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グラリオンの黄昏 六
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ということは、彼女はエゴイの異母きょうだいということになるのだ。年齢からすると、カッサンドラの方がやや下だろうか。
「一応、父は遠縁の養女ということにして、クアドレンという姓をあたえ、いくらか扶育料は出してグラリオン後宮で育ててもらうことにしたらしい。その後親父は、彼女のことはほとんど忘れていたのだが、俺が連絡をとって、帝国のために働いてもらうことにした。
彼女も、この国では異人で、いろいろ辛い想いもしたらしいから、どうにかして父の国でもう少し楽な人生を生きたいと願っていたようでな」
説明しながらも、エゴイの腕はマントの上からアベルの腰を抱き寄せつづける。苦しくなり、逃れようとしたが、ゆるされなかった。
「エ、エゴイ……」
「アベル、こうなったらすべて打ち明けよう。最初から、ディオ王は王女ではなく、おまえを所望していたのだ」
アベルは息を飲んだ。
「だが、潔癖なイサベラ女王はそれを許さなかった。忠実な騎士を男妻として異国人に与えるなど、信仰心あつい陛下にはとんでもないことだったのだ。だが、御夫君の、フェルディナンド陛下は、グラリオンを手に入れるためにおまえを利用することにされたのだ」
現在、帝国はイサベラ女王と夫であるフェルディナンド王のふたりの支配者によって共同統治されている。立場上、フェルディナンド王は女王であるイサベラ女王と同等の権利を持っており、廉直なイサベル女王にくらべると、奸智に長け、こういった謀略ごとを好む向きもあった。
「同盟を結ぶかわりに、おまえをディオ王の妻としてグラリオンに……、王にあたえたのだ。いわば、おまえは人質、人身御供のようなものだ」
アベルには衝撃だった。自分は最初から祖国から見捨てられていたという。
「裏で王の指示でグラリオン側と折衝しているあいだ、俺はグラリオン宮廷に不穏な動きがあることを知り、宰相たちと連絡を取り、密議をむすぶようになった。ディオ王は、フェルドナンド王と謀っておまえを騙したが、ディオ王もまた側近から裏切られていたというわけだ」
面白そうに目を細めてからエゴイは言い足す。
「そのときからカッサンドラには随分力になってもらったがな。アベル、よく聞け」
腰を抱くエゴイの腕の力がますます強くなる。近くには傭兵たちや延伸たちもいるというのに。
「可哀想だが、はっきり言おう。おまえはもう、帝国へもどって昔どおりアルベニス伯爵として生きることはできない」
「……」
アベルは唸り声が出そうになるのをおさえた。そのことはすでに覚悟はしていたことだが、こうして面と向かってエゴイに告げられると、胸に刃物を刺されたように苦しい。
「一応、父は遠縁の養女ということにして、クアドレンという姓をあたえ、いくらか扶育料は出してグラリオン後宮で育ててもらうことにしたらしい。その後親父は、彼女のことはほとんど忘れていたのだが、俺が連絡をとって、帝国のために働いてもらうことにした。
彼女も、この国では異人で、いろいろ辛い想いもしたらしいから、どうにかして父の国でもう少し楽な人生を生きたいと願っていたようでな」
説明しながらも、エゴイの腕はマントの上からアベルの腰を抱き寄せつづける。苦しくなり、逃れようとしたが、ゆるされなかった。
「エ、エゴイ……」
「アベル、こうなったらすべて打ち明けよう。最初から、ディオ王は王女ではなく、おまえを所望していたのだ」
アベルは息を飲んだ。
「だが、潔癖なイサベラ女王はそれを許さなかった。忠実な騎士を男妻として異国人に与えるなど、信仰心あつい陛下にはとんでもないことだったのだ。だが、御夫君の、フェルディナンド陛下は、グラリオンを手に入れるためにおまえを利用することにされたのだ」
現在、帝国はイサベラ女王と夫であるフェルディナンド王のふたりの支配者によって共同統治されている。立場上、フェルディナンド王は女王であるイサベラ女王と同等の権利を持っており、廉直なイサベル女王にくらべると、奸智に長け、こういった謀略ごとを好む向きもあった。
「同盟を結ぶかわりに、おまえをディオ王の妻としてグラリオンに……、王にあたえたのだ。いわば、おまえは人質、人身御供のようなものだ」
アベルには衝撃だった。自分は最初から祖国から見捨てられていたという。
「裏で王の指示でグラリオン側と折衝しているあいだ、俺はグラリオン宮廷に不穏な動きがあることを知り、宰相たちと連絡を取り、密議をむすぶようになった。ディオ王は、フェルドナンド王と謀っておまえを騙したが、ディオ王もまた側近から裏切られていたというわけだ」
面白そうに目を細めてからエゴイは言い足す。
「そのときからカッサンドラには随分力になってもらったがな。アベル、よく聞け」
腰を抱くエゴイの腕の力がますます強くなる。近くには傭兵たちや延伸たちもいるというのに。
「可哀想だが、はっきり言おう。おまえはもう、帝国へもどって昔どおりアルベニス伯爵として生きることはできない」
「……」
アベルは唸り声が出そうになるのをおさえた。そのことはすでに覚悟はしていたことだが、こうして面と向かってエゴイに告げられると、胸に刃物を刺されたように苦しい。
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