行けるとこまで

美里

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 不健全なことなんて、はじめから百も承知だ。こうやって陸と暮らし始めるずっと前、陸に対する欲情を自覚したときから、ずっとずっと、俺は不健全だった。その不健全なひずみに陸を巻き込んでのこのふたり暮らしが、健全なはずもない。行けるとこまでふたりで、なんて考えていたのに、いつのまにか二人して、行き止まりに直面して突っ立っている。
 陸は、このおんなに、なにをどこまで話したのだろうか。もし、全てを話していたとしたら、俺はこのおんなを殺すかもしれない。陸が彼女と寝ていたとしても、陸の感情の全てが俺ではなくてこのおんなの上にあったとしても、俺はなにもできない。できないけれど、もしもこの不健全なふたりぐらしの成り立ちから現在までの全てを、陸がこのおんなに話していたら、それはどうしても、許せない。
 「……どこまで聞いた?」
 固く拳を握りしめ、もしかしたら、この拳が彼女を殺すかもしれないと覚悟さえしながら、俺は問いかけていた。
 鏡子はしばらくの無言の間の後、首を左右に振った。
 「なにも。陸斗くん、なにも教えてくれないから。手首のことも、ずっとこの部屋に閉じこもってることも、理由を教えてくれなかった。」
 「……そっか。」
 俺はゆっくりと拳をほどき、痺れるほど強く拳を握り込んでいた事実に今更自分がうすら怖くなる。鏡子はそんな俺に気が付きもしないようで、何度か長い瞬きを繰り返した。
 「私、それだけのおんななのかな。海斗にとっても、陸斗くんにとっても。」 
 それだけのおんな。
 俺には分からなかった。俺には陸しかいなかったし、陸にとって鏡子がどんなおんなだったのかは、俺には到底分からない。
 「ずっと、そう。海斗、陸斗くんにしか興味ないから。」
 俺はそれ以上言葉を探せなくて、ただ鏡子の肩を抱いて、駅の方へ歩き出していた。これ以上、彼女の言葉を聞いていたくなくて。
 「帰りたくなんかないのよ。」
 幾らか取り乱したような声を、鏡子が出した。白く滑らかな頬には、いつの間にか涙が伝っていた。
 「帰れ。もう二度と、こんなとこ来るな。」
 絶対に、金輪際、こんなところには来てはいけない。こんな、世界の果ての行き止まり。にっちもさっちもいかなくなって、突っ立っているしかない男二人の部屋。こんなところには、来てはいけない。
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