水と言霊と

みぃうめ

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第126話    目は口ほどに

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 ラルフの件で予想外に時間を取られ、練習場の許可取りを頼んだにも関わらず魔法の実験ができずにいたので、早速次の日から練習場に向かうことになった。
 まずはこっちの世界での魔法を知ることから始めようと、ラルフとハンスを連れ、午前中から練習場に来た。

 来たけれど…
 練習場に入った途端に感じるその視線が半端ではない。
 私の護衛を選んだ時なんて目じゃない。
 皇帝がいたからあれで済んでいたんだと実感する。
 そのあまりの不躾な視線に、身体中から
 嫌な汗が噴き出てくる。
 その視線の全てが私に向かってきている。
 あっくんはこれを正しく認識していたってこと?
 それなら、過保護でもなんでもない!
 思わずあっくんの太い腕にしがみつきながら後ろに隠れてしまうけど、それが汗で滑ってしまうほど手にも汗をかいていた。
 無理無理無理無理!
 悍ましい!!!
 あっくんもそれを敏感に感じ取ったのだろう。
 後ろに隠れた私にくるりと向き、かがみ込んだと思ったら右手を私の背中に、左腕は私のお尻の下辺りに回し、私の身体を自分に引き寄せ、私が立った体勢のまま持ち上げそのまま部屋を出た。

「ハンス、前を歩け。ラルフは後ろだ。
 部屋に戻る!二人とも警戒しろ!

 しーちゃん、このまま部屋まで戻るからちょっと我慢しててね。」
「うん…ごめんね。」
「しーちゃんが謝ることじゃないよ。」
「重くない?腕回そうか?」
「ぜんっぜん重くないけど、腕回してくれた方が嬉しいな!」
「わかった。」
 あっくんの肩に腕を回し、しがみつく。
 隠れていた私の顔があっくんの肩に乗る。
 そして改めて思う。
「あっくんて本当に大きいよね?」
「ははっ!今更?」
「知ってた?私とあっくんてちょうどピッタリ50cm違うんだよ!」
「しーちゃん150ないの!?」
「あっくんの周りにこんなチビいなかった?」
「隊にいた時はいたのかもしれないけど、俺に近づいてくる女性でそんな小さな人はいなかったなぁ。
 そもそも女性側に怖がられててほとんど近寄ってこなかったし。
 軍にいた時にはそれなりに周りに女性もいたけど、アジア人とは違って元々背が大きいからね。」
「え?でもタトゥーのお店は日本だよね?
 お客さんにもいなかったの?」
「立って接客したりすることなんてほぼないからね。
 小さそうだなと思っても、そもそも興味がなかったからなぁ。」
「え!?興味ないって、女の人に!?」
「そういう意味の興味じゃないよ!
 男だろうが女だろうがタトゥーを彫りに来てるお客さんだからだよ!」
「あービックリした!
 例えあっくんが男の人を好きな人でも偏見はないけど、私が持ってるあっくんのイメージと違いすぎて驚いちゃったよ。」
「えーー!?
 しーちゃんが俺に持ってるイメージってどんななの?
 怖いなぁ…」
「え?あっくんは紳士でしょ?」
「しーちゃん、前にも言ったけど前の俺は演技で「わかってるよ。
 そうじゃなくてさ、騎士道精神語った時も、一番に出てきたのは
 常に女性を守るべし。
 だったし、可愛いとか綺麗とか褒め殺しはなくなっても、私達には変わらず優しいでしょ?」
「こっちの女には酷いことしかしてないけどね。」
「そんなの当たり前でしょ!?
 逆にこっちの女にまで優しかったらどれだけ女好きなのよ!
 それこそ穴があったらそれでいいんかっつー話!」
「しーちゃん!!
 そういうことは…言っちゃ駄目とは言わないけど、せめて声抑えて。」
「あ、ごめんね。
 あれ?なんの話してたんだっけ?」
「もーーー!しーちゃんは…
 俺のイメージの話じゃなかった?」
「そうそう!
 あっくんは、紳士的で、強くて優しくて、おまけに顔までカッコいいでしょ?
 つまり!私のイメージは爆モテ男子!」
 あっくんの歩みがピタッと止まる。
「どしたの?」
「爆モテって…クククッ!あっはっは!
 しーちゃんて本当に面白いよね!
 怖がられてたって言ったのに…爆モテ!」
 おーおー!揺れる揺れるっ!
 私がしがみついてるの忘れてませんか?
「あっくん揺れてるからっ!もう下ろして!」
 ピタッと笑いが止まる。
「やだ。下ろさない。」
 そしてまたスタスタ歩き出す。
「しーちゃんにとって俺の顔って格好良いの?」
「そりゃあカッコいいでしょ!顔だけ見たらみんなそう感じると思うけど。」
「顔だけ?」
「さっきあっくんも言ってたでしょ?
 怖がられてたって。
 それって単純に身体つきや大きさでってだけでしょ?
 特に日本人って小さいからね。
 2mなんて普通に生きてたら見かけることすらないもん。
 憧れるか怖がられるかのどっちかだったんじゃない?
 でも、あっくんの顔だったら憧れのが多いかなって思ったんだけど。
 そうでもなかったの?」
「日本では俺が避けてたってのもあったからよくわからない。アメリカでは…まぁ、ね。」
「日本で避けてたってのは?」
「学校はつまらなくてさ、一人でひたすらトレーニングしてたし、隊に入ったばっかの時はじぃちゃんが目標だったのもあって必死だったんだよ。煩わしいことは兎に角排除一択だったんだ。すぐに訓練にも慣れちゃったんだけどね。」
「じゃあアメリカでは?」
「あー…うん。それなりには、かな?」
「自分でそう言うってことはやっぱり爆モテじゃん!
 アメリカでもそこまで大きな人ってなかなかいないでしょ!?」
「そうだね。
 さすがに2mの壁は大きいみたいだね。」
「ガチムチで背も高くて顔イケメンならモテないわけないよね!」
「俺が知りたかったのは、しーちゃんから見た俺の見た目についてなんだけど。」
「整ってると思うよ?」
「じゃあこのデカい身体は?」
「後ろに隠れやすい!!」
「隠れやすいって……筋肉に嫌悪感あったんじゃないの?」
「それは!この!素敵なタトゥーがあるから!」
「前から思ってたけど、しーちゃんてタトゥーが好きだよね?」
「え?んーーー…
 別にタトゥーが好きなわけじゃないと思う。」
「えっ!?そうなの??」
「うん。
 多分あっくんに似合ってるからだと思う。
 あっくんの大きな身体に鍛え上げられた筋肉に相応しいバランスがとれたタトゥー。」
 それを言ったらまた歩みが止まった。
「疲れた?もう下ろしていいよ。」
 そう言ったら無言でまた歩き出す。
 なに?どうしたの?
「褒め殺しなのは俺じゃなくてしーちゃんだよ。」
 ボソッと呟かれるけど、そうかなぁ?
「事実を言ったまでだと思うけど?」
「つまり俺の顔も身体も好きってことでしょ?」
「うん。」
「因みにさ、俺のどこが一番好き?」
「目。」
「即答だね。どうしてか聞いてもいい?」
「嘘のない誠実さと慈悲深さと温かみを感じるから。」
「っっ!……………………
 じゃあ俺がもしそういう目をしてなかったら?」
「多分近寄りもしないと思う。」
「しーちゃんにとっては、目が全て?」
「うん。顔も身体もどうでもいい。
 カッコいいや美人て、結局の所ただのバランスの良さってだけでしょ?
 でも目は隠せない。
 目は嘘をつけない。
 目は真実を語る。

 あっくんが持つ目は、特別。
 そこまでの目は見たことがない。
 おまけに真実を見通す鋭さも兼ね備えてる。」
「俺は……………………しーちゃんの、特別…」
 なんかあっくんがボソボソ呟いてるけど、小さくて聞こえないし口元も見えないから何言ってるかわかんないんですけど??
「何て言ったの?聞こえないよ?」
「あ…えっと、俺の目に好感を持ってるからこそ、他も良く見えてるってこと?」
「そう。
 あっくんにだけじゃないよ。
 私は全てがそこに引っ張られる。
 もちろん一般的に見てもあっくんは整ってると思うよ?」
「じゃあしーちゃんからすると、一目惚れなんて考えられない?」
「顔とか身体が好みとかそういう話?」
「そう。」
「考えられないね。
 人間一皮剥けば作りは同じだよ?
 歳を取れば見た目だって変わる。
 それのどこに惚れる要素があるの?」
「しーちゃんが大切なのって、やっぱり変わらないと信じられるナニか、なんだね。」
「うん!」
 瞬時に愛流と紫流の顔が浮かぶ。
 二人を愛する気持ちは絶対に変わらない!
「俺の目は、変わると思う?」
「変わらないと思う。
 経験によって要素は増えて行くと思うけど、本来の根っこの部分の目が変わった人を見たことがないから。」
「じゃあしーちゃんが惚れる男は目が信頼できる人ってわけだ?」
 急に揶揄うように言ってきたけれど
「惚れることはないよ。」
「それ、は…どうして?」
「さっきあっくんが言ってたでしょ?
 変わらないと信じられるモノ。
 それが私には大切なんだって。
 人間としての好き嫌いならわかるけど、異性を愛する気持ちは私にはわからない。
 世の中の男女って恋人同士になっても別れるってしょっちゅうでしょ?それは結婚したって同じ。
 男女の愛ってそんなに簡単に変わるモノなんでしょ?
 そんな不確かなモノ信じられないし、要らない。」
 私達の後ろで護衛についているラルフをふと見ると、目をまん丸にしている。
 今の話もしかしてずっと聞いてた!?
「ラルフ!
 これはただの私の考えだから!
 みんながみんなこんなふうに考えてるわけじゃないよ!
 みんなが私みたいだったらとっくの昔に人類は滅んでるから!」
「あ……そう、デスネ。……ハイ。」
 やっちゃったよ!
 ラルフの女嫌いに拍車がかからないといいなぁ。
「しーちゃんにとっての俺は…
 俺のことはどう思ってる?」
「あっくんは信頼できる人。
 私が信頼できないと思ってる人に、こんなふうに身体を預けるようなことすると思う?」
「する訳ないね。」
「でしょ?さっきも今も守ってくれてありがとう。」
「どういたしまして。」

 そうした会話をしながら部屋に戻った

















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