恋に似ていた

美里

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ビールのジョッキは、バケツと並べて床に置いた。
 始めに服を脱いだのは倫太郎で、欲情したのは俊の方だった。
 倫太郎はただ服を脱いだだけだ。当たり前みたいな顔をして、部屋の真ん中でシャツを頭から引っこ抜き、ハーフパンツを半ば蹴り落とすように脱いだ。
 「シャワー貸して。」
 倫太郎がけろりと言った。
 多分、倫太郎に他意はなかった。汗まみれになった身体を洗いたい、ただそれだけで。
 俊の方にも他意なんかなかったはずだ。
 そこのドア、と風呂場の場所を示したところまでは。
 おう、ありがとな、と、倫太郎が俊に背中を向けた。
 男の背中だ。やわらかさなんてみじんも感じられない、痩せて筋張った身体だ。
 なぜだかそれに、欲情した。
 酒のせい、と、頭の中で言い訳をする。言い訳にできるほどの酒なんて飲んでいないくせに。
 伸ばした右手が、倫太郎の肩に触れた。
 倫太郎は首だけで俊を振り返り、なんだよ、と首を傾げた。
 俊は倫太郎の目を見つめた。するとさすがに倫太郎も、俊が体内の熱を持て余していることに気が付いたらしい。
 「やる?」
 ごく短い言葉だった。
 それに縋るように俊は頷き、倫太郎の腕を引いてベッドに押し倒した。
 倫太郎は、躊躇いも見せずに笑っていた。
 この男は、こういうことに非常に慣れているのかもしれない。
 そんなことが頭をよぎったが、それはほんの一瞬のことだった。
 やる、と返事をした覚えはない。ただ、裸の男の体にぺたりと自分のそれを重ねた。
 男同士の身体だった。そこで俊の動きは止まった。
 なにをどうしたいのか。
 手段が分からないせいで、目的も見失っていた。
 動かなくなった俊の下で、倫太郎は笑った。それは、さっきまでの気安い友人同士みたいなそれを同じ表情のはずなのに、妙に妖艶だった。
 この男には、手段も目的も分かっているのだ。
 俊は倫太郎の耳に唇を寄せた。
 「どうやんの?」
 倫太郎は、笑ったまま俊の首に腕を回した。
 「女とやったことは?」
 「ある。」
 「それと変わんねぇよ。」
 「でも……。」
 「ほら、ここ。」
 「ここ?」
 「うん。そこ。」
 短い言葉だけを交わした。そこに含まれている感情が、俊には掴めていなかった。
 友情ではない。恋情でもない。ただ、欲情はしている。
 「……なんだろう、これは。」
 倫太郎ならへらりと笑ったままなにかの答えをくれると思った。けれど彼は、笑いはしたものの、俊と同じ言葉を木霊みたいに繰り返した。
 不安になった俊は、彼の身体をきつく抱いた。
 すると倫太郎は、笑みを深めて囁き返してきた。
 「セックスだよ。ただの。」



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