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連載
新しい扉⑧
私達はパーティーハウスでバタバタ。
「何人来るか分かるっ?」
『そうねえ、7匹ね。あら? オウル系の魔物もいるわ』
「えぇ? 魔物?」
『私達と同じ従魔よ。うん、まずまず高いレベルね。まあ、私達からは逃れられないわよ』
ぺろり、と舌舐めずり、あははん、狩る気満々ね。
「従魔なら、危害加えたらいかんよ」
釘を刺す。
『分かっているのです』
『分かっているわ』
それからお茶の準備。
CAFE&sandwich蒼空はまさかの定休日。母が神様用の冷蔵庫のストレートティーを出し、グラスや食器の準備。私は銀の槌に向かう。よし、まずまず種類がある。全種類ゲット。あまおうのショートケーキ、あまおうのタルト、チーズケーキ×2、ラズベリーのムースケーキ×2、紅茶のシフォンケーキ×2、メロンケーキ、アップルパイ×3、オレンジタルト、桃とマンゴーのタルト×3、ロールケーキ。
好きなケーキを選んでもらおう。こういったおもてなし方法分からない。
『もうじき来るわよ』
「わーッ」
「優衣、急いでッ」
大皿にケーキを並べる。
花の突撃をかわして、皿を持ち、母とルームを出る。
『来たわ』
私は玄関に出る。
出るとずらりと並ぶ男性達。1人はダストン様だ。背筋がぴっと伸びた高齢男性。身なりの良さそうな鎧を着た男性が4人、そして、肩に小型のフクロウを止めた壮年男性。
バサバサッ
フクロウは、私を見て、違う、私の後ろのビアンカとルージュがぺろりとしたので逃げていった。
逃げていったフクロウを見て、壮年男性は苦笑い。何だろう、この人、めちゃくちゃ格好いいけど。透明感のある肌色、ちょっと尖った耳、カーキ色の長い髪。整った顔立ちは、まるでアジアンビューティーだ。
「ハルスフォン様、どうされました?」
タイミングよく出てきた私に、ダストン様は驚いた顔だ。
「ああ、ミズサワ殿、ご紹介したい方がいるのですが」
言いにくそうなダストン様。
まあ、ダストン様だからとお茶の準備したし。
まずダストン様と高齢男性を敷地内にご案内。
「本来ならこのような接触は許されないのですが………」
ダストン様の顔に浮かぶのは中間管理職の苦労。
「どうされました?」
「実は、あの方」
指したのはアジアンビューティーの壮年男性。
「あちらの方?」
「あの方は、この国のご意見番のような方です」
「はい?」
私は首を傾げる。
「え? ご意見番?」
「はい」
実はドラゴンの件で、私は一度、首都にいらっしゃい、みたいな事があった。ご褒美ありますよ、と。だけど、行くのがめんどくさいし、これ以上目立ちたくないからと丁重にお断りした。ダストン様から十分頂いたから、これ以上はと。連絡係をしてくれた冒険者ギルドが、上手く取り次いでくれた。まさか、その時の事かな?
「ドラゴンの件ですか?」
「いいえ」
ダストン様が首を横に振る。
「どうしても、フォレストガーディアンウルフを近くで見たいと」
「えぇ?」
うちのビアンカ目当て? テレビとかで特集されたお店に行ってみようかと言う、興味本意の人か。いつか来るかと思っていたけど。よし、お茶とケーキはビアンカとルージュのお腹行きね。
「実はご意見番の母上は有名なテイマーなんです。そのテイムしていたのが、ハンターウルフから進化した、フォレストガーディアンウルフだったんです」
「はい?」
え、まさか、まさか、まさか。
確かビアンカを産んだお母さんの主人って召喚勇者だよね? え、あのアジアンビューティーな男性、いくつなん?
私の混乱が分かったのか、ダストン様が説明してくれた。
「ご意見番は長命な一族のエルフと人族のハーフなんですよ。母上様にあたるユリ様は、ユリアレーナ建国時に尽力された方。ご意見番は建国時より、このユリアレーナを見守っている方なのです」
あははははん、めちゃくちゃすごか人来たッ。
結局、パーティーハウスにご案内した。
「なんの連絡もなく突然訪れて申し訳ない。私はダイチ・サエキと申します」
アジアンビューティーの壮年男性が名乗る。
ダイチ・サエキ。
サエキダイチ? 佐伯大地? もろ、日本名やん。なら母親の名前は佐伯ユリになるのかな? え、日本人じゃない? 確か始祖神様は確かに、ビアンカとルージュのお母さんは従魔で、主人は召喚勇者って聞いたけど。
ダストン様と高齢男性、護衛の方達は外で待つと言っていたけど、そんなこと出来ない。押し問答の末、庭にあるウッドデッキにあるテーブルに座って頂いた。母と晃太がケーキやお茶を出す。ケーキの匂いにのたうち回る花を父が抱える。
アジアンビューティーの壮年男性、ダイチ・サエキ様は、にこやかな顔で居間のソファーに座る。元気が尻尾を振って行く。
「ははは、可愛い」
撫で撫で。
私はアイスティーとあまおうのタルトを出す。好みは分からないけど、色が鮮やかだからね。
「あのー、どういったご用件でしょうか?」
コハクまで寄っていき、両手でもふもふ。ケーキは避難してます。ケーキの皿を持ったまま私がおずおず聞く。
「ああ、そうでしたね。まず、皆さんお座りください」
サエキ様は着席を促してくれたので、対面に座る。花は父から晃太に渡る。
「ふふ、そう堅くならずに」
サエキ様の目が、優しくビアンカを見る。
「ただ、私は一目見たかっただけです。直ぐにお暇しますから。私の母がフォレストガーディアンウルフを従魔にしていましてね。噂を聞きまして、もしかしたらその従魔と関係があるのではないかと思い伺ったのです。彼女の娘ではないかと」
そう言ってサエキ様は笑う。
「やはり、間違いはない。一目見て分かりました、彼女の娘ですね。もっと時間があれば、私の母の話をしたいのですが」
私もものすごく興味がある。
『私達の母様を知っているのですか?』
ビアンカが少し警戒するように聞く。
「ええ、知っていますよ」
?
「え? 言葉分かるんですか?」
「勿論、私自身テイマーですからね。まあ、私の従魔は食われたくないと、先ほど逃げました。薄情なやつです」
あのフクロウね。
「私は、母が亡くなるまで彼女とは一緒でしたからね。確かに貴女の方がずっと美しいですし、一回り大きいですがね。しかし、目元は彼女そのものだ」
ビアンカが誉められている。鼻が天井まで伸びそうだ。
『何か、証はあるのですか? 私が似ている、なんて誰だって言えるのです。母様を本当に知っている証は?』
だが、ビアンカは警戒したままだ。
「名前はフェンリル。母は人前ではリルと呼んでいました。両目は薄い水色、額から右目にかけてキズがあります」
有名な名前でた。
ちらり、と振り返るとビアンカとルージュは目を見開いている。私もビアンカを産んだお母さんの名前知らないのに。
『母様の本名なのです』
『嘘では、ないようね』
「え、フェンリルって種族じゃないんですか?」
超有名な名前ですけど。
「この大陸では少なくとも確認されていませんね。別の大陸までは分かりませんがね」
サエキ様は笑う。
『何が目的なのです?』
『そうね、何が目的?』
「ふふふ。だから、そちらのフォレストガーディアンウルフを一目見たかったんですよ。もしかしたら、リルの娘ではないかと思いましてね。一目見て、分かりましたよ。ああ、母との楽しい思い出が甦ります」
サエキ様は本当にビアンカを見に来ただけなのか、それ以上は言わない。なんか、すごく、引っ掛かる人だな。そのユリっていうサエキ様のお母さんは、召喚勇者で、名前的に日本人だろうけど。詳しく聞きたいが、こちらから、私達も日本人ですなんて言えない。
分かっていることは、このサエキ様のお母さんが、ビアンカのお母さんの主人だということだけ。
あまり長居もせずに、サエキ様は帰り支度。
結局ケーキは食べず、サエキ様はアイテムボックスに。あの逃げたフクロウといただきますと。いい主人や。
立ち上がった瞬間、何か紙切れのような物が落ちた。手紙だ。サエキ様は直ぐに拾い上げうちポケットに。
だけど、見えてしまった。
家族へ
日本語で書かれた、たった3文字は、私の胸を突き動かす。
サエキ様のお母さんは、最後まで帰ることを諦めなかったのではないだろうか? そうや、いきなり、訳が分からない異世界に来て、家族が恋しく無いわけない。きっと最後まで足掻いたのでないだろうか? 私達は始祖神様から、帰れないことは聞いていたし、何より1人でない、家族がいる。だから、今でもなんとか正常な精神状態を保てているはずだ。だけど、もし、たった1人だったら?
考えただけで、不安や恐怖が沸き上がる。
私だったら、まともな判断が出来ずに、路頭に迷って、そのまま息絶えるのではないだろうか。
ビアンカ達のお母さんの主人は、サエキ様という息子を得たが、それまでどんな思いで生きてきたのか、想像できない。せめて、最後は、サエキ様や大切な人に囲まれて生きれたのだろうか?
分からない。分からない。分からない。
だけど、胸を突き動かされる。
「急に訪ねてきて申し訳ない。これで失礼します」
「あ、あ、はい」
動揺を悟られまいとしながら、サエキ様、ダストン様をお見送りする。ウッドデッキにいた皆さん、ケーキのお礼を丁寧に言ってきたけど、それどころやない。
「そうだ」
サエキ様は、迎えの馬車に乗る前に私達を振り返る。
「私はほぼ首都にいます。もし、立ち寄る事があれば歓迎しますよ。私が知っているリルの話をしましょう」
母の事も、と小さく呟くサエキ様。
馬車を見送り、パーティーハウスに戻る。
私はあの3文字が、気になって気になって仕方がない。
『ユイ、大丈夫なのです?』
『動揺しているわ。大丈夫よ、私とビアンカが守るわ』
「ありがとう、2人共」
2人の優しさが嬉しい。
あ、ヤバい、涙腺が決壊寸前。
あの3文字に込められた想いを勝手に考えただけで、私は泣きそうだ。
「なあ、お父さんな、あの人のお母さんに心当たりがある」
ずっと沈黙していた父の言葉に、涙は堪えきれなかった分だけ、流れ落ちた。
「何人来るか分かるっ?」
『そうねえ、7匹ね。あら? オウル系の魔物もいるわ』
「えぇ? 魔物?」
『私達と同じ従魔よ。うん、まずまず高いレベルね。まあ、私達からは逃れられないわよ』
ぺろり、と舌舐めずり、あははん、狩る気満々ね。
「従魔なら、危害加えたらいかんよ」
釘を刺す。
『分かっているのです』
『分かっているわ』
それからお茶の準備。
CAFE&sandwich蒼空はまさかの定休日。母が神様用の冷蔵庫のストレートティーを出し、グラスや食器の準備。私は銀の槌に向かう。よし、まずまず種類がある。全種類ゲット。あまおうのショートケーキ、あまおうのタルト、チーズケーキ×2、ラズベリーのムースケーキ×2、紅茶のシフォンケーキ×2、メロンケーキ、アップルパイ×3、オレンジタルト、桃とマンゴーのタルト×3、ロールケーキ。
好きなケーキを選んでもらおう。こういったおもてなし方法分からない。
『もうじき来るわよ』
「わーッ」
「優衣、急いでッ」
大皿にケーキを並べる。
花の突撃をかわして、皿を持ち、母とルームを出る。
『来たわ』
私は玄関に出る。
出るとずらりと並ぶ男性達。1人はダストン様だ。背筋がぴっと伸びた高齢男性。身なりの良さそうな鎧を着た男性が4人、そして、肩に小型のフクロウを止めた壮年男性。
バサバサッ
フクロウは、私を見て、違う、私の後ろのビアンカとルージュがぺろりとしたので逃げていった。
逃げていったフクロウを見て、壮年男性は苦笑い。何だろう、この人、めちゃくちゃ格好いいけど。透明感のある肌色、ちょっと尖った耳、カーキ色の長い髪。整った顔立ちは、まるでアジアンビューティーだ。
「ハルスフォン様、どうされました?」
タイミングよく出てきた私に、ダストン様は驚いた顔だ。
「ああ、ミズサワ殿、ご紹介したい方がいるのですが」
言いにくそうなダストン様。
まあ、ダストン様だからとお茶の準備したし。
まずダストン様と高齢男性を敷地内にご案内。
「本来ならこのような接触は許されないのですが………」
ダストン様の顔に浮かぶのは中間管理職の苦労。
「どうされました?」
「実は、あの方」
指したのはアジアンビューティーの壮年男性。
「あちらの方?」
「あの方は、この国のご意見番のような方です」
「はい?」
私は首を傾げる。
「え? ご意見番?」
「はい」
実はドラゴンの件で、私は一度、首都にいらっしゃい、みたいな事があった。ご褒美ありますよ、と。だけど、行くのがめんどくさいし、これ以上目立ちたくないからと丁重にお断りした。ダストン様から十分頂いたから、これ以上はと。連絡係をしてくれた冒険者ギルドが、上手く取り次いでくれた。まさか、その時の事かな?
「ドラゴンの件ですか?」
「いいえ」
ダストン様が首を横に振る。
「どうしても、フォレストガーディアンウルフを近くで見たいと」
「えぇ?」
うちのビアンカ目当て? テレビとかで特集されたお店に行ってみようかと言う、興味本意の人か。いつか来るかと思っていたけど。よし、お茶とケーキはビアンカとルージュのお腹行きね。
「実はご意見番の母上は有名なテイマーなんです。そのテイムしていたのが、ハンターウルフから進化した、フォレストガーディアンウルフだったんです」
「はい?」
え、まさか、まさか、まさか。
確かビアンカを産んだお母さんの主人って召喚勇者だよね? え、あのアジアンビューティーな男性、いくつなん?
私の混乱が分かったのか、ダストン様が説明してくれた。
「ご意見番は長命な一族のエルフと人族のハーフなんですよ。母上様にあたるユリ様は、ユリアレーナ建国時に尽力された方。ご意見番は建国時より、このユリアレーナを見守っている方なのです」
あははははん、めちゃくちゃすごか人来たッ。
結局、パーティーハウスにご案内した。
「なんの連絡もなく突然訪れて申し訳ない。私はダイチ・サエキと申します」
アジアンビューティーの壮年男性が名乗る。
ダイチ・サエキ。
サエキダイチ? 佐伯大地? もろ、日本名やん。なら母親の名前は佐伯ユリになるのかな? え、日本人じゃない? 確か始祖神様は確かに、ビアンカとルージュのお母さんは従魔で、主人は召喚勇者って聞いたけど。
ダストン様と高齢男性、護衛の方達は外で待つと言っていたけど、そんなこと出来ない。押し問答の末、庭にあるウッドデッキにあるテーブルに座って頂いた。母と晃太がケーキやお茶を出す。ケーキの匂いにのたうち回る花を父が抱える。
アジアンビューティーの壮年男性、ダイチ・サエキ様は、にこやかな顔で居間のソファーに座る。元気が尻尾を振って行く。
「ははは、可愛い」
撫で撫で。
私はアイスティーとあまおうのタルトを出す。好みは分からないけど、色が鮮やかだからね。
「あのー、どういったご用件でしょうか?」
コハクまで寄っていき、両手でもふもふ。ケーキは避難してます。ケーキの皿を持ったまま私がおずおず聞く。
「ああ、そうでしたね。まず、皆さんお座りください」
サエキ様は着席を促してくれたので、対面に座る。花は父から晃太に渡る。
「ふふ、そう堅くならずに」
サエキ様の目が、優しくビアンカを見る。
「ただ、私は一目見たかっただけです。直ぐにお暇しますから。私の母がフォレストガーディアンウルフを従魔にしていましてね。噂を聞きまして、もしかしたらその従魔と関係があるのではないかと思い伺ったのです。彼女の娘ではないかと」
そう言ってサエキ様は笑う。
「やはり、間違いはない。一目見て分かりました、彼女の娘ですね。もっと時間があれば、私の母の話をしたいのですが」
私もものすごく興味がある。
『私達の母様を知っているのですか?』
ビアンカが少し警戒するように聞く。
「ええ、知っていますよ」
?
「え? 言葉分かるんですか?」
「勿論、私自身テイマーですからね。まあ、私の従魔は食われたくないと、先ほど逃げました。薄情なやつです」
あのフクロウね。
「私は、母が亡くなるまで彼女とは一緒でしたからね。確かに貴女の方がずっと美しいですし、一回り大きいですがね。しかし、目元は彼女そのものだ」
ビアンカが誉められている。鼻が天井まで伸びそうだ。
『何か、証はあるのですか? 私が似ている、なんて誰だって言えるのです。母様を本当に知っている証は?』
だが、ビアンカは警戒したままだ。
「名前はフェンリル。母は人前ではリルと呼んでいました。両目は薄い水色、額から右目にかけてキズがあります」
有名な名前でた。
ちらり、と振り返るとビアンカとルージュは目を見開いている。私もビアンカを産んだお母さんの名前知らないのに。
『母様の本名なのです』
『嘘では、ないようね』
「え、フェンリルって種族じゃないんですか?」
超有名な名前ですけど。
「この大陸では少なくとも確認されていませんね。別の大陸までは分かりませんがね」
サエキ様は笑う。
『何が目的なのです?』
『そうね、何が目的?』
「ふふふ。だから、そちらのフォレストガーディアンウルフを一目見たかったんですよ。もしかしたら、リルの娘ではないかと思いましてね。一目見て、分かりましたよ。ああ、母との楽しい思い出が甦ります」
サエキ様は本当にビアンカを見に来ただけなのか、それ以上は言わない。なんか、すごく、引っ掛かる人だな。そのユリっていうサエキ様のお母さんは、召喚勇者で、名前的に日本人だろうけど。詳しく聞きたいが、こちらから、私達も日本人ですなんて言えない。
分かっていることは、このサエキ様のお母さんが、ビアンカのお母さんの主人だということだけ。
あまり長居もせずに、サエキ様は帰り支度。
結局ケーキは食べず、サエキ様はアイテムボックスに。あの逃げたフクロウといただきますと。いい主人や。
立ち上がった瞬間、何か紙切れのような物が落ちた。手紙だ。サエキ様は直ぐに拾い上げうちポケットに。
だけど、見えてしまった。
家族へ
日本語で書かれた、たった3文字は、私の胸を突き動かす。
サエキ様のお母さんは、最後まで帰ることを諦めなかったのではないだろうか? そうや、いきなり、訳が分からない異世界に来て、家族が恋しく無いわけない。きっと最後まで足掻いたのでないだろうか? 私達は始祖神様から、帰れないことは聞いていたし、何より1人でない、家族がいる。だから、今でもなんとか正常な精神状態を保てているはずだ。だけど、もし、たった1人だったら?
考えただけで、不安や恐怖が沸き上がる。
私だったら、まともな判断が出来ずに、路頭に迷って、そのまま息絶えるのではないだろうか。
ビアンカ達のお母さんの主人は、サエキ様という息子を得たが、それまでどんな思いで生きてきたのか、想像できない。せめて、最後は、サエキ様や大切な人に囲まれて生きれたのだろうか?
分からない。分からない。分からない。
だけど、胸を突き動かされる。
「急に訪ねてきて申し訳ない。これで失礼します」
「あ、あ、はい」
動揺を悟られまいとしながら、サエキ様、ダストン様をお見送りする。ウッドデッキにいた皆さん、ケーキのお礼を丁寧に言ってきたけど、それどころやない。
「そうだ」
サエキ様は、迎えの馬車に乗る前に私達を振り返る。
「私はほぼ首都にいます。もし、立ち寄る事があれば歓迎しますよ。私が知っているリルの話をしましょう」
母の事も、と小さく呟くサエキ様。
馬車を見送り、パーティーハウスに戻る。
私はあの3文字が、気になって気になって仕方がない。
『ユイ、大丈夫なのです?』
『動揺しているわ。大丈夫よ、私とビアンカが守るわ』
「ありがとう、2人共」
2人の優しさが嬉しい。
あ、ヤバい、涙腺が決壊寸前。
あの3文字に込められた想いを勝手に考えただけで、私は泣きそうだ。
「なあ、お父さんな、あの人のお母さんに心当たりがある」
ずっと沈黙していた父の言葉に、涙は堪えきれなかった分だけ、流れ落ちた。
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