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2.妖精の悪戯
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妖精とは。人間が大好きで、ちょっとしたお願い事を聞いてくれたり、時には助けてくれることもある不思議な存在。普段は見えないが、なんとなく存在を感じることができたり、本当に力の強い妖精だと普通の人にも見えたりするらしい。
でも彼等は善なる存在とは言い難い。何故なら悪戯が大好きなのだ。人間が困ってるのを見て楽しんだりするとても迷惑な面を持っていた。
「やっぱり本当に取り替え子なんですかね?」
ようやく熱が下がり、大泣きしたのが恥ずかしくて何か話さなければと思っていたら、つい余計な事を口にしてしまった。
クラウス様が一気に不機嫌になる。
「……ようするにティアナは俺に可愛がられたいんだな?」
「違います。少し言葉を間違えました」
でもだって。そうでも思わないとお姉様との扱いの違いが分からないのに。
「……今回の置いてきぼりが本当に許せなくてエルスター侯爵に言ったんだ。こんなことを平気で行うあなた方と家族になるのは考え直した方がいいでしょうか?とね」
「……うそ……」
何してるのこの人。
アッカーマン侯爵家とエルスター侯爵家。共に侯爵である両家の婚約は王家が絡んでいる。
要は派閥争いを抑えるためのもの。だから勝手に婚約を解消など出来るはずないのに。
「だがな。どうやら妖精が絡んでいるらしい」
「……『妖精事件』ですか」
知らなかった。私がどれだけ泣いても何も教えてもらえなかったのに。
この国には守らなくてはならない法はもちろんある。しかし、それを破っても許される場合がある。それが『妖精事件』だ。
妖精が何かしらの悪戯を行い、そのせいでやむを得ず犯してしまった罪は許される場合がある。
もちろんしっかりと調査を行い、本当に妖精の悪戯があったのかを調べられる。
ただ私の場合は、姉妹で扱いに差があるものの、食事や教育など、生きていく上で必要なものはちゃんと施されている。この程度では調査など入らないし、裁かれることもない。所詮その家の中だけで終わってしまう問題なのだ。
「ありがとうございます。理由が分かってよかったですわ」
「どこが?解決できないじゃないか」
「ですが、妖精事件ならば口外出来ない場合もあります。仕方がないですよ」
クラウス様がそっぽを向いてしまった。この人は存外子供っぽい所がある。
「クラウスお義兄様?」
ぎゅるん!っと音がしそうな勢いでこっちを向いた。首は痛くないのだろうか。
「今はお義兄様がいるから寂しくありませんよ」
「……いつの間にそんな攻撃を……」
あらあら真っ赤だわ。そんなに嬉しいものかしら。私は少しだけ……ううん。何も無い。気のせいだわ。
「そういえば寝ている間に妖精の祝日は終わってしまいましたね。お義兄様は何かお願い事をしましたか?」
妖精の祝日は、寝る前に一つだけ願い事をする。それは本当に小さな願い事だけ。欲張ると妖精に嫌われてしまうから。
「俺?俺はティアナの熱が早く下がりますようにって祈ったよ。たぶん母上達も同じじゃないかな」
「私なんかの為に願い事をしてしまったのですか?」
「あ、久し振りに言ったね。『なんか』って」
しまったわ、なんて失態を犯してしまったの。
あの時に決めた罰ゲーム。さすがに膝の上ではない。ただ……私が歌うだけだ。
お姉様が言ってしまったのだ。『ティアナは歌が上手なのよ』と。
「せっかくだから広間に行こう」
「嫌です。ここでいいじゃないですか」
「せっかく皆君の回復を願ったんだ。お礼に歌ってあげてよ」
「……ズルいわ。断れないじゃない」
「そうそう、諦めようね」
結局、皆の前で五曲も歌ってしまった。
だって……本当に私の回復を祈ってくれていたから。侯爵夫妻にエーリヒまで。
私と同い年のエーリヒは、兄が私を妹可愛いと構い倒すせいか、普段はライバル視して素っ気ない態度のくせに。
私なんかの歌で喜んでいただけるなら──
そう言ってしまったせいで、滞在中は求められたら何度でも歌わなくてはいけない罰をくらった。
本当に楽しい一週間だった。
だけど、幸せは長くは続かないものだ。
「私がお姉様と一緒に学園に?」
「そうだ」
「ですが、私は年齢が違いますわ」
「優秀な生徒ならば一年早くに入学することが可能だ。明日から教師をつける。必ず合格出来るように頑張りなさい」
今までオマケの様な扱いでしか授業を受けていないのに?クラウス様のご厚意でずいぶん学力は上がったけれど、標準に近付いただけで一年飛び級する程ではないのに……
だけど私の意見は求められていない。
ただ命令を聞くだけ。それだけの存在。
「……承知致しました」
「今まで通りクラウス殿からのお誘いは受けなさい。余計な事は言わない様にな」
まさか……それでは時間が足りなくなってしまう。遊びながら学力を上げろだなんて!
「……お姉様に、時々はクラウス様からのお誘いをお断りするようお願い出来ますでしょうか」
「駄目だ。不審に思われては困る」
「……分かりました」
理解は出来ない。でも、この家で生きていきたければ父の言う事を聞くしかない。私には一人で生きていく力など無いのだから。
でも彼等は善なる存在とは言い難い。何故なら悪戯が大好きなのだ。人間が困ってるのを見て楽しんだりするとても迷惑な面を持っていた。
「やっぱり本当に取り替え子なんですかね?」
ようやく熱が下がり、大泣きしたのが恥ずかしくて何か話さなければと思っていたら、つい余計な事を口にしてしまった。
クラウス様が一気に不機嫌になる。
「……ようするにティアナは俺に可愛がられたいんだな?」
「違います。少し言葉を間違えました」
でもだって。そうでも思わないとお姉様との扱いの違いが分からないのに。
「……今回の置いてきぼりが本当に許せなくてエルスター侯爵に言ったんだ。こんなことを平気で行うあなた方と家族になるのは考え直した方がいいでしょうか?とね」
「……うそ……」
何してるのこの人。
アッカーマン侯爵家とエルスター侯爵家。共に侯爵である両家の婚約は王家が絡んでいる。
要は派閥争いを抑えるためのもの。だから勝手に婚約を解消など出来るはずないのに。
「だがな。どうやら妖精が絡んでいるらしい」
「……『妖精事件』ですか」
知らなかった。私がどれだけ泣いても何も教えてもらえなかったのに。
この国には守らなくてはならない法はもちろんある。しかし、それを破っても許される場合がある。それが『妖精事件』だ。
妖精が何かしらの悪戯を行い、そのせいでやむを得ず犯してしまった罪は許される場合がある。
もちろんしっかりと調査を行い、本当に妖精の悪戯があったのかを調べられる。
ただ私の場合は、姉妹で扱いに差があるものの、食事や教育など、生きていく上で必要なものはちゃんと施されている。この程度では調査など入らないし、裁かれることもない。所詮その家の中だけで終わってしまう問題なのだ。
「ありがとうございます。理由が分かってよかったですわ」
「どこが?解決できないじゃないか」
「ですが、妖精事件ならば口外出来ない場合もあります。仕方がないですよ」
クラウス様がそっぽを向いてしまった。この人は存外子供っぽい所がある。
「クラウスお義兄様?」
ぎゅるん!っと音がしそうな勢いでこっちを向いた。首は痛くないのだろうか。
「今はお義兄様がいるから寂しくありませんよ」
「……いつの間にそんな攻撃を……」
あらあら真っ赤だわ。そんなに嬉しいものかしら。私は少しだけ……ううん。何も無い。気のせいだわ。
「そういえば寝ている間に妖精の祝日は終わってしまいましたね。お義兄様は何かお願い事をしましたか?」
妖精の祝日は、寝る前に一つだけ願い事をする。それは本当に小さな願い事だけ。欲張ると妖精に嫌われてしまうから。
「俺?俺はティアナの熱が早く下がりますようにって祈ったよ。たぶん母上達も同じじゃないかな」
「私なんかの為に願い事をしてしまったのですか?」
「あ、久し振りに言ったね。『なんか』って」
しまったわ、なんて失態を犯してしまったの。
あの時に決めた罰ゲーム。さすがに膝の上ではない。ただ……私が歌うだけだ。
お姉様が言ってしまったのだ。『ティアナは歌が上手なのよ』と。
「せっかくだから広間に行こう」
「嫌です。ここでいいじゃないですか」
「せっかく皆君の回復を願ったんだ。お礼に歌ってあげてよ」
「……ズルいわ。断れないじゃない」
「そうそう、諦めようね」
結局、皆の前で五曲も歌ってしまった。
だって……本当に私の回復を祈ってくれていたから。侯爵夫妻にエーリヒまで。
私と同い年のエーリヒは、兄が私を妹可愛いと構い倒すせいか、普段はライバル視して素っ気ない態度のくせに。
私なんかの歌で喜んでいただけるなら──
そう言ってしまったせいで、滞在中は求められたら何度でも歌わなくてはいけない罰をくらった。
本当に楽しい一週間だった。
だけど、幸せは長くは続かないものだ。
「私がお姉様と一緒に学園に?」
「そうだ」
「ですが、私は年齢が違いますわ」
「優秀な生徒ならば一年早くに入学することが可能だ。明日から教師をつける。必ず合格出来るように頑張りなさい」
今までオマケの様な扱いでしか授業を受けていないのに?クラウス様のご厚意でずいぶん学力は上がったけれど、標準に近付いただけで一年飛び級する程ではないのに……
だけど私の意見は求められていない。
ただ命令を聞くだけ。それだけの存在。
「……承知致しました」
「今まで通りクラウス殿からのお誘いは受けなさい。余計な事は言わない様にな」
まさか……それでは時間が足りなくなってしまう。遊びながら学力を上げろだなんて!
「……お姉様に、時々はクラウス様からのお誘いをお断りするようお願い出来ますでしょうか」
「駄目だ。不審に思われては困る」
「……分かりました」
理解は出来ない。でも、この家で生きていきたければ父の言う事を聞くしかない。私には一人で生きていく力など無いのだから。
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