行けるとこまで

美里

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 確か、彼女の部屋は、彼女が通う大学からほど近い、こぎれいな白いアパートだった。幾分少女趣味なくらい、こぎれいな。
 そこで、何度彼女を抱いたのか、覚えてはいない。俺には他にもおんなができたり消えたりしていたし、彼女も多分同じようなものなのだろうと思っていた。俺にいきなり連絡先を渡してきたくらいだから。そして、セックスしかしない仲だったけれど、ろくな会話もしたことはなかったけれど、それでもだんだん彼女の人となりが分かってきてしまい、きっと彼女には俺以外に関係を持っている男はいないのだろうと、それすら分かってしまい、息苦しくなってきて、そろそろ切ろうかな、と思いはじめていた。ぼんやりと。そんなあの晩、彼女ははじめて俺に、好きだと言った。行為の最中だった。俺は、ただのムード作りだと流した。本当は本気なのだと分かっていた。本気なのに、怖くて本気みたいにできないだけだと。そんなところが、俺に似ていると思った。俺も陸に、好きだと言ったことはなかった。キスをして、肌に触れて、セックスは拒まれた。それだけ。怖くて、拒絶に耐えられそうもなくて、好きだなんて言えなかった。それで、彼女を抱きながら、陸を連れて逃げ出してしまおうと思ったのだ。なにもかもを捨てて、いけるとこまで。
 鏡子とは、それっきり。だから会うのは半年ぶりだった。少し痩せて、髪も伸びた。
 「……海斗は、ずっとずっと冷たかったけど、陸斗くん、やさしかったから。」
 ぽろぽろと、感情の雫をこぼしていくみたいに、鏡子が言った。今にも泣きだしそうな顔をしていた。俺は、黙っていた。言葉が見つからなかった。別に、鏡子は責められるようなことはなにひとつしていない。ただ、俺と切れた後に、俺の兄貴とできていたという、それだけのこと。道徳的には多少道を外れるのかもしれないけれど、誰にとやかく言われることでもない。
 「なにか言ってよ。」
 低く、彼女が呟く。
 「……部屋に、来てたのか?」
 あの、俺が陸を閉じ込めた、蚕の繭みたいな部屋に。
 「……今日が、はじめて。陸斗くんに、呼ばれたの。」
 「そっか。」
 そっか。そっか。それなら陸は、俺を切ろうとしているのだろう。こうやって、俺が帰って来るであろう時間まで、おんなを部屋にいさせていたのだから。
 「不健全よ。」
 思い切ったみたいに、鏡子が声をわずかに高くした。
 「分かってるよ。」
 鏡子がなにをどこまで知っているのか、確かめもせずに俺はただ、それだけ答えた。
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