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2章
第34話
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「学園に、こんな場所が……。」
私がライラを連れてきた場所は、学園内にある旧校舎。
今は部屋が物置としてしか使われていないけれど、かつては授業を行っていたそう。十数年前に新しく大きな校舎が建てられた為、この旧校舎は使われなくなったと教師の方から聞いたわ。
私とライラは旧校舎の外側にある階段を上がって行く。この階段は唯一、屋上へと繋がっている。そして出入りも常に自由なのよね。
「わぁ…!」
「綺麗でしょう?」
屋上から見える景色、それは遠くの山に沈む太陽と、眼下に広がる美しい街並みだ。
十数分経つと、完全に日が沈んで街に明かりが灯り始める。いつ見ても綺麗な夜景だった。何も考えたくない時にこの場所へ来るけれど、冷たい風が吹いていて気持ちいいのよね…。
「お義姉様。この場所を教えてくれてありがとうっ。」
「喜んでもらえて良かったわ。また来ましょうね。」
「はいっ!」
きっと、誰かを誘ってまた来るのでしょうね…。申し訳ないけれど、皆には事情を話してここへ来ないように言っておかないと。
そう考えていた時、軽く風が吹き、月明かりに照らされて出来た私の影が揺れた。 彼の合図ね。ならもうこの場所に長居する必要もないわ。
「さて、もうそろそろ帰りましょうか。体が冷えてしまうわ。」
「そうですね。」
私とライラは寮へと向かって歩く。
他愛もない会話をしながら、時折探りを入れていった。
「そういえば、あの耳飾りはどうするの?」
「お義姉様に借りている耳飾りですか?」
「ええ。誰かプレゼントしたい人がいるのなら、あげてしまってもいいのよ?」
「本当ですかっ!?」
「ふふっ。その様子なら、気になる人がいるようね。勿論いいわよ。ライラにはこの髪飾りを貰ったもの。」
魅了魔法の付与された髪飾りに手を当て、魅了されているのだと再度印象付けておく。
ライラの計画がことごとく失敗に終わっている今、次はより周到に計画を練るでしょう。
とはいえ彼女の頭脳なら、1つ行動すれば考えていることが大体分かるわ。だからこそ、想定外のことをされないように注意しなければならない。
まぁ今話している耳飾りは破壊させてもらうのだけれど。
「っ…。ありがとう、お義姉様!」
「でも、相手が誰なのか教えてね?」
「えっと……まっ、まだ内緒です!」
「そう……。それは残念だわ。気が向いたら教えて欲しいわ。楽しみにしているから。」
まだ内緒です……でしょう?これから計画を立てるはずだから、当然よね。
ライラの動向には、いつもより目を光らせておく必要があるでしょう。
寮に着き、ライラと別れた後に自室へと戻った。
影から影獣を呼び出し、耳飾りを受け取る。そしてすぐさま魅了魔法を解いた。
案外簡単に解けたことに驚いたけれど、難しいよりは良いわよね。
次に耳飾り自体を破壊した。それをレイに渡し、跡形もなく消滅してもらう。
少したりとも耳飾りの魔力は残していない。ライラが私を疑ってこの部屋へ来たとしても、気付かれないようにする為ね。
スムーズに耳飾りへの対処が終わり、ゆっくりしていると……
「お義姉様っ!」
「ラ、ライラ…!急にどうしたの?ここは2階よ?」
「耳飾りが……耳飾りが無くなったのです!」
まさか上階へ上がるという禁止された行為を、焦っているとはいえ行ってしまうとは…。
考えが浅はかで信じられないわ。
けれど彼女が本気で焦っているところを見ると、少し安心すると共に滑稽に見えるわ。
「耳飾りが?!…とりあえず落ち着いて。今はライラの部屋に行きましょう。ここに居ては、罰則を受けてしまうわ。」
「は、はい…。」
私はライラの背中を軽く押しながら、1階へと降りる。
「ライラ。耳飾りは何処に置いていたの?」
「この中にしまっていました。ですが帰って来てから見ると無くなっていたのですっ!」
「誰かに盗まれた……としか思えないわね。でもライラを恨んでいる人なんているの?」
「絶対にメリーア様です!」
そう言うと思ったわ。メリーア様から全て聞いているもの。
そもそも耳飾りの犯人は私。メリーア様は何も知らないし、関わっていない。
「メリーア様が?どうして?」
「あの人は私のことをよく思っていないのです。だからこんなことを…。」
「嫌がらせなら、全てのアクセサリーを奪うと思うのだけれど…。それに、メリーア様に耳飾りのことを話していないから、存在すら知らないと思うわよ?」
「そ、そうなのですか?」
「ええ。」
私の的確な指摘に、何も言い返せないようね。
さて、どうやって諦めさせようかしら…。
以前メリーア様から聞いた話によると、アイテムと言われているものは全部で5つあるとのこと。
1つ目はクレスディア殿下に付けたペンダントでしょう。そして2つ目は私の髪飾り。3つ目がドーフェンの前で砕けさせたブレスレット。となると、4つ目が先程消滅させた耳飾りのようね。
今考えると全て違う場所に付けるアクセサリーだから、次は指輪辺りかしら。
それに、メリーア様はもう1つ気になる噂があったと仰っていたわね。
学園内に6つ目のアイテムがあるという噂。真偽はもとより、効果も分からないとの事だけれど、魅了系の魔道具であることに変わりはないでしょう。
既に使われている4つの中に、その1つがあったのかもしれないわね…。
「……と、とにかく!私はあの耳飾りが無いと困るのですっ!」
「………それなら、私が代わりのものを用意するわよ?学園の女性全員が容疑者だなんて、探すのも大変だけれど、疑いたくないもの…。」
少し悩むふりをしてから、そう言ってみたわ。
事実、ライラの妨害をしているのは全て私なのだから、誰かを疑われては申し訳ないもの。
「あの耳飾りでなければいけないのですっ!」
「どうして?あの耳飾りに特別な力でもあったの?」
「そうです!あれには魅了ま……。」
そこまで言って、はっとなるライラ。
魅了魔法がかかっている相手に、『魅了』という言葉をかけると、それがきっかけとなって魔法が解けてしまう場合があるからでしょう。
そして魅了魔法系の魔道具は、一度使った相手には使えない。
ここはどうするべきかしらね…。魅了魔法にかかったふりをするのは面倒だけれど、その分利点はある。ならば……
「どうしたの?」
「……何でもありません。私はもう休むので、お義姉様も戻ってください。」
「耳飾りはいいの…?」
「問題ないですっ。あれはもう諦めますから。」
「そ、そう…。」
聞こえていなかったふりをしたわ。
それが功を奏したのか、頭が冷えたライラは大人しく引き下がる様子。
本当に諦めたかは分からないけれど、私が協力をしなくていいのは嬉しい誤算だったわ。
とりあえず今日は大人しく部屋へと戻り、明日に備えるとしましょう。
私がライラを連れてきた場所は、学園内にある旧校舎。
今は部屋が物置としてしか使われていないけれど、かつては授業を行っていたそう。十数年前に新しく大きな校舎が建てられた為、この旧校舎は使われなくなったと教師の方から聞いたわ。
私とライラは旧校舎の外側にある階段を上がって行く。この階段は唯一、屋上へと繋がっている。そして出入りも常に自由なのよね。
「わぁ…!」
「綺麗でしょう?」
屋上から見える景色、それは遠くの山に沈む太陽と、眼下に広がる美しい街並みだ。
十数分経つと、完全に日が沈んで街に明かりが灯り始める。いつ見ても綺麗な夜景だった。何も考えたくない時にこの場所へ来るけれど、冷たい風が吹いていて気持ちいいのよね…。
「お義姉様。この場所を教えてくれてありがとうっ。」
「喜んでもらえて良かったわ。また来ましょうね。」
「はいっ!」
きっと、誰かを誘ってまた来るのでしょうね…。申し訳ないけれど、皆には事情を話してここへ来ないように言っておかないと。
そう考えていた時、軽く風が吹き、月明かりに照らされて出来た私の影が揺れた。 彼の合図ね。ならもうこの場所に長居する必要もないわ。
「さて、もうそろそろ帰りましょうか。体が冷えてしまうわ。」
「そうですね。」
私とライラは寮へと向かって歩く。
他愛もない会話をしながら、時折探りを入れていった。
「そういえば、あの耳飾りはどうするの?」
「お義姉様に借りている耳飾りですか?」
「ええ。誰かプレゼントしたい人がいるのなら、あげてしまってもいいのよ?」
「本当ですかっ!?」
「ふふっ。その様子なら、気になる人がいるようね。勿論いいわよ。ライラにはこの髪飾りを貰ったもの。」
魅了魔法の付与された髪飾りに手を当て、魅了されているのだと再度印象付けておく。
ライラの計画がことごとく失敗に終わっている今、次はより周到に計画を練るでしょう。
とはいえ彼女の頭脳なら、1つ行動すれば考えていることが大体分かるわ。だからこそ、想定外のことをされないように注意しなければならない。
まぁ今話している耳飾りは破壊させてもらうのだけれど。
「っ…。ありがとう、お義姉様!」
「でも、相手が誰なのか教えてね?」
「えっと……まっ、まだ内緒です!」
「そう……。それは残念だわ。気が向いたら教えて欲しいわ。楽しみにしているから。」
まだ内緒です……でしょう?これから計画を立てるはずだから、当然よね。
ライラの動向には、いつもより目を光らせておく必要があるでしょう。
寮に着き、ライラと別れた後に自室へと戻った。
影から影獣を呼び出し、耳飾りを受け取る。そしてすぐさま魅了魔法を解いた。
案外簡単に解けたことに驚いたけれど、難しいよりは良いわよね。
次に耳飾り自体を破壊した。それをレイに渡し、跡形もなく消滅してもらう。
少したりとも耳飾りの魔力は残していない。ライラが私を疑ってこの部屋へ来たとしても、気付かれないようにする為ね。
スムーズに耳飾りへの対処が終わり、ゆっくりしていると……
「お義姉様っ!」
「ラ、ライラ…!急にどうしたの?ここは2階よ?」
「耳飾りが……耳飾りが無くなったのです!」
まさか上階へ上がるという禁止された行為を、焦っているとはいえ行ってしまうとは…。
考えが浅はかで信じられないわ。
けれど彼女が本気で焦っているところを見ると、少し安心すると共に滑稽に見えるわ。
「耳飾りが?!…とりあえず落ち着いて。今はライラの部屋に行きましょう。ここに居ては、罰則を受けてしまうわ。」
「は、はい…。」
私はライラの背中を軽く押しながら、1階へと降りる。
「ライラ。耳飾りは何処に置いていたの?」
「この中にしまっていました。ですが帰って来てから見ると無くなっていたのですっ!」
「誰かに盗まれた……としか思えないわね。でもライラを恨んでいる人なんているの?」
「絶対にメリーア様です!」
そう言うと思ったわ。メリーア様から全て聞いているもの。
そもそも耳飾りの犯人は私。メリーア様は何も知らないし、関わっていない。
「メリーア様が?どうして?」
「あの人は私のことをよく思っていないのです。だからこんなことを…。」
「嫌がらせなら、全てのアクセサリーを奪うと思うのだけれど…。それに、メリーア様に耳飾りのことを話していないから、存在すら知らないと思うわよ?」
「そ、そうなのですか?」
「ええ。」
私の的確な指摘に、何も言い返せないようね。
さて、どうやって諦めさせようかしら…。
以前メリーア様から聞いた話によると、アイテムと言われているものは全部で5つあるとのこと。
1つ目はクレスディア殿下に付けたペンダントでしょう。そして2つ目は私の髪飾り。3つ目がドーフェンの前で砕けさせたブレスレット。となると、4つ目が先程消滅させた耳飾りのようね。
今考えると全て違う場所に付けるアクセサリーだから、次は指輪辺りかしら。
それに、メリーア様はもう1つ気になる噂があったと仰っていたわね。
学園内に6つ目のアイテムがあるという噂。真偽はもとより、効果も分からないとの事だけれど、魅了系の魔道具であることに変わりはないでしょう。
既に使われている4つの中に、その1つがあったのかもしれないわね…。
「……と、とにかく!私はあの耳飾りが無いと困るのですっ!」
「………それなら、私が代わりのものを用意するわよ?学園の女性全員が容疑者だなんて、探すのも大変だけれど、疑いたくないもの…。」
少し悩むふりをしてから、そう言ってみたわ。
事実、ライラの妨害をしているのは全て私なのだから、誰かを疑われては申し訳ないもの。
「あの耳飾りでなければいけないのですっ!」
「どうして?あの耳飾りに特別な力でもあったの?」
「そうです!あれには魅了ま……。」
そこまで言って、はっとなるライラ。
魅了魔法がかかっている相手に、『魅了』という言葉をかけると、それがきっかけとなって魔法が解けてしまう場合があるからでしょう。
そして魅了魔法系の魔道具は、一度使った相手には使えない。
ここはどうするべきかしらね…。魅了魔法にかかったふりをするのは面倒だけれど、その分利点はある。ならば……
「どうしたの?」
「……何でもありません。私はもう休むので、お義姉様も戻ってください。」
「耳飾りはいいの…?」
「問題ないですっ。あれはもう諦めますから。」
「そ、そう…。」
聞こえていなかったふりをしたわ。
それが功を奏したのか、頭が冷えたライラは大人しく引き下がる様子。
本当に諦めたかは分からないけれど、私が協力をしなくていいのは嬉しい誤算だったわ。
とりあえず今日は大人しく部屋へと戻り、明日に備えるとしましょう。
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