【完結】今日も女の香水の匂いをさせて朝帰りする夫が愛していると言ってくる。

たろ

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な、なんで⁈

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数ヶ月前、侯爵家の騎士として働いているロリーの紹介で住み込みで働かせてもらうことになった。

広い敷地に大きなお屋敷。
さらに使用人の居住用の建物、手の行き届いた綺麗な庭。
侯爵家お抱えの騎士団。

広い敷地の中に騎士達専用の鍛錬場や厩舎もあり、使用人達もたくさんいる。

わたしが侯爵家本家の屋敷に行くことも関わることもない。

基本、騎士団のみんなとその周りで仕事をしている人達としか関わらない。

もちろん一使用人なので、侯爵様のお顔は遠くから拝見したことはあっても、直接お会いしたことなどない。

わたしは、慌てていた。

久しぶりに走った。

ひたすら走った。

そして鍛錬をしているロリーの所まで来て、ふと立ち止まった。

(あ、まだ休憩中ではない……話しかけたら駄目だった)

わたしは、自分のことで頭が一杯になってみんなの大切な鍛錬の時間を邪魔する所だった。

彼らの練習する姿を少しだけ遠くから見ていた。

少し冷静になれた。

「また夜でもロリーに会いにこよう」

ボソッと独り言を言ってその場を離れようとしたら、わたしの後ろに団長さんが立っていた。

「ユウナ、こんなところに来てどうした?何か用事があったのか?」

「い、いえ、すみません。休憩中だったので少し皆さんの鍛錬している姿を見ていました」

「あいつらはこの侯爵家をお守りするために日々鍛錬を欠かさない。剣の練習もいつも気合いが入っているんだ」

「はい、ここにいるだけで皆さんの気に圧倒されました」

「みんなカッコいいだろう?」

「はい普段のみんなのくだけた姿とは別人ですね」

わたしは団長さんに頭を下げて帰ろうとした。

「で、ロリーに何か話があったんだろう?」

「……え?」

わたしは団長さんの顔を見て引き攣ってしまった。

「いつも明るいユウナがそんな辛そうな顔をしているんだ、俺でもわかるよ」

「………す、すみません、顔に出ていましたよね」

「俺が相談にのれる話なら聞いてやるが……」

「ありがとうございます……ただロリーに報告したかっただけなんです……急いでたので何にも考えないで来てしまって申し訳ありませんでした」

わたしは今度こそこの場から去った。


「………俺には頼ってもらえないか」

団長さんの言葉がわたしの耳に届くことはなかった。


◇ ◇ ◇

夕食を終えたロリーに時間を空けてもらい、二人で庭のベンチに座った。

「………いたの」
わたしがボソッと言うと、ロリーはキョトンとした。

「え?いた?何が?」

「…………この侯爵家にいたの」

「ううん???」

「……ア、あっ、……あ、、ア、アッシュが、こ、侯爵…家の料理人と……して働い…てい…るの」

「え⁉︎嘘だろう?」

「今日ね、リオナさんに頼まれて本家の厨房に足りなくなった調味料を貰いに行ったの。そしたら見たことがある後ろ姿がいて、思わず隠れて覗いたの。……アッシュだった」

「さすがに料理人のことまでは僕たちはその度に把握しないから誰が入ったかなんて分からないや」

「うん、そうだよね」

「ある程度重要な人達の顔は全て覚えないと護衛として仕事が出来ないからね、でも料理人やメイドのことは一ヶ月まとめて紹介されるからそれまでは顔を覚えていないんだ」

「騎士の人達はこの屋敷の使用人の顔も覚えているの?」

「当たり前だよ、使用人が何かした時僕たちが取り締まらないといけないからね、覚えるのも仕事だよ」

「そうなんだ……アッシュの横顔を見て気づかれないようにさっと帰ったけど、まさかここで働き始めるなんて思いもしなかった」

「まあ、前の伯爵家で何か問題を起こしたわけではないし、腕の良い料理人のアッシュなら侯爵家で雇われても納得できるよね」

「でもたくさん街もあるしたくさん働く場所もあるのにどうしてここで?
もう会いたくなかった」

「……うん、そうだよね。あまり会うことはないと思うけど、ヘリーさんとリオナさんには本家へのおつかいは行かせないように頼んでおくよ」

「……自分で言うよ」

「言いにくいだろう?」

「でも自分のことだし、理由を説明しなくっちゃ」

「アッシュから関わってくるとは思えないけど困ったことがあったら相談して。わかった?」

「いつもロリーに頼ってごめんね、わたしの方がお姉ちゃんなのにね」

「そこは謝るんじゃなくて、ありがとうだろ?」

「ありがとうロリー」

ロリーにアッシュのことを言えたので少しだけ気持ちが落ち着いた。



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