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閑話 マーファのヒトコマ
独立し屋台を出して早10年。
初代女王アレーナ様と共に、ユリアレーナの基礎を作ったユリ様が考案した料理焼き小籠包。これが自慢の屋台だ。屋台を始めた当初は大変だったが、今では固定客も付き、家族を養っていける。
可愛い女房に、その女房に似て、これまた可愛い三姉妹。最近上の娘が恥ずかしがって抱っこさせてくれない。でも、可愛い娘。フェリアレーナ様にだって負けない美人になる。
フェリアレーナ様は何年か前に、マーファにいた。セザール様との結婚の為に。残念な事に結婚式は延期になったが。でも、短い間だったが、フェリアレーナ様はマーファを知ろうと努力されていた。セザール様とこんな屋台街にも来て、俺の焼き小籠包を食べてくれたのだ。美味しいって言ってくれた。今でもその頂いた言葉は誇りとして胸に抱いている。あの時のフェリアレーナ様は、それはそれは美しかった。あれ以降、フェリアレーナ様はマーファでは絶大な支持を持つ。でも、女房だって可愛い顔してるし、三姉妹だって自慢の可愛い娘だ。うん、絶対美人になるぞ、嫁に出さないぞ。
あ、誰も聞いてないよね? でも、分かってくれるよな、いつだって娘は、父親の中で一番の美人になるって思うのは。
その女房、娘達の為に、今日もしっかり焼き小籠包を売ろう。そろそろ昼飯の時間帯だ。屋台の焼き場の上には食べ頃の焼き小籠包がびっしり並ぶ。
いい感じだ。
自慢の焼き小籠包には秘密がある。独自配合のハーブで肉の臭さを消し、季節の野菜をふんだんに使い肉汁たっぷりだ。食欲をそそる香りが立ち上る。
す、と影が差した。
本日初のお客様だ、張り切って声を上げよう。
「いらっしゃいませっ、焼きたて……………」
…………………………………………………
え?
なんか、デカイのがいるんですけど?
え?
犬? いや、犬にしてはサイズおかしくない? 頭の大きさ、変じゃない? 小さな子供サイズくらいあるんじゃない? あ、左右の目の色が違う、いや、そうじゃない。
え?
猫? 猫ってこんなサイズのいたっけ? 近所の野良猫のうん百倍ありそう。そもそもこれ猫? あ、目が宝石のようだ。いや、そうじゃない。
背中に汗がダクダクと流れ落ちる。手にしたトングを落としそうだ。体が小刻みに震える。
ペロリ
犬?と猫?が舌舐めずり。
あ、ちら、と歯が見えた。いや、歯なんて可愛い表現してはいけない、牙だ。あれ、牙。口のサイズ、でかくない? 一咬みされたら、なくなりそうだ、頭とかが。
犬?と猫?が顔を寄せてきた。
あ、ヤバイ。
(ああ、愛しい女房よ、可愛い娘よ、俺は勇敢に戦って…………)
「なんばしようと? お店の人に迷惑やろうもん」
まるで子供に言い聞かせるように言ったのは、黒髪の女性。若くもないが、中年でもない、今まさに子育て真っ最中時期の女性。
顔を寄せていた犬?と猫?が、すっと身を引く。
(た、助かった…………)
「ワォンワォン」
「ガウガウ」
「なんね? 欲しいと? すみません、2つ頂けます?」
あ、お客様だ。本日初のお客様。
え? 犬?と猫?の言葉わかるの?
「ワォンワォンッ」
「ガウガウッ」
デカイ鼻面を黒髪女性に押し付ける犬?と猫? 大丈夫か? 女性の頭、無くならないよな? 黒髪女性は恐ろしくデカイ犬?と猫?に迫られても怖がらない、それどころか、優しい顔だ。
「もう、しょうがなかねえ。すみません、そこに並んでいるの全部ください」
上客、いらっしゃいませ。
「はい。少々お待ちください」
紙皿を出そうとすると、女性が待ったをかける。
「すみません、こちらの器にお願いします。晃太、皿ば出して」
この女性の言葉、妙なアクセントがある。見ない顔だから、最近マーファに来たのだろう。これだけデカイ犬?と猫?が一緒なのに、噂を聞いてないから、つい最近来たのか。後ろにいた黒髪の男性が皿を出す。アイテムボックス持ちか。黒髪女性より若い男性。旦那かと思ったが、目元がそっくりだ。姉弟のようだ。まあ、いい、自慢の焼き小籠包をせっせと並べる。
いかん、心弾むトークをしなくては。
「お客さん、立派なわんちゃんとネコちゃんですねえ」
出たのが、これだ。もっとましな言葉がでなかったか今でも後悔している。
「ワォンワォン」
「ガウガウ」
2匹の眉間に深いシワ。ひーっ。
「はいはい。唸らんよ。こっちがフォレストガーディアンウルフで、こっちがクリムゾンジャガーです」
不服そうな犬?改めてフォレストガーディアンウルフと、猫?改めてクリムゾンジャガーをたしなめる女性。
聞いたことない名前だが、きっとあれだ、深く聞いたらいけないやつだ。ウルフとかジャガーならば、魔物で、この女性が主人か。
なんだか、しっくり来ない。
いかにも一般人風の女性が、こんなデカイ魔物連れているのがぴんと来ない。
後日聞いたら、とんでもなく恐ろしい魔物と判明した。しかし、その時は分からず。
「立派な名前ですね。しかし、素晴らしい毛並みですねえ。お手入れ大変でしょう?」
「ええ、毎日大変で」
「そうですよねえ。それにしても、両方とも綺麗な目ですね、まるで宝石みたいです。今日帰ったら、娘達に会えたことを自慢出来ます」
「ありがとうございます」
そう言うと、女性は嬉しそうだ。
話のきっかけを掴み、焼き小籠包を全部皿に乗せた頃に、別の男性が黒髪女性に声をかける。こっちは、見かけたことがある。確か冒険者で、たまに焼き小籠包を買ってくれる。
「ユイさん、ユイさん、あそこに」
「あ、はい。あ、こらビアンカ、ルージュ、ダメばい」
今まで黒髪女性の後ろにいたフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーが、別の屋台を覗き込んでいる。ピタパンサンドの屋台だ。そこの主人が「ひーっ」と言ってる。
「晃太、ここ、支払って」
女性は自分にペコリ、としてフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーの元に。
コウタと呼ばれた男性が、冒険者ギルドカードで支払った。こちらも冒険者らしくない、一般人風。冒険者ギルドカードを、身分証代わりに持っている類いかもしれない。
その後、彼らはそんな調子で屋台を回り、大量に購入していった。
見送って息をつく。まあ、いい経験したと思おう。
新しく焼き始めると、
「あの、今、あの人が買っていったのあります?」
冒険者らしき男性が屋台を覗き込んで来た。
「あ、はい、焼き上がるのに少々お時間頂ければっ」
焼き小籠包は売れに売れた。
その日、過去最高額を売り上げた。
フォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーを連れた女性は、それからも時折来ては大量に買ってくれた。
いいお客様だ。
娘達は羨ましいと言って、お手伝いと称して、屋台に入ろうとして、女房に叱られている。だが、一度だけ、黒髪女性と娘達が鉢合わせ、フォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーを、ちょっと触らせて貰っていた。女房が気絶するのでは、と思ったが。娘達は上機嫌に触らせて貰っていた。
しかし、大人しいフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーだなあ。きっと主人の黒髪女性が、きちんと管理しているんだろう。穏やかな人のようだから、この2匹も穏やかな魔物かもしれない。魔物だって、いろいろだ。魔法馬だって、元は魔物。だって娘達に大人しく触られているし。ちょっと自分も触ってみたいし。
その考えは、一瞬で消えた。
ドラゴンをほぼ一撃で倒したと聞いて。
大人しいのではない、主人に忠実なだけで、絶対に怒らせてはいけないやつだ。
あ、今日もいらっしゃいませ。
「いらっしゃいっ」
「いつもすみません。全部頂けます?」
「はいっ、毎度っ」
営業スマイル全開。
恐ろしいかもしれないが、お客様には変わりない。
この黒髪女性だって、一般人と変わりない。ただ、ちょーっと、強い魔物をテイムしているだけだ。そう、悟るようにした。
「今日も暑いですねっ」
自慢の焼き小籠包を、いつも差し出される皿に並べた。
初代女王アレーナ様と共に、ユリアレーナの基礎を作ったユリ様が考案した料理焼き小籠包。これが自慢の屋台だ。屋台を始めた当初は大変だったが、今では固定客も付き、家族を養っていける。
可愛い女房に、その女房に似て、これまた可愛い三姉妹。最近上の娘が恥ずかしがって抱っこさせてくれない。でも、可愛い娘。フェリアレーナ様にだって負けない美人になる。
フェリアレーナ様は何年か前に、マーファにいた。セザール様との結婚の為に。残念な事に結婚式は延期になったが。でも、短い間だったが、フェリアレーナ様はマーファを知ろうと努力されていた。セザール様とこんな屋台街にも来て、俺の焼き小籠包を食べてくれたのだ。美味しいって言ってくれた。今でもその頂いた言葉は誇りとして胸に抱いている。あの時のフェリアレーナ様は、それはそれは美しかった。あれ以降、フェリアレーナ様はマーファでは絶大な支持を持つ。でも、女房だって可愛い顔してるし、三姉妹だって自慢の可愛い娘だ。うん、絶対美人になるぞ、嫁に出さないぞ。
あ、誰も聞いてないよね? でも、分かってくれるよな、いつだって娘は、父親の中で一番の美人になるって思うのは。
その女房、娘達の為に、今日もしっかり焼き小籠包を売ろう。そろそろ昼飯の時間帯だ。屋台の焼き場の上には食べ頃の焼き小籠包がびっしり並ぶ。
いい感じだ。
自慢の焼き小籠包には秘密がある。独自配合のハーブで肉の臭さを消し、季節の野菜をふんだんに使い肉汁たっぷりだ。食欲をそそる香りが立ち上る。
す、と影が差した。
本日初のお客様だ、張り切って声を上げよう。
「いらっしゃいませっ、焼きたて……………」
…………………………………………………
え?
なんか、デカイのがいるんですけど?
え?
犬? いや、犬にしてはサイズおかしくない? 頭の大きさ、変じゃない? 小さな子供サイズくらいあるんじゃない? あ、左右の目の色が違う、いや、そうじゃない。
え?
猫? 猫ってこんなサイズのいたっけ? 近所の野良猫のうん百倍ありそう。そもそもこれ猫? あ、目が宝石のようだ。いや、そうじゃない。
背中に汗がダクダクと流れ落ちる。手にしたトングを落としそうだ。体が小刻みに震える。
ペロリ
犬?と猫?が舌舐めずり。
あ、ちら、と歯が見えた。いや、歯なんて可愛い表現してはいけない、牙だ。あれ、牙。口のサイズ、でかくない? 一咬みされたら、なくなりそうだ、頭とかが。
犬?と猫?が顔を寄せてきた。
あ、ヤバイ。
(ああ、愛しい女房よ、可愛い娘よ、俺は勇敢に戦って…………)
「なんばしようと? お店の人に迷惑やろうもん」
まるで子供に言い聞かせるように言ったのは、黒髪の女性。若くもないが、中年でもない、今まさに子育て真っ最中時期の女性。
顔を寄せていた犬?と猫?が、すっと身を引く。
(た、助かった…………)
「ワォンワォン」
「ガウガウ」
「なんね? 欲しいと? すみません、2つ頂けます?」
あ、お客様だ。本日初のお客様。
え? 犬?と猫?の言葉わかるの?
「ワォンワォンッ」
「ガウガウッ」
デカイ鼻面を黒髪女性に押し付ける犬?と猫? 大丈夫か? 女性の頭、無くならないよな? 黒髪女性は恐ろしくデカイ犬?と猫?に迫られても怖がらない、それどころか、優しい顔だ。
「もう、しょうがなかねえ。すみません、そこに並んでいるの全部ください」
上客、いらっしゃいませ。
「はい。少々お待ちください」
紙皿を出そうとすると、女性が待ったをかける。
「すみません、こちらの器にお願いします。晃太、皿ば出して」
この女性の言葉、妙なアクセントがある。見ない顔だから、最近マーファに来たのだろう。これだけデカイ犬?と猫?が一緒なのに、噂を聞いてないから、つい最近来たのか。後ろにいた黒髪の男性が皿を出す。アイテムボックス持ちか。黒髪女性より若い男性。旦那かと思ったが、目元がそっくりだ。姉弟のようだ。まあ、いい、自慢の焼き小籠包をせっせと並べる。
いかん、心弾むトークをしなくては。
「お客さん、立派なわんちゃんとネコちゃんですねえ」
出たのが、これだ。もっとましな言葉がでなかったか今でも後悔している。
「ワォンワォン」
「ガウガウ」
2匹の眉間に深いシワ。ひーっ。
「はいはい。唸らんよ。こっちがフォレストガーディアンウルフで、こっちがクリムゾンジャガーです」
不服そうな犬?改めてフォレストガーディアンウルフと、猫?改めてクリムゾンジャガーをたしなめる女性。
聞いたことない名前だが、きっとあれだ、深く聞いたらいけないやつだ。ウルフとかジャガーならば、魔物で、この女性が主人か。
なんだか、しっくり来ない。
いかにも一般人風の女性が、こんなデカイ魔物連れているのがぴんと来ない。
後日聞いたら、とんでもなく恐ろしい魔物と判明した。しかし、その時は分からず。
「立派な名前ですね。しかし、素晴らしい毛並みですねえ。お手入れ大変でしょう?」
「ええ、毎日大変で」
「そうですよねえ。それにしても、両方とも綺麗な目ですね、まるで宝石みたいです。今日帰ったら、娘達に会えたことを自慢出来ます」
「ありがとうございます」
そう言うと、女性は嬉しそうだ。
話のきっかけを掴み、焼き小籠包を全部皿に乗せた頃に、別の男性が黒髪女性に声をかける。こっちは、見かけたことがある。確か冒険者で、たまに焼き小籠包を買ってくれる。
「ユイさん、ユイさん、あそこに」
「あ、はい。あ、こらビアンカ、ルージュ、ダメばい」
今まで黒髪女性の後ろにいたフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーが、別の屋台を覗き込んでいる。ピタパンサンドの屋台だ。そこの主人が「ひーっ」と言ってる。
「晃太、ここ、支払って」
女性は自分にペコリ、としてフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーの元に。
コウタと呼ばれた男性が、冒険者ギルドカードで支払った。こちらも冒険者らしくない、一般人風。冒険者ギルドカードを、身分証代わりに持っている類いかもしれない。
その後、彼らはそんな調子で屋台を回り、大量に購入していった。
見送って息をつく。まあ、いい経験したと思おう。
新しく焼き始めると、
「あの、今、あの人が買っていったのあります?」
冒険者らしき男性が屋台を覗き込んで来た。
「あ、はい、焼き上がるのに少々お時間頂ければっ」
焼き小籠包は売れに売れた。
その日、過去最高額を売り上げた。
フォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーを連れた女性は、それからも時折来ては大量に買ってくれた。
いいお客様だ。
娘達は羨ましいと言って、お手伝いと称して、屋台に入ろうとして、女房に叱られている。だが、一度だけ、黒髪女性と娘達が鉢合わせ、フォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーを、ちょっと触らせて貰っていた。女房が気絶するのでは、と思ったが。娘達は上機嫌に触らせて貰っていた。
しかし、大人しいフォレストガーディアンウルフとクリムゾンジャガーだなあ。きっと主人の黒髪女性が、きちんと管理しているんだろう。穏やかな人のようだから、この2匹も穏やかな魔物かもしれない。魔物だって、いろいろだ。魔法馬だって、元は魔物。だって娘達に大人しく触られているし。ちょっと自分も触ってみたいし。
その考えは、一瞬で消えた。
ドラゴンをほぼ一撃で倒したと聞いて。
大人しいのではない、主人に忠実なだけで、絶対に怒らせてはいけないやつだ。
あ、今日もいらっしゃいませ。
「いらっしゃいっ」
「いつもすみません。全部頂けます?」
「はいっ、毎度っ」
営業スマイル全開。
恐ろしいかもしれないが、お客様には変わりない。
この黒髪女性だって、一般人と変わりない。ただ、ちょーっと、強い魔物をテイムしているだけだ。そう、悟るようにした。
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