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第1章 幼馴染編
23、そんなに心配したの? (2)
しおりを挟む係のお姉さんは、子供が誘拐された場合には髪型や髪の色、服装が変わっている場合があるので、まずは靴を見て欲しいと言った。
良くあるパターンとして、犯人は2人かそれ以上のグループで行動していて、目ぼしい子を見つけると口を塞いで、あっという間に障害者用の個室に連れ込んでしまうという。
そこであらかじめ用意してあったシャツを洋服の上から着させ、髪の毛はハサミで切ったりスプレーで色を変え、あとは目深に帽子を被せれば別人の出来上がりだ。
そのまま抱いて外に出れば、もしも途中で泣き出したとしても、機嫌の悪い子供をあやす親の体でいればいい。
パークで泣いてる子供なんて珍しくないし、周りもたいして気にかけない。
だけど、どうしても誤魔化しきれないものがある。
それは靴だ。
洋服や帽子は大きめのものを用意しておけばいいけれど、子供の靴だけはあらかじめピッタリの物を用意しておくのは難しいし、裸足だと目立ってしまう。
「だから靴だけは履いてたそのままの場合が多いんです。だからまず、靴を見て下さい。そして見覚えがあると思ったら、顔を良く見てみてください。『この子だ』と思ったらすぐに教えて下さい」
そう言われて、世の中にはそこまでして人を攫おうとする人間がいるのかとゾッとした。
出来ればそんな奴らにたっくんが捕まっていませんように……どこかから笑顔でひょっこり戻ってきてくれますように……。
そう心から願いながら、息を潜めて小窓からゲートを注視する。
10分経過 …… 来ない。
15分…… まだ来ない。
20分…… 違う。青い靴だけどたっくんのじゃない。
「お母さん、たっくんが来ない! 」
「しっ! 小夏、黙って見てなさい! 」
母も徐々にイラついてきている。
28分経過 …… ゲートに来たのは一見普通の親子連れ。
子供は父親らしい人に抱かれぐっすり眠っていて、母親はその隣に寄り添っている。
そして、その子供が履いていたのは……
「たっくんの靴! 」
父親に抱かれて眠っているのは、黄色いダボっとしたTシャツに黒い野球帽、濡れたように黒い髪の男の子。
だけどその見慣れた青いスニーカーは…… 整った顔は、紛れもなく私が大好きな……
「たっくん! 」
私のその声を合図に、どこからか警備員のような人が3人飛び出してきて、2人が両側から夫婦らしい2人を囲み、1人がたっくんを抱きかかえて保護した。
母と私はブースの中から飛び出して、 たっくんの顔を覗き込む。
「拓巳くん!」
「たっくん! 」
私たちの声にたっくんは軽く眉をしかめたけれど、目を開けようとはしなかった。
「たっくん! ……お母さん、どうしよう、たっくんが起きない! 」
「小夏、大丈夫だから…… 」
何が大丈夫なの?!
たっくんは悪い人たちに捕まっていた。
髪の毛の色を変えられて、誰か知らない人の子供みたいに扱われて、つい今しがた、目の前で何処かに連れ去られようとしていたのに。
こんなに近くで名前を呼んでも目を覚まさないのに。
あの綺麗なガラス玉みたいな瞳を二度と見れないんじゃないか……。
そう考えると絶望的な気持ちになって膝がガクガク震えだし、私は必死で母の腕にしがみついた。
何処からかサイレンの音が聞こえてきたと思ったら、あっという間に大きくなって、救急車が目の前で止まった。
救急隊の人がたっくんをストレッチャーに寝させて固定する。
「ご家族の方ですか? 一緒に来てください」
たっくんの乗ったストレッチャーに続いて、母と私も後ろから乗り込む。
目の前に横たわるたっくんは、ただでさえ白い肌がいつも以上に真っ白で、唇も色が無くて蝋人形みたいだった。
たっくんが息をしてるか心配で思わず鼻先に手を当てて確かめたら、母に「小夏、 勝手なことをしないの!」と叱られた。
「お母さん、どうしよう。たっくんが息をしてない! 死んじゃうよ! 」
「お嬢ちゃん、大丈夫だよ。浅いけどちゃんと息をしてるし、バイタルも安定してるから」
救急隊員のおじさんにそう言われてもやっぱり私は心配で、血の気の引いた、それでもやっぱり綺麗なその顔を、ひたすらジッと見つめていた。
生まれて初めて乗った救急車は、狭くてガタガタ揺れて、少し薬っぽい匂いがした。
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