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74話
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「………影さん?」
わたしは何故かボソッとその言葉が出た。
何故かあの男の人がいつも助けてくれて見守ってくれていた影さんに感じた。
お父様は、わたしの肩をポンっと叩くと、
「エリーゼ、後で話すから」と言って先を促された。
わたしは立ち止まっていたのを思い出して慌てて自分の部屋へ行った。
「久しぶりの自分の部屋だわ」
アンが後ろについて来ていた。
「エリーゼ様お帰りなさいませ。ずっとお待ちしておりました」
「アン、ありがとう、心配かけてごめんね」
わたしはまだ本調子ではないのか、ここまで帰ってくるだけで疲れてしまった。
すぐにベッドに横になりしばらく寝かせてもらった。
起きたのはもう暗くなり始めた6時頃。
ぼうっとしていると、お父様が部屋にやって来た。
「エリーゼ、先程のことなんだが……」
「はい、あの人は影さんですよね?いつもそばにいてくれた人」
「何故わかったんだ?」
「どうしてなのかわからない……でも彼が纏う空気がとても懐かしく感じました」
「そうか……あれは王家から配属された影だった。そして今は我が公爵家が雇って居るんだ」
「では何故あそこにいたのですか?」
「……あれはもう影として使えなくなったんだ」
「え?」
「お前が毒を塗られたナイフで刺されていることがすぐにわかり、犯人のユイナ・ミレーヌを追い捕まえたんだ。彼女は口を割ろうとしないし、自ら何も言わず毒を飲んで自害をしようとしたんだ。
それを止めようとして原液の毒をあれは自分が被ってしまったんだ。
勝手に死なれては、エリーゼの害された毒が何かはっきりしていないのに死なせる訳にはいかない。
その毒をすぐに洗い流すなりすればよかったのに、ユイナ・ミレーヌの口を割ることを優先したため、あれは毒に害されて生死を彷徨ったんだ」
「わたしと同じ?」
「ああ、お前よりも早く意識を取り戻したが、体に少し麻痺が残り、普通の生活は出来るが、影としての俊敏な動きは出来なくなった」
「そんな……」
「だから影は辞めさせて今はうちの使用人として働いてもらっている。元々優秀なので執事候補として今は補佐をしてもらって居るんだ………外に待たせている」
お父様はそう言うと、
扉の方を見て 「入れ」
と言うと、影さんが入って来た。
「初めまして、ブラッド・フリーザーと申します。執事見習いとして働かせて頂いております。よろしくお願いいたします、エリーゼ様」
影さんは、わたしがずっと想像していたよりも若くて綺麗な顔をしていた。
わたしの中の「影」は、屈強な体、鋭い眼光、怖いイメージなのに、彼は優しい笑顔の「お兄様」と言う感じだった。
「わたしこそ初めてお顔を拝見いたします。ずっと見守っていただいてありがとうございました。そしてわたしの所為でお仕事を奪うかたちになりましたことお詫び申し上げます」
わたしは彼が影として誇りを持ってわたしを守ってくださっていたことを感じていた。
大切な仕事を奪ってしまいわたしに出来るお詫びは謝罪しかなかったことが悔やまれる。
わたしは頭を上げることができなかった。
「エリーゼ様頭を上げでください。わたしが貴女の命を守ったと言う誇りを奪わないでください。わたしは後悔などしておりません、違う形では有りますがこれからも貴女を守らせて下さい」
わたしは影さんの言葉を聞いて、頭を上げた。
「フリーザー様、これからもよろしくお願いします」
「わかりました、ではこれからはブラッドとお呼び下さい」
「わかりましたブラッド、わたしは貴女の主の一人として恥じぬように頑張りますね」
わたしは謝罪より彼が誇れる主人になる事が、わたしが彼へ出来るお礼なのだと思った。
お父様はわたしが意識がない間の話をしてくれた。
わたしが刺されたのは学園にある図書室。
学園後の放課後、調べものがあるため、エレンやカイラと別れて一人で図書室へ向かった。
その時周りには沢山の生徒がいた。
わたしの近くでも四人の女の子が楽しそうに話しながら本を探していた。わたしは邪魔になるかなと思いそこを立ち去ろうと四人の前を通り過ぎた時、突然背中の下辺りを激痛が走った。
そして四人の女の子の目の前で、そのまま膝から崩れ落ちた。
わたしは背中の下辺りをそっと手で触ると、手が真っ赤に染まっていた。
ふと上を見上げると、驚いた四人の女の子の中に一人気持ち悪いくらいニヤッと微笑んだ女の子がいた。
微笑んだ女の子は突然、今度は氷のように冷たい顔になった。
そしてわたしは気を失う時に思った。
(何故?
あの子は一体どうしてわたしをあんな冷たい目で見るのかしら?
……ああ、わたしの人生はもうこれでお終いね)
わたしが刺されて毒で生死の境を彷徨っている間、お父様の友人でもあり医師でもあるグレイ・バーグおじ様が学園の主治医をしていて、わたしを処置してくださり、傷の手当てと、とりあえずの解毒剤を飲ませてくれた。
ただ何の毒かハッキリしないので応急処置でしかなく、一刻を争っていた。
影さん……ブラッドは他の影と共に犯人であるユイナ・ミレーヌをすぐに追って捕まえた。
わたしは何故かボソッとその言葉が出た。
何故かあの男の人がいつも助けてくれて見守ってくれていた影さんに感じた。
お父様は、わたしの肩をポンっと叩くと、
「エリーゼ、後で話すから」と言って先を促された。
わたしは立ち止まっていたのを思い出して慌てて自分の部屋へ行った。
「久しぶりの自分の部屋だわ」
アンが後ろについて来ていた。
「エリーゼ様お帰りなさいませ。ずっとお待ちしておりました」
「アン、ありがとう、心配かけてごめんね」
わたしはまだ本調子ではないのか、ここまで帰ってくるだけで疲れてしまった。
すぐにベッドに横になりしばらく寝かせてもらった。
起きたのはもう暗くなり始めた6時頃。
ぼうっとしていると、お父様が部屋にやって来た。
「エリーゼ、先程のことなんだが……」
「はい、あの人は影さんですよね?いつもそばにいてくれた人」
「何故わかったんだ?」
「どうしてなのかわからない……でも彼が纏う空気がとても懐かしく感じました」
「そうか……あれは王家から配属された影だった。そして今は我が公爵家が雇って居るんだ」
「では何故あそこにいたのですか?」
「……あれはもう影として使えなくなったんだ」
「え?」
「お前が毒を塗られたナイフで刺されていることがすぐにわかり、犯人のユイナ・ミレーヌを追い捕まえたんだ。彼女は口を割ろうとしないし、自ら何も言わず毒を飲んで自害をしようとしたんだ。
それを止めようとして原液の毒をあれは自分が被ってしまったんだ。
勝手に死なれては、エリーゼの害された毒が何かはっきりしていないのに死なせる訳にはいかない。
その毒をすぐに洗い流すなりすればよかったのに、ユイナ・ミレーヌの口を割ることを優先したため、あれは毒に害されて生死を彷徨ったんだ」
「わたしと同じ?」
「ああ、お前よりも早く意識を取り戻したが、体に少し麻痺が残り、普通の生活は出来るが、影としての俊敏な動きは出来なくなった」
「そんな……」
「だから影は辞めさせて今はうちの使用人として働いてもらっている。元々優秀なので執事候補として今は補佐をしてもらって居るんだ………外に待たせている」
お父様はそう言うと、
扉の方を見て 「入れ」
と言うと、影さんが入って来た。
「初めまして、ブラッド・フリーザーと申します。執事見習いとして働かせて頂いております。よろしくお願いいたします、エリーゼ様」
影さんは、わたしがずっと想像していたよりも若くて綺麗な顔をしていた。
わたしの中の「影」は、屈強な体、鋭い眼光、怖いイメージなのに、彼は優しい笑顔の「お兄様」と言う感じだった。
「わたしこそ初めてお顔を拝見いたします。ずっと見守っていただいてありがとうございました。そしてわたしの所為でお仕事を奪うかたちになりましたことお詫び申し上げます」
わたしは彼が影として誇りを持ってわたしを守ってくださっていたことを感じていた。
大切な仕事を奪ってしまいわたしに出来るお詫びは謝罪しかなかったことが悔やまれる。
わたしは頭を上げることができなかった。
「エリーゼ様頭を上げでください。わたしが貴女の命を守ったと言う誇りを奪わないでください。わたしは後悔などしておりません、違う形では有りますがこれからも貴女を守らせて下さい」
わたしは影さんの言葉を聞いて、頭を上げた。
「フリーザー様、これからもよろしくお願いします」
「わかりました、ではこれからはブラッドとお呼び下さい」
「わかりましたブラッド、わたしは貴女の主の一人として恥じぬように頑張りますね」
わたしは謝罪より彼が誇れる主人になる事が、わたしが彼へ出来るお礼なのだと思った。
お父様はわたしが意識がない間の話をしてくれた。
わたしが刺されたのは学園にある図書室。
学園後の放課後、調べものがあるため、エレンやカイラと別れて一人で図書室へ向かった。
その時周りには沢山の生徒がいた。
わたしの近くでも四人の女の子が楽しそうに話しながら本を探していた。わたしは邪魔になるかなと思いそこを立ち去ろうと四人の前を通り過ぎた時、突然背中の下辺りを激痛が走った。
そして四人の女の子の目の前で、そのまま膝から崩れ落ちた。
わたしは背中の下辺りをそっと手で触ると、手が真っ赤に染まっていた。
ふと上を見上げると、驚いた四人の女の子の中に一人気持ち悪いくらいニヤッと微笑んだ女の子がいた。
微笑んだ女の子は突然、今度は氷のように冷たい顔になった。
そしてわたしは気を失う時に思った。
(何故?
あの子は一体どうしてわたしをあんな冷たい目で見るのかしら?
……ああ、わたしの人生はもうこれでお終いね)
わたしが刺されて毒で生死の境を彷徨っている間、お父様の友人でもあり医師でもあるグレイ・バーグおじ様が学園の主治医をしていて、わたしを処置してくださり、傷の手当てと、とりあえずの解毒剤を飲ませてくれた。
ただ何の毒かハッキリしないので応急処置でしかなく、一刻を争っていた。
影さん……ブラッドは他の影と共に犯人であるユイナ・ミレーヌをすぐに追って捕まえた。
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