皆様が嫌がればその話はなかったことになりますが、如何でしょうか?」
「無作為にってとこがいいな。安全性も跳ね上がる。それは了承した。よろしく頼む。
 で、本題は?」
「皆様の年齢です。おいくつなのかお聞きしてもよろしいですか?」
「何故それを知りたがる。」
「お部屋の前では…少々都合が悪いです。」
「他の騎士達にも聞かれない方が良さそうだな。俺の部屋へ行こう。」

 川端様の部屋へ入り、更に部屋の奥へ進む。
 部屋には4人掛けのテーブルと椅子があり
「座れ。」
 と促され着座した。川端様は私とは向かいに座り
「それで?年齢を知りたい理由は?」
「川端様も、想像は………していらっしゃると思いますが、その、地球の女子達は、子を…産める年齢なのかと…」
 言った瞬間から練り上げられる魔力の圧で息をするのも難しくなる。
「ほぉ。それを皇帝が知りたいと?」
 身体の震えが止まらない。
「ーーーあ、そ、その、きききき危惧を!」
 わざとやっていたのだろう。すぐに圧はなくなった。
「どんな危惧だ?」
「はいっ!その、手篭めに、されてしまうのでは、と…
 地球の皆様はとても見た目が幼く、年齢が少しも判断できず、発言だけを考えると、とても見た目通りの歳だとも思えず、ですね、もしも子が望めぬ年齢であるならば、その危惧も減るのではと仰っていました!」
「それは皇帝か?それとも宰相の意見か?」
「仰ったのは皇帝陛下です。ですが宰相もそれについて悩んでいらしたようでした。」
「なるほどな。脅して悪かった。わざとだ。」
 やはりわざと圧をかけられたのか…
「いえ、構いません。
 そして、もし、紫愛様が、その、そうなってしまった場合、国が滅びると、そう…」
「よくわかってるじゃねぇか。
 そうなった場合、俺は自分が死ぬことになってもお前らを許さねぇ。必ず報いは受けさせる。」
「心得ております。皇帝陛下も何よりそれを心配しておりました。
 川端様が自衛の為の力をつけるためにお部屋に篭ると仰っていたのをお伝えしたところ、川端様と紫愛様の制御と操作の修得時間を加味し、1ヶ月は様子を見ようとなりました。」
「それなら何とかなるだろう。」
「まさか、他の方達もその程度で本当に修得できると?」
「俺としーちゃんは特別だ。
 だが、他の人達も1ヶ月もありゃなんとか形にはなるだろうな。」
「そうですか。なんとかなりそうなら少し安心しました。3年、4年かかると言われれば、その分穴が増えますから。」
「護衛のやつらの危険性は伝えたのか?」
「はい。必要ならば家族の保護。望む物も用意すると仰っていただきました。」
「みんなの年齢についてだが、みんなと相談してからになる。歳を知らない人もいるしな。」
「畏まりました。皆様の意見が纏まりましたら教えてください。」
「ラルフは皇帝をどう思う?」
「私はヴェルナーほどの崇拝者ではありませんが、団長であった時から人の信頼を集める御方だなと尊敬はしておりました。」
「皇帝は団長だったのか?」
「はい。第一騎士団の団長でありました。
 この国は実力が全てという部分がありまして、皇帝の座につくのはほとんどが第一騎士団の団長です。足りない分は下が補うという慣例も相まって、実力のない者は上に立つ資格無しとなってしまっています。」
「じゃあしーちゃんの判断は正しかったわけだ。あのままヴェルナーを放置しておけば次期皇帝だったんだろ?」
「…はい。」
「第一の団長でも力不足だったのにあれが皇帝になってたかもだなんて、終わってんな。
 だからこの国は腐ってんだな。
 腐った思考がそのまま受け継がれていやがる。
 騎士達も使い捨ての駒くらいに思ってる奴が皇帝の座についたらどうすんだ?
 喜んで使い捨てられんのか?」
「それは……」
「だろ?黙ってんのが答えだ。
 ラルフだって今まで第一騎士団であの馬鹿の下で使われて辛かったんじゃねぇの?

 しーちゃんの言った通り。
 不幸以外のなんなんだ?
 尊敬でき得る人物だからこそ喜んで使い捨てられる。命をかけられる。
 そこには信念が生まれるからだ。
 あのヴェルナーじゃあ、どうあっても尊敬なんてできやしねぇ。実力主義ならまた団長に返り咲くのか?
 やってられねぇな。」
「恐らく、返り咲くことはないかと。
 あれだけのことをしたのです。」
「そんなのわからねぇだろ?実力主義なら尚のことだ。この国の在り方を変えていかねぇと、犠牲になる者は死んでも死にきれねぇ。」
「皇帝陛下は、自分がその器でないと、その座につく頃から零しておりました。」
「はっっ!
 このままじゃ駄目だってわかってんじゃねぇか。

 そうか、だからあの一貫性の無さか。
 本当に皇帝に向いてねぇな。」
「??それはどういう?」
「あの皇帝はな、常に迷ってんだよ。
 だから非情になるべき場面でも非情になれず、現場の人間だったから現場の人間に甘いだろ?やることが全てにおいて中途半端だ。
 皇帝の器としてはとても足り得ない。」
「そこまでの考察をこの短期間で成されますか…」
「そういうのは身近にいると案外わかんないもんだ。
 俺は外の人間だから責任も何もない。
 好き勝手言ってそれで終いだからな。
 言うは易く行うは難し。だな。
 実際、何かを変えようと実行に移そうとしたら色んなしがらみや弊害が生まれるだろ?
 望まないのにその座につかされ、向いてないことも自覚してるとくれば辛いだけだろうな。」
「川端様は、本当に頭が良いのですね。
 本当に歴戦の猛者もさそのものです。」
「なんだそりゃ?」
「皇帝陛下が仰っていたのです。
 川端様は言動も行動もまさに歴戦の猛者そのものであると。」
「言い得て妙だな。俺は戦争に言ってたからそう言われても仕方ねぇかもな。」
「戦争ですか?」
「あぁ、人間同士の殺し合いだよ。
 この国にっつーかこの世界か。戦争はないのか?」
「確かに昔にはありましたが、今は魔物の脅威が凄すぎて人間同士が争う余裕もありません。」
「案外それで良かったのかもな。」
「と、仰いますと?」
「人間同士ってのはな、知恵がある分エゲツない。魔物は強いだけで知恵はねぇんだろ?」
「確かに知恵はありません。異常なまでの生命力と、殺すことへの執念。とでも申しましょうか。」
「魔物同士でやり合うってことはねぇのか?」
「聞いたこともありません。」
「じゃあ普通の動物に向かって行くことは?」
「それもありません。人間にのみ襲いかかってくるのです。」
「人間を認識してるってことだろ?まさか人間を食うのか?」
「いいえ、食べることもしません。
 殺すためだけに向かってくるのです。」
「生物として異常過ぎるだろ。
 何のために人間を狙う?
 ……どこかの国が魔物を作って放っている可能性は?」
「は?」
「だから、この国を落とすために魔物を量産してるってことはねぇのか?」
「それは…考えたこともありませんでした。他の国に行ったことがないので確かではありませんが、どこの国も魔物退治に苦戦していてそれどころではないと伝え聞いてはいます。それに、魔物を作るなど…もしも作れたとしても下手したら作った本人まで襲われる可能性もあるのではないでしょうか?」
「魔物を制御する方法がないと何故言いきれる?
 もし操れたとしたら?」
「ないと思います。魔物は動物が変異したモノなのです。」
「はぁ?元はただの動物だってのか?
 何でそれがわかる?」
「伝聞で残っているのです。動物が突如魔物に変化し、襲ってきたと。」
「それじゃあ動物と魔物の見分けなんてつかねぇだろ?」
「いいえ、一目でわかります。」
「何故だ?」
「魔物は、青いのです。」
「一瞬でその色に変化し襲ってきたと?」
「はい。」
「有り得ない。」
「有り得ないからこそ怖いのです。
 長年の研究者も何もわからない状況なのです。」
「死骸があるんだから何もわからねぇままってことはないだろ?」
「死骸は残りません。魔物は死ぬと塵となって崩れてしまうのです。」
「はぁ!?もっと有り得ないだろ!?」
「ですが、そうなのです。」
「お手上げだ。何もわからねぇ。」










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