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第1章

13. 少女は駒を探す

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「さて、次は何をしよう」

 やりたいことは沢山ある。
 折角ここに来たのだから、スラムでやれる準備を最優先に終わらせたい。

「となると……駒の調達かな」

 ここで言う『駒』とは、『奴隷』のことだ。
 私の命令に逆らわず、従順に従ってくれる──絶対忠誠の駒。これからの復讐には必要になってくる。

 ゴンドルは馬鹿で単純だけれど、腐っても伯爵貴族だ。
 屋敷で働く騎士の数は多いし、奴を守っている護衛騎士の実力はそれなり。一人でやるのでは厳しいところがあるけれど、奴隷を使えばその負担も軽減されると思う。

 金は十分にある。
 余計な出費をしたとしても、また魔物を狩って稼げば問題ない。

 すでに駒として働いてもらっている傀儡は、人の街に入れられない。
 あの子達は一見すると魔物に間違われる可能性もあるので、面倒事を回避するためには仕方ないことだ。


「……よし」

 そうと決まれば即行動。
 幸いなことに奴隷商人が居る場所まではそう遠くない。

 私は徐々に慣れ始めたスラムの道を歩き、目的の場所には僅か三分程度で辿り着いた。

 移動式サーカス団のような建物なので、スラムでは目立つ。
 それを意識しているのだろうけれど、何にせよ悪趣味な見た目だね。



「ようこそいらっしゃいませ」

 私がそこに足を踏み入れた瞬間、小太りな男がヌッと姿を現した。
 こいつがここの管理人──奴隷商人なのだろう。

「奴隷を買いたいの」

「……失礼ですが、資金はお持ちで?」

 訝しげな視線は当たり前の反応だった。

 十歳という年齢では、最低価格の奴隷すら購入できない。
 貴族のご令嬢だとしても、普通はこの年齢で奴隷を求めるようなことはしないだろう。それが一般人の考えだ……というのは理解しているけれど、実際に言われると腹が立つな。


「これでいい?」

 不快感を隠さずに亜空間から袋を取り出し、中身を見せつける。
 これで私が収納魔法を扱えるほどの実力者であり、大金の持ち主ということを商人にわからせることができただろう。


「い、いいえ! お金があるのであれば、誰であろうとお客様です。はい!」

 見事なまでの手のひら返し。
 誰にでも媚び諂う腹黒クソ野郎の顔を思い出して、気分が悪くなった。

「それでは、檻の方にご案内いたします」

 奴隷商人の背中を追って歩くたび、不快な臭いが強くなってくる。

 私は渋面を隠さずに歩いていたけれど、商人は何も言わなかった。
 訪れる人が皆そうなのかわからないけれど、この反応には慣れていると言った雰囲気だ。

「さ、こちらです」

 店の奥には大きな鉄格子が並べられていた。
 獣人やエルフ等の亜人がほとんどで、人間は逆に少ない。

 それらは頑丈そうな手枷や足枷で自由を奪われ、暗く虚ろな瞳を伏せて中に入っていた。一目見てわかるのは、彼らがすでに人生を諦めている……ということだ。

 実際、私が近づいても反応する者は極少数だ。
 反応したとしても、それは売られていく恐怖に震えているだけ。

 ……さて、今回の目的をおさらいしよう。

 私は駒を探しに来た。ただの従順な奴隷ではない。
 復讐の手助けができる実力を最低限持った奴隷が欲しい。死ぬ恐怖に慣れていなければ、私の駒としては役に立たないだろう。


 ──つまり、ここの奴隷は外れだ。


「別の奴」

「はい? 何と仰いました?」

「あんたが扱っている商品は、この程度の粗悪品? 別の奴が見たい。どうせあるんでしょう?」

 その問いに、男はただただ気味の悪い笑みを浮かべた。

「もちろんありますとも。……ささ、こちらでございます」

 案内された場所には、地下へと通じる階段があった。

 ランプの光が最低限しか置かれていなくて、ほとんど光の意味を成していない。
 私には『暗視』があるから問題はないけれど、普通の人なら階段を降りることにさえ抵抗を覚えるだろう。

 ……そんな不気味さが、そこにはあった。

 促されるままに降りて行くと、やがてそれは見えてきた。

 ──檻、というよりは監獄だ。
 先程の檻とは違って、一つの牢獄に一人だけ入れられている。

「お気を付けください。力を弱めているとはいえ、ここの奴隷は気性が荒く危険です。無用心に近づいて死んだお客様も多数おられます」

「あっそう」

 奴隷商人の脅すような忠告をサラッと流しながら、一人一人の反応を確かめる。

 酷い仕打ちを受けているにも関わらず、どれもが己の意思をしっかりと保っていた。

 ……確かに、無用心に近付けば危険だろう。
 特別扱いされているだけのことはある。

 どれも駒としては十分に働いてくれるだろう。

 でも違う。
 私が求めている駒は、こいつらじゃない。

 そうして探していること数分。
 一際強い反応が、通路の最奥から感じられた。


 ──ブワッ、と全身の毛が逆立つ。


「あ、お客様……!」

 静止の声を振り切って、私は足を進める。


「…………見つけた」

 そこに『彼女』は居た。


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