水と言霊と

みぃうめ

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第158話    辟易

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「またなのっ!?
 バレたらマズイ、バレたらヤバい!
 こんなことばっかりじゃない!!」
 麗は怒っている。

 その気持ちもわかる。
 本当にこんなことばっかりだ。


「しーちゃん、まずは絢音にバレたら困るって伝えないといけないんじゃない?」
「うん。
 言ってあるけど、もう一度言う。」
 私は絢音に向き合う。
「絢音、ここにいる人以外に絢音の目が見えるようになったこと、大人になったこと、絢音のことは全部話さないで。
 ここにいるみーんな、絢音を守りたいの。
 だからね、ここにいる人達と、絢音と、内緒。
 いいかな?」
「ぼく………みんなだけ、おはなしする。」
「そっか。
 それが一番安全かも。
 何かお願いがあったらここにいる誰かに言って。
 ここにいる人以外とは話さない。
 そうしよっか?」
「うん。」
 私は絢音を抱きしめる。
「我慢ばっかり、させちゃってごめんね。」
 9歳の子に話すな、なんて……
 それしか方法がないのが辛いけど、一番安全なのは話さないこと。
 相手に何も情報を与えないこと。
 これ以上我慢なんてさせたくないのに!

「ぼく、だいじょぶ。
 みーちゃん、なかないで。
 みーちゃんだいすき。」
 そう言って絢音も私を抱きしめてくれる。
「みーちゃんもっ!大好きだよ!
 絶対絶対守るからね!」
 絢音をぎゅーぎゅー抱きしめる。
 涙がポロポロ溢れて止まらない。
 絢音はこんなにも優しい子。
 怖い思いなんて絶対させない!
 そう決意をしていると
「みーちゃん」
 と呼ぶ絢音の声。
 抱きしめていたのを離し、絢音を見る。
 絢音は私の顔に手を伸ばし両手で頬を包み込み、親指で涙を拭ったあと、両頬にちゅっちゅっとキスをしてくれる。
「もうなかないで。」
 それはお休みのキス。
 ビックリして涙が止まる。
 それと同時に愛おしさが込み上げる。
 母性をくすぐられると言うのはこういうことを言うんだろうなと、愛流と紫流の顔を思い出しながら思う。
 ふふっと笑みが溢れる。
 私も絢音のオデコにキスをして
「みーちゃんも大丈夫。
 もう泣かない。」
 そして二人で微笑み合った。


 そして、ふと気がついた。
 部屋の中が静まり返っていることに。
「みんなどうしたの?」
 返事はない。
 絢音と二人、顔を見合わせて首を傾げる。
 するとカオリンが
「ふふっ二人は仲が良いのね。
 誤解を受けるさまだわぁー。」
 とのんびりと言った。
 麗はワナワナと震えながら
「紫愛!それはないでしょう!!」
 と叫ぶ。
 絢音はビクッとして私にしがみついた。
「麗ぁ、本当に大声出すのやめてってば。
 絢音はまだ麗の顔が見えてないんだから。
 顔が見えるようになってもそんなんじゃ絢音はずっと怯えちゃうよ?」
「だって!!!
 キス!キスした!!!」
「別にいいでしょ?絢音がしてくれたし、それを返しただけ。
 しかもほっぺとオデコだよ?
 可愛かったらするでしょ?」
「しねーよ!!!」
「ほんとにやめて。
 絢音が悪いことしたみたいに聞こえちゃう。
 それに毎日してんだから良いの!」
「毎日!?そんな「麗ちゃん、待って!
 絢音君を見て。
 絢音君が何人なのかはハッキリしないけど、少なくとも純粋な日本人では絶対ないわ。
 文化が違うのよ。
 9歳の子にそれを言っても責め立てているだけになってしまうわ。」
「香織さん………でも……」
「絢音君?
 キスはいつも普通にしていたの?」
「…………ぼく、みーちゃんにちゅうだめだった?」
「いいえ、駄目なんかじゃないわ。
 お母さんがしてくれていたの?」
「うん。いつもねるとき、してた。」
「紫愛ちゃんも知ってたのね?」
「うん。
 絢音ママは絢音が大好きだったの。
 文化的なモノもあるかもしれないけど、目が見えない絢音に絢音ママが愛情表現するのは当たり前。」
「そうよね。私もそう思うわ。
 でもね、外でやっては駄目よ。
 ここでの文化がわからないもの。
 どう取られてしまうかわからない。」
「それはもちろん。
 外でするわけないよ。
 絢音も、ちゅーはお部屋の中でだけ。
 ね?」
「……でも……………」
 チラッと麗の方を見る絢音。
「麗のことは気にしないで。
 あの子はビックリしただけなの。
 絢音はなんにも悪いことしてないよ?
 それにいつもはお休みの時しかしないでしょ?
 今はみーちゃんが泣いちゃったから。
 絢音は慰めてくれたんだよね?
 みーちゃん嬉しかったよ。」
「…してもいいの?」
「もちろん!
 みーちゃん絢音がお休みのちゅーしてくれないと寂しいなぁ~~!」
 かなり大袈裟に言っちゃったけど
 絢音は悪いことなんて何もしてない。
 キスすることが悪いことだったなんて思ってほしくもない。
 それは絢音ママと絢音の関係も否定してしまうことだから。
 麗がこれ以上言うなら許さない。
 私にしがみついている絢音を抱きしめながら麗を軽く睨みつける。
「ぼく、みーちゃんにちゅーする。
 みーちゃんも、してくれる?」
「ふふっ。あったりまえじゃーん!
 絢音は優しくて可愛くてとっても良い子。」
 そう言って頭を撫でる。

「しーちゃん、絢音と一緒に寝るのもやめた方がいいと思う。」
 ここであっくんからまさかの発言が出た。
「えっ!?なんで??」
「あんた達一緒に寝てるの!!??」
 麗がまた騒ぎだす。
「麗、本当いい加減して。
 大きい声で騒ぐだけなら出て行って。」
「何で私が出ていかなくちゃいけないのよ!」
「麗ちゃん、絢音君は9歳なの。それに地球では目が見えていなかった。
 いきなり大人になって、声も姿も変わって、見えなかった物が全て見えるようになってしまったのよ?
 身の回りの全てがわからない物だらけ。
 おまけにご飯も不味い。
 頼れる人、信頼できる人が見つかったら一緒にいたくて当たり前だわ。
 9歳の子が寂しがってママと寝たがって何がおかしいのかしら?」
「だって普通じゃない!!
 紫愛は絢音のママでも何でもないでしょ!?」
「確かに私は絢音のママじゃない。
 でも絢音を守りたいと思ってる。
 これ以上寂しい思いもひもじい思いも我慢することもさせたくない。
 たった一人で今まで頑張って耐えてきた絢音に辛い思いをさせたくないっていう私の気持ちは、麗にはそんなにおかしいことなの?」
「そんなこと言ってない!!」
「言ってるのと同じだよ。
 絢音のことも私のことも否定してる。
 麗が絢音を受け入れられないって思ってるなら、そう言ってくれれば私は麗に頼まないだけ。」
「だからそんなこと言ってないってば!!」
「私は誰に何と言われようと絢音を守ると絢音に誓った。
 怒鳴って否定するだけなら絢音に良くないから話もさせたくない。」
「私だって守るわよ!」
「今の麗に任せたいと思えない。
 麗にとって普通って何?
 麗の普通に当てはまらないと認めないんでしょ?」
「認めてるわよ!!!」
「じゃあどうして二回も否定したの?
 私は麗にどんなふうに思われたっていいけど、麗に否定された絢音の気持ちは?
 ママとのキスも否定され、私と一緒に寝てることも否定され、絢音はどうしたらいいの?
 やめたら満足なの?
 そこまで考えてる?」
 黙り込む麗。
 そうだよね。
 思ったことそのまま口にしてるだけだもん。
 言われた相手の気持ちを無視して自分の気持ちを押し付けてるだけ。
 私に慣れてきたから言いたい放題なのかもしれないけど、今は絢音がそばに居る。
 許容できるわけない。
 今の麗はまるで少し前の優汰みたいだ。

「みーちゃん。」
 麗と言い合っていたら絢音から呼ばれた。
「なぁに?」
「ぼく、へいき。だいじょぶ。
 だから、けんかだめ。」
 あーー喧嘩に見えちゃったか……
「ごめんね。怖かった?」
「みーちゃんいるから、へいき。」
「そっかぁ。
 嫌な気持ちにさせちゃったね。
 お終いにするからもう大丈夫だよ。」
「うん。」

 ここで切るのは麗の為にはならない。
 謝らせた方がいいけど…それも麗が自発的に謝らなければ意味はない。
 麗からの自発を待っても、素直になれない麗から謝る言葉が出てくるとも思えない。
 それにこれ以上言い合って絢音を不安にさせたくない。

 もう話す相手変えよう。















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