【完結】今日も女の香水の匂いをさせて朝帰りする夫が愛していると言ってくる。

たろ

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会わぬように

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なんでここなんだろう。

少しずつ忘れて心が落ち着き始めたのに。

もしかしたら何処かで会うかもしれない。

アッシュの姿を探してしまう。

会いたいから?会いたくないから?

自分でも分からない。

そんなある日団長さんから呼ばれた。

「ユウナ、最近仕事に集中できていないだろう?たかが飯炊かもしれないが、食事は大切なんだ、きちんとした物を出さないとみんなの士気が下がるし、それが君の仕事だろう?」

あ……わたしは最近失敗ばかりしていた。

その所為でみんなに迷惑をかけていた。

「すみません」
自分の甘さに、愚かにも自分は今辛いから許してくれると勝手に思い込んでいた。

恥ずかしさと悔しさ、何も言い返せない。
言い訳すら出来ない。

わたしは俯いて謝るしかなかった。

「お前が何か抱えていることは気づいている。だがな仕事は仕事だ。わかったな」

「はい」

わたしが団長さんの執務室を出ようとした時、背後から声がかかった。

「で、相談くらい乗るぞ?」
団長さんの優しい声だった。

わたしは扉の前で固まってしばらく考えた。

「すみません、今はまだ話せませんがいつか聞いてもらえると嬉しいです」

わたしの精一杯の意地だった。

もうみんなに迷惑をかけない。甘えてはいけない。
仕事なんだ。
きちんと切り替えをしなくっちゃ。

何故か自然と笑うことができた。

「団長さん、ありがとうございました」

わたしはスッキリして、仕事に戻った。

色々考えても仕方ない。
アッシュとはもう別れたんだもの。
たまたま職場が近いだけ、たまたま会うかもしれないけど、もう赤の他人なのだから、お互い話すこともないだろう。

うん、よし!

それからはいつものように仕事をこなすことが出来た。


◇ ◇ ◇


「ユウナ、明日の休みは新しいレストランに食べにいく約束忘れてないよね?」

ロリーから確認があったので

「うん、大丈夫!団長さんとリオナさんも大丈夫って言ってた!」

今回の食事は四人で約束をしている。

美味しい料理を食べつつ新しい料理を考える。
騎士団で仕事を始めてから月に二回くらいはこうして誰かと食べに行っている。

リオナさんはわたしの二歳年上で今ではお姉ちゃんみたいな存在。
でも、アッシュのことを話したのはロリーだけ。
なんとなく話しにくい。

だって……説明がしにくい。
添い寝で浮気……言えないよね。



レストランに入り、食べたことのないものを何品か注文した。


「うん、この味とっても美味しい」
わたし達は初めて食べるタンシチューのあまりの美味しさに舌鼓を打ちながら食べていた。

「そういえば侯爵様の屋敷に新しい料理人が入って来たの、知ってる?」

わたしがシチューに夢中になって食べているとリオナさんがアッシュのことを言い出した。

わたしはもちろん「知りません」と答えた。

「すっごいかっこいいの。ユウナも離婚した浮気夫なんか忘れて一度見に行ってみなさいよ!」

「ブホッ!」

わたしは思わず吐きそうになって、口を押さえた。

「大丈夫?ユウナったら何焦ってるの?」

(いや、別れた夫とかっこいい料理人てたぶん同じ人だから!)

「ご、ごめんなさい。夫とは別れてふた月しか経っていないからまだ考えられません」

「そっかあ、でも、新しい恋は辛かった恋を忘れてしまえるからいいと思うわ」

「うん、リオナさんの言ってることも一理あるかも」
ロリーまで一緒になって言い出した。

「心配してくれてありがとう。またいつか誰かを好きになるかもしれないけど当分は遠慮しておくわ」

「もったいない!」

「ありがとう、でもまだ無理なんだ」
わたしは思わず本音が出てしまった。

アッシュがわたしの近くに現れなければ自然に忘れていけたのに、近くにいると思うと、自分でもまだ忘れていないのだと自覚してしまう。

だからと言って寄りを戻すつもりなんてさらさらない。
もう終わったのだ。

それでも彼の影が彼の存在がわたしを何故かソワソワさせたり苛立たせてしまう。

わたしはもうこの話題をそっと避けて

「それよりリオナさんの彼氏の話を聞かせてください!」
わたしは話題を違う方に向けた。

リオナさんも彼氏のことを色々話してくれた。

まだ結婚の話は出ていないけど、二人で暮らす家を探しているとか、たまにお料理を作って差し入れしているとか、まだまだ仲が良いカップルなのだと微笑ましく思った。

団長さんはそんなわたしの様子を見て何かを感じ取っていたのかもしれない。

食事が終わり帰ろうとしたら、
「ユウナ、時間があるなら俺の買い物に付き合って欲しい」
と誘われた。

「わかりました」
わたしは二人と別れて団長さんと買い物に出かけた。

団長さんは選ぶのが面倒だと言って頼まれるので、よく食事の帰りに買い物に付き合っている。

「今日の買い物は何ですか?洋服ですか?それとも小物の何かですか?」

「………違う、本当はユウナが話すまで待つつもりだった。でも、もう我慢できない。ユウナ、最近の君は無理やり笑顔を作り、から元気に見えるんだ。俺に話すのは嫌か?」

「………そんな風に見えていたんですね……ただ、偶然元旦那がわたしと同じ侯爵邸で働き始めたんです。……向こうも気がついていると思うんです」

「元旦那?さっきリオナが話していた侯爵家に新しく入った料理人?」

「え?何故わかるのですか?」

「だってその話をしてから君の様子がおかしかっただろう?」

自分では普通にしていたつもりだったのに気づいていたのね。

「………まだ顔を合わせてはいないんです……でも会ってしまったらわたしはどうするんだろう……とつい考えてしまいます。気持ち悪くてたまらないのか、何にも感じないのか、好きだった感情を思い出してしまうのか」

「まだ愛しているのか?」

「全然。それはないと思います。だって今も思い出すと気持ちが悪いんです。最悪の別れ方だったのでもう無理です。でもずっと一緒だったんです、幼馴染で。だから気になるのは確かなんです。でも会いたくないから出来るだけ会わないようにはしています」

「会わないように?」

「はい、ヘリーさんとリオナさんに本邸でちょっと昔の知り合いがいて、元旦那に居場所がバレたくないからあちらには用事があっても行かないようにしたいと、お願いしているんです。だから滅多なことでは顔を合わせないで済むとは思ってはいるんです」

「そうか……じゃあ、俺もユウナが向こうに行かないで済むようにそっちへ行く用事は頼まないようにしよう」

「助かります」

「でもいくら避けても会う時はあるだろう?」

「まあ、いつかはそうなるかもしれません」

「いつでも言ってこい、相談にはのる」

「ありがとうございます、で、お買い物は?」
わたしが何を買いたいのか聞くと、

「ほんとお前は鈍いな。お前と話したくて買い物だと誘ったんだろう!」

「へ?あ⁉︎ご、ごめんなさい。ありがとうございます。団長さんと話すと不思議に落ち着くんですよね」

そのあと、団長さんがみんなにお土産を買いたいと言うのでお菓子屋さんに行ってたくさんのお菓子を買って帰った。

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