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エリクサー④
「これを使います」
戸惑いの表情を浮かべている、牧師さんとシスター。
「テイマー様、これは?」
「エリクサーです」
「「は?」」
「エリクサーです。状況を打破できるのは、これだけです」
「本当に、エリクサーなんですか?」
牧師さんの聞く声が震えている。
「そうです」
「でも、そんなお金は…………」
「いいえ、お金は必要ありません。ただ、これからお願いしたいことがあります」
顔を見合わせる牧師さんとシスター。
「まず、1つ、このエリクサーの存在は秘密にしてもうこと。2つ、このエリクサーの投与許可を頂くこと。最後に、これでもしこの子が助からなくても私達を責めないこと」
更に困惑している牧師さんとシスター。
「どうします? 時間の猶予はありませんよ。このまま、祈って見送るか、足掻くかです」
余命3時間だ。
顔を見合わせた牧師さんとシスターが考えて決断する。
「お願いします」
「はい」
よし、始めよう。
父は言っていた、『吸収』と。何も飲まなくても、他に吸収させる手段があるかもしれない。胃管とかあれば、直ぐに胃に直接注入できるが、余命3時間の子に胃管なんて入れられないし、まず、胃管も聴診器等の物品もない。
時間もない。
まず、皮膚から吸収できるか確認しよう。ノータであの若い夫婦に上級ポーションを使った時に、キズ口からポーションが染み込み助かったから。
私はスポイトを手にする。
これはディレックスの化粧品コーナーで、トラベルセットの容器に付属していたものだ。空のスプレータイプはなかったので、スポイトですることに。
まず、一滴。小さく黄色に染まった手の甲に垂らす。
エリクサーは澄んだ淡い紫色。だが、吸収されない。滑り落ちていく。もしかしたら、皮膚からは時間がかかるのかもしれない。間に合わない。あのノータの夫婦は、キズ口という入り口があったから、ポーションの効果が直ぐに出ただけか。
次の手段、出来れば避けたかった。
内科で働いていた時、何より怖かった事の一つに誤嚥があった。
口腔の粘膜からの吸収か、下からか。ぶっちゃけ体を動かしたくない。
「姉ちゃん」
「晃太、懐中電灯で口元照らして」
「ん」
私は慎重に、人差し指を下唇の下に当てて、そっと開ける。
晃太が懐中電灯で照らす。角度を調整して、口腔内を確認。
これがダメなら、どうしようもない。
私の中に、誤嚥、誤嚥、誤嚥、誤嚥、誤嚥、誤嚥。
と、誤嚥のワードが駆け抜ける。
誤嚥して、これ以上の苦しみを与えないか。
だけど、これ以外の手を思い付かない。
一滴だけ。一滴だけ。
震える手で、カラカラに干からびた舌に一滴垂らす。
すると、エリクサーがすうっとなくなる。砂が水を吸い込むようになくなる。
吸収されたんだ。
いける。
「姉ちゃんっ」
「さあ、これからよ」
長期戦の始まりや。
ビアンカとルージュが孤児院の庭で、それぞれの仔達と寝ている。ノワールも寝ている。ビアンカとルージュは私を残して帰れないと。
晃太にも一旦宿に戻るように言ったけど、結局残った。
『元々外で寝ていたのです』
『そうよ、ルームがある前は地面にそのままだったのよ、心配しないで』
「姉ちゃん1人でやるにはきつかろ?」
ありがたい。嬉しい。
一滴、一滴、一滴、一滴、一滴。
吸収されたのを確認して、一滴。吸収されたのを確認して、一滴。
ひたすら繰り返す。
どれくらい経ったか。変化が全く見られない。
内心焦りながら、確認、一滴、確認、一滴、確認、一滴。
同じ動作の繰り返し。
晃太と牧師さんは交代で、懐中電灯で口元を照らし、シスターは祈り続けている。
私は首やら痛いがそうは言ってられない。
確認、一滴、確認、一滴、確認、一滴、確認、一滴。確認、一滴。
本当に効果あるんだろうか?
私のしていること、無駄な事ではないか、変に牧師さんやシスターさんに期待を持たせたのではないか。
そんな不安に押し潰されそうになった頃。
ふいに、全く動かなかった口元が動く。
思わず全員手を引っ込める。
そして、小さな体を光が包み込む。
光が引いた後には、あんなに黄疸が出ていた肌が、普通の肌色に。呼吸もしっかりしている。
光が、完治の印や。
ああ、完治したんだ。
肩の力が抜ける。
「テイマー様っ」
牧師さんが声を上げる。
「完治したと思います」
「本当ですかっ?」
「はい」
「ありがとうございますっ、ありがとうございますっ」
崩れ落ちるシスターさん。
「とにかく自然に目を覚ますのを待ちましょう」
わななくシスターさんの背中をさすり、私は立ち上がる。
「牧師さん、ちょっとアイテムボックスの中を整理したいので」
遠回しに、退室をお願いする。
「あ、はい、シスター行きましょう」
疑いもせず牧師さんがシスターさんの立たせて、部屋を出ていく。
すみません。
私はルームを開けて、サブ・ドアを開ける。
マーファのパーティーハウスの居間に灯りが点いていた。
「お父さん」
小声で呼ぶと直ぐに来てくれた。
「どうなった?」
「なんとか光ったんやけど、念のために見て」
「ん」
父とドアを出て、鑑定してもらう。
「うん、肝臓ガンや多臓器不全、余命が消えとる。ただ、ちょっと衰弱はあるな」
その言葉に、脱力しそうになる。
ああ、良かった。本当に良かった。
「ありがとうお父さん」
サブ・ドアから父を見送ると、マーファのドア前には母が立っていた。花が21時には寝てしまうので、そのサイクルに合わせている母にとっては既に就寝時間を過ぎている。
「あ、ごめん、起こした?」
「よかよ、気になっとったしね」
「無事、完治したよ」
「そうね、良かったね」
母も心底ほっとした顔だ。
「じゃあ、夕方ね」
私はサブ・ドアを閉め、ルームを出る。
男の子は、穏やかに眠っている。
ああ、良かった、良かった、良かった。
「とりあえず、帰ろうか。長居したら迷惑やろうし、また、様子ば見に来よう」
「そやな」
安心と疲労の表情を浮かべた晃太と共に部屋を出る。
牧師さんとシスターさんがすぐ近くにいる。
「私達はこれで一旦失礼します。また改めて様子を見に来てもよろしいですか?」
「はい、なんとお礼を申し上げればよいか」
「いえ、あれの存在を秘密にお願いします」
「それはもちろん」
夜遅いので、静かに孤児院を出る。
バギーにはルリ、クリス、ヒスイを乗せ、元気を晃太、コハクを私が抱える。重かあ。
わざわざ見送ってくれた牧師さんとシスターさんの姿が見えなくなったのを確認。
「ルージュ、うちらを見てる人おる?」
『いないわ』
「ありがと」
私は道端でルージュの魔法のカーテンを広げてもらい、ルームを開ける。ノワールを厩舎に誘導、5匹を従魔の部屋に寝かせてから、ルームを出る。
それからやっと宿に戻った。
戸惑いの表情を浮かべている、牧師さんとシスター。
「テイマー様、これは?」
「エリクサーです」
「「は?」」
「エリクサーです。状況を打破できるのは、これだけです」
「本当に、エリクサーなんですか?」
牧師さんの聞く声が震えている。
「そうです」
「でも、そんなお金は…………」
「いいえ、お金は必要ありません。ただ、これからお願いしたいことがあります」
顔を見合わせる牧師さんとシスター。
「まず、1つ、このエリクサーの存在は秘密にしてもうこと。2つ、このエリクサーの投与許可を頂くこと。最後に、これでもしこの子が助からなくても私達を責めないこと」
更に困惑している牧師さんとシスター。
「どうします? 時間の猶予はありませんよ。このまま、祈って見送るか、足掻くかです」
余命3時間だ。
顔を見合わせた牧師さんとシスターが考えて決断する。
「お願いします」
「はい」
よし、始めよう。
父は言っていた、『吸収』と。何も飲まなくても、他に吸収させる手段があるかもしれない。胃管とかあれば、直ぐに胃に直接注入できるが、余命3時間の子に胃管なんて入れられないし、まず、胃管も聴診器等の物品もない。
時間もない。
まず、皮膚から吸収できるか確認しよう。ノータであの若い夫婦に上級ポーションを使った時に、キズ口からポーションが染み込み助かったから。
私はスポイトを手にする。
これはディレックスの化粧品コーナーで、トラベルセットの容器に付属していたものだ。空のスプレータイプはなかったので、スポイトですることに。
まず、一滴。小さく黄色に染まった手の甲に垂らす。
エリクサーは澄んだ淡い紫色。だが、吸収されない。滑り落ちていく。もしかしたら、皮膚からは時間がかかるのかもしれない。間に合わない。あのノータの夫婦は、キズ口という入り口があったから、ポーションの効果が直ぐに出ただけか。
次の手段、出来れば避けたかった。
内科で働いていた時、何より怖かった事の一つに誤嚥があった。
口腔の粘膜からの吸収か、下からか。ぶっちゃけ体を動かしたくない。
「姉ちゃん」
「晃太、懐中電灯で口元照らして」
「ん」
私は慎重に、人差し指を下唇の下に当てて、そっと開ける。
晃太が懐中電灯で照らす。角度を調整して、口腔内を確認。
これがダメなら、どうしようもない。
私の中に、誤嚥、誤嚥、誤嚥、誤嚥、誤嚥、誤嚥。
と、誤嚥のワードが駆け抜ける。
誤嚥して、これ以上の苦しみを与えないか。
だけど、これ以外の手を思い付かない。
一滴だけ。一滴だけ。
震える手で、カラカラに干からびた舌に一滴垂らす。
すると、エリクサーがすうっとなくなる。砂が水を吸い込むようになくなる。
吸収されたんだ。
いける。
「姉ちゃんっ」
「さあ、これからよ」
長期戦の始まりや。
ビアンカとルージュが孤児院の庭で、それぞれの仔達と寝ている。ノワールも寝ている。ビアンカとルージュは私を残して帰れないと。
晃太にも一旦宿に戻るように言ったけど、結局残った。
『元々外で寝ていたのです』
『そうよ、ルームがある前は地面にそのままだったのよ、心配しないで』
「姉ちゃん1人でやるにはきつかろ?」
ありがたい。嬉しい。
一滴、一滴、一滴、一滴、一滴。
吸収されたのを確認して、一滴。吸収されたのを確認して、一滴。
ひたすら繰り返す。
どれくらい経ったか。変化が全く見られない。
内心焦りながら、確認、一滴、確認、一滴、確認、一滴。
同じ動作の繰り返し。
晃太と牧師さんは交代で、懐中電灯で口元を照らし、シスターは祈り続けている。
私は首やら痛いがそうは言ってられない。
確認、一滴、確認、一滴、確認、一滴、確認、一滴。確認、一滴。
本当に効果あるんだろうか?
私のしていること、無駄な事ではないか、変に牧師さんやシスターさんに期待を持たせたのではないか。
そんな不安に押し潰されそうになった頃。
ふいに、全く動かなかった口元が動く。
思わず全員手を引っ込める。
そして、小さな体を光が包み込む。
光が引いた後には、あんなに黄疸が出ていた肌が、普通の肌色に。呼吸もしっかりしている。
光が、完治の印や。
ああ、完治したんだ。
肩の力が抜ける。
「テイマー様っ」
牧師さんが声を上げる。
「完治したと思います」
「本当ですかっ?」
「はい」
「ありがとうございますっ、ありがとうございますっ」
崩れ落ちるシスターさん。
「とにかく自然に目を覚ますのを待ちましょう」
わななくシスターさんの背中をさすり、私は立ち上がる。
「牧師さん、ちょっとアイテムボックスの中を整理したいので」
遠回しに、退室をお願いする。
「あ、はい、シスター行きましょう」
疑いもせず牧師さんがシスターさんの立たせて、部屋を出ていく。
すみません。
私はルームを開けて、サブ・ドアを開ける。
マーファのパーティーハウスの居間に灯りが点いていた。
「お父さん」
小声で呼ぶと直ぐに来てくれた。
「どうなった?」
「なんとか光ったんやけど、念のために見て」
「ん」
父とドアを出て、鑑定してもらう。
「うん、肝臓ガンや多臓器不全、余命が消えとる。ただ、ちょっと衰弱はあるな」
その言葉に、脱力しそうになる。
ああ、良かった。本当に良かった。
「ありがとうお父さん」
サブ・ドアから父を見送ると、マーファのドア前には母が立っていた。花が21時には寝てしまうので、そのサイクルに合わせている母にとっては既に就寝時間を過ぎている。
「あ、ごめん、起こした?」
「よかよ、気になっとったしね」
「無事、完治したよ」
「そうね、良かったね」
母も心底ほっとした顔だ。
「じゃあ、夕方ね」
私はサブ・ドアを閉め、ルームを出る。
男の子は、穏やかに眠っている。
ああ、良かった、良かった、良かった。
「とりあえず、帰ろうか。長居したら迷惑やろうし、また、様子ば見に来よう」
「そやな」
安心と疲労の表情を浮かべた晃太と共に部屋を出る。
牧師さんとシスターさんがすぐ近くにいる。
「私達はこれで一旦失礼します。また改めて様子を見に来てもよろしいですか?」
「はい、なんとお礼を申し上げればよいか」
「いえ、あれの存在を秘密にお願いします」
「それはもちろん」
夜遅いので、静かに孤児院を出る。
バギーにはルリ、クリス、ヒスイを乗せ、元気を晃太、コハクを私が抱える。重かあ。
わざわざ見送ってくれた牧師さんとシスターさんの姿が見えなくなったのを確認。
「ルージュ、うちらを見てる人おる?」
『いないわ』
「ありがと」
私は道端でルージュの魔法のカーテンを広げてもらい、ルームを開ける。ノワールを厩舎に誘導、5匹を従魔の部屋に寝かせてから、ルームを出る。
それからやっと宿に戻った。
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