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2章

第48話

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※ゼルヴィーサ視点


へレアとの婚約が確定し、自分の意思も伝えられました…。今はそれだけで満足ですね。
ですがこれからが大事な場面です。
婚約した翌日である今日、クレスディアと共に陛下へ謁見する時が来ました。上手くいくと良いのですがね…。


「2人とも、よく来たな。そこにかけると良い。」


謁見の間にて話をするのかと思っていましたが、呼び出されたのは陛下の書斎でした。
室内には陛下とクレスディア、そして私の3人しか居らず、明らかに人払いをしているかのような空気感ですね。
既に全てを知っていそうですよ。
人払いを済ませているのは、きっとへレアについてを不用意に貴族達へ知られないようにする為でしょう。


「今は3人のみ…。楽にしてくれて構わない。まずはクレスディアよ。」
「はい。」
「身体はもう大丈夫なのか?」
「はい。何も問題はありません。ご心配をおかけしました。」
「ならばよい。早速本題に入るとしよう。ある程度報告は受けているが、当事者であるお前達から話を聞きたい。」


陛下に促され、クレスディアが真実を話し始めたので、私は補足程度に話しました。陛下は手を顎に当て、考えるような仕草をしつつ話を聞かれていましたね。
何を考えておられるのか…。私には分かりませんが、今出来ることをするだけです。


「一先ず、へレア・セルティラスには監視を付けねばならんな。」
「おそれながら、その必要はないかと。」
「ゼルヴィーサ…、何故そう思う?」
「昨日、へレア・セルティラスと婚約致しました。ですので監視は私自身が行います。そして彼女が問題を起こした場合、全ての責任は私が取ります。」
「……ほう?」


陛下は私の意図に気付いた様子ですね。
これは遠回しに『監視はするな』、そう言っているのと同じことです。闇魔法の使い手に
監視を付けないなど、有り得ないことでしょう。たとえ全ての責任を取るとしても…。
ですがここでベレンア公爵家の名が役に立ちます。王家の信頼が最も厚い我が公爵家、その長子である私の婚約者となれぱ、現公爵家当主である父上が婚約を認めたということ。つまりは国家反逆の意思が無いことを証明しているも同然なのです。


「良かろう。ただし1ヶ月間は監視を付ける。その間に少しでも不審な動きを見せれば……、分かっているな?」
「承知しました。感謝致します…。」


何をもって『不審な行為』とみなされるかは分かりませんが、正義感の強い彼女ならば問題はないでしょう。
人を助けこそすれど、傷付けるような真似はしないはず。少なくとも私はそう信じています。


「残るは闇魔法使いであることを隠蔽してきたセルティラス伯爵家に、どのような罰を下すかだが……。」
「父上。私からお願いがあります。」
「…聞こう。」


報告しなければならないと定められている重要事項を報告しなかった場合、何故しなかったのか理由を問われ、回答次第では処刑も有り得ます。今回はそうならないと思いますがね。
クレスディアは罰が軽く済むようにしたいと考えています。無論、それは私も同じです。


「伯爵がこの事実を隠蔽してきたのは、へレアに不便な思いをして欲しくないという親としての想いからだと聞いています。もし闇魔法使いが他の貴族だった場合でも、同じようにしていたかもしれません。
そして彼女自身、闇魔法で誰かを傷付けたことなどなく、寧ろ私やゼルヴィーサ、ドーフェンにメリーアを守ってくれました。伯爵含め、へレア達に悪意がないことは明白です。ですので……」
「箝口令を敷く。」
「「……え…?」」


唐突な陛下のお言葉に、私とクレスディアは目を見開いて小さな声を出していました。驚きを隠せなかったのですよ。
そして続く内容に、より驚きましたね。


「へレア・セルティラスが闇魔法使いであることを知っている者に対し、箝口令を敷こう。そしてへレア自身にも、なるべく闇魔法は使わないように言っておく。」
「…!」


箝口令が敷かれれば、へレアが闇魔法使いであることは知られずに済みます。そのおかげで闇魔法使いへの監視を求める声なども防ぐことが出来るでしょう。つまりは貴族達に対し知られる前に隠蔽してしまおうという陛下のお考えですね。
それでは当然……


「故に、伯爵家に罰は与えない。そうしてしまえば、他の貴族達に知られてしまうからな。」


予想外の陛下のご決定に、驚いてはいましたが嬉しさが勝りましたよ。
貴族に罰を与える場合、必ず罪状と名を公にしなければなりません。へレアについてを隠蔽するのであれば、罰を与えることも不可能となるのです。
しかし何故こうも簡単に…。


「クレスディア、お前の気持ちはわかっているつもりだ。そして余も同じ気持ちでいる。我が子を守ってくれていた恩人に、仇を返す訳にはいかないだろう?」


優しく、そして威厳ある微笑みをクレスディアに向けられた陛下。その表情は、国王と言うより父親の顔ですね。
恩には恩を、仇には仇を、そういう考え方なのでしょう。
へレアのことは、公爵以上の一部貴族には知られています。故に彼らへの説明は必須。
罰を与えない理由を、王太子を守ったことによる功績で罪を相殺した、ということにするつもりでしょうね。たとえ貴族達が納得しない場合でも、ベレンア公爵家が圧力をかけることも出来ますから…。まぁそれは最終手段ですがね。


「感謝します、父上。」
「とはいえ、だ。実際にへレアを含めセルティラス伯と話をしてから、最終決定を下すとしよう。親として子を想うことと、人となりというのは別物だからな。」


セルティラス伯爵家への対応が軽いものになりそうでほっとしました。
へレアは1ヶ月間の監視、伯爵家自体はお咎め無しも同然という結果です。

私とクレスディアは再度陛下に感謝の意を述べ、書斎を退室しました。


「クレス、ありがとうございます。」
「それはこちらの台詞さ。レアの為に動いてくれて感謝するよ。私1人では父上を納得させられない部分があったからね。と言っても、父上は初めからこうするつもりだったのだろうけど。」


クレスディアの言う通り、陛下は初めから罪を問うつもりはなかったとも思えますね。
褒美を与えるほどの功績をあえて罪と相殺させた…。それだけで、闇魔法に関する全ての事への隠蔽が有効化しています。
そして陛下と公爵家がこれらの事を決めたとなれば、他の貴族達に知られた場合でも何も言えませんから。


「それにしても、まさかゼルがレアを婚約者にするとはね…。そんな素振りは見せていなかったのに。友人としては嬉しい限りだけど、今は驚きの方が勝っているよ…。」


皆さん、私が婚約することがかなり意外なようですね。
そういえば父上にすら驚かれましたっけ……。
確かに恋愛事には疎いですが、私も人間なので恋くらいしても普通だと思うのですがね…。


「似たようなことをレアにも言われましたよ…。」
「あはは…、そうだろうね。ゼルは良く言えばポーカーフェイスが上手いけど、悪く言えば表情があまり変わらないからな…。子供の頃は感情が無いのかと思ったこともあった。」
「それほどですか?」
「今はだいぶマシになった方だと思うよ?笑顔は不気味だけどね…。」


魔法以外はどうでも良いと考えてきたので、興味の無い事柄には心底つまらないと感じてしまうのですよね。
貴族として演技することも大切だと教わったので、なるべく笑顔を取り繕っているのですが…。クレスディアから『不気味』と言われてしまうとは、少し悲しいですね。元々表情を作るのが苦手なので、傷付きはしませんが。

一先ず、良い結果に終わってなによりです。
出来る限りのことはしたので、後はへレアとセルティラス伯爵次第ですね…。
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