私の美しいお姉様。

ましろ

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4.運命の日

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現状確認。

1.お姉様は妖精から恋愛感情を持たれている。
2.妖精の為にお姉様だけを大切にしていると見せつける。(私を放置することで表現)
3.人間の男性が寄り付かないようにクラウス様を婚約者という防波堤にする。
4.クラウス様がお姉様に触れないように私を間に設置。


ということよね。

追記事項として、自力で真相にたどり着けば真実に触れてもOK。他者から教えるのはペナルティ有り。

だから私はこの事実を隠さなくてはいけない。

そこまではいいわ。問題は何時まで?

妖精はたぶんかなり高位なはず。
こちらからの要請は無理。

では、妖精はお姉様を妻にするのか。

これよね。そうなると普通なら成人を迎えてから。
それなら16歳かな。あと2年。その間だけ頑張ればすべてが終わるの?

妖精事件なら婚約の解消も問題無く済むはず。
お義兄様とは呼べなくなってしまうけれど。
でも、知人としてたまに挨拶を交わすくらいは許されるかしら?

よし。落ち込んでいても仕方がない。
目指すはお姉様の円満な妖精さんへの輿入れ。
お義兄様との妖精事件としての婚約解消。
そして願わくば知人としての交流。

この三つ。これに向けて頑張りましょう!

お父様達との関係は……どうしたらいいか分からない。だってあの人達が何を望んでいるか分からないもの。私も今更望むことも無い。




それからはひたすら勉強を頑張った。
学園に飛び級入学が一番必要なことだったから。
お義兄様もアッカーマン家で交流する時は、私の勉強を見てくれた。
なんならお姉様より相手してもらっていたかもしれない。
お姉様も私が入学することを望んでいたから、何も文句は言わなかった。


そして──


「クリスティーネ、ティアナ、入学おめでとう」


私は何とかお姉様と一緒に学園に通うことになった。


「あら、クラウス様」
「お義兄様ありがとう!」
「ティアナはなんだか変わったね」
「そうですか?」
「うん。以前のクールぶってる君も可愛かったけど、今の頑張ってる姿の方が素敵だね」
「…お義兄様にそう言ってもらえると嬉しいわ」


だって貴方の為に変わろうと頑張ってるの。
……絶対に言えないけどね。


「じゃあ、講堂に案内するよ」


お義兄様はお姉様をエスコートする。婚約者だもの。
周りからヒソヒソと声がする。お姉様の美しさに対する感嘆の声。お義兄様とお似合いだという祝福の声。邪魔者のくせに空気を読まず一緒に行動する私への批難の声。

分かってるわ、そんなこと。でも私はどれだけお邪魔虫だとしても一緒に付いていくの。お義兄様を守る為だもの。今まで会ったこともない貴方達のご機嫌伺いなどする必要はない。


それからの日々はただ淡々と二人に付き従うだけだった。
何度か苦言を貰ったりもしたけれど相手にはしなかった。事情を知らない人々には一言。
「妖精が見てます」
これだけで済んだ。おかしな国だな、ここは。


お義兄様に聞かれた時だけ少し困ったけど。


「せっかく学園に入ったのに友達は作らないのか?」
「友達ですか。必要を感じません」
「そうか?ティアナの世界は狭過ぎると思うよ」
「……では、一年経ったら。そうしたら友達を頑張って作りますね」


そう答えると何とも言えない顔をされた。
「無理しないように」と釘をさされてしまった。


そうして月日は過ぎる。
お姉様はより一層美しく、気持ち悪くなっていく。妖精にはこの人が本当に美しく見えるのだろうか。


もうすぐ妖精の祝日がやってくる。
お姉様達は今年も別荘に行くのだろうか。


「あら、貴方も行きたいの?」
「……別荘で何をしているのか教えてくれたら考えるわ」
「ふふっ、妖精の祝日にあの方が訪れるのよ」
「……まさか、一番力が強まる日にお会いしているの?!」
「大丈夫よ。私は選ばれた人間ですもの」


何故そんなに自信があるの?


「毎年来てくださるの?」
「それがね、やっぱり人間とは感覚が違うみたい。時間の流れがちがうのかしら。
お会い出来たのは2回だけ。とてもお美しい方なのよ。ティアナにも会わせてあげたいわ」


ベッドに転がりながらお姉様が言っていたことを考える。
何かがおかしい。たった2回しか会えないなんて。本当に妖精と約束をしたの?あの方は現状に満足している、と以前言っていた。でも本当に?もしそれが嘘ならば。妖精との約束を騙る罪の重さをあの人達は分かっているのだろうか。


「駄目だわ。どうしても気になる!」


もう一度ちゃんと話をしないと。
手遅れになる前に。


コンコンコン


「お姉様?」


うそ、もう寝てしまったの?
……なぜだろう。胸騒ぎがする。


「……入るわよ?」


勝手に入って叱られるくらい平気。
何も無ければ……


『誰だ』


ゾクッ!


全身に鳥肌が立つ。

人ならざるものの気配。
目を見てはいけない。
本能がそう警鐘を鳴らしている。
怯えを隠し最上級の礼をする。


「クリスティーネの妹、ティアナと申します」


余計な事は言わない。顔を伏せたまま聞かれたことにのみ答える。


『クリスティーネ……ああ、コレのことか』


頭に直接響く様な不思議な声。
お姉様は認識すらされていないの?


『コレは本当にあの時の子供か?』


どういう意味だろう。


「私が生まれる前の話ですので分かりかねます」
『まあ良い。一応連れて行く』
「……それは契約でしたか?」
『契約。コレとか。いや?ただ連れて行けと言われた。だから何となくだ。気まぐれというものぞ』
「……お答え下さりありがとうございます」


お姉様の馬鹿!あれはどこから来た自信だったの?!
でももう遅い。妖精の手を取ってしまったお姉様を取り戻すすべは無い。


『来るか?』
「身に余るお話でございます」
『其方の方が面白そうだが』

心臓がバクバクと破裂しそう。
このまま連れて行かれるわけにはいかない!


「旅立つお二人に歌を捧げてもよろしいでしょうか」


なぜこの様なことを口にしてしまったのかは分からない。妖精の気を反らしたかった。それだけだ。


『よい。許す』


呼吸を整える。目を閉じたまま歌い出す。
歌は好きだ。言葉には出来ない思いを歌に乗せることが出来るから。

歌に込めるのは私の愛。
私はここでしか生きていけない。
お義兄様の側で生きたいの。
だからお姉様と共に行くことはできない。
だから、旅立つお姉様にお別れと祈りを。


『美しいな、其方は。
歌の褒美だ。一つだけ願いを叶えよう』
「え?」


突然空気が変わった。
慌てて目を開けると、そこにはもう誰もいなかった。






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