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63話  過去戻り編

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「ああ、そうなのね、顔がとても似ていたの。具合が悪いみたいだけど大丈夫?」
そう言うと夫人がユシリス様の体に触れた。

「あ、痛い!」
思わずユシリス様は声を出してしまった。

鞭で打たれた隠れていた腕の傷を夫人が触ってしまったのだ。

夫人は不審に思いすぐに袖を捲り、鞭で血が滲んで赤く腫れ上がった腕を見た。

「これは何?誰にされたの?貴女はどうして一人で街を歩いていたの?」

夫人は捲し立ててユシリス様を問い詰めた。

ユシリス様はその声に驚き恐怖して

「ごめんなさい、ごめんなさい、わたしの所為でお母様が死んでごめんなさい、叩かないでください、部屋から出ません、喋りません、お願いです、叩かないでください」

パニックになって謝り続けた。

「ユシリス様、泣かないで!」
わたしが抱きしめるとユシリス様は姿を消してしまう。わたしは横で声をかけてあげるしかなかった。

それを聞いた夫人は、ユシリス様を抱きしめて
「大丈夫よ、誰も貴女を叩かないわ」

夫人の隣に座っていたユシリス様と同じくらいの男の子が

「泣かないで、はい」
と言ってハンカチを渡した。

ユシリス様は、なのに抱きしめられてさらに恐怖で泣き叫んだ。

「いやあー、助けてください。鞭はいやあ!」

夫人は顔を顰めてユシリス様の服を少し脱がせて覗いた。その肌は赤黒く、血が滲んでいた。

体が熱いのでおでこを触ると、熱も出ている。

「これは…なんて酷いの」
御者に声をかけた。
「急いでホテルへ、着いたらすぐに医者を呼んでちょうだい」

わたしは、少しホッとした。
たぶんユシリス様のお母様が亡くなって10日なのでまだ知人がこの街に残っているのだろう。

葬儀は5日前だったそうだ。
わたしはユシリス様がもっと酷い目に遭う前に来れてよかったと思いつつ、もう少し早い日に来ていればこんな怪我も心のギズを負わなかったのにと、神様を少しだけ恨んだ。

ユシリス様の怪我を治してもらえる。

そしてお祖父様にお会いできる。

ただ、お祖父様とお祖母様はどんな人なのだろう。

優しい人であることを祈るばかりだ。

意地悪だったらまたユシリス様を連れて消えよう。

そう思ってユシリス様のそばで見守ることにした。

ホテルの前に馬車が着いた。

御者の男の人がそっとユシリス様を両手で優しく抱き抱えた。

「怖くないからね、お医者様に診せようね」
おじさんの言葉にユシリス様は震えながらもコクリと頷いた。

先程の恐怖はなくなり落ち着いたみたい。

「ユシリス様、わたしもずっと近くにいるわ」
わたしもユシリス様に話しかけた。

「もしお祖父様とお祖母様が意地悪で怖い人ならわたしがユシリス様をまたどこかへ連れていくから安心してね」
わたしの言葉に安心したみたいで、黙っておじさんに抱っこされてホテルに入って行った。

夫人は、ホテルの人に伝えてユシリス様をデュラヌ侯爵のいる部屋へ連れて行ってくれた。

部屋のドアを開けると、50代半ばの夫婦がいた。

「ユシリス?どうしたの?」

ぐったりして抱えられて入って来たユシリス様を見て、二人が驚いていた。

「お祖父様、お祖母様……たすけて、助けてください。お願いします、おと……お父様から逃げて来ました」
ユシリス様は泣きながら必死に助けを求めた。

一緒に来た夫人は、
「おじさま、おばさま、街で迷子になったと言ってホテルの場所を偶々わたしに聞いて来たの。
子ども一人で帰らせるのは危ないと思って馬車に乗せて送ってあげるつもりだったんですが、様子がおかしくて……熱もかなり出ています。
それに体の見えないところに鞭の跡や傷がたくさんあるんです」

夫人はユシリス様の袖を捲ると、腕は赤黒く血が滲んでいた。

「たぶん服を脱がせたらもっとあるはずです、先程少し服の中を見たのですが、赤く腫れていました。この子は泣きながら
『ごめんなさい、ごめんなさい、わたしの所為でお母様が死んでごめんなさい、叩かないでください、部屋から出ません、喋りません、お願いです、叩かないでください』と言ったんです
『いやあー、助けてください。鞭はいやあ!』と、泣き叫んでいました。
今お医者様を呼んで貰っています」

お祖母様はユシリス様をベッドへ連れて行き、夫人と二人でユシリス様の服を脱がせた。

わたしもユシリス様の傷をまじまじと初めて見た。

背中は赤黒く腫れ上がり、お腹は蹴られたのか青じみが出来ていた。

腕や太ももは鞭の跡が痛々しかった。

「なんて酷いの!」

「可哀想に……」

二人は言葉が出なくて呆然としていた。

ユシリス様は震えて、
「お祖母様助けてください、お願いします、助けてください」
頭を下げて何度も何度も泣きながらユシリス様はお願いしていた。

「大丈夫、守ってあげるわ」

お祖母様はベッドにそっとユシリス様を寝かせて、急いでタオルを濡らして優しく血を拭き始めた。













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