水と言霊と

みぃうめ

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第232話    前日 side亜門 菓子作りと雑談

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 俺と優汰とが食事に戻り、ケーニヒの話を簡単に優汰に説明した。
 食事が終わるとトビアスが戻ってきた。
「失礼いたします。
 川端様、宰相は今少々手が離せないようですので、何時でもいいから訪問してくれると有り難いとの回答でした。」
「わかった。トビアスには後で案内を頼む。」
「畏まりました。外で待機しております。」

 トビアスが部屋を出て行き、金谷さんに話を聞く。
「金谷さんはどうして魔法具が欲しいんだ?
 分解するためだけか?」
「どんな原理で魔法具が起動してるのか知りたい。
 魔法陣と一括りで終わらせるのは早計。
 もし内部に機構なり何なりが少しでもあれば俺にもできることがあるかもしれない。」
「なるほど。
 じゃあ魔法具はあればあるだけいいってことか?」
「内部に機構があるならあるだけ欲しい。
 でもバラして全くわからない謎仕様だったら俺には何もできないと思う。」
「魔法具は作れないからとても大事に使ってるみたいだからな。
 渡してもらえるかどうか……」
「俺もそれが気になってた。
 遮音の魔法具ここにあるけど、バラして元に戻せなかったらと思うとできなかった。」
「ねぇねぇ!壊れた魔法具ってないの?
 金谷さんが知りたいのは魔法具の中身なんでしょ?壊れたやつなら分解しても問題ないんじゃない?」
「そうか!しーちゃんが言う通りだ!
 大事にしてるんなら壊れたって捨てはしないだろう!
 金谷さんは壊れたやつでもいいか?」
「問題ない。
 壊れたやつなら気にせず分解できる。」
「わかった。ギュンターに交渉してくる。」
「お願いします。」
「誰か他に要望などないか?
 あればついでにギュンターに言ってくるぞ。」
 誰も何も言わない。
「私は調理場に行きたい!」
「今から?」
「うん。みんなの為に日持ちするお菓子作らないと寂しくなっちゃうでしょ!」
「まあっ!作ってきてくれるの!?」
「うん。作っていきたいんだけど……
 でも一ヶ月は絶対もたないと思う。頑張っても一週間くらいじゃないかなぁ。
 なるべく水分少なく日持ちする物作るつもりだけど、カビたり腐ったりしちゃうからできれば早めに食べてほしい。」
「そんなことは気にしなくてもいいのよ!
 でも、今日は早めに寝た方が良くはないかしら?」
「大丈夫!三時間も四時間も作り続けるわけじゃないから!」
「それなら俺も手伝うよ。その方が早く終わるでしょ?」
「でもあっくんはギュンターの所に行くんじゃなかったの?」
「何時でもいいって言われてるから大丈夫。
 そんなに長い時間話すこともないしね。」
「じゃあお願いしよっかな!」
「うん。じゃあもう行こう!」
「そうだね。みんな行ってきまーす!」

 そうしてしーちゃんと二時間程お菓子作りをした。
 兎に角水分少なめに量を作りたいみたいで大量にクッキーを焼き続ける。
 最後に少しパウンドケーキを焼いて終了。

 作っている最中に
「このクッキーは日持ちするし、甘さも控えめに作ったから私達も持って行けるよ!
 一緒に食べようね!」
 と言ってくれる。
 俺の分まで考えて作ってくれたのか……
 相変わらずしーちゃんは優しい。
 それに可愛い!!!
「しーちゃん、お菓子も、さっきも、ありがとう。」
「嫌なこと思い出しちゃったんでしょ?
 今はもう平気?」
「うん。もう大丈夫だよ。」
「それなら良かった。」
 そう言って微笑むしーちゃん。
 詳しいことは何も聞いてこない。踏み込んでこない。ただ俺に寄り添ってくれる。
 抱きしめたい衝動を抑え込むのに必死だ。
 辺りにはクッキーの甘い匂いが立ち込めている。
「こっちはナッツ入れて、あっちにはドライフルーツ入れようかな?」
 と、パウンドケーキの生地を小さな身体で一生懸命混ぜながら悩む姿が愛おしくてたまらない。
「あっくんドライフルーツ持ってきて!」
 しーちゃんのその声掛けに、我慢できず後ろから抱きしめてしまった。
「ぅおっ!ビックリしたぁ!」
 気づかれないようにそっと頭にキスを落とし、その後すぐに手の平でしーちゃんの頭をポンポンとしたあと
「すぐ持ってくるね。」
 捨て台詞を残しその場を退散した。
「早く持ってきてねぇ!」
 後ろからしーちゃんの声が聞こえる。
 気にしている様子はない。俺の不純な行為もバレてはいない。
 満足感と少しの罪悪感。
 何をやってるんだかと自嘲する。
 ドライフルーツを持って行き
「ありがとう!ここに入れて!混ぜ込んだらすぐ焼くから!」
 しーちゃんは変わらずお菓子作りに集中しているのを見て、これ以上邪魔はしないようにと自分を戒める。

 全てを焼き終わり
「あっくんはもうギュンターの所に行ってもいいよ?」
 と声をかけられたが
「大丈夫。これがもう少し冷めたらみんなの所に運ぶでしょ?
 それにしーちゃん一人にできないよ。
 あったかいうちに味見してもいい?
 美味しそう。」
「あっくんがそんなこと言うなんて珍しいね!
 ご飯足りなかった?」
「ご飯は足りたよ。
 しーちゃんの作った美味しそうなお菓子の匂いに我慢できなかっただけ。」
「じゃあちょっとだけ味見しよ!
 私も気になってたの!」
 そう言ってまだかなり温かいクッキーを二枚渡してくれた。
 二人で仲良くクッキーを食べ
「美味しいね。」
 と微笑み合う。
 こんなにも優しい時間が、当たり前になるように頑張らないといけない。
 そう思った。

 しーちゃんと二人で粗熱をとったお菓子をロビーへ運び、みんながお菓子のいい匂いに群がってくる。しーちゃんは早速パウンドケーキを切り分けている。
 パウンドケーキはあまり日持ちがしないと言っていたからすぐ食べるつもりだったんだろう。
「俺はギュンターの所に行ってくるね。」
「うん!あっくんのパウンドケーキも残しておくからね!」
「ありがとう。行ってきます。」
「「「「「行ってらっしゃい。」」」」」

 ロビーの外に待機しているトビアスに
「待たせた。ギュンターの所へ案内を頼む。」
「畏まりました。」
 魔力を薄く広げ辺りの様子を伺いながら、道中トビアスに話しかける。
「みんなの印象はどうだった?」
「皆様とても聡明でいらっしゃいます。」
「建前は良い。本音は?」
「本音でございますよ。
 特に川端様と古角様は想像以上だと感じました。」
「しーちゃんは?」
「紫愛様はまだ何とも言えません。
 聡明で頭の回転が早くいらっしゃるのは川端様達と変わりないと思いますが、だからこそ警戒心が非常にお強く、紫愛様の本領を発揮したお姿はどうなるのかと。
 他の皆様もそれぞれの分野で御活躍くださるような発言をしていらっしゃいましたし、これからが非常に楽しみですね。
 特に古角様は私共が読めないハイリゲス典を意図も簡単に読まれましたから。」
「念の為に言っておくが、利益の享受は好きにしろ。
 だが俺達を利用しようとはするなよ。」
「心得ております。」
「ハンスが俺としーちゃんが立場作りの為に辺境に行くべきだと言うのは理解したが、本当はそんなことをするまでもないとも言っていた。
 俺としーちゃんの辺境についての意見は本当に必要か?」
「勿論立場固めの為に魔物を倒すことは必須です。
 こんなことを申してはいけないかもしれませんが、辺境への意見こそが、私共辺境の者にとっては辺境に来ていただく真の目的でございます。」
「皇帝もそう言っていたな。
 現状手詰まりだと。新たな風を呼び込みたいと。」
「川端様も御人が悪い。
 ご存知であるならば聞くまでもないでしょう。」
「あれはしーちゃんを丸め込むためか?」
「受け取り方は様々ございます。
 ハンスは辺境がより良くなるならば意見を取り入れる。そうでなければ取り入れないと言ったまでのこと。
 そこに含みがあるようには思いません。
 私もそうでございます。」
「何故そこまで地球人を盲信する?」
「皆様から学べる物が多過ぎると思うからでございます。
 魔法1つとっても、今川端様がしているような魔力を薄く範囲を広げ使い続けるなど、考えたこともございませんでした。」
「文献にはそれ等は残されていないのか?」
「多少は残っていても、そのやり方までは記載されておりません。
 昔はそれが当たり前過ぎて、その使用方法など記載するまでもなかったのでしょう。」
「俺が今、何が目的でこれをしているかわかるか?」
「川端様の魔力は圧が非常にお強いので、その魔力を感じた者が近付かないように牽制の為ではございませんか?」
「違う。
 この範囲に入った者は俺が感知できる。
 牽制ではなく警戒だ。」
 それを聞いてトビアスはピタッと歩みを止め俺に振り返る。
「そんなことが?本当に可能なのですか?」
「だからやっている。
 外に出る時は必ずやっていることだ。」
「誰かが範囲内に入ってきたらわかるというのですか!?」
「ああ。」
「これは……本当に…………皆様の魔法の実力は少しは耳にしておりましたが、ハンスがあれほどの心を砕く意味がわかりました。」
「圧が強いなら俺はここにいると言って歩いているようなものか?
 それならやらない方がいいか?」
「いいえ!人間がどこにいるのか感じ取れるならばやった方が絶対に良いです!」
「歩みを進めてくれ。
 俺はみんなにもできると思うがな。練習さえすればできるようになるだろ?」
「失礼ですが、魔力の消費量はどのくらいの体感でいらっしゃいますか?」
「視界を奪う程魔力を出すとなると話は別だが、これくらいならほぼ無いな。」
「視界を奪うというのは、騎士達を白いモヤのような物で覆ったという、アレ、でございますか?」
「ああ。あれをやって、誰がどこにいるのか分かる気がしたんだよ。
 あのモヤは魔力消費が半端ないからな。魔力を薄く出すだけでもできるのかどうか試行錯誤した結果だ。」
「川端様は一体どれ程の操作力をお持ちなのでしょうか……とてもできるようになるとは思えません。」
「ほらな?
 お前達はいつもそれだ。
 信じられない、できない、有り得ない。
 できないと思ってたら無理なんだよ。
 辺境で戦える実力欲しいんじゃねぇのか?」
「それは…返す言葉もございません。」
「思えないんじゃなくてやってみろ。
 魔力量云々よりも、俺なんて何も知らない所からのスタートだったんだぞ?
 その俺ができたんだ。
 実現可能だと知れた。
 それが何よりの収穫じゃねぇのか?」
「御最もでございます。

 こちらの部屋に宰相がおります。」
「ご苦労。
 待機しててくれ。」
「畏まりました。」


 そう言って宰相がいる部屋をノックした。













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