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しおりを挟む完成だよっ、と明るい声を聞いた僕は、鏡に映る自分を見て、目をぱちぱちとさせた。
いつも青白い顔をしていた僕の頬が桃色だ。
顔色が良くなって見えるし、髪もいつもより元気にカールしている気がする。
アルバートくんのような可憐な見た目になった気がして、ちょっぴり照れ臭い。
「ど、どうでしょう……」
ずっと待ってくれていたレオンさんに振り返ると、なぜか目を見開いて固まっている。
僕が声をかけると、ハッとした様子で口許を手で隠した。
「っ…………か、可愛い」
「もうっ。アンタ、それでも舞台俳優なの!? ノエルちゃんが可愛いのは元からでしょうがッ!! もっと胸をきゅーん♡ とさせるような甘い言葉を吐きなさいよッ!! だからいつまで経っても友人枠なんだよッ!!」
半日かけて僕を磨き上げてくれたアルバートくんが、ぼーっとしているレオンさんに怒り出す。
僕の髪と全身にオイルを塗り、薄らと化粧もしてくれ、何度も着替えをさせてくれたのだから、もっと頑張りを褒めて欲しいみたいだ。
次はレオンさんの着替えが始まり、僕はもう一度鏡を見た。
真っ白なジャケットには、金糸の刺繍が入っていて、エメラルドグリーンのネクタイが差し色になっている。
僕のピンク頭のおかげもあって、全身で春だって叫んでいるような感じがする。
僕は、大大大満足だ。
「今回の夜会は、身内でやるような小さなものなの。恋人を連れてくる人もいるけど、だいたいは後援者だから気にしなくていいからね? 僕とレオンがついてるから!」
「はい、ありがとうございます。僕は、両手に花ですね?」
「っ、本当可愛いノエルちゃんッ!!!!」
アルバートくんの頼もしい言葉に感動している僕は、にっこりと微笑む。
二人がほうっと声を上げて、今日こそは話し合いをするぞと気合を入れていた。
そうして馬車に乗り込んだ僕の手には、エドワードの好物である甘さ控えめのクッキー。
前回の手紙のやり取りの中で食べたいと書いてあったから、久々に作っていた。
喜んでくれるかな? って考えてる時点で、避けられていたとしても、僕はエドワードのことが好きなんだと思った。
◆
アルバートくんとレオンさんに支えられて、初めてパーティー会場に足を踏み入れた僕は、あまりの眩しい世界に目眩がしていた。
夜だということを忘れてしまいそうなほど明るくて、参加している人たちの衣装もキラッキラ。
アルバートくんに衣装を借りていなければ、僕は確実に浮いていたと思うと、ぶるりと震えていた。
「あらら。せっかくノエルちゃんが登場したっていうのに、一触即発な感じ?」
不穏な言葉を発したアルバートくんだけど、にやりと口角が上がっている。
彼の視線の先には、なにか催し物をしているのか、ホールの中央に人集りが出来ていた。
たくさんの人がいるというのに、とても静かだ。
劇団の人たちは陽気な人が多いから、きっと騒がしいのだと想像していたのに、意外だった。
「なにがなんだかわからないけど……。ここは、俺たちの癒しのマスコットが空気を変えるだろ」
な? と、笑顔のレオンさんに肩を叩かれる。
よくわからないまま二人に手を引かれた僕は、ホールの中央に向かった。
たくさん人がいる中で、長身の金髪の王子様を発見する。
スタイル抜群だから、すぐに見つけることが出来たユージーン様は、いつもとは違って、恐ろしいほどの無表情で立っていた。
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