24 / 237
第1章 幼馴染編
23、そんなに心配したの? (2)
しおりを挟む係のお姉さんは、子供が誘拐された場合には髪型や髪の色、服装が変わっている場合があるので、まずは靴を見て欲しいと言った。
良くあるパターンとして、犯人は2人かそれ以上のグループで行動していて、目ぼしい子を見つけると口を塞いで、あっという間に障害者用の個室に連れ込んでしまうという。
そこであらかじめ用意してあったシャツを洋服の上から着させ、髪の毛はハサミで切ったりスプレーで色を変え、あとは目深に帽子を被せれば別人の出来上がりだ。
そのまま抱いて外に出れば、もしも途中で泣き出したとしても、機嫌の悪い子供をあやす親の体でいればいい。
パークで泣いてる子供なんて珍しくないし、周りもたいして気にかけない。
だけど、どうしても誤魔化しきれないものがある。
それは靴だ。
洋服や帽子は大きめのものを用意しておけばいいけれど、子供の靴だけはあらかじめピッタリの物を用意しておくのは難しいし、裸足だと目立ってしまう。
「だから靴だけは履いてたそのままの場合が多いんです。だからまず、靴を見て下さい。そして見覚えがあると思ったら、顔を良く見てみてください。『この子だ』と思ったらすぐに教えて下さい」
そう言われて、世の中にはそこまでして人を攫おうとする人間がいるのかとゾッとした。
出来ればそんな奴らにたっくんが捕まっていませんように……どこかから笑顔でひょっこり戻ってきてくれますように……。
そう心から願いながら、息を潜めて小窓からゲートを注視する。
10分経過 …… 来ない。
15分…… まだ来ない。
20分…… 違う。青い靴だけどたっくんのじゃない。
「お母さん、たっくんが来ない! 」
「しっ! 小夏、黙って見てなさい! 」
母も徐々にイラついてきている。
28分経過 …… ゲートに来たのは一見普通の親子連れ。
子供は父親らしい人に抱かれぐっすり眠っていて、母親はその隣に寄り添っている。
そして、その子供が履いていたのは……
「たっくんの靴! 」
父親に抱かれて眠っているのは、黄色いダボっとしたTシャツに黒い野球帽、濡れたように黒い髪の男の子。
だけどその見慣れた青いスニーカーは…… 整った顔は、紛れもなく私が大好きな……
「たっくん! 」
私のその声を合図に、どこからか警備員のような人が3人飛び出してきて、2人が両側から夫婦らしい2人を囲み、1人がたっくんを抱きかかえて保護した。
母と私はブースの中から飛び出して、 たっくんの顔を覗き込む。
「拓巳くん!」
「たっくん! 」
私たちの声にたっくんは軽く眉をしかめたけれど、目を開けようとはしなかった。
「たっくん! ……お母さん、どうしよう、たっくんが起きない! 」
「小夏、大丈夫だから…… 」
何が大丈夫なの?!
たっくんは悪い人たちに捕まっていた。
髪の毛の色を変えられて、誰か知らない人の子供みたいに扱われて、つい今しがた、目の前で何処かに連れ去られようとしていたのに。
こんなに近くで名前を呼んでも目を覚まさないのに。
あの綺麗なガラス玉みたいな瞳を二度と見れないんじゃないか……。
そう考えると絶望的な気持ちになって膝がガクガク震えだし、私は必死で母の腕にしがみついた。
何処からかサイレンの音が聞こえてきたと思ったら、あっという間に大きくなって、救急車が目の前で止まった。
救急隊の人がたっくんをストレッチャーに寝させて固定する。
「ご家族の方ですか? 一緒に来てください」
たっくんの乗ったストレッチャーに続いて、母と私も後ろから乗り込む。
目の前に横たわるたっくんは、ただでさえ白い肌がいつも以上に真っ白で、唇も色が無くて蝋人形みたいだった。
たっくんが息をしてるか心配で思わず鼻先に手を当てて確かめたら、母に「小夏、 勝手なことをしないの!」と叱られた。
「お母さん、どうしよう。たっくんが息をしてない! 死んじゃうよ! 」
「お嬢ちゃん、大丈夫だよ。浅いけどちゃんと息をしてるし、バイタルも安定してるから」
救急隊員のおじさんにそう言われてもやっぱり私は心配で、血の気の引いた、それでもやっぱり綺麗なその顔を、ひたすらジッと見つめていた。
生まれて初めて乗った救急車は、狭くてガタガタ揺れて、少し薬っぽい匂いがした。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ヤクザに医官はおりません
ユーリ(佐伯瑠璃)
ライト文芸
彼は私の知らない組織の人間でした
会社の飲み会の隣の席のグループが怪しい。
シャバだの、残弾なしだの、会話が物騒すぎる。刈り上げ、角刈り、丸刈り、眉毛シャキーン。
無駄にムキムキした体に、堅い言葉遣い。
反社会組織の集まりか!
ヤ◯ザに見初められたら逃げられない?
勘違いから始まる異文化交流のお話です。
※もちろんフィクションです。
小説家になろう、カクヨムに投稿しています。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる