夜は異世界で舞う

穂祥 舞

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7 萌芽

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 ナツミは晶と話せて上機嫌だった。明日は朝一番から就職セミナーがあると言って彼が急いで帰ると、ママも着替えるべく暖簾の奥に入って来た。

「やまりんの一件は俺からもショウさんにお礼を言っておいた、体調が良くなかったんだって?」

 晴也はママに礼を言い、晶が風邪をひいたらしいことを伝えた。俺のせいだ……晴也は思う。助けてもらった日から、晶に無理をさせている。駅からマンションまで送るためだけに来てくれた夜に、彼がくしゃみをしていたことを思い出す。あの時、晴也の小さなベッドでろくに眠れなかったのではないだろうか。やはりタクシーで帰すべきだった。

「……ハルちゃん、ショウと何かあっただろ?」

 美智生はクレンジングシートで口紅を落としてから、言った。晴也はスカートをスラックスに履き替えながら、ぎょっとする。

「ミチルさんの期待してるようなことは何も無いです」
「本当か? 何か二人の間の空気感が変わった気がするんだけどな」

 美智生が探る視線を晴也に送ってくる。ママまで追求してきた。

「あ、俺もちょっと感じたわ」
「気のせいです」
「少なくともショウさんはハルちゃんしか眼中に無いな……ナツミはショウさんと話す時間が持てて嬉しがってたけど、ショウさん全然あの子にそういう興味無いのが分かる」

 ママの言葉に、晴也はむず痒くなる。ナツミと晶はそこそこ盛り上がっているようにも見えたのだが。こういう時は、どんな反応をすればいいのだろう?

「あの、それは……ゲイでないとわからないやつなんですか?」

 晴也の小さな問いに、ママが笑う。

「いや、ゲイでなくてもわかるだろ、あれは」
「わかるわかる……で? 何があった?」

 美智生の追求が止みそうにないので、晴也は半分答えることにした。

「あの次の日、駅からマンションまでボディガードをしてくれました」

 ママと美智生は目を丸くする。晴也は必死で半ば言い訳めいた説明をした。そのまま帰すのはあまりにどうかと思ったので、部屋でコーヒーを飲ませた。そして……タクシーを呼んで帰ってもらった。

「尽くすねぇ」
「可愛いことするな、しかも帰るんだ……俺だったら強引に泊まっていただきますだな」

 ゲイたちは忍び笑いを洩らす。いや、晶は強引に泊まったのだが……食われてはいない、さすがママは肉食バリタチだ。

「まあ2日続けてお互いの部屋で語らえば嫌でもいい雰囲気になるよ、結構結構」

 晴也は赤面しそうになって俯いた。美智生が念押しするように言った。

「体調どうだって気遣ってやれよ、喜ぶぞ」

 何なんだこれ、めぎつね公認の交際かよ。晴也はどうも外堀を埋められているような気がしてならなかったが、不愉快だからやめてくれと言う気には残念ながらならなかった。
 山形の事件が、晴也の晶への気持ちがどのようなものなのかを、ある程度明確にしてしまったのは皮肉だった。山形には同情している。しかしやはり今日彼がめぎつねにやって来たことで、嫌な感じに気持ちが乱された。あの夜の接触は思い出すと未だにぞっとする。なのに晶が店に顔を出してくれるとやんわりと嬉しいし、彼に触れられても、彼が指摘した通り、決して嫌ではない。勝手なものだと思う。
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