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第二章 ~魔王勇者課~リプタリア編

第17話 「流出」

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 コロニーシップのお披露目会見が終了し、会場裏の控室に戻って来た大統領を出迎えたのはドルーク長官だった。

「大統領、見事な演説でした」

「ふん、世辞はいい、例の計画は?」

「機材の積み込みと設置はすでに完了しております。お望みでしたら明日にでも」

「それはまだいい、それよりも発表したはいいが、めぼしい入植惑星の算段は付いているのだろうな?」

「は、リプタリアから数光年先にいくつか候補となる星を確保してあります。実験段階のワームホール航法が実用化すれば、計算上宇宙船搭載型の物でも十数日で行き来が可能になります」

「超長距離を安定して移動可能な空間跳躍門ワームホールゲートは間に合いそうにないか」

「艦艇搭載型の物と並行して研究は続けていますが、1,2年で完成させるのはさすがに不可能です」

「最悪の場合は艦内の研究施設で完成させるしかないか、工場ブロックで作れるのか?」

「はい、『ノアニクス』の中はすでに第二のリプタリアと言うべきものに仕上がっております」

「2番艦以降の完成は?」

「五か月後に2番艦、八か月後に3番艦が就航予定です。それ以降につきましてはまだ着工どころか予算もついていない状況でして、」

「コロニーサイズの船を作るとなると、やはり金も時間も掛かるな」

「それでも一番艦がこんなに早く完成するとは思ってもみませんでした。やはり政府の皆様もご自身の事になるとお仕事の効率が早くなるようで」

「その政府の一員である科学省長官の君がそれを言うのかね?」

「失礼しました大統領」

「……まぁいい、計画は滞りなく、コロニーシップとともにRによって我々は今後も繁栄を約束されたというわけだ」

 コンコンッ

 二人が居る控室の扉がノックされ、護衛の者達が入ってきた。

「大統領、お迎えに上がりました」

「そうか、では行くとしよう。時にドルーク長官」

「はい」

「君の補佐官が追っている例の二人組、捕えることが出来たなら私にも報告を頼むよ」

「は、了解いたしました」

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 ノアニクス完成のお披露目はメアリーベルとルークも潜伏中の隠れ家から端末を使って確認していた。

「完成しましたね」

「そうね」

「なんかそっけないですね」

「別にあたしたちは乗る必要ないもの」

「それはそうですが、」

「それよりもデスフレアの方は?」

「予定日までに反応させるには質量が足りないとかなんとか、」

「しょうがない、後でご飯と一緒に届けるか」

「ボクはどうすれば?」

「も少し待機してて、あれが完成した以上仕事もそろそろ大詰めだから。情報操作の方宜しく」

「了解です」

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「長官、まだ待つのですか?」

「ベルト君か、待つとは何をかね?」

「とぼけないでいただきたい! あの二人組の捜索、いやあいつらを使う組織をあぶり出す許可です」

「組織? 何の話だ?」

「我がリプタリア統一政府ですら実用化していない単体空間跳躍やほぼ生身での高度な飛行能力、あれだけの技術力を持つ連中です。かなり大がかりな組織がバックアップをしているに違いありません! この事実だけでも現政権に対して大きな脅威として排除する口実になります」

「……ふ、くくく、ふははははは」

「ちょ、長官?」

「いやすまない、確かにそうだな。あれだけ高度なを持つ者であればそれなりの組織が必要にはなるだろうな」

「はい、だからこそ、奴らの根拠地かもしくは組織の中枢を抑える事を念頭に考えた作戦案をすでにいくつか準備してあります」

「コロニーシップ建造に関わる業務もこなしていたハズになのによくそこまで手が回ったものだね」

「それが仕事ですので」

「現時点で具体的に実行できるプランはあるのかね?」

「はい! ご許可いただければ直ちに」

「ふむ、」

 ――CSコロニーシップ1番艦が完成した以上、なにかあっても政府機能とアレらの研究は艦内でどうとでもなる。これ以上向こうに遠慮する必要もないか?

 ドルーク長官が今後の方針を思案していると、突然通信回線のコール音が鳴り、長官は通話する為にスイッチを押した。

「長官! ネットワーク上で規制していた情報が流出しています!」

「流出? どの情報だ?」

「それが…、最重要規制対象だったがすべての隠ぺい工作と合わせて暴露されています!」

「なんだと!?」

「恒星の膨張? どういう事ですか? 私はそんな話聞いていませんが…」

 通話相手と長官の会話を聞いていたベルトは自分が知らなかった情報が出たことによる戸惑いとともに長官をはじめとして政府首脳部がCSコロニーシップ計画に異様に早く取り組んだ理由をようやく察した。

「ただちに報道管制、並びに流出情報が虚偽と思わせるための対抗措置を取りたまえ」

「すでに流出元はネットワークから隔離しておりますが、各報道機関やプロアマチュアを問わず、情報の真偽を確かめようとする者が続出しておりまして、規制が追いついていない状況です」

「まずいな、最悪『チケット』のコールを出す準備をした方が良いかもしれん」

「長官…まさか、確固たる理由とはこの事だったのですか?」

「ベルト君、すまないが例の二人組の前にCSコロニーシップ2番艦を出来るだけ早く完成させるための方策を考えてくれないか?」

「長官! 本当に恒星は膨張しているのですか!?」

「ベルト君、今その話をする必要があるのかね?」

「重要なことでしょう!?」

「……まぁいい、いずれ知る事だ。その通り、あの二人組が初めてここに来た時、もらった手紙には恒星の活動によりこの星系は生物の存在できない場所になると書かれていた。初めは君の言う通り私も世迷言か妄言の類と思ったが、仮にもこの執務室に侵入できる力を持った存在が単なるいたずらでこんなことをするだろうか?と思ってね」

「確認されたのですか?」

「ああ、宇宙軍や天体観測局に裏付けを取ってもらい、少なくも恒星が膨らんでいることだけは確認が取れた。あとは君も知っての通り、星系の危機を知った私はCSコロニーシップ計画を立案し、政府に危険が迫っていると情報の一部をリークして、説得交渉をした。一つ君に言い忘れた事実があるとすれば大統領だけは初めから私と情報を共有していたので計画そのものは最悪軍部の予算を流用してでも行われていただろう」

「もとよりリプタリア星系が滅ぶことが分かっていて隠ぺいしていたのですか!?」

「ならば現有の宇宙艦艇で星系外に全国民を移住させればよいと? 星系内の開拓すらおぼつかない現状で限られた期間内に星の住民丸ごと移住可能な環境を移送しながら星系外に整えるなどいくらリプタリアの技術力をもってしても不可能だ」

「ですが!」

「ベルト君、冷静になりたまえ。全員で助かる道を探して共倒れするか、限られた人数だけでも確実に生かすか、リプタリアを存続させるとするならどちらを選ぶべきかは考えるまでもないだろう?」

「大勢の命を奪う結果になると知っていてもですか!?」

「……君はリアリストだと思っていたのだがね。賛同できないのであればこれ以上君に話すことはない」

「長官、あなたの選択を間違っているとは言いません、ですが…、私個人としてはどうしても納得が出来ないのです」

「ならばどうするね? 一応、君は仕事の出来る有能な存在として高く買っていたから1番艦に席を用意していたのだが、誰かに譲るかね?」

「……一つお願いがあります」

「ふむ、言ってみたまえ」

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 メアリーベルは前回ドルーク長官に告げた通り、一隻目のCSコロニーシップが完成したのを確認し、彼の元を訪れるべく執務室前に転移すると、そのまま扉を開けた。

「どうも長官、ご機嫌はいかがですか?」

「…君はいつもいきなり現れるな」

「いつ来るかについては事前に話しているつもりですが」

「ま、それは別に良い、今日は何の話なのかね?」

「今日でこちらに訪問するのは最後になりますのでそのご挨拶と最後の報告を」

「最後の報告?」

「私共のお知らせした情報は皆様に知っていただけたと思いますが」

「やはりあれは君たちの仕業かね」

「はい、隠し事は良くないと思いまして」

「よく言う、本当の目的は1番艦の出発を早める事だろう?」

「はい、あと半年としないうちに恒星の膨張スピードは加速しこのリプタリアと周辺惑星を飲み込むでしょう」

「まったく、不条理極まりない話だな、夢であるなら今すぐ覚めてほしい物だ」

「ですが、それも言ってしまえば運命と呼ばれるものですので」

「運命か、かつて私の知る中にもそういった言葉を口にし、その言葉を受け入れて死んでいった者達がいたが断じて私はその言葉を否定する。たとえ神に信仰や祈りを捧げていようとも生ある者の往く道は己が意志で選ぶからこそ価値があるのだ」

「そう思うのはご自由ですが、その結果としてあなたが取った行動はある方の逆鱗に触れました」

「誰かね?」

「この世界の『神』です」

 会話の終了と同時にメアリーベルは魔法を発動し、デスクともどもドルーク長官を吹き飛ばした。

「リプタリアの人類は存続させますのでどうぞご安心ください」

 どおぉぉおん!

「!」

 魔法により生じた爆発で煙が立ちこめる中、メアリーベルが執務室を後にしようとしたところで、突然床が崩壊して大きな手にすんでのところで掴まれそうになった。

「これで3度目だな、今日という今日は捕まえさせてもらう!」

「あら、ベルト補佐官お久しぶりです」

 人型兵器のスピーカーから聞き慣れた声が聞こえてきてメアリーベルは友人に話掛けるようなに気軽さで返答する。

「今日はどんな作戦なのかな?」

「ふん、すぐに分かる。総員作戦開始!」

 ベルトの指示で人型兵器は大型の銃を構え、一瞬閃光が見えたかと思うとエネルギーの束が砲口から射出された。

「実力で拘束する!」

 ――拘束っていうか消滅させるの間違いじゃないの?

 エネルギー兵器を平然と町中で発砲させるベルトの暴挙にとうとうプッツンしちゃったかな? とメアリーベルは思いながら科学省ビルから外に出ると、その光景に彼女もいよいよ相手が本気である事を察っした。

 メアリーベルの目の前には数百機以上はいそうな数の人型兵器と無人兵器の群れが一歩も逃がさないという構えで待ち構えていたのだった。



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