文字の大きさ
大
中
小
138 / 878
連載
次への④
「いつもすまんのう」
始祖神様は美味しそうにモンブランをパクパク。
「おっといかん、原始のダンジョンだったな。まず、ダンジョンは生きた魔物だと言うことは理解できておるかな?」
「はい。コアを破壊しなければ、ずっと生き続けると」
シュタインさんがそう教えてくれた。
「原始のダンジョンを説明するなら、少しこの世界の説明もするがよいかの?」
「はい」
この世界の始まり。
始祖神様が世界を生み出したのが始まり。
そして時空神様と雨の女神様が生まれた。時空神様が空間を整え、雨の女神様が空や大地、海など整えた。それにより、この世界は魔力を宿した。
地球の神様は、完全に手は出さず、地球の時の流れ、進化にすべて任せたので、一切の魔力を宿していない。
「儂等は、ある程度整えた後は、世界の流れに任せることにした。お嬢さん方が生活している世界、まあ、儂等から言わせたら下界と、儂等、神の住まう世界を隔離した」
基本的に神様は神の世界。私達、人は人の世界に。
理由はいろいろあるが、神様が生命のサイクルを始めた世界に介入すると、それが簡単にねじ曲がるそうだ。
この世界は、地球とは違うけど、ゆっくり進化。そんな中で沢山の生き物が生まれ、または絶滅しながら時を刻んでいた。
魔力を宿した世界の為に、どうしても魔の森が生まれ、魔物も生まれた。
「ちなみに、そこにおるクリムゾンジャガーはもうほとんどおらん、この世界の原種じゃ」
おお、すごい。あれだ、天然記念物だね。
「もちろん人族やドワーフ族、エルフ族、獣人族等も生まれ、それぞれ文明を持てる様になった。儂等の世界でもそれに伴い沢山の神が生まれた。お嬢さん達も会っておる闘神、魔法の三柱神。そして大地の女神、樹の女神、灯火の女神、鍛冶の神、薬の神、商い神等な。儂等も慣れん子育てで大変だったが、そんなある日、自分の世界に介入し、ねじ曲げてしまった神が、儂にある日懇願してきた」
始祖神様は息をつく。
「ねじ曲がってしまった自分の世界の民を、受け入れてくれないか、と」
その神様は、良かれと思って世界に介入したけど、神様の力を得た者達が力を得たことで豹変、世界を蹂躙、すべてを支配下に置き、それはひどい有り様になったと。結局、支配下に置かれた力を持た
ない民が逃げ迷い、必死にその介入した神様に助けを求めて来た。もう修正不能なまでに形を変えた世界に、その世界を作った神様は、破壊を決意。だが、せめて、自分の不要な介入で窮地に陥った民だけは救いたいと。
始祖神様は全部の民は無理だが、移住先は未開拓の場所限定と条件をつけて、出来るだけ受け入れたそうだ。
そのねじ曲げた神様は、最後の民を、見送って、自分の作った世界と共に滅んだそうだ。
「その後も似たように移住してくる者がおってな。儂等は特に拒否はしなかった。みな、故郷を捨てなくてはならなくなる事情を抱えていたからの。それでこの世界には多種多様の種族がおる。もうほぼ見分けがつかんが、同じ人族でも寿命が異なったりするのは、他の世界から移住した民の種族性が影響しておるからだ。だがのう、それが後で思いもよらぬ影響を及ぼし出し、儂等は外の世界からの移住を遮断した。まあ、お嬢さん方のように、儂等の目が届かない僅かな隙間から、時折別世界から召喚されてしまうが、な。遮断した理由は特異変異種が生まれ始めたからじゃ」
始祖神様はため息。
「ゴブリンを知っておるか?」
「はい」
Gよね、いろいろ敵なG。
「あれも別の世界の魔物だが、もともとは愛情深い性格でな、一家に一匹、子守りとしておった。赤子をあやし、幼子を背中に背負い、食事を作る。熱が出れば付きっきりで看病をし、独り立ちの日にはその背中を押す」
「「え?」」
あれが? 想像できない。
「想像できんだろう? だがな、これは事実なのじゃよ。こちらに逃げてきた民は、家族同様のゴブリンを残して行けなかった。だから、共にこちらに来たのだが、ゴブリンの体は、こちらの世界の魔力に合わずに、徐々にああなっていった」
まず、30年ほどの寿命が短くなり、突然奇声を発し、徐々に凶暴化し、とうとう赤子を殺した。ついさっきまで、あやしていた赤子を。つれてきた人達はゴブリンの殺処分を決意。
「だがな、まともなゴブリンはまだおってな、家族同様だったゴブリンに手をかけきれん、非情になりきれんかった者が、隠れて逃がしたのだ。それがしばらくして発狂、野生化、繁殖し、今に至る」
うわあ。ブラックバスみたい。
「ゴブリン以外にも凶暴化した者もおる。オルクもその一例じゃな。もともと狩猟を主とした民だったのだが、ゴブリン同様に徐々に凶暴化した。ただ、知恵があるのは人であった時の名残。逆に退化した、魔物もおる。そこの魔法馬も退化した魔物じゃ、元はペガサスやスレイプニルなんじゃが、今は退化したせいでなかなか生まれず、この2種は絶滅危惧種となっておる」
あれだ、沖縄とかにいるかわいいのね。
「そしてダンジョン。ダンジョンも魔物。こちらの世界で生まれた魔物ではない。移住した民が持ち込んだ、小さなコアが始まりだ。ダンジョンはな、民にとって家であり、畑であった。こちらの世界の魔力の影響を受けて変容した。ほとんどが冷蔵庫ダンジョンのように、街に寄り添う形で変わって行った。今では、世界各地に点在しているダンジョンだが、元はたった一つのダンジョンコアが始まり。その始まりのダンジョンコアが作り出したのが、原始のダンジョンじゃ」
なるほど。
「始まりのダンジョンの為に、長い年月を通し改修に改修を重ねた為に、とんでもなく広大なダンジョンとなっておる。冷蔵庫ダンジョンや軍隊ダンジョンの比ではない程のな」
なるほど。
「で、どうすれば、原始のダンジョンにおる、こやつらの母親の元にたどり着くかだが」
そこそこ、そこが肝心。
ビアンカとルージュのお母さん。何とかして、会わせたい。
「まず、原始のダンジョンに入るには、ちょっといろいろあって制限を掛けておる。その理由は、次じゃな。で、まず、次のヒントを出す条件は」
始祖神様は、大人しく臥せているビアンカとルージュに向かって言う。
「戦力を今の倍以上にすること。どうすればいいか分かるな?」
『『……………』』
戦力を倍以上って。ビアンカとルージュは沈黙している。
私は、そっと手を上げる。
「なんじゃお嬢さん」
「あの、ビアンカとルージュだけではダメな理由は?」
「単純に戦力不足じゃ。以前言ったと思うが、この原始のダンジョンに挑んだ歴代最強の勇者達。今でも人ではその勇者のレベルに到達したものはおらん。そして回復魔法の最上位再生魔法を駆使する聖女、全属性の支援魔法を使う賢者、ありとあらゆる攻撃魔法を使う魔導師、勇者と双璧と呼ばれた剣聖。そして、フォレストガーディアンウルフを従えたテイマー」
サエキ様のお母さん、佐伯ゆりさんね。
あら? 確か、30年前に行方不明になったのは7人のはず。
もう一度、私は、手を上げる。
「はい、お嬢さん」
「ビアンカとルージュのお母さんの主人さんは召喚勇者ですよね? 確か7人だったはずなんですが」
「ああ、1人は亡くなったのだよ。病でな」
「そう。ですか」
その人、どんな最後を迎えたのだろう?
「一緒に召喚された者達に、囲まれて、見送られたよ。魂は地球の神が保護をしておる」
「そう。ですか」
なら、ひとりぼっちではなかった。せめてもの救いかな。
…………家族や友達に、会いたかったろうなあ。
一体誰が、佐伯ゆりさん達を召喚したんだろう?
「話を戻そうかの。そのテイマーが連れていたのは、こやつらの母親だけではない。もう一体、おったんだよ。仮契約で、原始のダンジョンに潜っている間だけな」
「え? どんな魔物を」
「こやつらの父親だよ」
『『はい?』』
沈黙していたビアンカとルージュが、思わず声を上げる。
始祖神様は美味しそうにモンブランをパクパク。
「おっといかん、原始のダンジョンだったな。まず、ダンジョンは生きた魔物だと言うことは理解できておるかな?」
「はい。コアを破壊しなければ、ずっと生き続けると」
シュタインさんがそう教えてくれた。
「原始のダンジョンを説明するなら、少しこの世界の説明もするがよいかの?」
「はい」
この世界の始まり。
始祖神様が世界を生み出したのが始まり。
そして時空神様と雨の女神様が生まれた。時空神様が空間を整え、雨の女神様が空や大地、海など整えた。それにより、この世界は魔力を宿した。
地球の神様は、完全に手は出さず、地球の時の流れ、進化にすべて任せたので、一切の魔力を宿していない。
「儂等は、ある程度整えた後は、世界の流れに任せることにした。お嬢さん方が生活している世界、まあ、儂等から言わせたら下界と、儂等、神の住まう世界を隔離した」
基本的に神様は神の世界。私達、人は人の世界に。
理由はいろいろあるが、神様が生命のサイクルを始めた世界に介入すると、それが簡単にねじ曲がるそうだ。
この世界は、地球とは違うけど、ゆっくり進化。そんな中で沢山の生き物が生まれ、または絶滅しながら時を刻んでいた。
魔力を宿した世界の為に、どうしても魔の森が生まれ、魔物も生まれた。
「ちなみに、そこにおるクリムゾンジャガーはもうほとんどおらん、この世界の原種じゃ」
おお、すごい。あれだ、天然記念物だね。
「もちろん人族やドワーフ族、エルフ族、獣人族等も生まれ、それぞれ文明を持てる様になった。儂等の世界でもそれに伴い沢山の神が生まれた。お嬢さん達も会っておる闘神、魔法の三柱神。そして大地の女神、樹の女神、灯火の女神、鍛冶の神、薬の神、商い神等な。儂等も慣れん子育てで大変だったが、そんなある日、自分の世界に介入し、ねじ曲げてしまった神が、儂にある日懇願してきた」
始祖神様は息をつく。
「ねじ曲がってしまった自分の世界の民を、受け入れてくれないか、と」
その神様は、良かれと思って世界に介入したけど、神様の力を得た者達が力を得たことで豹変、世界を蹂躙、すべてを支配下に置き、それはひどい有り様になったと。結局、支配下に置かれた力を持た
ない民が逃げ迷い、必死にその介入した神様に助けを求めて来た。もう修正不能なまでに形を変えた世界に、その世界を作った神様は、破壊を決意。だが、せめて、自分の不要な介入で窮地に陥った民だけは救いたいと。
始祖神様は全部の民は無理だが、移住先は未開拓の場所限定と条件をつけて、出来るだけ受け入れたそうだ。
そのねじ曲げた神様は、最後の民を、見送って、自分の作った世界と共に滅んだそうだ。
「その後も似たように移住してくる者がおってな。儂等は特に拒否はしなかった。みな、故郷を捨てなくてはならなくなる事情を抱えていたからの。それでこの世界には多種多様の種族がおる。もうほぼ見分けがつかんが、同じ人族でも寿命が異なったりするのは、他の世界から移住した民の種族性が影響しておるからだ。だがのう、それが後で思いもよらぬ影響を及ぼし出し、儂等は外の世界からの移住を遮断した。まあ、お嬢さん方のように、儂等の目が届かない僅かな隙間から、時折別世界から召喚されてしまうが、な。遮断した理由は特異変異種が生まれ始めたからじゃ」
始祖神様はため息。
「ゴブリンを知っておるか?」
「はい」
Gよね、いろいろ敵なG。
「あれも別の世界の魔物だが、もともとは愛情深い性格でな、一家に一匹、子守りとしておった。赤子をあやし、幼子を背中に背負い、食事を作る。熱が出れば付きっきりで看病をし、独り立ちの日にはその背中を押す」
「「え?」」
あれが? 想像できない。
「想像できんだろう? だがな、これは事実なのじゃよ。こちらに逃げてきた民は、家族同様のゴブリンを残して行けなかった。だから、共にこちらに来たのだが、ゴブリンの体は、こちらの世界の魔力に合わずに、徐々にああなっていった」
まず、30年ほどの寿命が短くなり、突然奇声を発し、徐々に凶暴化し、とうとう赤子を殺した。ついさっきまで、あやしていた赤子を。つれてきた人達はゴブリンの殺処分を決意。
「だがな、まともなゴブリンはまだおってな、家族同様だったゴブリンに手をかけきれん、非情になりきれんかった者が、隠れて逃がしたのだ。それがしばらくして発狂、野生化、繁殖し、今に至る」
うわあ。ブラックバスみたい。
「ゴブリン以外にも凶暴化した者もおる。オルクもその一例じゃな。もともと狩猟を主とした民だったのだが、ゴブリン同様に徐々に凶暴化した。ただ、知恵があるのは人であった時の名残。逆に退化した、魔物もおる。そこの魔法馬も退化した魔物じゃ、元はペガサスやスレイプニルなんじゃが、今は退化したせいでなかなか生まれず、この2種は絶滅危惧種となっておる」
あれだ、沖縄とかにいるかわいいのね。
「そしてダンジョン。ダンジョンも魔物。こちらの世界で生まれた魔物ではない。移住した民が持ち込んだ、小さなコアが始まりだ。ダンジョンはな、民にとって家であり、畑であった。こちらの世界の魔力の影響を受けて変容した。ほとんどが冷蔵庫ダンジョンのように、街に寄り添う形で変わって行った。今では、世界各地に点在しているダンジョンだが、元はたった一つのダンジョンコアが始まり。その始まりのダンジョンコアが作り出したのが、原始のダンジョンじゃ」
なるほど。
「始まりのダンジョンの為に、長い年月を通し改修に改修を重ねた為に、とんでもなく広大なダンジョンとなっておる。冷蔵庫ダンジョンや軍隊ダンジョンの比ではない程のな」
なるほど。
「で、どうすれば、原始のダンジョンにおる、こやつらの母親の元にたどり着くかだが」
そこそこ、そこが肝心。
ビアンカとルージュのお母さん。何とかして、会わせたい。
「まず、原始のダンジョンに入るには、ちょっといろいろあって制限を掛けておる。その理由は、次じゃな。で、まず、次のヒントを出す条件は」
始祖神様は、大人しく臥せているビアンカとルージュに向かって言う。
「戦力を今の倍以上にすること。どうすればいいか分かるな?」
『『……………』』
戦力を倍以上って。ビアンカとルージュは沈黙している。
私は、そっと手を上げる。
「なんじゃお嬢さん」
「あの、ビアンカとルージュだけではダメな理由は?」
「単純に戦力不足じゃ。以前言ったと思うが、この原始のダンジョンに挑んだ歴代最強の勇者達。今でも人ではその勇者のレベルに到達したものはおらん。そして回復魔法の最上位再生魔法を駆使する聖女、全属性の支援魔法を使う賢者、ありとあらゆる攻撃魔法を使う魔導師、勇者と双璧と呼ばれた剣聖。そして、フォレストガーディアンウルフを従えたテイマー」
サエキ様のお母さん、佐伯ゆりさんね。
あら? 確か、30年前に行方不明になったのは7人のはず。
もう一度、私は、手を上げる。
「はい、お嬢さん」
「ビアンカとルージュのお母さんの主人さんは召喚勇者ですよね? 確か7人だったはずなんですが」
「ああ、1人は亡くなったのだよ。病でな」
「そう。ですか」
その人、どんな最後を迎えたのだろう?
「一緒に召喚された者達に、囲まれて、見送られたよ。魂は地球の神が保護をしておる」
「そう。ですか」
なら、ひとりぼっちではなかった。せめてもの救いかな。
…………家族や友達に、会いたかったろうなあ。
一体誰が、佐伯ゆりさん達を召喚したんだろう?
「話を戻そうかの。そのテイマーが連れていたのは、こやつらの母親だけではない。もう一体、おったんだよ。仮契約で、原始のダンジョンに潜っている間だけな」
「え? どんな魔物を」
「こやつらの父親だよ」
『『はい?』』
沈黙していたビアンカとルージュが、思わず声を上げる。
感想 867
あなたにおすすめの小説
「今日限りで君を解雇する」――20年仕えた地味なメイドですが、料理も手紙も暗殺者対策も私がやっていました
「エナメル。今日限りで君を解雇する」
20年仕えた屋敷をクビになった、地味なエルフのメイド・エナメル。
だが、晩餐会の料理も、侯爵への手紙も、調度品の手配も、屋敷を狙う暗殺者の処理も――すべて彼女が陰で支えていたものだった。
エナメルが去ったあと、屋敷は少しずつ綻び始める。
一方の本人は、そんなことも知らず。
「さて。次はどこで雇っていただきましょう」
地味で目立たないベテランメイド・エナメルの、新しい奉公先探しが始まる。
※本作は『メイドのエナメルは今日も静かにお仕えします』シリーズの第1作です。本作単体でもお楽しみいただけます。
異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった
高校の英語の授業中、勇者召喚で僕たちクラスメイト7名は異世界にやって来た。
目的は魔王討伐では無くて、高難易度ダンジョンの封印?!
でも僕ユイトのスキルは「貯金箱」、エイジは「犬」。
役立たず認定で、二人とも城を追放されてしまった。
のんびり暮らそうとしたけどそうもいかなくなって。
僕たちは奇妙なスキルを駆使して異世界で生き延びる。
緩~いファンタージ物語です。のんびりと書いていきます。
本文はなるべく簡潔に、サクサク進むようにしています。
暇つぶしに読んでいただいて、楽しんでくださると嬉しいです。
なろう様にも投稿。
捨てられた幼女ですが、公爵家に拾われたら家族みんなの愛が重すぎました
幼い頃に母親に捨てられ、孤児院で暮らしていた少女リリア。
「役に立たなければ、また捨てられる」
そう思い、いつも“いい子”でいようとしていた彼女は、ある日、公爵家の馬車を助けたことをきっかけに屋敷へ招かれる。
そこで待っていたのは、娘に甘すぎる公爵夫妻に、妹を構いたがるレオン、そしてリリアを甘やかしたい使用人たち。
戸惑いながらも、少しずつ公爵家に居場所を見つけていくリリア。やがて夫妻から「私たちの娘になってほしい」と告げられて――。
これは、捨てられないために“いい子”でいようとしていた少女が、重すぎるほどの愛情に包まれ、本当の家族を見つけていく物語。
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
番の証が出ないと捨てられたので、神様に確かめてもらいます
「番の証が出ぬからだ」
和平のために獣人国へ嫁いで四年。獣王ガイウス様との儀式は三度、三度とも証は出ませんでした。「人間の娘では神は認めぬ」——そう言われて、離宮へ。
雨漏りの下で眠り、井戸をさらい、畑を耕して。泣かなかったのは強いからではありません。獣人には、匂いでわかってしまうから。
嫁ぐ前に三年かけて読み込んだ婚姻法典。その第四章に、こうありました。
『既に誓いを結びたる者が、重ねて他者と誓いを立てんとする時、神は後の誓いを認めず』
——証が出なかったのは、わたしが人間だからではない。
長老会に申し立てたのは、解釈の確認だけ。わたしは悪くない、とは一言も書きませんでした。
遡誓の儀で神殿に浮かんだのは、六年前の秋の「成立」と、わたしの三度の「不成立(重複)」でした。
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます
「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」
竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。
ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。
夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
土下座する王妃の座などいらないので、冒険者に転職します。
「私が愛しているのはエルナ。君だけだ」
エルナは自分の夫でありハーメルン王国の国王であるカメルを愛していた。
彼がどれほど自分より隣国の聖女を優先しようとも。
結婚して二年が経っても初夜を迎えたことがなかろうとも。
しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
*ゆるい設定です。不快に思われる方はブラウザバックをお願いします。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。