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番外編 アッシュの日常。
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ユウナと別れてから数年が経った。
ロリーがユウナと結婚したと風の噂で聞いた。
ずっとユウナを好きだったことは知っていた。でもまさか弟だといつも言っていたロリーと結婚するとは思わなかった。
二人の幸せな姿なんて見れない。
まだおめでとうなんて言えない。
俺は心が狭い。分かってる、俺が馬鹿だからユウナを傷つけた。
だから別れることになった。
でも、それでも、愛していた。
ずっとずっとユウナだけ、のはずなのに……
リリーのあの弱々しい姿と頼られることに対して、守りたいとつい思ってしまった。
性的に抱きたいとか好きだとかなかった。
でも頼られてつい調子に乗った。
生まれ育った街を離れ、今は田舎町の貴族の料理人として働き出した。
仕事だけなら腕に自信はある。
住み込みで働き出した男爵家はとても働きやすかった。
使用人の数は少なかったが、みんな仲が良く働きやすい場所。
料理長はかなりこだわりを持っていて、厳しい人だったが、とても勉強になるので俺も必死でついていった。
ここ数年、恋愛なんてする暇もなく気がつけば24歳になっていた。
メイド達から最近よく話しかけられる。
「アッシュさん、これお土産でいただいたのですが良かったらおひとつどうぞ」
「今日はいい天気ですね」
「お休みの日によかったらお買い物に行きませんか?」
大した用事でもないのに話しかけられるが、同じ職場なので無碍にできない。
でもその気もないのに一緒に出かけるなんて思わせぶりなことはもうしたくない。
以前のように誰にでも優しいアッシュはいなくなった。
もう俺はユウナ以外人を好きになれない。
そんな思いでここ数年過ごしてきた。
そんな頑なな俺に一人の少女が不思議に話しかけてくる。
俺に媚を売るわけでもなく、俺を好きなわけでもないみたいだ。
ただ、食べることが好きな少女だった。
少し痩せていて体の小さな子。
「アッシュさんが作るこのお菓子とても美味しいです」
使用人の賄いに、たまに簡単なお菓子を作って出すことがある。
少女は男爵家の使用人として働いている16歳。
8歳も年下の少女……リーナはあまり裕福な家庭ではなかったのか、お菓子が賄いに出た日はとても嬉しそうにしていた。
その笑顔があまりにも可愛くて、つい暇な時に余った材料を使ってお菓子を作ってやっていた。
そしたら懐かれて、俺の周りに顔を出すようになった。
「アッシュさん、今日の賄いなんですか?」
「お前さぁ、色気もクソもないな、そんなんじゃ彼氏出来ないぞ」
「いいんです!色気より食い気です!」
コロコロ笑うリーナ。
いつからかリーナが俺の近くに居るのが当たり前になっていた。
そんなある日、リーナが何日も休む日が続いた。
「リーナはどうした?」
リーナの同僚に聞くと
「あの子、今体調が悪いみたいなの、しばらく休むと連絡があったわ」
「そっか……」
気にはなったけどしばらくはそのままでいた。
もう2週間が経つのにリーナは顔を出さなかった。
「リーナはまだ仕事に来てないの?」
「……うん、さすがに心配だから今度のお休みにお見舞いに行くつもりなんです」
同僚の言葉に「家知ってる?」と聞いて、住所を教えてもらった。
次の日、昼から休みを貰ってリーナの好きなお菓子を焼いてお見舞いに行くことにした。
俺が住んでいた街と違い、寂れて薄暗い町だった。
古い家が多くて活気がない。
なんとかリーナの家を見つけ出してドアを叩く。
返事がない。
中には人がいる気配がする。
「ガッチャーン!!酒、酒買ってこい!!」
外まで聞こえる大きな声と子供の叫び声そして泣いている声も聞こえてきた。
思わずドアをこじ開けた。
「大丈夫?」
中に入るとリーナの髪の毛を掴み、蹴っている男の姿があった。
「お前、人の家に何勝手に入ってきたんだ!」
酒に酔っているのかフラフラした足取りで俺に向かってきた。
横目でチラッと見るとリーナはなんとか解放された。
「リーナ、この男は誰?」
「……わたしの……義父です」
「そっか、赤の他人だね」
「はあ?リーナは俺の娘だ!殴ろうと蹴ろうと俺の勝手だ!」
「暴力は絶対によくない!」
俺に向かって殴りかかろうとする男の服を掴み、そのまま投げ飛ばした。
「っぐぇっ!」
男は俺が細くてどう見ても弱そうだと甘くみていたようだ。
親は本当は俺を騎士にさせたかった。
料理が好きで料理人になったけど、ロリーと一緒に剣術も体術も習っていた。
「リーナ、この男縄で縛っていい?」
「う、うん、な、縄、待って」
リーナはフラフラしながらも部屋の奥から縄を持ってきた。
俺はガッチリ縛り上げた。
リーナの顔をよく見ると頬が腫れ上がり青痣ができていた。
リーナの弟らしき小さな子供はガタガタと震えていた。
「リーナ、なんで助けを呼ばなかった?」
「……お義父さんだから…それに誰に助けてって言えばいいの?」
「そうだよな、でもお前、その顔…医者に診てもらおう」
「大丈夫。そんなお金ないし」
「俺がお金なら持ってる。それにこの男、警備団に突き出してやらないと!」
俺は部屋の中を見回した。
「なあ、リーナの母親は?」
「……お母さん、出て行ったの」
「お前達二人を置いて?」
「……うん、わたし一人なら逃げられるけどまだ小さい弟をこの男の元に置いて逃げたら、弟は殺されるかもしれない、だから逃げられなかったの」
「お姉ちゃん!」
弟はリーナに抱きつき泣いていた。
「お姉ちゃん、ごめんね、僕のせいで」
「おいチビ、悪いのはこの男だろう?お前は姉ちゃんを助けようとしたんだろう?」
よく見ると男の子の体にもアザがある。
この最低な男は義理の娘と息子に当たって暴力を振るっていたみたいだ。
「リーナ、変なことはされなかったか?」
聞きにくいことだけど、一応聞いてみた。
「大丈夫、弟が体を張って助けてくれたからされそうになったけど逃げれたの」
俺はそれを聞いてホッとした。
「チビ、偉かったな!よく姉ちゃんを守った」
それから医者を呼び二人を診てもらった。
男は引き摺って、警備団へ連れて行った。
医者がリーナ達姉弟を診て診断書を書いてくれたのでこの男がこの町で暮らすことはもう出来ない。
しばらくは刑務所に入り、どこかの炭鉱に入れられてしっかり刑罰を与えられるだろうと警備団の人が言っていた。
それに俺が働いている主人でもある男爵様も怒って、厳しい罰を与えるように口添えしてくれた。
リーナは弟と一緒に男爵家の使用人用の寮に入れてもらえるようになった。
俺の妹分は今日も俺に
「アッシュさん、今日の賄いはなんですか?」
と聞いてくる。
そんなリーナが俺の嫁になるのはまだ後2年先の話。
ロリーがユウナと結婚したと風の噂で聞いた。
ずっとユウナを好きだったことは知っていた。でもまさか弟だといつも言っていたロリーと結婚するとは思わなかった。
二人の幸せな姿なんて見れない。
まだおめでとうなんて言えない。
俺は心が狭い。分かってる、俺が馬鹿だからユウナを傷つけた。
だから別れることになった。
でも、それでも、愛していた。
ずっとずっとユウナだけ、のはずなのに……
リリーのあの弱々しい姿と頼られることに対して、守りたいとつい思ってしまった。
性的に抱きたいとか好きだとかなかった。
でも頼られてつい調子に乗った。
生まれ育った街を離れ、今は田舎町の貴族の料理人として働き出した。
仕事だけなら腕に自信はある。
住み込みで働き出した男爵家はとても働きやすかった。
使用人の数は少なかったが、みんな仲が良く働きやすい場所。
料理長はかなりこだわりを持っていて、厳しい人だったが、とても勉強になるので俺も必死でついていった。
ここ数年、恋愛なんてする暇もなく気がつけば24歳になっていた。
メイド達から最近よく話しかけられる。
「アッシュさん、これお土産でいただいたのですが良かったらおひとつどうぞ」
「今日はいい天気ですね」
「お休みの日によかったらお買い物に行きませんか?」
大した用事でもないのに話しかけられるが、同じ職場なので無碍にできない。
でもその気もないのに一緒に出かけるなんて思わせぶりなことはもうしたくない。
以前のように誰にでも優しいアッシュはいなくなった。
もう俺はユウナ以外人を好きになれない。
そんな思いでここ数年過ごしてきた。
そんな頑なな俺に一人の少女が不思議に話しかけてくる。
俺に媚を売るわけでもなく、俺を好きなわけでもないみたいだ。
ただ、食べることが好きな少女だった。
少し痩せていて体の小さな子。
「アッシュさんが作るこのお菓子とても美味しいです」
使用人の賄いに、たまに簡単なお菓子を作って出すことがある。
少女は男爵家の使用人として働いている16歳。
8歳も年下の少女……リーナはあまり裕福な家庭ではなかったのか、お菓子が賄いに出た日はとても嬉しそうにしていた。
その笑顔があまりにも可愛くて、つい暇な時に余った材料を使ってお菓子を作ってやっていた。
そしたら懐かれて、俺の周りに顔を出すようになった。
「アッシュさん、今日の賄いなんですか?」
「お前さぁ、色気もクソもないな、そんなんじゃ彼氏出来ないぞ」
「いいんです!色気より食い気です!」
コロコロ笑うリーナ。
いつからかリーナが俺の近くに居るのが当たり前になっていた。
そんなある日、リーナが何日も休む日が続いた。
「リーナはどうした?」
リーナの同僚に聞くと
「あの子、今体調が悪いみたいなの、しばらく休むと連絡があったわ」
「そっか……」
気にはなったけどしばらくはそのままでいた。
もう2週間が経つのにリーナは顔を出さなかった。
「リーナはまだ仕事に来てないの?」
「……うん、さすがに心配だから今度のお休みにお見舞いに行くつもりなんです」
同僚の言葉に「家知ってる?」と聞いて、住所を教えてもらった。
次の日、昼から休みを貰ってリーナの好きなお菓子を焼いてお見舞いに行くことにした。
俺が住んでいた街と違い、寂れて薄暗い町だった。
古い家が多くて活気がない。
なんとかリーナの家を見つけ出してドアを叩く。
返事がない。
中には人がいる気配がする。
「ガッチャーン!!酒、酒買ってこい!!」
外まで聞こえる大きな声と子供の叫び声そして泣いている声も聞こえてきた。
思わずドアをこじ開けた。
「大丈夫?」
中に入るとリーナの髪の毛を掴み、蹴っている男の姿があった。
「お前、人の家に何勝手に入ってきたんだ!」
酒に酔っているのかフラフラした足取りで俺に向かってきた。
横目でチラッと見るとリーナはなんとか解放された。
「リーナ、この男は誰?」
「……わたしの……義父です」
「そっか、赤の他人だね」
「はあ?リーナは俺の娘だ!殴ろうと蹴ろうと俺の勝手だ!」
「暴力は絶対によくない!」
俺に向かって殴りかかろうとする男の服を掴み、そのまま投げ飛ばした。
「っぐぇっ!」
男は俺が細くてどう見ても弱そうだと甘くみていたようだ。
親は本当は俺を騎士にさせたかった。
料理が好きで料理人になったけど、ロリーと一緒に剣術も体術も習っていた。
「リーナ、この男縄で縛っていい?」
「う、うん、な、縄、待って」
リーナはフラフラしながらも部屋の奥から縄を持ってきた。
俺はガッチリ縛り上げた。
リーナの顔をよく見ると頬が腫れ上がり青痣ができていた。
リーナの弟らしき小さな子供はガタガタと震えていた。
「リーナ、なんで助けを呼ばなかった?」
「……お義父さんだから…それに誰に助けてって言えばいいの?」
「そうだよな、でもお前、その顔…医者に診てもらおう」
「大丈夫。そんなお金ないし」
「俺がお金なら持ってる。それにこの男、警備団に突き出してやらないと!」
俺は部屋の中を見回した。
「なあ、リーナの母親は?」
「……お母さん、出て行ったの」
「お前達二人を置いて?」
「……うん、わたし一人なら逃げられるけどまだ小さい弟をこの男の元に置いて逃げたら、弟は殺されるかもしれない、だから逃げられなかったの」
「お姉ちゃん!」
弟はリーナに抱きつき泣いていた。
「お姉ちゃん、ごめんね、僕のせいで」
「おいチビ、悪いのはこの男だろう?お前は姉ちゃんを助けようとしたんだろう?」
よく見ると男の子の体にもアザがある。
この最低な男は義理の娘と息子に当たって暴力を振るっていたみたいだ。
「リーナ、変なことはされなかったか?」
聞きにくいことだけど、一応聞いてみた。
「大丈夫、弟が体を張って助けてくれたからされそうになったけど逃げれたの」
俺はそれを聞いてホッとした。
「チビ、偉かったな!よく姉ちゃんを守った」
それから医者を呼び二人を診てもらった。
男は引き摺って、警備団へ連れて行った。
医者がリーナ達姉弟を診て診断書を書いてくれたのでこの男がこの町で暮らすことはもう出来ない。
しばらくは刑務所に入り、どこかの炭鉱に入れられてしっかり刑罰を与えられるだろうと警備団の人が言っていた。
それに俺が働いている主人でもある男爵様も怒って、厳しい罰を与えるように口添えしてくれた。
リーナは弟と一緒に男爵家の使用人用の寮に入れてもらえるようになった。
俺の妹分は今日も俺に
「アッシュさん、今日の賄いはなんですか?」
と聞いてくる。
そんなリーナが俺の嫁になるのはまだ後2年先の話。
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