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【IF】覇王と参謀の、(望んでない)初夜のお話。

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 ……何でこんなことになった。何でこうなった。どう考えても間違ってるだろう。

「俺を睨むな。俺だって意味が解らん」
「意味が解らんじゃないよ!コレ・・、ヴェルナーか真綾まあやさんに任せる予定だっただろ!?」
「だから、怒鳴るな。俺もそう聞いていた。何でこうなっているのかが解らんのは、俺も同じだ」

 ぐぬぬと唸るワタシに、アーダルベルトは面倒そうに答える。……うん、つまり、この状況は、覇王様にも予想外の事態だったと。いやまぁ、そうだよな。どう考えても、不測の事態だよ。こいつがこの状況を平然と作り上げるわけがねぇ。じゃあ、誰だ。誰が元凶だ。
 ……なお、ただいまワタシ達は、覇王様のお部屋の巨大天蓋付ベッドの上で、向かい合って座っている。どっちも寝間着姿で、どっちも胡座です。あ?女子が胡座は行儀が悪い?安心してくれ。胡座かいてるのが解らないぐらいにふんわりした、ネグリジェタイプのパジャマなので。……くそう、スースーする。


 何でそんなところにいるのかと言われれば、現状、ワタシと覇王様は、初夜の真っ最中だから、ということになる。


 はい、そこ!首傾げない。そりゃ、傾げたいのは解るけど、とりあえず説明は聞いて欲しい。ワタシと覇王様は、この度、めでたく、偽装結婚を行いました。外野が超絶煩いので、もう仕方ないので、黙らせるために偽装結婚です。ワタシの立場が色々と面倒くさくなってきたので、それも踏まえてね。あくまで偽装で、我々の間では、次の目標は覇王様の子供を産んでくれる奥さんを捜すことになってる。ワタシはただの飾り物だ。
 ……で、飾り物なんだから、初夜なんぞやるつもりはなかった。寝室が一緒なのも、ベッドが一緒なのも百歩譲って諦める。抱き枕状態で昼寝したこともあるので、単なる添い寝ぐらいなら全然問題ないのだけれど、本物の初夜に関しては、スルーするつもり満々だったのだ。だって、ワタシとアーダルベルトだぞ?我々、お互いのことを異性として見ていないのに、どうして初夜が成立すると思うんだ。
 とはいえ、覇王様は覇王様なので。偉いヒトの初夜には、なんかこう、記録係みたいなのがいるっていうのは、聞きかじった知識でもありましたよ。ガエリア帝国でもありましたよ。何でって聞いたら、ちゃんと子作りできるかどうかは重要案件だから、だと。プライバシーってもんがねぇのか、王様は。可哀想すぎる。まぁ、初夜限定らしいけど。
 で、その記録係を身内で固めてしまえば、適当に誤魔化して貰えるだろうと思っていた。……思って、いたんだ。思っていたんだよ、我々は!ヴェルナーか真綾さんが勤めてくれる筈だったんだよ!医療系担当として!それなのに何故か、今、そこで記録係として鎮座しているのは、顔も名前も知らないお医者さんだよ、ちくしょう!どういうこったい!

「……ミュー」
あんだよ」
「……考えたくはないが、宰相や女官長、その他諸々が、裏切ったという可能性はどうだ」
「何で裏切られなくちゃいけねぇんだよ。ワタシとアンタで初夜が成立すると思ってる方が間違いだろ。第一、身内はこれが偽装結婚だって知ってるし!」

 神妙な顔をして告げられた言葉に、ワタシは真っ向から反論する。あ、勿論、隣の部屋からこっちをじぃっと見ている記録係さんには聞こえないように、小声でだ。ベッドの中央で顔つき合わせてごそごそやってるので、まぁ、見ようによったら仲良く談笑しているように見えるんじゃないですかね?
 え?お前やけくそだろって?やけくそにもなるわい!
 そう、偽装結婚だと知っていて、その上で色々一緒に手続きをしてくれたのは、宰相のユリウスさんや女官長のツェツィーリアさんだ。その他諸々、近衛兵ズやユリアーネちゃんも手伝ってくれた。周りが煩かろうと、彼らという事実を認識している味方がいるならば大丈夫だと、思っていたのに。……実際、ここまではボロが出ることもなく、上手く行ったんだ。

 それがどうして、最後の最後でこうなった。

 頭を抱えて唸るワタシの頭を、ぽすぽすとアーダルベルトの大きな掌が撫でる。うん、手置きにすんな。お前今、ワタシを慰めてると見せかけて、実は自分が考え事するのに調度良い手置きにしてんだろ。解ってんだからな。ちらりと視線を向けたら、悪いと言いたげに手が退いたので、ワタシの予想は間違っていなかった。

「俺も考えたくはないんだがな」
「ん?」
「……いっそ俺とお前を本当にくっつけてしまえば良い、みたいな思考に走らないとも、限らん」
「…………何でさ」
「少なくともお前ならば、俺が厭うことはないからな」

 それは確かに間違いの無い事実だけど、意味が違うだろうが、悪友。お前がワタシを厭わないのは、ワタシがお前に、そこらの恋愛脳のお嬢さん達みたいな反応を示さないからだ。仕事の邪魔をしに行くのだって、仕事大好きワーカーホリックすぎて倒れないか心配してなだけだし。自分に構えとか言わないのは、お前に恋をしてないからだよ。それ、本末転倒じゃね?
 はぁ、と思わず盛大にため息をついてしまった。
 解ってる。今こうやって会話をしていることが、どう足掻いてもただの現実逃避でしか無いことぐらい。ここで、ワタシ達が初夜を拒否して、何もしないでぐーすか寝るだけで終わったら、確実に記録係からあちこちに伝わって、大騒ぎだ。そうなったら、一旦落ち着いた覇王様の嫁選びが再浮上する。邪魔なことこの上ない。
 ……そう、賽は投げられた。ワタシ達が選べる道は、多分、一つだけだ。

「しゃーない。腹くくる」
「ミュー」
「そっちも腹くくれ。ワタシ相手に勃つかどうかは知らんけど、何かその辺は気力でどうにかしろ」
「まぁ、そうなるか」
「ん」

 逃げられないなら、仕方ないではないか。まぁ、嫌いじゃ無いし良いだろう。どうせワタシは、覇王様と結婚した段階で、他の誰かとベッドを共にすることなんてないんだから。それならまぁ、人生の通過儀礼として、この面倒くさい状況を乗り切るしかあるまい。
 無駄にお洒落重視なふんわりしたネグリジェを、ぺいっと脱ぐ。脱いだ後は、ちゃんと丁寧に畳む。皺になったパジャマを後で着るのは嫌だ。ネグリジェを畳んで、下着も脱いで畳んで、ベッドの片隅にそっと置いた。ふと視線を転じたら、隣で似たようなことをしてる覇王様がいた。……おう、お前も綺麗に畳む派だったか、悪友。
 うむ。何年も一緒に過ごしてたけど、まぁ、よく考えなくても、互いの裸を見るのは初めてである。獣人ベスティの身体って、こうなってんのかー。耳と尻尾と鬣と、あと肘から下の辺りが体毛が濃くてちょっと獣っぽいな。まぁ、手が若干肉球有りって感じだったから、そんな雰囲気だと思ってたけど。むしろ、足は普通に人間と同じような足なの、どういうことだよ。変なの。
 何となく興味が湧いて手を伸ばして、ぺたぺたと鬣と同じ色の体毛が生えている腕を触ってみた。別に怒られなかった。てか、筋肉凄いな、お前。これ人種的なアレなの?それとも、鍛えてるからなの?胸板とか分厚すぎて、お前一応着痩せしてたんだなって思うわ。

「まぁ、獅子は他より筋肉質で大柄ではあるな」
「そっかー」
「それにしても、お前」
「んー?」
「……多少は着痩せしたり潰してるのかと思えば、そのままか……」
「悪かったな、胸小さくて!!!」

 そりゃ、お前が普段見てる女性陣はこう、手から零れそうなぐらいに豊かなお胸をしてますからね!でも、多少慎ましかろうと、ちゃんと膨らみあるからな!別に洗濯板じゃねぇ!貧乳って言う程じゃないんだからな!ちゃんとブラジャー必要だし、寄せてあげればそれなりに……!……止めよう。何か空しくなってきた。
 ……いやまぁ、そうだよな。男だもんな。よっぽどコアな趣味してない限り、胸は大きい方が良いよな。ワタシも大きいお胸の方が触り心地が良いので好きです。ふかふかだもの。そういう意味では、うん、すまんな、覇王様!ワタシのお胸は慎ましやかだから、多分触っても楽しくない!

「あんまり大きすぎるのも、それはそれで邪魔だぞ」
「邪魔なの?」
「色々と動くのに邪魔になるぞ。あと、年を取ると盛大に垂れるらしいが」
「あぁ、それ聞くねぇ。ほどほどが良いとか。あ、でも、筋肉付けておけば垂れないんだって」
「まぁ、お前にはいらん心配だろうが」
「うるせぇ!」

 確かに事実だけど、それ今言う必要ねぇよな、この野郎!べしべしと殴りかかっても、はいはいといなされるのはいつものことでした。ちくしょうめ。パワーが足りぬ。全然足りぬ。ぐぬぬ。
 ……っていうか、こういう阿呆な感じのやりとりしてて、記録係さん何とも思わないんだろうか?視線を向けようとしたら、ぐりんと覇王様の両手で顔を元に戻された。……何すんのさ。痛くないようにしてくれたのは感謝するけど。

「あまりあちらを意識してやるな。向こうが不憫だ」
「そういうもん?」
「いないものとして扱ってやるのが礼儀だ」
「へーい」

 なるほど。黒子みたいなもんか。いないと思ってあげなさい、と。……まぁ、向こうだって、他人の情事をのぞき見して、ちゃんと子作りできるか確認しなきゃいけないんだもんな。こっちがチラチラ見たら、気分悪いか。うん、解った。いないと思うことにする。
 伸びてきた腕にひょいと抱き寄せられて、胡座を掻いた覇王様の膝の上に乗っけられた。そのまま顔が近づいてきたので、あ、と思って掌をバリケードにして相手の動きを止める。どうした?と言いたげな覇王様に、ワタシは重大事項を伝える。うん、これ伝えておかないと駄目な奴だ。忘れてた。

「あのな、アディ、ワタシ、一応処女なんで」
「……は?」
「そういうわけだから、作法云々以前に耳知識しかねぇんで、よろしく」
「……いや、ちょっと待て。ちょっと待て、ミュー」
「うん?」

 何か、ワタシを抱えていない方の右手で額を押さえて呻きだしたんだけど、どうした、相棒。流石に、諸々始まったら余裕も消えるかもしれんと思って、ちゃんと最初に伝えたのに。何かいかんかったかい?
 え?もしやお前、処女は面倒くさいから嫌とかいうアレ?それを今言われても困るんだけど。

「違うわ、阿呆」
「阿呆言うな。じゃあ、何さ」
「……何故そこであっさりと、生娘だというのにこの選択をした、貴様……」
「いやー、操立てる相手がいるわけじゃないし。……って、イタッ!」

 素直に答えたのに、何故か一発叩かれました。何でだよ。暴力反対。
 ……ん?アレ?もしや覇王様、お前、ワタシに悪いとか思ってる感じ?いやうん、気にしないで良いよー?どうせ、ワタシ恋愛脳はポンコツ仕様で、今まで誰かに恋したこととか殆どねーんだもん。一生処女のまんまか、今ここで合意の上で捨てるかの二択で、別に良いかと思っただけだし。
 眉間に皺を刻んで、多分、何か物凄く深刻に考えてるだろうアーダルベルトの頬を、両手で引っ張った。みにょーんって感じで。あんまり伸びないんだよな、こいつ。ふにふにしてたら、視線で説明を求められた。言いたいことが何となく解るのって便利だよね。絆の成せる技。

「別にそこまで重要だと思ってないし、強姦されてるわけでもなし、合意の上だから問題ないです。……つーわけで、諸々手加減してくれたら助かる」
「……阿呆」
「だから、阿呆言うなっつーの」
「……まったく、お前はどうしようも無いほどに、阿呆だ」
「だからお前、いい加減、人のことを阿呆阿呆言いす、……」

 ぎ、と続けようと思った言葉は、中途半端に途切れた。いやだって、お前いきなり噛み付くみたいにキスすんの待てや。鬣が首に当たってくすぐったいです。くすぐったいけど、うん、何だ?……多分これ、照れ隠しとか誤魔化しとかじゃねぇのか、こいつ。啄むみたいに何度もキスされつつ、そんなことを思った。
 ……うん、実はファーストキスもお前が相手で、あの結婚式の時の誓いのキスがそれですってのは、黙っておいた方が良い気がしてきた。こいつのさっきの反応からして、今言ったら多分、盛大に頭抱える。変なところで真面目だねぇ、覇王様や。
 そんなことを考えてたら、顎に添えられた手から親指が伸びてきて、唇を下にぐいと引っ張るようにされた。え、何?口開けろってこと?よく解んないままにそっと閉じてた唇を開けたら、口の中に分厚い舌が入ってきた。

「んぅ、ぅ……!」

 ちょ、いきなり待て!いきなり待って!……え?これどこで息継ぎすんの?口の中めっちゃ舌がぐるぐる動き回ってるんだけど。歯の裏とか、舌の裏側とか、好き放題舐め回すの止めろ、覇王様。マジで息苦しい。待って、息できない。しんどい。
 非力なワタシでも相手に多少ダメージ与えられそうなところ、と考えて、鬣に手を伸ばしてぐいぐい引っ張った。本気で待って。マジで酸欠なるから、息継ぎさせろ、バカ!必死の訴えが通じたのか、ぐるんと口の中を一回舐め回してから、アーダルベルトの舌が出ていった。

「ぷはぁっ……!」

 ぜぇぜぇと呼吸が乱れるのはワタシが悪いわけじゃ無い。うぅ、酸欠で死ぬかと思った。馬鹿野郎。いきなり舌入れてくんな。息継ぎの仕方も解らんのに、倒れたらどうしてくれんだ。

「そもそも、呼吸は鼻でするもんだろうが」
「知るかよ!そんな器用なこと出来るかい!」
「……なら、練習しろ」
「練習って、おま……っん」

 何がツボにはまったのか楽しそうに笑いながら再びのディープキス。なんやねん、お前。何がツボだったのさ、覇王様。息継ぎ上手に出来ないワタシが面白かったのか、この野郎。
 それでも、とりあえず、言われたとおりに鼻呼吸を頑張ってみる。でも、普段鼻呼吸とかあんまり考えないから、良く解らない。……しかも、ぬるぬる口の中でアーダルベルトの舌が動くもんだから、意識がそっちに引っ張られる。口の大きさが違うからか、覇王様の舌は大きくて、ワタシの口の中をいっぱいにするのだ。やめろ、喉塞がれたらマジで呼吸困難で死ぬから。
 あー、でも、口の中が性感帯ってのは、事実なのかな。上顎とか、舌の付け根とか、歯の裏側とか、舐められる度に、なんかこう、ぞわぞわする。くすぐったいような、でもちょっと違うような。何だコレ。流石に自分で口の中弄ったことはないから、感覚の理由が解らない。

「んっ、っ……」
「だから、鼻で呼吸をしろ」
「っ、それ、が……ッ」

 難しいんだろう、と言い返す前に再び口を塞がれる。てめぇ、せめて反論ぐらいさせろや、この野郎!
 うぅ、酸欠で頭がぼーっとしてくる。マジで勘弁しろよ、馬鹿野郎。酸欠はしんどいんだぞ、聞いてんのか。うーうー唸りながらぐいぐい鬣を引っ張るのに、今度は全然止めてくれない。何だよ、苛めか、この野郎。泣くぞ、バカ。
 そもそも、体格が違い過ぎるから、上向かされてる首がしんどいんだよ。膝の上に乗せられてても、やっぱり顔の位置はまだ遠いから。首痛い。息出来ない。しんどい。口の中ぞわぞわする。舌が、分厚い舌が、何かもう、我が物顔でワタシの口の中ぐちゃぐちゃにするの、止めて欲しい。
 ……だって、何も解んなくなる。それは流石に、ちょっと怖い。
 いやだって、怖いじゃんか。キス一つでこれとか、流石にこの先のこと考えると、色々とゾッとする。世の女性は、こういうの平気なんですかね?経験値の問題なの?経験積んだら慣れるの?ねぇ?ワタシ、経験値ゼロなんだから、お手柔らかにって言ったよね、アーダルベルト?!

「ん?……逆に、早々に飛ばしてやった方が良いかという、心遣いだが?」
「てめぇなぁ……!」

 にんまりと楽しそうに笑うアーダルベルト。ヲイこら、覇王様!こういうときこそ、覇王様モードでいてくれるのが優しさってもんだろうが!何でそんな、悪友モードで楽しげにしてるのさ!お前、ワタシのことおちょくってるだろ!

「誰がおちょくるものか。……あぁ、首が辛いんだったな。悪かった」
「だから、話をき、……ッ」
「……そのまま寝ていろ」
「んぅ、んんー!」

 ベッドに押し倒されて、覆い被さるみたいにしてキスされた。子供にするみたいに頭を撫でてくるくせに、口の中に入れてきた舌は相変わらず自由気ままにワタシを蹂躙する。ひでぇ。お前、やってることも言ってることも、色々ちぐはぐだよ。ちゃんと調整しろよ。こちとらハジメテだって言ってんだろうが!
 キスしながら、大きな掌がぺたぺたワタシの身体を触っていく。……触っていくのは別に良いんだけど、何故に、当然みたいに胸を素通りする、貴様。腕とか脇腹とかへそとか太ももとか触るくせに、何でこう、1番こういうときに触るであろう胸をスルーしますかね!確かにそこまでふかふかしてませんけど!でも一応ちゃんと膨らみあるし!
 力の入らない身体でじたばたしたら、大人しくしてろと言われました。お前、それ言うためだけに口離したのかよ。返事する前に口塞ぐのやめれ。お返事出来ないんですけど!こんちくしょう!
 大きな掌が、太い指が、つつーって感じで太ももから足の付け根に向けてなぞっていく。なんか、めっちゃぞわぞわするんですけど、それ。足の外側から内側に向かって、指が動く。淡々と、行ったり来たりを繰り返すだけの指の動きに、なんかこう、くすぐったいのと逃げたくなるような何か解んないのが混ざって、めっちゃぞわぞわする。
 多分無意識なんだけど、逃げようと腰が動いたら、ダメだと言うように口の中を吸い上げられた。吸うの?!って驚いたのは一瞬。口の中に溜まってた唾液と一緒に、舌までずずって吸われて、なんか、うん、めっちゃびくってした。じゅるじゅる音がする。好き勝手に口の中を動き回られて、唇が閉じていられなくて、口の端から唾液が溢れていくのが解るけど、どうにも出来ない。
 あ、シーツ濡れる。いやうん、もっと汚れるから良いのか。……あー、うん。ワタシ、余裕ねぇわ。無いわ。つか、余裕なんて持てるわけねーわな。だってハジメテですもんよ。

「っん、……でぃ、……っアディ」
「ん?何だ?」
「……っ、あー、うん、あの、……」

 アレ?何言おうとしたんだっけ?何か言おうと思ったんだ。何か伝えようと思ったんだ。だけど、頭が回らなくて、上手に言葉が出てこない。困る。どうしよう。
 そんな風にぐるぐるしてたら、ぽんって頭撫でて、額にキスされた。阿呆っていつもの口調で言われたけど、腹は立たなかった。うん、阿呆だわ。ごめん、アディ。ワタシ、自分でも阿呆だとは思ってるけど、今回のはかなり本気で、阿呆だわ。……大丈夫だと思ってたけど、やっぱり流石に、ハジメテってのは緊張とかするんだね?

「むしろ、何でしないと思っていた」
「いやだって、アディ相手だし」
「どういう理屈だ、阿呆」

 だって、ワタシの中では、そういう理屈だったんだよ。相手が他の見知らぬ誰かだったら緊張しても、アンタが相手なら、大丈夫かなって。絶対大丈夫な相手だって信じてるし。……だって、お前、ワタシにひどいことは、しないだろう?
 じーっと見上げたら、くつくつと楽しそうに喉で笑われた。笑うなよ。自分でも子供っぽいのは自覚してるから。でもだって、他にどうしろって言うんだよ。ワタシ、恋愛とかそっち方面の経験値無いんだもん。腐女子だから耳年増で知識だけはあるけど、それ以外は本当に、ゼロなんだもん。

「……なら、聞いてやろう。意識はある方が良いか?それとも、さっさと飛ばしてやった方が良いか?」
「……それ、どっちのが良いもんなの?」
「知らん。そこは個人の価値観だろう」
「……じゃあ、あんまり、飛ばない方が、良い」
「ほぉ?」

 楽しそうに笑うの止めろ。どうせお前、ワタシが口にする理由、解ってんだろ。そういうところは以心伝心だもんよ、ワタシ達。楽しそうにしてるアーダルベルトの顔に手を伸ばして、頬を一度むにーって引っ張った後に、首に腕を回す。ぎゅーっと子供がするみたいに抱きついて、一言。まぁ、一応理由は言った方が良いんじゃね?と思ったんで。

「一応初夜なので、ちゃんと覚えておきたいです」
「お前らしくもない反応だな」
「うるせぇ。ハジメテは一生に一度なんだよ。それなら記念に覚えておくの」
「解った。……まぁ、なるべく飛ばないように気をつけてやる」
「……うわー、すげー腹立つわー」

 楽しそうな旦那様(笑)の頭ぶん殴りたい程度には、イラッとした。お前ねぇ、こっちは正真正銘のハジメテでいっぱいいっぱいだってのに、余裕綽々で楽しんでんじゃねぇよ。そりゃ、こんなお子様体系に近い上に中身がワタシっつーのが相手じゃあ、その気にはならないだろうけど。
 ……あ、待って?めっちゃ重大なこと忘れてた。何か雰囲気で流されそうになったけど、確認しておかないとダメなところあるじゃん。思い出した。

「どうした?」
「いや、めっちゃ根本的なこと聞くけど、お前、ちゃんと勃つの?」
「……今更な質問だな」
「だって、そこの壁越えられなかったら、どうにもならんと思うんだけど……?……あと、えーっと、物理的な体格差の問題」

 ぼそりと付け加えて、視線を下に向ける。覇王様の覇王様は、まだ臨戦態勢じゃない。それは解るんだけど、それでもサイズが色々アレすぎる。そりゃね?体格良いですからね。それに見合う逸物をお持ちだってのは理解しますよ。でもこれ、物理的に考えて、ワタシに入るの?無理じゃね?
 だって、今はまだ臨戦態勢じゃないってことは、アレ、まだでかくなるんでしょ?どう考えても大きさが無理だと思うんだけど。

「まぁ、その辺は時間をかければなんとかなるだろう」
「それでどうにか出来るサイズ差か……?」
「……こういうものも、用意してあったしな」
「……ナニソレ?ローション?」
「痛みを緩和させる成分が入ってる」
「至れり尽くせりすぎて泣くぞ、ワタシ」

 ぷらぷらとアーダルベルトが指で摘まんで見せてきたのは、可愛い可愛い小瓶だった。瓶の蓋がハート型です。もうその段階で、何のための物体か解るよね!みたいなアレだ。しかも痛覚マヒ成分入りとか、確実に我々に一線越えさせるつもりで準備してやがったな、この野郎!誰だ、そんなもん仕込んだやつ……!

「まぁ、使うのは最終手段にしておく。副作用は特に無いだろうが、……お前はこの世界の人間ではないからな」
「……あー、お心遣い痛み入ります」

 基本的に食べ物も薬もそんなに影響は変わらないんだけどね。たまに、違う反応になるものがあったりもする。効き過ぎたり、逆に効きにくかったり。そのことを考えてるんだろう。こんなときでも冷静で、頭回るねぇ、覇王様。ありがたいけど、腹立つわ。ワタシいっぱいいっぱいなのに。
 続けるぞ、と言われて、またキスされんのかなと思ったら、今度は首に吸い付かれた。首、肩、二の腕、そのまままた肩に戻って、首の付け根で、鎖骨。一個ずつ、まるで何かの決まり事みたいに左右交互に口づけられる。ちょっとくすぐったい。
 っていうか、待て、アーダルベルト。大事なことに返事してねぇよ、お前。ワタシのことめっちゃ触ってるけど、お前はどうなんだよ。ちゃんと勃つの?なぁ?

「……お前は本当に、雰囲気をぶち壊しにするのが得意だな……」
「いやだって、気になるし。大事なことじゃん?」
「……そうだな。……俺がその気になれるかどうかは、お前次第だ。頑張って煽れ」
「無茶言うな!こちとら処女だぞ!」
「なら、変に強情張らずに、大人しく感じてろ」
「ちょっ、アディ、話……っん」

 黙ってろ、みたいにキスをして、その後はまた、さっきみたいに首とか肩とか鎖骨とかに移動する。ワタシにどうしろっていうんだよ、お前。煽るとか誘うとか、そんな器用なこと出来るわけないだろー!バカー!
 いいように誤魔化されたような気がする。くそ、腹立つ。てか、鬣がくすぐったい。鬣がくすぐったい……!ふわふわした毛先が、剥き出しの皮膚の上を当たり前みたいに滑っていくのがくすぐったくて、どうにも困る。超くすぐったい!情緒とか雰囲気とか言われても知らんわ!くすぐったいもんはくすぐったい!

「ひゃうっ?!」

 鬣邪魔だと思ってたら、いきなりべろんって胸舐められて、変な声出た。え?アレ?胸はスルーしてたんじゃないの?違うの?触るの?みたいな感じで軽くパニックになってる。その間も、覇王様はワタシの右胸に顔を寄せている。いつの間にか左手でぎゅーっと胸を下から寄せるようにして、その状態でちゅうちゅうと乳首に吸い付かれてる状態。舌が乳首に触れる度に、吸われる度に、変な声が、出る。

「ひぅ、ぁ、あっ」

 痛くはない。くすぐったくもない。でも、何か嫌だ。ぞわぞわする。ぞくそくする?の方が近いのかもしれない。そんなワタシにお構いなしに、分厚い舌で舐め回して、吸い上げて、気まぐれみたいに歯が立てられて、その度に、喉の奥から悲鳴みたいな声が出る。ぐりぐりと舌先で固くなってきた乳首を押しつぶされると、なんか、ぞわぞわが背骨を伝って腰の辺りに降りていく感じがする。何コレ、変。
 泣きたいわけじゃないのに涙が滲んで、視界が歪む。ぼやけた視界に映るのは、アーダルベルトの真っ赤な髪だ。小さく動きながら、相変わらずワタシの胸を吸っている。さっきまでちっとも触らなかったくせに、と思ったけど、そんな反論口にする余裕が無かった。いつの間にか右手で左胸をすっぽり包んで揉み込まれている。大きな掌から伝わる体温に、心拍数が上がった気が、した。
 アレ?何だコレ?ちょっと待って?待て、そこのバカ!何か変なんだけど!ちょっといっぺん、吸うの待って……!

「ァッ!」

 ……え?今のワタシの声?何かこう、自分じゃ無いみたいな変な声が出て、思わず口を手で塞いだ。いやいやいや、何だ今の。誰だ今の。若干固まってたら、顔を上げてこっちを見た覇王様が、にんまりと笑っていた。……待て!ちょっと待て、アーダルベルト!お前今、絶対、面白い玩具見つけたみたいな感じになって……!

「……――ッ!」

 音がするほど強く右胸を吸われて、左の乳首は、太い指でぎゅうっと摘ままれた。待って、やだ、待て。痛い!それ、どっちも痛い。痛いから、嫌だ。……痛い、のに、何で……。何でっ、ぞわぞわが、止まらないの、本当、何で……?
 変な声が出るから右手で口塞いで必死に我慢してるのに、面白がるみたいに、さっきワタシが声を上げた場所ばっかり弄ってくるの、苛めか、この野郎。口の中でころころ転がされる右乳首が、時々歯でかぷってされると、勝手に身体が跳ねる。左の乳首は、指で挟んで捻ったかと思ったら、優しく指の腹で撫でてくる。やだもう、何だよ、これ。
 何か色々いっぱいいっぱいになってきたから、ぽかぽかと覇王様の頭を殴った。おま、お前、ワタシ余裕無いって言ったじゃんか!手加減しろって言ったじゃんか!ちょっとは遠慮しろよ、バカ!ワタシ玩具じゃないんだから……!

「あ?だからちゃんと、よくしてやってるだろうが」
「ちがっ、なんかこれ、変……ッ!へん、だから……っぁ!」
「どこが変なんだ。……ちゃんと濡れてきてるだろ」
「ひぅ!」

 物分かりの悪い子供を諭すような口調で言ったアーダルベルトの指が、つつーっとワタシの股間を撫でた。太い指に撫でられてびっくりしたのと同時に、くちゅ、と小さな音が聞こえて、思わず耳まで真っ赤になった。熱い。顔が熱い。うぇ、生理現象だって解ってるけど、割と恥ずかしいかもしんない。
 そんなワタシをそっちのけで、アーダルベルトは指を往復させる。ただ撫でてるだけだ。強すぎず、弱すぎず。そこにいると伝える程度の刺激。……なんだけど、他人の指ってのが、こう、色々とあれです。あと、ちょいちょい体毛が生えてる指なので、なんかこう、ちくちくする。変な感じする。
 あ、これ、ダメなやつだ。うん、ダメなアレだ。胸を吸われて、胸を指で弄られて、それだけでも結構いっぱいいっぱいだったのに、下まで指で撫でられたら、変になる。自分でしてるのと、全然違う。次に何が来るか解らないから、身構えて、緊張して、身体が強張る。それなのに、刺激が来た瞬間に、ふにゃりと力が抜けていく。変だ。……今、絶対、ワタシ、変な顔、してる。
 ちゅぱ、と音がして、視線を向けたら、アーダルベルトがワタシの胸から顔を上げていた。何?と視線だけで問いかけたら、普段あんまり見せない、優しい顔で笑ってくる。たまに、本当にたまに見せてくる笑顔だ。でもこれ、多分、無自覚なんだろうな、こいつ。腹の底から楽しそうに笑う笑顔は自然体で、本人も意識してるんだろうけど。こういう、甘やかすみたいな優しい笑顔は、きっと、無自覚だ。……あぁ、本当に。アンタは、ワタシに甘いね、覇王様。

「指、入れるぞ。痛かったら言え」
「……ん。……ッぅ!」

 宥めるみたいに額にキスしながら、めっちゃ優しい声で言われた。とりあえず頷いたら、指が、太い指が、ゆっくり、ゆっくり、ワタシの中に入ってくる。……指、だよね。これ、指、なんだよね?なんか、自分のよりずっと太いから、感覚が違いすぎて、処理が追いつかない。……具体的には、ワタシの指、三本分ぐらいはありそうな、圧迫感。多分、第1関節ぐらいで止めてくれてるんだと思うけど、それでも、胎内に何かが入ってるっていうのが、ダイレクトに伝わってくる。
 は、は、と必死に呼吸を整えようとしても、ちょっと無理かも知れない。痛くはないから、何か聞かれても大丈夫だって答えてるけど。……そう、痛くはない。ゆっくりされてるから、痛みは無いんだ。でも、違和感とかが、凄くて。ぬち、ぬちって、少しずつ、少しずつ指が進んでくるのが、露骨に感じられて。どうしたら良いのか、解らない。解らなくて、困る。
 それなのに。

「ひぁ!ぁ、や、ぁあ!」

 突然、耳を、食べられた。じゅるじゅる音をさせながら、右耳を、食まれてる。舌が、肉厚の大きな舌が、ワタシの耳穴をぐりぐりしながら、舐め回している。じゅるじゅる音を立てて吸い上げられて、その音が全部直接耳から届いて。待って、待って、やだ、それ、やだ……っ!何か、脳みそ犯されてるみたいで、変になるから、やだぁ……!
 逃げようと何とか頭を動かすのに、追いかけてくるアーダルベルトの口から、逃げられない。耳が、変になる。次は、左耳を、大きな掌で、塞がれた。音が、消える。外からの音が聞こえない。代わりのように、右耳を食べる音が、嫌という程に響く。待って、嫌だ、それやだ。声が、ちゃんと出てるのかすら解らない。耳を舐められてるだけで、全身にぞわぞわが走っていく。ぎゅっと閉じた瞼の端から、涙が流れて落ちるのが、解った。
 それでも何とか必死に耐えようとしていたら、お腹に、衝撃が走った。はくはくと魚みたいに口を開閉するけど、声が、出ない。なに?な、に?何が、起きた、の……?何か、お腹が、ぐって、圧迫されて、反射みたいにきゅうと締め付けてしまう。それを咎めるように、ぐる、ぐる、って中が、お腹の、中、が……っ。
 
「や、ぁ……っ、うぁ、あ……」
「こら、逃げるな。……まだ指一本だぞ。根元まで入れたぐらいで逃げるな」
「ひぐ、ぅ、……ぁ、ら、ってぇ……っ」

 ちゅぱ、とワタシの右耳から口を離したアーダルベルトが、好き勝手なことを言う。ふざけんな、バカ。指一本って言ったって、ワタシにしたら、自分の指三本分なんだよ。そんな質量いきなり押し込まれたら、びっくりして、どうにかなっても仕方ないじゃんか。……っ、だって、自分でしたことあるけど、その時だって、指三本が、限界だったんだよ……っ。それ以上入れたら苦しいから、それに、それでもちゃんと、イケたから、増やすとか、考えたことなくて。
 ……だから、つまり、アーダルベルトにしたら「たかが指一本」かも知れないけれど、その太さは、ワタシにとっては「いつも限界まで入れてる質量」と同じなわけで。お腹がぐるぐるして苦しいのも、息が出来ないぐらい圧迫されてるのも、仕方ないことなんです。ワタシ悪くないもん!ワタシ、悪くない、もん……っ!

「……こらミュー、そんな顔で泣くな」
「泣いて、にゃい……っ」
「泣いてるだろうが。……まったくお前は……。……本当に」
「……?」

 そこで言葉を切られて、気になって視線を向けたら、何か、アーダルベルトは変な顔をしていた。泣き笑いみたいな顔だった。え?どうしたの、覇王様?ワタシ、お前のそういう顔、あんまり見たことないんだけど。今、その顔するような話だった?
 理由を聞こうと思った瞬間、ぐりゅ、ぐりゅ、と胎内を指で抉られて、何も答えられずにびくって身体が跳ねた。待って。質問ぐらい、させてくれたって、良いじゃないか。何でそんな、流そうとするんだよ。ひどい、ずるい。ひどい。バカ。バカっ!
 長くて太い指が、ワタシのお腹をゆっくりゆっくり弄くっている。抜いたり、入れたり、かき回したり。でも、一応気遣ってくれてるのか、動きはゆっくりだ。それはありがたいんだけど、ゆっくりだから、逆にどんな風に動いてるのか良く解って、困る。時々、戯れみたいに外側も撫でられて、その時にくにゅってクリトリスを押しつぶされると、声も出せないまま喉を逸らすしか出来ない。やだ、それやだ、と思ってるのに、訴えることも出来ないのは、ちょっと辛い。だってそこ、本当に、嫌だ。弱いところ、くにゅってされたら、感じすぎて、怖い。

「ミュー」
「ふぁ……?」
「指一本でこれだと、解すだけで一晩かかりそうなんだが」
「……だから、体格差、無理って、言った、じゃんかぁ……」
「だからな」
「……ふぇ?」

 惚けた頭のワタシは、大真面目な顔をしている相棒に、ちょっと嫌な予感を感じた。こいつは、ワタシの前限定で、真面目な顔をしているときの方が、とんでもないことを言い出すのだ。経験則がそれを伝えてくる。待て、お前何するつもりだ。
 ずるり、とアーダルベルトの指が抜かれる。その衝撃で、質問が出来なかった。さっきまで広げられていた中が、突然入ってきた空気に驚くように、ひくひくしてるのが、解る。……それに、栓が無くなったことで、とろとろした体液が溢れて、零れて、お尻の方まで伝っていくのも解った。……あうう。
 色々もだもだしてたら、いつの間にか移動してたアーダルベルトが、ぐいってワタシの身体を二つ折りみたいにしてきた。え?は?いや、お前、なにして、ん、の……?ワタシの足が、覇王様の肩の上に乗ってる。それだけでも色々アレなんですけど。いやだって、あの、この体勢だと、思いっきり股間が丸見えじゃないですか。そりゃ、ずっと裸だったけど、この体勢は色々と、ちょっと。
 っていうか、お前、何考え、て……――っ!ぁ、あ、こ、このバカ!このバカ、何してんだ……!じたばた暴れて、担がれてる足を降ろしてげしげし背中を蹴ってやっても、全然ダメージが無いらしい。いや、理由わかってるけど。全然力が入らないからです。でも、だからって、こんな……っ。
 
「や、やら……っ、んなとこ、舐め……っ」
「仕方ないだろう。前戯だけで一晩終わったなんて書かれてみろ。後々面倒だ」
「だ、だから、ってぇ……ぅ」

 太ももの内側の、皮膚の薄いところにアーダルベルトの鬣が当たってくすぐったい。でも、それで意識を誤魔化せないほどに、与えられる刺激が強すぎて、がくがく震えるしか出来ない。だって、そこ、そんなとこ、舐められるとか、思わなかったんだよ……!唾液たっぷり塗した分厚い舌が、べろべろワタシの股間を舐め回して、そのまま中に入ってくる。ゆ、指と違って圧迫感はあんまりないけど、でも、やっぱり、変だ……っ。
 両側から指でぐいって広げられて、その中に当たり前みたいに舌が入ってきて。それだけでも何か頭真っ白になりそうなのに、足に触れる鬣とか髪とかがくすぐったくて、余計に変になる。口から変な声が出るから、必死に掌で塞ぐ。こんな変な声聞いたら、絶対萎えるだろ。頑張ってくれてるんだから、せめて、水差さないように、気をつけなきゃ。

「……――っんんん!」

 あ、あ、それ、やだ、それやだぁ……っ!両手で必死に口を塞いで、何とか声が出ないように耐えたけど、身体が、言うことを、聞いてくれない。相変わらず大きな口でワタシのそこをなめ回していたアーダルベルトが、不意打ちみたいに歯で、クリトリスを刺激してきた。中を、ぐちゃぐちゃに舌でかき回しながら、歯で、1番弱いクリトリス、ぐりって。待って、やだ、それ、ダメ。そんなんされたら、感じすぎて、バカになる……っ。
 無意識に逃げようと腰が動いたのを、咎めるように引き戻される。かぷかぷとクリトリスを歯で刺激されて、快感が強すぎて、どうにかなりそうだ。やめて、待って、やだ。言いたいのに、口を開けたら変な声が出そうで、必死に塞ぐしか出来ない。そんなワタシの状態に気づいてる筈なのに、覇王様は止めてくれない。やだ、やだって、何で……!何で、そんな……っ。そんな、されたら、ワタシ、わた、し……っ。

「んんんーーーっ!」

 耐えられなくて、びく、びくと身体が震えて、お腹の中舐め回されて、そのまま、イってしまった。かくんって身体から力が抜ける。何コレ、変。自分でやってイったときと、比べものにならないぐらい、深いっていうか、強いっていうか、なんか、そんな感じで。余韻で、いつまでも腰が、がくがくしてる。びくんびくんしてるワタシがイったのを察したのか、アーダルベルトが顔を上げて、そして。
 ワタシがぎゅうって自分の口を掌で塞いでるのを見て、眉を持ち上げて、ちょっと不機嫌そうになった。……え。なんで?

「変な強情を張るなと言っただろうが」
「ふ、ぁ……?」
「……ちゃんと聞かせろ」
「ひっ、……ぁ、あ!や、待って、ま、っ、アディ、待って、や……っ!」

 必死に口をガードしてた両手は、アーダルベルトの片手でひとまとめにされて、頭上に押しつけられた。何?何が不機嫌になったの?っていうか、やだ!手ぇ離せよ、バカ!これじゃ、声が……!変な声が、我慢、出来ない……っ。
 必死に逃げようとしてるワタシをあざ笑うように、アーダルベルトはまた、口を、そこに寄せて。じゅるるって音を立てて、イったばっかりで敏感になってるワタシの中を、好き放題に蹂躙する。勿論、弱いって解ってるクリトリスも一緒に。口を閉じようとしても、力が入らなくて、甘ったるい変な声が、口から出ていくのを、止められない。待って、止めて、嫌だ。こんなの、だって、変だ。こんな声、聞いたら、絶対……っ。

「……阿呆。余計な心配するな」
「ひぅ、ぁ、あ……っ、や、らぁ……っ」
「……この状況でまったく興奮しないほど、朴念仁じゃない」
「……ふ、ぇ……?」

 へ?こいつ今、何言った?アレ?……ワタシの心配は、杞憂ってこと?え?でも、ワタシみたいなの相手に、その気になれるか心配だったんじゃ、ないの?え?
 唐突すぎる告白に目が点になった。動きの止まったワタシを胡乱げに見上げたアーダルベルトと、目が合う。目が合って、そして。はぁ、と盛大にため息をつかれた。……あの、覇王様?その、物凄く色々諦めたみたいなため息、なんですの……?
 不思議に思ってたら、覇王様がワタシの足を肩から降ろした。そして、足首を掴んで、そこへ、押しつける。足の裏にぺったりと押しつけられたのは、位置関係的に、アーダルベルトの逸物で。……アレ?何か、固くなって、る……?驚いて身体を起こしたら、ワタシの足の裏にくっついているそれが、立派に育っているのが確認できた。あれ?これって……?

「お前、この状況で勃ってたの!?」
「むしろお前は、ここまでしてて、何故俺が無反応だと思っていた」
「いやだって、相手はワタシだし?お色気とかないし。胸もないし」
「そこは否定せんが、俺も一応、若い男だぞ。情事に及んでいながら、何も反応しないわけがないだろうが」
「……それはそうかもしれないけど、だって……」

 だってお前、それにしたって、完全戦闘態勢って感じになってるとか、誰が思うよ?
 生理現象で多少の反応があるだろうなとかは思ってたけど、まさか完全系になってるとか思わないよ、ワタシ。好き放題弄ってくれてたけど、相手ワタシだし、どう考えたってお色気とか足りないし。それ見て何で欲情すんの?ってのは、至極普通の案件なのでは?
 って説明したら、盛大にため息をつかれた。ヲイ、相棒。お前さっきから、ため息つきすぎなんですけど。
 
「……鏡を用意しておくべきだったな」
「へ?」
「お前、自覚はないかも知れんが、さっきから、それなりに色気のある顔にはなってたぞ」
「……はい?」
「まぁ、普段との差が際立っていて、余計にきたんだと思うが……」
「いやアディ、アディー?」

 ちょっと、覇王様が何言ってるのか良く解らない。色気?誰に?ワタシに?そんなもん、あるわけないと思うんだけど?
 むにーと頬を引っ張ってやったら、じと目が返ってきた。いやだって、ワタシ悪くないよね?まさかお前が、ワタシに欲情するとか誰も思わないよ。

「解った。もう良い。その話題に触れるな」
「へ?」
「お前に理解させようと思う方が無駄だと判断した。……とっとと終わらせて、寝るぞ」
「うわ、すっげー投げやりになりやがった、こいつ……」

 べちんと額を叩かれて、ベッドの上に転がされる。物凄く面倒くさそうな顔をしている。え?これ、ワタシが悪いのかな?いやだって、思ったことを素直にお伝えしただけであって、ワタシは別に悪くないと思うんだが……?だって、ワタシとアーダルベルトの関係を考えたら、そうなるじゃん。ワタシ絶対悪くない。

「だからもう、黙ってろ」
「うひゃっ!?」

 ご機嫌斜めの覇王様。いきなり何か冷たいものが股間にかけられて、変な声が出た。いやだって、冷たいんだもん。何だろうと思ったら、ぽいって投げ捨てられる小瓶が見えた。……あ、何か痛覚マヒ成分入ってるらしいローション。それ、本当に効果あんの?
 ぬりぬりって感じに、ローションが中に塗り込められていく。ぬるぬる変な感じする。ぬるぬるしてる。体温で温まったのか、さっきみたいな冷たい感じはないけれど、その代わり、どろどろした感じが伝わってきて、変な感じがする。……そもそも、そこに液体入れたこと無いんで、違和感ぱねぇ。
 ……あー、でも、うん。確かに痛みは、マシ、かも……?しれっと2本目入れてくんじゃねぇ、バカ。痛くないけど、苦しいのは苦しいから。あと、ぐいぐい広げようとすんな、バカぁ……!

「広げないと入らんだろうが」
「それはそうだけど……!……っ、ぅあ」
「……しかし、狭いな」
「言っておくけど、ワタシ、人間としては割と標準体型だからね!?お前がでかいの!人種差!!!」

 大事なことなので、大声で訴えた。ワタシが悪いわけじゃないやい!むーむー唸ってたら、煩いって言われた。ひどい。大事なことなのに。
 ……っていうか、お腹、圧迫されて、しんどい。痛みは無い。だから、多分、ちゃんと痛覚マヒ成分は効いてると思う。思うんだけど、でも、違和感とかが消えるわけじゃ無い。ぐち、ぐちって、いつの間にか三本になった指が入ってるのが、見えるし、解る。解って、息が出来ない。
 
「ひぁ……っ!や、それ、や……っ!」

 息苦しさに必死に耐えてたら、親指で、クリトリスをぐりぐり弄られる。痛くないギリギリみたいな力加減で刺激されて、反射的にお腹に力が入る。お腹に力が入ると、中を広げるように動き回ってる指の形まではっきりと解る。かひゅって変な声が出た。力入れちゃ駄目だって解ってるのに、反射で締め付けてしまう。
 苦しいって思ってたのが、全部、飛んでく。待って、これ、やだ。太い指の、ざらざらした表面で、ぐにぐに刺激されて、泣きそうになる。違う、多分もう、泣いてる。変な声出るし、息が出来ないし、意味が解らなくなる。
 それに、中を広げることに集中してるからか、アーダルベルトの指が、ぐいぐい奥まで入ってくる。奥の突き当たりに爪先が当たる。当たって、そんで。

「ぁ、ァアアア!」

 ぐりりって、こじ開けるみたいに、刺激された。声が、裏返った変な声が、出る。ぞわぞわとかぞくぞくとか、そんな生やさしいものじゃなくて。お腹の中をダイレクトに抉られて、弱い場所ぐいぐいされて、痛いはずなのに痛くなくて、それで。ぶわって全身の血管が変な風になりそうなぐらい、一気に、くる。
 これ、違う。さっきイったのと、何か違う。何かこう、もっと、無理矢理引っ張り出されてる感じがする。何か怖くて、視界は半分以上涙で塞がってて、それでも、手を伸ばした。髪でも鬣でも良いから、とりあえず、掴みたくて。だって、何か、縋るものが欲しい。どうにもならない感覚を逃がす先がないなら、せめて、縁が欲しい。
 そしたら、伸ばした手を、アーダルベルトの手が掴んでくれた。指を組み合わせて手を繋ぐ。大きな手だ。ワタシの手が、子供のちっぽけな手に思えるぐらい、大きな手。変なの。今、ワタシをぐちゃぐちゃにしてるのもこの手なのに。手を握って貰ったら、少しだけ、ホッとした。

「……痛みは?」
「……っ、ぁ、な、い……っ」
「そうか」

 本当に痛みは無かったから素直に答えたら、ずるって指が引き抜かれた。圧迫感が無くなってホッとして、ゆっくり息を吐き出した。呼吸が出来るって凄いことだって思った。
 ぎゅうっと、ワタシの手を握ったままのアーダルベルトの手に、力がこもる。惚けたまま見上げたら、表情を作るのに失敗した人形みたいな顔をしていた。ヲイ、覇王様。何その顔。そんなことを思ってたら、ぽすんとアーダルベルトの頭が顔のすぐ横に落ちてきた。落ちてきて、そして。

「……すまん」

 低い声が耳元で囁いたと思うのと、ぐち、と熱い何かがそこに触れるのが、ほぼ同時。あ、と思った。何か言い返そうと思ったのに、息が詰まる。ぐぐって無理矢理押し広げるようにして、熱が、入ってくる。何だよ、それ。なんだよ、それ……!
 言葉が出せなくて、動けなくて、せめてもの意趣返しに、握られた手で、爪を立てた。バカ野郎。バカ野郎。バカ野郎。何だよそれ、そんなの聞いてない。そんなの聞きたくない。謝るな、謝るな、……っ、謝るなよ……!
 ゆっくり、ゆっくり、それでもかなり力尽くに、アーダルベルトが入ってくる。お腹が壊れそうだ。そもそも、限界ギリギリまで広げられた入り口が、引きつっているのが解る。痛みは無いけれど、それでも、かなり無茶をしてるのが解る。
 けど、そんなこと、どうでも良い。苦しいし、泣きたいけど、でも、今は、何か、すげぇ、腹が立つ。バカにするなよ。見くびるなよ。選んだのはワタシなのに、何でお前が謝るんだよ。そういうところは嫌いだって、いつも、言ってるじゃ、ないか!

「……ミュー?」
「……っ、ひ、っ、く、ぁ……っ、バカぁ……っ」
「ヲイ、泣くな。……すまん」
「ちが、っ、……っや、まる、な……っ」
「ミュー……」

 この、真面目バカ。いつだってそうだ。いつだって自分のことは後回しだ。他人のために全部捨てて、いつだって、自分は後回しで、それが普通だと思ってる。違う、違う、違う。選んだのはワタシで、ワタシは、相手がアンタだから、それでも良いって思って……!謝ってもらうことなんて何もないのに、勝手に勘違いして謝って、勝手に罪悪感感じるな。ワタシを、バカにするなぁ……!
 お腹の圧迫感が凄くて、息苦しくて、言葉が上手に口に出せない。嫌だ。こんなのは、嫌だ。確かにこれは、事故みたいなもんで、義務みたいなもんで、仕方ないからこうしてるのは、事実だけど。だけどそこに、アーダルベルトがワタシに謝る理由なんて、どこにもないんだ。
 右手は相変わらずアーダルベルトに捕まったままで、ベッドにぎゅって押しつけられてるから、動かせない。何とか自由になる左手を動かして、困った顔でワタシを見てる覇王様の肩から首へ手を回して、引き寄せる。本当は、こう、抱き寄せたかったんだけど、力入らないし、こいつでかいし、ぺたって腕が乗ってるだけみたいになったけど。でも、意図は察してくれたのか、近寄ってきてくれる。
 相変わらず呼吸が乱れたまんまで、ちゃんと喋れる自信がちっともない。でも、伝えたいと思った。伝えないとと思った。こいつが誤解したままだと、この後、ワタシ達の関係が、何か変わると思った。変わって欲しくないから側にいることを選んだのに。変わりたくないから、色々面倒くさい条件を呑んだのに。何でお前は、勝手に、線引きをしようとするんだ、バカ野郎。

「ワタシが選んで、ワタシが、望んだことなんだよ。だから、謝るの、やめろ」
「ミュー、だが」
「勝手に、ワタシを、外側に、置くな……っ!」
「お前……」

 男とか女とか、結婚とか、初夜とか、割とその辺全部どうでも良いんだよ、ワタシは。ただ、側にいたいだけなんだよ。ここが居場所だって思ったから。もう、故郷に戻れないかも知れないって思ったら、怖くて。居場所が欲しくて。いても良いって言ってくれたから、ずっと一緒に居たいって思った。恋じゃ無いけど、恋愛感情じゃ無いけど、でも、ちゃんと好きで、だから、選んだのに……!

「……お前、本当に、どうしようもないほどに、阿呆だな」
「阿呆言うな!ワタシが阿呆なら、お前はバカだよ!」
「そうだな」
「……アディ?」
「許せ。別にお前を外に置いたつもりはない。ただ、まぁ、男として思うところがあっただけだ」
「ワタシ相手にそれ発動させるな。気色悪い」
「気色悪いとまで言うか、ミュー」
「だって、キモイ」

 紛れもない本心だったので、きっぱり言い切ったら目の前で覇王様が笑った。なんかめっちゃ嫌な予感する。え?今の地雷?いやだって、お前がワタシに対して男としての責任がどうのとか言い出したら、キモイだけじゃんか!間違ってない!ワタシ間違ってないもん……!
 肩に回ってたワタシの左手を、アーダルベルトが外させて、そのまま、右手と同じようにベッドの上に縫い付けられた。え?と思っていたら、にぃって笑う獅子が目の前に。ヲイ、ちょっと待て。お前その顔嫌な予感しかしないというか、実はめっちゃ怒ってませんか、相棒?!

「脱線ばかりするのも馬鹿馬鹿しいからな。さっさと終わらせて、寝るぞ」
「いや、それは確かに同意だけど、あの、この手、何……?」
「逃げるなよ?」
「……へ……?……っ、ひ、ぁあああ!」

 獲物を目の前にした肉食獣みたいな感じで笑った覇王様に顔を引きつらせた瞬間、だった。どすって感じで、腹部に衝撃が走った。痛みはない。ありがたいことに、痛覚マヒは続行してるらしい。ありがとう、ありがとう。それ無かったら多分、今頃、痛みで泣き叫んでる。
 ごちゅ、ごちゅって変な音が、お腹の中から響いてくる。息が、出来ない。圧迫されてるとかそんな状況じゃ無い。反射的に逃げそうになったのに、お腹は上から圧迫するみたいに挿入されてるせいで動かせないし、何かに捕まろうにも手は縫い付けられてるしで、身動き不可能。お腹、壊れ、る……っ。
 中に入れたまま、上から体重をかけてきて、奥をぐりぐり刺激されて、泣きそうになる。ただでさえ体格差で息苦しいのに、その上抉られたら、どうにかなりそうなんだけど。痛くないけど、痛くないから、逆に、困る。苦しいのに、しんどいのに、……じわじわ気持ち良いのが広がっていくから、タチが悪い。

「おい、ミュー」
「……ふ、ぁ……?」
「口、開けておけ」
「ほぇ……?……っ、んんっ!」

 頭回ってないのに色々言わないで欲しい。それでもとりあえず、言われたままに口を開けてたら、がぶって噛み付かれた。いや、食いつかれた、の方が近い気がする。唇がぶーって口で覆われて、そのまま分厚い舌がまた、口の中に入ってくる。じゅるじゅるって口の中も一緒に犯されて、身体中から力が抜けていく。
 あー、ずるい。ずるい。ちくしょう。何かも、最初っからずっと、覇王様に好き放題されてる気がする。いや、こっちが処女で、向こうがそれなりに経験積んでるんだから仕方ないんだけど。未経験2人で大事故起こすよりは良いのわかってるんだけど。……ワタシばっかり振り回されるのは、ちょっと、悔しい。
 一生懸命鼻で呼吸をしてみる。でも、口の中の敏感な部分を舌でいっぱい刺激されて、そっちに気を取られたら咎めるみたいにお腹を穿たれて、頭真っ白になりそうだ。あげく、指が、手の甲を、こすこす撫でてくる。そんなところと思ってたのに、他のところに引っ張られてか、その刺激だけでも、びくびくって腰が跳ねるのが、自分でも解った。
 まぁ、アレだよね。中身が何だろうが、ワタシ一応ちゃんと女なわけで。そりゃ、こういうことされたら、気持ち良くなるの、仕方ないよね。気持ち良くて、頭真っ白になりそうで、……そんで、何かこう、ぎゅって抱きつきたいのにそれが出来なくてちょっと寂しいとか思うのは、多分、仕方ないことだ。きっと。こう、生存本能みたいなもんじゃないかな。そう思う。
 ……っ、うん、大丈夫。ちゃんと、気持ち良いから。嫌じゃないから。痛くないから。そりゃ、息苦しいのは本当だけど。こんなでかいの入れられて、苦しくないとは言わない。言わない、けど。……よくしてくれてるのは解ってるから、そんな心配そうな目で、見なくて、大丈夫、だから。

「ふぁ、っ、あ……っ、あでぃ……っ」
「……っ、こら、締め付けるな」
「や、ら……っ、でき、な……っ」

 そんな器用なことが出来るなら、今、こんなに四苦八苦してない。中を突かれる度に、どうしてもぎゅうって締め付けちゃうのは、ワタシのせいじゃない。っていうか、割と本気で、腰から下が、感覚が遠い。ある意味でめっちゃ敏感なのに、自分の自由にならないっていう意味では、すっごい遠いんだよ。理解して!
 仕方ない奴だなって顔して笑って、でも、気持ち余裕が無さそうな顔で、アーダルベルトがワタシを見てる。また、キスされた。でも、さっきまでのと違って、かぷかぷ啄むみたいな軽いキス。これはこれで、ちゅっちゅって音がするから、気恥ずかしい気がする。
 これ、手、動けないし。身体も、上から体重かけられてて動けないし。中いっぱいにされて、ごちゅごちゅされて、逃げられないから、全部ダイレクトに刺激が届いて、辛い。つらい。しんどい。息が出来なくなる。お腹、おかしくなる……っ。

「ひぅ!ぁ、あ……!やぁ、耳、や……っ!」
「嘘つけ。感じてただろうが」
「ひぐっ……!ぁ、うぁ、あ……っ!」

 必死に耐えてたのに、べろんって左耳を舐められた。嘘、やだ、無理。ただでさえいっぱいいっぱいで、さっきからずっと、変な声ばっかり出てるのに。耳までされたら、どうにかなりそうで、怖い。耳、感じるなんて、知らなかったんだよ。耳舐められて、吸われて、それでこんな、ぞくぞくするなんて、知らなかったんだよ……!だから、お願いだから……っ!
 やだって言っても、聞いて貰えない。逃げようとしても、動きが制限されてるから、逃げられない。嫌だ。怖い。気持ち良すぎて怖い。これ、これ以上よくなったら、何か、色々、大事なことが、壊れる気がする。この気持ち良いを知りすぎたら、絶対、ワタシ。
 なのに。

「素直に感じてろ」

 若干呼吸の乱れた声で、耳に直接注ぎ込まれた言葉に、逆らえない。ずるい。ひどい。イケボの無駄遣いすんな、バカ野郎。あと、さっきまで困った顔とかしてたくせに、何で今はそんな、どこか吹っ切れたみたいな、いつもの顔してんだよ。こっちは混乱してるよ、バカ。
 それでも、何か、いつもと同じ顔をしてるアーダルベルトを見たら、ホッとしたのも事実だった。うん、大丈夫。大丈夫、だ。きっと、ワタシも、こいつも、変わらない。変われない。そういうところはきっと、バカみたいに、頑固なんだと思うから。
 ぎゅうっと大きな手を握ったら、同じぐらいの力で握りかえされた。そんなささいなことで安心するワタシは、やっぱり単純だなぁと思った。まぁ、色々考えても仕方ないよね。仕方ない。だから今は、このままで良いやと、思った。
 胎内をぐいぐい抉られて、穿たれて、普通に考えたら痛いだろうに、痛みが無いのがありがたいのかそうじゃないのか解らない。べろんって分厚い舌で涙を拭われて、それだけのことに悲鳴が出た。不意打ち禁止!不意打ち禁止!

「ひぅ、ぁ、あ……っ」

 与えられる刺激に翻弄されて、甘ったるい声だけが出て行く。自分らしくないから嫌なのに、そんなワタシを見てアーダルベルトは楽しそうに笑っている。おのれ、悪趣味。覚えてろよ。後でぶん殴ってやる。
 ごちゅ、ごちゅってお腹から音が響いてくる。耳はあんまり役に立ってない。時々、戯れみたいに耳を食べられて、そのせいできゅうって中を締め付けてしまう。それが気に入ったのか知らないけれど、不意打ちみたいに何度も耳を食まれて、頭が馬鹿になりそうだと思った。
 っていうか、何か、多分、何度かイってる気がするんだけど、止まってくれないから、上がったまま戻れない感じがしてる。ちゃんと喋れなくて、ちょっとぐらい休憩させろって言いたいのに、それすら言えなくて。ふわふわする頭じゃ、何も解らない。

「ミュー」
「……っ、ぁ、あう……あでぃ……?」
「……ッ」
「ひぁ……!?」

 がぶって、首を噛まれた。意味が解らなくて反射的に全身に力が入る。ただでさえ感じすぎておかしくなってる身体が、更に変になりそうだと思った。何か言おうとしたのに言えなくて、噛み付くみたいにキスをされて。それから、アーダルベルトの腰の動きが激しくなって、息が出来なくて、苦しくて、頭が真っ白になった。
 ぷつって意識が途切れる寸前に、胎内に熱いものが注がれたのを感じたのが、最後の記憶になった。




************************************




 寝落ちもとい気絶したワタシはそのまま朝まで寝こけたらしい。自然と目が覚めたらお外が明るかったです。抱き枕状態再びだったんだけど、一応ちゃんと服着てたし、身体は清めてあったので、色々後始末してくれたらしい。むにーと寝てる覇王様の頬を引っ張って起こしたら、面倒そうな目がこっちを見てきた。面倒そうな顔すんな。

「おはよう、アディ」
「おはよう」
「政務は良いの?」
「今日は休みらしい」
「おや、珍しい」

 珍しいのは、休みがあることじゃなくて、この仕事大好きワーカーホリックな覇王様が大人しく休もうとしていること、なんだけど。休めそうでも仕事を詰め込んじゃうのが通常運転のこいつにしては、実に珍しいことだと思う。何?惰眠貪りたかったの?

「……寝てろ」
「いや、寝てろじゃなくて」
「どうせ、腰が痛いだの何だの言い出すだろ。寝てろ」
「だからってお前の抱き枕になってる理由はねーやい。てか、朝ご飯。お腹減った」
「後で運ばせてやる。もうちょい寝させろ」
「……えー」

 基本的に睡眠時間少なくても平気なくせに、何で今朝だけこんなぐだぐだなんだ、こいつ。意味が解らない。解らなかった。……解りたくなかった。
 すいっとアーダルベルトが示したのは、扉。扉の向こうは繋ぎの間で、多分そこには護衛とかが立ってるんじゃないだろうかと思ったんだけど、そうじゃないらしい。口パクでアーダルベルトが伝えてきたのは、たった一つ。



――花畑。



 おーけー。おーけーだ、相棒よ。お前の言いたいことは良く解った。つまり、あの扉の向こうには、脳内お花畑の侍女や女官のお姉様達が、我々の身支度を調える準備をして、嬉々として待ち構えているわけですね?把握した。そりゃ、昨晩ぐだぐだやらかした我々としては、脳内お花畑の直撃はもうちょっと待って欲しいな。うん。了解。寝よう!
 もぞりと体勢を整えて、アーダルベルトの腕の中で小さくなる。ぽすぽすと頭を撫でられて、抱き枕よろしくぎゅーってされる。何か微妙に甘えん坊みたいなモード入ってねぇ?と思って見上げたら、面倒そうに寝ろとまた言われた。いや、だから。

「悪いとか思ってんだったら、殴るぞ」
「……」
「お前はいつも考えすぎなんだよ」
「そういうお前は考えなさすぎだ」
「うっせー」

 いつも通りのやりとりをするのが、ちょっと楽しかった。うん、大丈夫だった。やっぱり大丈夫だった。変わらないし、変れないし、変わりたくないし。ワタシと覇王様の関係は、多分、これから先もこんな風に、ぐだぐだなんだろう。それで良いじゃないか。世界で一番大切な、相棒なんだから。

「そうだ、お前、確認しとけよー」
「解ってる」
「まったく。誰の差し金だっつーの」

 ぶちぶちと文句を言うワタシに、まったくだと同意する声が聞こえた。本当に、誰が余計なことをしてくれたのか。おかげで面倒くさい一夜を過ごすはめになったじゃないか。原因はきっちり究明して、文句を言わせて貰わなければ。



 なお、差し金もとい原因は、味方だと思っていた皆さん(エーレンフリートを除く)でした。皆ひどいよ!!!



FIN
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