夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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6 逡巡

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「……だから何を目指してるのか分からないから……」
「世の中の好き合ってる男女が普通にしてることをハルさんとしたい」
「俺ノンケだよ、ショウさんとは友達以上になれないのに」

 晴也は必死で否定する。もうやめてくれ、からかっていないなら余計に苦しい。自分だってどうしたいのかわからないのに、晶は追い打ちをかけて来る。

「それでも構わない、でも俺ハルさんが100パーノンケだと思えないんだけど」

 晴也は後ろから頭を殴られたような気がした。数時間前にそんなことを考えていたこともあり、気持ちが乱れた。

「何だよそれ! 勝手にそんなこと決めるなよ! 何の根拠があって」
「ゲイの勘」
「そんなもん当てになるかよ」
「ハルさんはきっと性別関係なく人に沢山の愛情を注げる人だ、俺はいつもそういう人に惹かれるからたぶん間違ってない……その有り余る愛情を俺にちょっと分けて欲しい」

 晴也ははなはだしく買いかぶられたことにあ然として、目の前の整った顔を見つめる。思い込みが激しくて、欲しいものは絶対に手に入れたい男。おそらくこいつは、自分の理想を俺におっかぶせてるか、自分の作り上げた俺ではない偶像に恋をしているのだ。

「……もういい、話にならない」

 晴也は空になった2つのマグカップを回収して、キッチンの小さなシンクに置いた。

「どうして話にならないんだよ、ちゃんと話をしてくれないのはハルさんじゃないか」

 晶は立ち上がり、キッチンに入ってきた。1DKに男が2人いるというだけで、何やら狭苦しい。晴也はマグカップを洗いながら、晶を見上げた。

「タクシー呼ぶから」

 彼は珍しくむっとした。晴也はぎくりとする。怒らせるようなことを言っているのに、怒りを向けられるのは悲しい気がする。

「帰らない」
「警察呼ぶぞ」
「呼べばいい、あなたが俺を招いたって防犯カメラを見たら誰でもわかる」

 勝手にしろ。晴也は水を止めて手を拭くと、無言で晶の傍をすり抜けた。箪笥の引き出しを開けて、バスタオルとタオルを出し、テーブルの上に放り投げた。晶は目をまたたく。

「泊めてくれるの?」
「帰らないんだろ、とっとと風呂入って寝ろよ、俺も眠い」

 晴也は疲れを覚え、淡々と言った。ネクタイを外して歩きながらワイシャツを脱ぎ、寝間着にしているスウェットを頭からかぶる。
 ズボンもはき替え、脱いだスラックスをハンガーにかけていると、晴也からタオルを受け取った晶は、リビングに置いていた鞄を開けた。着替えらしき服と歯ブラシの入ったポーチを出したのを見て、晴也は驚き、彼を責め立てた。

「何だよおまえ、最初から泊まるつもりで来たのかよ!」

 晶はちょっと笑って、まあね、と軽薄に答えた。晴也はかっとなり、彼の肩に手をかけた。

「そういう態度が俺をからかって馬鹿にしてるっていうんだ」
「ありとあらゆる可能性を考えて用意してるだけだよ」

 晶は口許に笑いをたたえながら言った。晴也は奥歯を噛み締める。

「ハルさんが自意識過剰なんじゃない?」

 ぷつんと何かが切れて、思わず右手を振り上げる。こいつはどこまで人の神経を逆撫でしたら気が済むのか。
 晶の顔を目掛けて振り下ろした手は、敢えなく止められた。晴也は彼を睨みつけたが、掴まれた手を引かれてバランスを崩した。

「……っ!」

 気がつくと、座っている晶の腕の中に取り込まれてしまっていた。晴也は膝立ちの姿勢のまま暴れたが、背中に回された腕はびくともしない。

「離せ、馬鹿! ぶっ殺し……」
「はいはい、そんな物騒な言葉を使ったらお隣に聞こえて通報されるから」
「黙れっ、離せっ」

 晴也は赤面していることを自覚した。どうしてなんだろう、めちゃくちゃ腹立たしいのに、晶の身体が温かくて気持ちいい。昨夜山形に同じようにされた時は、あんなに不愉快で恐ろしかったのに。

「どうしてハルさんはいつも俺の言うことにそんなに腹を立てるんだ、基本的に可愛いけどたまに傷つく」
「可愛いとか言うなっ!」

 晴也は無駄な抵抗を自覚しつつ言う。

「おまえがいっつも俺の都合を無視してちょっかい出して来るから、振り回されて疲れるんだよっ」

 晶は腕を緩めるどころか、ますます晴也の身体を締め上げてきた。
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