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生まれつき、私の目は紫色だった。
しかしこの世界では、紫の瞳を持つのは魔族のみ。
魔族は人族に忌み嫌われている種族であり、人族どうしの子供が紫の瞳を持って生まれたことなど、前例がなかった。

紫の瞳に赤い髪。

この容姿が原因で、15歳の誕生日の日、私は実家であるヘリューア侯爵を追放された。


「ユイレ、お前をヘリューア侯爵家から追放する!」

「えっ…。」

「この日をどれだけ待ちわびたか…。お前が生まれたことは、領民の誰もが知っている。しかし姿を見せたことはない。何故だか分かるか?」

「……。」

「魔族と同じ、忌々しい紫色の瞳だからだ!侯爵家の娘が魔族と同じ瞳を持つと悪評を立てられては困る。」

「ごめんね……。生まれた瞬間に捨てようと言われたのだけれど、せめて大人になってからにしようってお願いしたの。あなたは大切な娘だもの。でもこれ以上は無理なの……本当にごめんなさいね…。」

「ふん!謝る必要などないだろう。私は今でも、赤子のうちに捨てておくべきだったと思っているぞ。」


私に手を上げるお父様とは違い、お母様はいつも優しくしてくれた。
私が今まで侯爵家に居られたのは、全てお母様のおかげだったのだと理解した瞬間だった…。

強制的に馬車に乗せられ、着いた先は見知らぬ森。 
連れてきた人は、申し訳なさそうな顔をしている。
彼はお父様の側近だ。
しかし、目を合わせようとはしなかった。
頭を下げ、謝罪の言葉を口にする。


「お嬢様、申し訳ありません…。これも侯爵様の密命ですので……。」

「分かっているわ。でも一つだけ聞かせてほしいの。」

「何でしょうか?」

「私の種族は人族。でも瞳の色が魔族と同じという理由だけで忌み嫌われた。お母様以外は、誰も目を合わせてくれようとしない。そして最後には追放され、こんな見知らぬ森に放置される…。そんな私を、貴方はどう思う?」

「……。」

「貴方が思うことを、そのまま私に伝えて。私の容姿を他人がどう思っているのか、それが聞きたいだけよ。」

「そう…ですね……。失礼を承知で正直に申し上げると、皆はお嬢様が怖いのです。それは私も含めて…。お嬢様が優しいことは、皆が理解しております。しかし、その瞳を見るだけで恐怖を感じ、何かされるのではないかという思いから、目を合わせることができません……。」

「そう……。確かに皆は下の方を見て、私の目を見ていない時は普通に接してくれるのだけれど、目を見た瞬間に怯えた表情になっていたわね…。」

「幼き頃の話も関係しております。」

「幼き頃の話?」

「はい…。お嬢様の部屋からかなり遠く離れた部屋で起きたことを、メイドに向かって話したそうです。しかしお嬢様が見ていたはずもなく、『壁をすり抜けて遠くを見る《魔眼》のようなものを持っているのではないか』。そのような話を、侯爵家の者は皆知っているのです。」

「そのせいでより私は忌み嫌われた……というより、怖がられたのね。」

「……。」


私には、物心ついた時から不思議な力があった。
一定の範囲なら、見たいと思える場所を見ることが出来るのだ。
壁があっても関係なく見ることができ、『魔眼のようなものを持っているのではないか』という話は、事実だった。
幼かった私は、驚かせたくてメイドに見たことを話してしまった。
それがより自分の首を絞めることになるとは知らずに…。


「話してくれてありがとう。最後に、お父様へ伝言を頼むわ。『私とは、今後一切関わらないで。』とね。」

「お言葉、侯爵様にお伝えしておきます。ではお元気で。」

「ええ。」


魔物が出てきたら、私は一瞬で殺されてしまう。
剣もなければ、魔法の使い方も分からない。
お父様……侯爵は私を消したいのだろう。
森の中など、死んでいても分からないのだが。

ひとまず食べ物を探そうと歩き始めた。
木の実などを見つけては、食べる。
侯爵家では、侯爵がいる時は腐ったものを適当に調理された料理が用意されていた。
それが私の日常であり、はじめこそ吐いたりお腹を壊したりしたが、今となっては慣れていた。
そのおかげか、森の実りは何を食べても体に異常はおきなかった。

数時間が経っただろうか。
かなり森の奥まで歩いた気がしていた。
そんな時、すぐ近くで動物の遠吠えが聞こえた。
熊のようだ。
目の能力を使ってその方角を見ると、そこにいたのは動物ではなかった。

魔物だ。

それを理解したと同時に、魔物は私の方を見た。
目で見たというより、魔力で私に気づいたのだろう。
恐怖から私は逃げ出した。
私の足の速さなどたかが知れているが、必死に走る。
しかし足場の悪い森なので、転けてしまった。

魔物に追いつかれ、長い爪のついた手が私に振り下ろされる。


(もう……私の人生は終わりなのね…。)


死を受け入れる覚悟をし、私は目を瞑った。
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