【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ

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王城にて⑨ジャスティア編

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 ダイアナとキースの婚約が結ばれた。

 王城内ではかなりの速さでうわさが広まっていく。

 キースを婚約者として狙っていた令嬢達のやっかみは凄かった。
「ダイアナ様が婚約者?どうしてなの?」
「父親に冷遇されていると聞いているわ。そんな人をキース様がお選びになるなんて信じられないわ」

 ダイアナの家庭のことは有名だった。
 王妃様のお気に入り、父親に愛されていない公爵令嬢、陰では馬鹿にされながらも表立って言う人はいなかった。
 だけどキース様との婚約でみんな彼女へ向ける目は変わった。冷たい視線、酷い噂、意地悪も増えてきた。
 わたしはそれを見て楽しんだ。

 キースはわたしの護衛騎士。
 彼女がなんと言われているのか、何をされているのか、わたしの近くで黙って見ていた。

 婚約者が酷い目にあっているのを黙っているなんて。
 結構冷たい人なのね。

 そう思っていた。

 なのにーーー違った。

 キースが仕事が休みの時、わたしは偶然見てしまった。
 侍女達がダイアナの悪口を言っていた。
 王宮で働く侍女達は伯爵令嬢や子爵令嬢達の花嫁修行の一環として行儀見習いとして働いている者たちもいる。

 そんな彼女達に対してキースは足を運んで

「俺とダイアナの婚約に言いたいことがあるのなら俺が聞く。ダイアナを傷つけるのはやめてほしい。俺の大切な人なんだ」

 その言葉に侍女達は顔を青くしていた。

 キースに悪口を言ったり嫌がらせをしていることを知られてショックで泣き出す者、驚き顔を青くする者。中にはキースが本気でダイアナを大切にしていると知って「まぁ羨ましいわ」と顔を赤くしている者。

 そんな光景を見たわたしの気持ち、誰にもわからないだろう。
 部屋に帰り、ソファに座り込み呆然としていた。

 『大切な人』あのキースが恥ずかしげもなくダイアナへの気持ちを言うなんて。

 いつも表情を変えず常に仕事に勤しむキースしか知らない。

 色恋沙汰なんて興味がないと思っていた。ダイアナのことだってお義母様に言われて仕方なくだと思っていた。

 キースがあんな顔をするなんて……ショックだった。あそこにいた侍女達以上にわたしの方がショックだった。

 キースが必死でダイアナを守ろうとしているのが分かった。普段無口なキースが話していたのだから。
 それも『大切な人』と言った時のキースの表情はとても優しくてダイアナを思っているのが分かった。

 だからこそキースに話しかけられた者達は黙って頷くしかなかったのだろう。好意を持っているキースにこれ以上嫌われたくない、嫌な女だと思われたくないと。

 それからもキースは誤解している人に対してきちんと対処しているらしい。わたしのそば付きの侍女達がわたしにそっと教えてくれた。

「ダイアナ様の評判は上がっております。キース様にあれだけ守られて仕舞えば嫌うことはできません。羨む者はいても意地悪をすることは出来ないようです」

 ダイアナは気づかないうちに守られている。本人は穏やかに過ごしている。それを見るとイライラする。

 そんなある日、わたしに近づく者がいた。

 バイゼント伯爵……彼は28歳の独身。物腰も柔らかで話し上手。
 わたしのことを褒めてくれた。
「貴女は美しい」
「話をさせていただけるだけで光栄です。とても聡明で素敵な人ですね」
「貴女はもっと我儘な人かと思っていましたが本当は寂しがり屋で優しい人なんですね」

 彼の言葉にわたしはすっかり警戒心をなくしていた。
 だから体にいい薬を紹介されても「こんな素敵な薬だったらみんなに紹介出来るわ」と勧めただけ。
 お礼にとお金を渡された。
 初めて自分で稼いだお金、ただ単純嬉しかった。
 わたしを必要としてくれる、わたしを褒めてくれる、だから頑張った。

 でもあの時は気が付かなかった。
 わたしの近くに護衛騎士や侍女がいない時にしか話しかけてこないことを。

 夜会やパーティーなど友人達と過ごしふと一人になった時に彼は現れて優しく話しかけてきた。

 偶然だと思っていた。だけど今考えたらおかしい話よね。そばに誰もいない時間なんて限られている。その限られた時間に狙ったように現れるのだから。
 でもその時は気にもしていなかった、あまりにも自然に話しかけてくるから。

 そしてそんな時彼が言った。

「ダイアナ様と貴女の護衛騎士のキース・ネヴァンス様は偽りの契約で婚約していることをご存知ですか?」

「え?二人が?」

「はい、噂によると2年間だけの契約でそろそろ婚約解消するらしいのです」

「ふうん、そうなの」




 だからわたしは二人を呼び出した。

「キース、知っているのよ?ダイアナとの婚約は仮初めだと。もうすぐ二人の婚約は解消されるのよね」

 ダイアナとキースは驚いて目を合わせていた。
 
「ふふ、世間を欺くなんて貴方達大それた事をして。社交界にこのことを話したらどうなるのかしら?」
 わたしは二人の様子が楽しくてダイアナをチラッと見てから、キースの顎に手をやった。

「キース、婚約解消なんて駄目よ。二人はそのまま婚約をしていなさい」

「え?」

「二人が婚約をしているのにわたくしとキースが真実の愛が芽生えるの。それを邪魔するダイアナは悪役令嬢。ふふ、面白そうでしょう?」

「もう婚約は解消します。そんなことは出来ません」
 ダイアナはまっすぐにわたしを見た。
 そんな姿にイライラする。お義母様のお気に入り、それだけでも気に入らない。

「あら?駄目よ?そんなことしたらわたくしが全てをバラすわ。貴女もキースももう社交界に居られなくなるわよ」

「そんな…」
 

「わたしは別にバラされても大丈夫です」
 キースは平然と答えた。
「でもダイアナがそのことで辛い思いをするのは我慢できません」

「愛がないくせにダイアナを大事にするのね」

「わたくしはいいのよ?貴方達がどんな目に遭おうと関係ないもの。楽しいでしょうねある事ない事言われて。ダイアナはそれじゃなくても父親から見捨てられて社交界にもまともに出してもらえないのに、どんなこと言われるのかしら?」

 ダイアナはどう答えていいのかわからず黙っているようだ。
 
「………わたしは何を言われても大丈夫です、でもキース様は将来がある人です。彼の騎士としての将来を潰したくはありません」

「だったらわたくしとキースが恋仲になることね、そうすればわたくしは誰にも話さないわ」

「わかりました」

「駄目だ、そんなこと了承するな。殿下、そんな無理強いをしても幸せになることなんてありません」

「あら?二人の苦しむ姿が見れるだけで十分幸せだわ」



 それからはキースはわたしのそばで護衛騎士として以上に優しく接してくれる。

「ジャスティア殿下、手を」そう言って常にエスコートしてくれる。彼が休みの日にはわたしと買い物に出かけたりする。
 もちろん他の護衛騎士達も一緒だけどね。

 でも彼が護衛についてくれた時以上に嬉しかった。わたしを見てくれる。わたしを愛してくれる。

 ダイアナなんかよりわたしだけを見てくれた。

 なのに今のわたしは………

 ーーーーーお父様に見捨てられた。

 そして………キースはダイアナのそばへと行ってしまった。



















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