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12 憂惧
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カチッと音がして、晴也は淡く目を覚ます。タイマーをセットしておいたエアコンのスイッチが入ったのだろう。寒さに目覚めずぐっすり眠れたのは、自分以外の温もりのおかげだ。見慣れた天井から視界を右手に移すと、黒い髪の大天使――学生時代に教えてもらったことを晴也は思い出したのだが、神さまに近いところにいる4人の天使の中には、雄々しい容姿のものもいるとか――が安らかな寝息を立てていた。
晶の寝顔を見ながら、晴也は素直に幸福感に身を委ねる。この男への気持ちが形を作り、自分の中に根づいてきている自覚が、彼に全幅の信頼を寄せてしまいたい気持ちを芽吹かせていた。
人は他人を守ることはできない。でも守ると言ってくれる晶を信じてみたいし、自分だって晶を誰からも傷つけさせたくないと思っている。……愚かしいことだが、そうしたいという思いが強過ぎて、もうコントロールできない。疲れさえかき消してしまう高揚感は、きっと覚醒剤を摂取している状態に似ているに違いないと思う。
自分の右腕に触れている晶の手を、そっと左手で包んでみる。晴也よりも少し大きく、晴也よりもずっと沢山のものを掴んできた手。独りで眠るのが当たり前のベッドに、他人がいる不思議を同時に感じた。
ずっと握っていてもいいのだろうか。晶の手の甲の温もりと、微かに鼻腔をくすぐる肌の匂いが心地良い。エアコンが動き出す音がして、晶の瞼が動いた。晴也は手を離そうとしたが、すばやく掴まれてしまった。
「……このまま……」
晶は黒い瞳を半分覗かせて、言った。晴也の頬が熱くなる。
「……もう朝?」
「えっと、7時にタイマー合わせた」
晶は休みの日でもきちんと起きる人なので、彼の起床時間に合わせた。しかし今朝は部屋がまだ薄暗いせいか、起きる気がない様子だ。閉じてしまった晶の瞼を見ながら、晴也は雪が積もっているのかが気になった。
晶の手は温かい。まだ眠いのだろう。ようやくほんのりと部屋が暖かくなってきたのを感じつつ、晴也も目を閉じる。今朝は素っ裸になっている訳でもないので、落ち着いてうたた寝ができた。
とろとろと眠る中で、親指のむず痒さが晴也の神経を撫でた。そこにゆるゆると意識を向けると、湿った感触があった。熱を持ったものが、親指をじわりと包み込む。……何だこれ? 晴也は違和感にゆっくり瞼を持ち上げて、声を上げそうになった。左手の親指が、晶の口の中にすっぽり入っていた。
思わず手を引こうとすると、晶が両手で手首を掴んだ。そして晴也の親指を吸い始める。半目になった晶は、指を吸う癖が抜けない子どものように、夢中で晴也の指と戯れていて、第一関節の辺りを舌の先で撫でられた晴也は、意外な気持ち良さに腕に鳥肌を立てた。理性を振り絞って言う。
「ちょ……何やってんだよショウさん!」
晶の寝顔を見ながら、晴也は素直に幸福感に身を委ねる。この男への気持ちが形を作り、自分の中に根づいてきている自覚が、彼に全幅の信頼を寄せてしまいたい気持ちを芽吹かせていた。
人は他人を守ることはできない。でも守ると言ってくれる晶を信じてみたいし、自分だって晶を誰からも傷つけさせたくないと思っている。……愚かしいことだが、そうしたいという思いが強過ぎて、もうコントロールできない。疲れさえかき消してしまう高揚感は、きっと覚醒剤を摂取している状態に似ているに違いないと思う。
自分の右腕に触れている晶の手を、そっと左手で包んでみる。晴也よりも少し大きく、晴也よりもずっと沢山のものを掴んできた手。独りで眠るのが当たり前のベッドに、他人がいる不思議を同時に感じた。
ずっと握っていてもいいのだろうか。晶の手の甲の温もりと、微かに鼻腔をくすぐる肌の匂いが心地良い。エアコンが動き出す音がして、晶の瞼が動いた。晴也は手を離そうとしたが、すばやく掴まれてしまった。
「……このまま……」
晶は黒い瞳を半分覗かせて、言った。晴也の頬が熱くなる。
「……もう朝?」
「えっと、7時にタイマー合わせた」
晶は休みの日でもきちんと起きる人なので、彼の起床時間に合わせた。しかし今朝は部屋がまだ薄暗いせいか、起きる気がない様子だ。閉じてしまった晶の瞼を見ながら、晴也は雪が積もっているのかが気になった。
晶の手は温かい。まだ眠いのだろう。ようやくほんのりと部屋が暖かくなってきたのを感じつつ、晴也も目を閉じる。今朝は素っ裸になっている訳でもないので、落ち着いてうたた寝ができた。
とろとろと眠る中で、親指のむず痒さが晴也の神経を撫でた。そこにゆるゆると意識を向けると、湿った感触があった。熱を持ったものが、親指をじわりと包み込む。……何だこれ? 晴也は違和感にゆっくり瞼を持ち上げて、声を上げそうになった。左手の親指が、晶の口の中にすっぽり入っていた。
思わず手を引こうとすると、晶が両手で手首を掴んだ。そして晴也の親指を吸い始める。半目になった晶は、指を吸う癖が抜けない子どものように、夢中で晴也の指と戯れていて、第一関節の辺りを舌の先で撫でられた晴也は、意外な気持ち良さに腕に鳥肌を立てた。理性を振り絞って言う。
「ちょ……何やってんだよショウさん!」
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