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第五話:Before the Blue Breaks
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あの日、思いを話したことによって気持ちの整理が出来たからか、少しだけ心が軽い。
前を向いて、小さな一歩だが踏み出せた気がする。
「え、きよちゃん。明日の未明に台風が直撃するって言っているのに、何の準備もしてないじゃん。」
今晩のお弁当を配達に来た湊は、僕の部屋に上がり込むなり驚いた。
「準備?」
懐中電灯はないが、携帯電話がある。
ペットボトルのミネラルウォーターは三本あるし、僕なりに備えたつもりなのだが。
「ここアパートだから、雨戸がないのか。せめて養生テープで窓ガラスの飛散を防ぐ。あと、本気で停電するから懐中電灯は必須。断水する可能性もあるから、水道水でも貯めておかないと。」
ごそごそと部屋を漁ると、
「きよちゃん、まさか食料こんだけ?」
カップラーメン二つとレトルトのカレーが一つ。
「うん、三食はいけるね。」
はぁーっと湊は深い溜息をつく。
「内地じゃないんだから。そこらの商店、見てみなよ。マジで食料、すっからかんだから。次の輸送船がいつ来るかわからないんだから、一週間分は貯めておかないと。」
指摘されて、納得する。確かに、離島だと台風が過ぎ去ったからって、すぐに食料が運ばれてくるわけではない。
ああ、やちゃったなとは思うが、既に時遅し。
成るようにしか、成らないのだろう。
「ちょっと、一旦家へ帰るわ。こんなじゃ、心配すぎて、俺……今晩、眠れないよ。」
少し照れたようにそう言って、そそくさとカッパを着る湊の後ろ姿を、僕は呆気に取られて見送った。
湊は大量の荷物を抱えて戻って来た。
簡易ポリタンクへ水道水を汲み、養生テープを窓ガラスに張り、カーテンを閉める。
段ボール一杯のインスタント食品とペットボトルの飲料水。
「俺、今晩ここへ泊るから。」
それはお伺いでなく、宣言だった。
「あ、はい。」
静かな怒りが含まれていて、有無を言わせない迫力があった。
「僕は構わないけど、民宿の方は大丈夫なの?」
湊の家は海沿いにある。うちよりずっと心配なはずだと思って、そう言ったのに——
彼は、ふっと肩の力を抜いて、まるで困った兄貴が弟を諭すような顔をした。
「……はぁ。ほんと、きよちゃんってば」
呆れたような、そのくせ優しい目が、真っ直ぐこっちを見ていた。
「一昨日、台風に備えて臨時のフェリーが出たから、宿泊客は誰もいないよ。うちは海沿いだけど、建てる時点で可能な限りの台風対策してあるから、準備は万全。台風の進路予測が出た五日前から、島をあげて備えてたんだよ……ってのに、先生だけ何も知らずにのほほんとしてて、ほんともう…」
そう言いながら、湊は諦めたように笑った。
「でもまあ、そこがきよちゃんらしいっちゃ、らしいか」
肩をすくめながら、どこか楽しげに言われて、苦笑いしか出てこなかった。
墓穴を掘ってしまった。
内地の感覚で、天気予報を聞き流していた、数日前の僕へ教えてやりたい。
……台風、なめるな。
「雑魚寝になってしまうけど、いいかな?」
「いいよ。その辺で転がって寝るから。」
決して広くはないワンルーム。
湊は特に気にした様子もなく、床に座り込み、クッションを抱えてテレビの台風情報を眺めている。
その後ろ姿を見ていると、不思議と部屋の空気が柔らかくなった気がした。
自分以外の気配があると、こんなにも空間が違って感じられるものなんだな。
その場に湊がいることが、どこか自然に馴染んでいた。
そろそろ寝ようかと声を掛けようとした、午後十一時。
風でアパート全体が揺れるようだった。
吹き付ける雨風で、バリバリという激しい音が響く。
「湊、窓が! 窓が膨らんでる……!」
吹き付ける強風で、硝子が内側へと押され、わずかに歪んでいるのがわかる。
抑えた方がいいのか。いや、でもどうすれば――
「こらっ、危ないから窓に近づくな!」
背後から、不意に肩をぐっと引き寄せられた。
驚いてよろける体を、湊がしっかりと抱き留める。
その瞬間、思わず息が詰まった。
温かくて、しっかりした腕に包まれている。それだけなのに、胸がふわりと浮いたような、妙な感覚がした。
「……ご、ごめん。」
誤魔化すように口をついて出た声は、いつもより少し嗄れていた。
湊は何も気づかない様子で、無言のまま僕を窓から遠ざける。
一番離れた位置まで連れていくと、飛散防止のため再びカーテンをしっかりと閉め、ようやく一息ついたように肩を落とした。
「…俺も大きな声出して、ごめん。」
「いや、いいよ。」
床に座り込んだ僕に合わせるように、湊も体操座りで腰を下ろした。
しゅんとした様子で、閉じられたカーテンの向こうをじっと見つめている。
すぐ隣で触れる肩の温もりが、心細さをほんの少し和らげてくれる。
こんな時、誰かと並んでいるだけで、ずいぶん安心するものなんだと初めて知った。
「こんなにすごい台風、初めてだ。」
唸る風の音と、どこかのトタンがバンバンと叩かれる音。
それに混じって、ピーという機械の警告音が鳴り——
部屋は、音もなく真っ暗になった。
「……ああ、停電したな。」
湊は慣れた手つきで懐中電灯を取り出すと、明かりを灯す。
柔らかな光が二人を包むと、湊が少し首をかしげて、僕の方を見る。
「びっくりした? ……大丈夫?」
その何気ない言葉に、胸の奥がふっとあたたかくなる。
不安な夜の中、小さな光と湊の声が、やけに頼もしく思えた。
「うん……ありがとう。」
僕がそう答えると、湊は安心したように小さく笑って、懐中電灯をそっと床に置いた。
光が少しだけ揺れて、僕たちの影を壁に映す。
ふと湊の視線が、僕の横顔に落ちる。
じっと何かを確かめるように、そっと。
「……きよちゃん、怖かったら、俺、ずっと起きてるから。」
ぽつりと落ちたその声は、やさしくて、少しだけ切なかった。
それ以上、何かを言うことはなく、湊は視線を外して、そっと膝を抱え直した。
「横になるけど、僕も起きてるよ。」
怖々タオルケットを二枚引っ張って、一枚を湊へ掛ける。
「湊も眠くなったら、横になって。」
「うん、そうするよ。」
これでもまだ台風の中心部でないとか、大丈夫なのか。
激しい雨音を聞きながら、目を閉じた。
「…。」
温かい手の平が、優しく頭を撫でる。
心地よさのなか、薄っすらと目を開けると見慣れた天井が見える。
「きよちゃん…寝てる?」
寝てる。何で湊の声がするんだろう。
冷房の温度を低く設定しすぎただろうか。
肌寒さを感じて、手近にあった温かさへ本能的に手を伸ばす。
「っ…。」
息を飲む声。
だが、心地いいお日様と潮風の匂いがした気がして、鼻を擦りつける。
気持ちいい。安心する。
夢の中、優しい手の平が頬を包んだ。
温かさにうっとりしていると、柔らかい何かが唇へ押し当てられる。
啄むように、何度も角度を変えて、それは降り注ぐ。
僕は心地よさに身を任せて、夢の中で揺蕩った。
「好きだ…。好きだよ…きよちゃん。」
耳に届いた声は、誰かに聞かせるためのものでなく、溢れて出てしまった声だった。
その声は、どこまでも真剣で、切実で、苦しいほど優しかった。
パチンと突然風船が割れるように、意識は覚醒する。
…なんだ、今のは。
無遠慮に抱きついた体温は、夢ではなく現実だと伝えていた。
バクバクと心臓が跳ねて、身動き一つ出来ない。
湊はもう一度、愛おし気に僕の頭を撫でると、おでこへ子供にするみたいなキスをして、くるりと背中を向けた。
途端、伝わる体温が生々しく感じる。
背中に引っ付くような体勢で、腕をまわしている僕。
変に動いたら、起きていたことが湊へ伝わってしまう。
さっきまで肌寒かったのに、今は燃えるように体が熱い。
湊の「好き」という言葉を聞いて、子供だと思っていた湊が突然『男』に見えた。
ダメだ。ダメだ。
それと同時に、湊を好ましく思っている自分の本心にも気が付いてしまった。
夢現で感じたように、湊のそばは心地がいい。
そこは既に、安心できる場所になっていた。
教育者として、生徒を恋愛対象にするなんてあり得ない。
それでも、湊が「好き」と言ってくれた言葉に歓喜する自分がいる。
いけない。
彼はまだ未熟なんだ。
彼の前で、涙を見せすぎた。
正義感の強い湊は、弟や妹に思うように守ってやりたいと思ってくれたのかも。
ただ、それを「好き」という恋愛感情と勘違いしているだけなのかもしれない。
同性を好きになることが、どれほど茨の道を行くことなのか、己が一番知っている。
狭いこの島で、偏見の眼差しに晒されるかもしれない。
自分の心なのに、もどかしくてうまく掴めない。まるで濡れた砂が指の隙間から零れるみたいだ。
一つだけ確かなことは、湊の気持ちには答えられない。
答えてはいけないということだけだ。
隣から、湊のスースーという穏やかな寝息が聞こえる。
湊が気が付いていないなら、なかったことに出来ないだろうか。
目を閉じて、何も気が付かないふりして、このまま湊の先生としていられないだろうか。
そんな卑怯な考えをした自分に嫌悪する。
僕に有り余る優しさを注いでくれた湊の寝顔をそっと盗み見る。
眠ると更に幼さが増す。
愛おしいと思った。
四か月前はどん底の底を這いずり回っていたのに。
ああ、君を幸せにしてあげたい。
僕は、君にどうしてあげられるのだろうか。
前を向いて、小さな一歩だが踏み出せた気がする。
「え、きよちゃん。明日の未明に台風が直撃するって言っているのに、何の準備もしてないじゃん。」
今晩のお弁当を配達に来た湊は、僕の部屋に上がり込むなり驚いた。
「準備?」
懐中電灯はないが、携帯電話がある。
ペットボトルのミネラルウォーターは三本あるし、僕なりに備えたつもりなのだが。
「ここアパートだから、雨戸がないのか。せめて養生テープで窓ガラスの飛散を防ぐ。あと、本気で停電するから懐中電灯は必須。断水する可能性もあるから、水道水でも貯めておかないと。」
ごそごそと部屋を漁ると、
「きよちゃん、まさか食料こんだけ?」
カップラーメン二つとレトルトのカレーが一つ。
「うん、三食はいけるね。」
はぁーっと湊は深い溜息をつく。
「内地じゃないんだから。そこらの商店、見てみなよ。マジで食料、すっからかんだから。次の輸送船がいつ来るかわからないんだから、一週間分は貯めておかないと。」
指摘されて、納得する。確かに、離島だと台風が過ぎ去ったからって、すぐに食料が運ばれてくるわけではない。
ああ、やちゃったなとは思うが、既に時遅し。
成るようにしか、成らないのだろう。
「ちょっと、一旦家へ帰るわ。こんなじゃ、心配すぎて、俺……今晩、眠れないよ。」
少し照れたようにそう言って、そそくさとカッパを着る湊の後ろ姿を、僕は呆気に取られて見送った。
湊は大量の荷物を抱えて戻って来た。
簡易ポリタンクへ水道水を汲み、養生テープを窓ガラスに張り、カーテンを閉める。
段ボール一杯のインスタント食品とペットボトルの飲料水。
「俺、今晩ここへ泊るから。」
それはお伺いでなく、宣言だった。
「あ、はい。」
静かな怒りが含まれていて、有無を言わせない迫力があった。
「僕は構わないけど、民宿の方は大丈夫なの?」
湊の家は海沿いにある。うちよりずっと心配なはずだと思って、そう言ったのに——
彼は、ふっと肩の力を抜いて、まるで困った兄貴が弟を諭すような顔をした。
「……はぁ。ほんと、きよちゃんってば」
呆れたような、そのくせ優しい目が、真っ直ぐこっちを見ていた。
「一昨日、台風に備えて臨時のフェリーが出たから、宿泊客は誰もいないよ。うちは海沿いだけど、建てる時点で可能な限りの台風対策してあるから、準備は万全。台風の進路予測が出た五日前から、島をあげて備えてたんだよ……ってのに、先生だけ何も知らずにのほほんとしてて、ほんともう…」
そう言いながら、湊は諦めたように笑った。
「でもまあ、そこがきよちゃんらしいっちゃ、らしいか」
肩をすくめながら、どこか楽しげに言われて、苦笑いしか出てこなかった。
墓穴を掘ってしまった。
内地の感覚で、天気予報を聞き流していた、数日前の僕へ教えてやりたい。
……台風、なめるな。
「雑魚寝になってしまうけど、いいかな?」
「いいよ。その辺で転がって寝るから。」
決して広くはないワンルーム。
湊は特に気にした様子もなく、床に座り込み、クッションを抱えてテレビの台風情報を眺めている。
その後ろ姿を見ていると、不思議と部屋の空気が柔らかくなった気がした。
自分以外の気配があると、こんなにも空間が違って感じられるものなんだな。
その場に湊がいることが、どこか自然に馴染んでいた。
そろそろ寝ようかと声を掛けようとした、午後十一時。
風でアパート全体が揺れるようだった。
吹き付ける雨風で、バリバリという激しい音が響く。
「湊、窓が! 窓が膨らんでる……!」
吹き付ける強風で、硝子が内側へと押され、わずかに歪んでいるのがわかる。
抑えた方がいいのか。いや、でもどうすれば――
「こらっ、危ないから窓に近づくな!」
背後から、不意に肩をぐっと引き寄せられた。
驚いてよろける体を、湊がしっかりと抱き留める。
その瞬間、思わず息が詰まった。
温かくて、しっかりした腕に包まれている。それだけなのに、胸がふわりと浮いたような、妙な感覚がした。
「……ご、ごめん。」
誤魔化すように口をついて出た声は、いつもより少し嗄れていた。
湊は何も気づかない様子で、無言のまま僕を窓から遠ざける。
一番離れた位置まで連れていくと、飛散防止のため再びカーテンをしっかりと閉め、ようやく一息ついたように肩を落とした。
「…俺も大きな声出して、ごめん。」
「いや、いいよ。」
床に座り込んだ僕に合わせるように、湊も体操座りで腰を下ろした。
しゅんとした様子で、閉じられたカーテンの向こうをじっと見つめている。
すぐ隣で触れる肩の温もりが、心細さをほんの少し和らげてくれる。
こんな時、誰かと並んでいるだけで、ずいぶん安心するものなんだと初めて知った。
「こんなにすごい台風、初めてだ。」
唸る風の音と、どこかのトタンがバンバンと叩かれる音。
それに混じって、ピーという機械の警告音が鳴り——
部屋は、音もなく真っ暗になった。
「……ああ、停電したな。」
湊は慣れた手つきで懐中電灯を取り出すと、明かりを灯す。
柔らかな光が二人を包むと、湊が少し首をかしげて、僕の方を見る。
「びっくりした? ……大丈夫?」
その何気ない言葉に、胸の奥がふっとあたたかくなる。
不安な夜の中、小さな光と湊の声が、やけに頼もしく思えた。
「うん……ありがとう。」
僕がそう答えると、湊は安心したように小さく笑って、懐中電灯をそっと床に置いた。
光が少しだけ揺れて、僕たちの影を壁に映す。
ふと湊の視線が、僕の横顔に落ちる。
じっと何かを確かめるように、そっと。
「……きよちゃん、怖かったら、俺、ずっと起きてるから。」
ぽつりと落ちたその声は、やさしくて、少しだけ切なかった。
それ以上、何かを言うことはなく、湊は視線を外して、そっと膝を抱え直した。
「横になるけど、僕も起きてるよ。」
怖々タオルケットを二枚引っ張って、一枚を湊へ掛ける。
「湊も眠くなったら、横になって。」
「うん、そうするよ。」
これでもまだ台風の中心部でないとか、大丈夫なのか。
激しい雨音を聞きながら、目を閉じた。
「…。」
温かい手の平が、優しく頭を撫でる。
心地よさのなか、薄っすらと目を開けると見慣れた天井が見える。
「きよちゃん…寝てる?」
寝てる。何で湊の声がするんだろう。
冷房の温度を低く設定しすぎただろうか。
肌寒さを感じて、手近にあった温かさへ本能的に手を伸ばす。
「っ…。」
息を飲む声。
だが、心地いいお日様と潮風の匂いがした気がして、鼻を擦りつける。
気持ちいい。安心する。
夢の中、優しい手の平が頬を包んだ。
温かさにうっとりしていると、柔らかい何かが唇へ押し当てられる。
啄むように、何度も角度を変えて、それは降り注ぐ。
僕は心地よさに身を任せて、夢の中で揺蕩った。
「好きだ…。好きだよ…きよちゃん。」
耳に届いた声は、誰かに聞かせるためのものでなく、溢れて出てしまった声だった。
その声は、どこまでも真剣で、切実で、苦しいほど優しかった。
パチンと突然風船が割れるように、意識は覚醒する。
…なんだ、今のは。
無遠慮に抱きついた体温は、夢ではなく現実だと伝えていた。
バクバクと心臓が跳ねて、身動き一つ出来ない。
湊はもう一度、愛おし気に僕の頭を撫でると、おでこへ子供にするみたいなキスをして、くるりと背中を向けた。
途端、伝わる体温が生々しく感じる。
背中に引っ付くような体勢で、腕をまわしている僕。
変に動いたら、起きていたことが湊へ伝わってしまう。
さっきまで肌寒かったのに、今は燃えるように体が熱い。
湊の「好き」という言葉を聞いて、子供だと思っていた湊が突然『男』に見えた。
ダメだ。ダメだ。
それと同時に、湊を好ましく思っている自分の本心にも気が付いてしまった。
夢現で感じたように、湊のそばは心地がいい。
そこは既に、安心できる場所になっていた。
教育者として、生徒を恋愛対象にするなんてあり得ない。
それでも、湊が「好き」と言ってくれた言葉に歓喜する自分がいる。
いけない。
彼はまだ未熟なんだ。
彼の前で、涙を見せすぎた。
正義感の強い湊は、弟や妹に思うように守ってやりたいと思ってくれたのかも。
ただ、それを「好き」という恋愛感情と勘違いしているだけなのかもしれない。
同性を好きになることが、どれほど茨の道を行くことなのか、己が一番知っている。
狭いこの島で、偏見の眼差しに晒されるかもしれない。
自分の心なのに、もどかしくてうまく掴めない。まるで濡れた砂が指の隙間から零れるみたいだ。
一つだけ確かなことは、湊の気持ちには答えられない。
答えてはいけないということだけだ。
隣から、湊のスースーという穏やかな寝息が聞こえる。
湊が気が付いていないなら、なかったことに出来ないだろうか。
目を閉じて、何も気が付かないふりして、このまま湊の先生としていられないだろうか。
そんな卑怯な考えをした自分に嫌悪する。
僕に有り余る優しさを注いでくれた湊の寝顔をそっと盗み見る。
眠ると更に幼さが増す。
愛おしいと思った。
四か月前はどん底の底を這いずり回っていたのに。
ああ、君を幸せにしてあげたい。
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