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偽善者⑧
リティアさん、最強の者をって言っていたけど、まさか商人ギルドマスターが来てくれるとは。始めはてっきりタージェルさんが来てくれると思っていたんだけどね。商人ギルドの一番偉い人を動かすなんて、リティアさんどんだけお仕事できるんだろう。
ダーウィンさんは掴んでいた趣味の悪い男を突き飛ばす。その手には示された書面。
趣味の悪い男は必死に起き上がろうとしてもがいている。
ダーウィンさんは書面を一瞥。
「このインクの乾き具合、昨日書いたな。しかも、只のインクだ。300万を越す借用の場合は指定された用紙に、特殊インクの使用が義務付けられている」
見ただけで、凄い、さすがリティアさんが最強と呼ぶ人だ。
「魔力を流した形跡もない、しかも未成年を性奴隷の担保だあ? ユリアレーナの法を理解しておらんのか? どんな理由があろうと、未成年を担保にしてはならないし、性奴隷と指定はできん。利率もあり得ん」
そうなの? 元々借金の利率なんて日本でも知らないけど。
「それと筆跡、この書面に借用額やラケスのサイン、全部同じ筆跡。昨日描いたサインだ、1年も前に死んだラケスが書けるわけがない。しかも見ろ、これが現役時代にラケスが実際にしたサインだ」
ダーウィンさんは何もない所から、一枚の書類を出す。あ、アイテムボックスあるんだ。
「よく見ろ、これとこれ、ラケスの筆跡とは別物だ」
2枚を突き出すダーウィンさん。
「くっ、そっちが偽物だっ」
「なんとみっともない。言い逃れする気か? このサインはな、儂が立ち合った際の書類。よく見ろ、これは儂のサインだ」
魔力を流すダーウィンさん。書類のダーウィンさんのサインが僅かに光る。確か、魔力を流したサインに再び魔力を流すと光るって、タージェルさんから聞いた。偽造防止だと。
「すべてを持って、お前が持ってきたこれは偽造だ。出るとこに出るがいい。商人ギルドが全面に戦おう、覚悟しろ、このバカ息子がッ」
ダーウィンさんは偽造と断定した書面を、趣味の悪い男に叩きつける。
なんとかなった、やっぱり餅は餅屋だ。リティアさんに相談してよかった。私は胸を撫で下ろす。始めからお願いすれば良かった。次回からそうしよう。ビアンカとルージュがいれば、問題ないって思っていた事があるが、やっぱりこういった時は、専門機関にお願いしないとね。
『ユイ、気を付けるのです。あの雄の気配が、不穏になってきたのです』
「え?」
趣味の悪い男は、肩を震わせている。そして、何かがキレた様に叫ぶ。
「うるせえええぇぇぇッ、殺れ、殺れ、殺れーッ」
時代劇みたいな展開に。チンピラ達が、武器を抜く。
『ルージュッ』
『分かっているわッ』
こちらも臨戦態勢に。一斉に回りにリンゴサイズの光がいくつも現れる。ルージュの魔法だ。
「ザックさん、マーヤさんと下がってッ」
「優衣も下がらんねッ」
父が叫ぶが、私が下がるわけにはいかない。
「なんばしようとかッ、下がらんねッ」
強引に私の腕を掴み、引き下げる父。
一斉に矢が方々から飛び込んでくるが、光のリンゴが撃ち落とす。
『ふんっ』
ビアンカが前肢を踏み込むと、地面が一斉に凍りつき、チンピラの足を巻き込む。
「うわぁぁぁぁぁっ」
「いでえぇぇぇっ」
初めてビアンカの魔法を目の当たりにした父は、驚愕の表情だ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ」
「あああぁぁぁぁぁっ」
悲鳴が更に上がる。見ると、黒い触手が、破壊音と共にチンピラ達を空高く縛り上げている。潜み矢を放った連中だろう。触手は次々に縛り上げ、地面に叩き付けては、別のチンピラを縛り上げていく。
「あ、あれは?」
「あれはルージュの魔法やね」
あまりにもの光景に、父の言葉が出ない。
「お父さん、大丈夫よ、ごめんね心配させて」
「もう、無理ばせんどって………」
しばらく阿鼻叫喚な展開が繰り広げられる。ザックさんはマーヤさんを庇いながら固まり、ジョアンさん達も身構えているが、顔色が悪い。
「よくもやりおったな」
ダーウィンさんが、足が凍り付いた趣味の悪い男を見下す。
「だが、もう終わりだ。来たぞ、ほら。警備兵が」
示した先には、入り口に立ち並ぶ、見知った格好の警備の方々。そして、金髪碧眼のイケメンが。
「セ、セザール様?」
そう、セザール・ハルスフォン様だ。
なんで、こんな所に?
「あ、ビアンカ、氷ば解除を。できる?」
『できるのですが、いいのですか?』
「お願い」
『分かったのです、えい』
パリン。
凍り付いた地面が弾ける。転げるチンピラ達。
『ユイ、外の雄達は警備の雄達に預けたわ。敵意はなかったから』
声がして、ルージュが姿を表す。
「お疲れ、ありがとうルージュ」
次々に縛り上げるられるチンピラ達。
なんだ、なんだ、手際がいい。
すう、と近付いてくるセザール様。あ、お辞儀しないと。
「ミズサワ殿、お久し振りです」
「はい、セザール様」
小さく、リティアから聞きました、と。本当に仕事ができる人やな。
「さて、話は大体聞きました。よくも我が領内で人身売買まがいの事をしてくれましたね」
くるり、と、セザール様が趣味の悪い男に振り返る。
うーん、イケメン、背中までイケメン。
次々に連れ出されるチンピラ達。趣味の悪い男は最後みたいだけど、ガタイのいい警備兵2人に押さえられている。
「うるさいッ、なにが悪いッ」
「その考え自体を改める必要があるようですね」
セザール様が辛辣に言う。
「逃げ場のない子供を盾に、自分が何をしたか分からないのか?」
更に辛辣。
「生まれる価値もないガキを利用して、何が悪いッ」
カチンッ。
「バカ息子め、それを言う資格はない」
ダーウィンさんが吐き捨てる。
「立てッ」
警備兵がやや乱暴に趣味の悪い男をたたせる。
「どうせ、社会のゴミだッ、野垂れ死にだけが関の山だッ、それを俺が有効活用して、何が悪いッ」
ど、カチンッ。
あの子達が何をした? あの子達が何をした? あの子達が何をした?
右腕を火傷したラフィちゃん、顔面を火傷をしたバテアちゃん、そして自分はいいからと治療を辞退しようとした背中を一面火傷したヨーラン君。性奴隷にされそうになったコルソン君の妹。行き場のない子供達。ただ、隠れてひっそり生きていこうとしている子供達、なんとかその子供達を守ろうと、必死になるザックさんとマーヤさん。
あの子達が何をした?
何かしたのか?
これ以上、追い詰められなくてはならない、事があるのか?
ただ、ひっそり、生きようとして、自分達を支えて生きようとしているだけなのに。
私の怒りの導火線が一気に短くなる。
握り締めた拳を私は振り上げる。
「優衣、よさんねッ」
父が私の振りかざした腕をつかむ。
動きを止めた私の横を走り抜ける影が。黙って傍観していた晃太が、殴りかかる体勢で走り抜ける。その横顔は、私でも初めて見る程、怒りに染まっている。一気に走り込んで、一発ガツン。とは、いかない。ダーウィンさんが、晃太を羽交い締めにする。
「子供はなっ」
じたばたする晃太。足で蹴ろうとして、伸ばすが残念、日本人サイズで届かない。
「親を選べんのやっ、だからってなあっ、お前なんかに傷つけられる理由はないんやっ」
晃太は叫ぶ。
「幸せになる権利があるんやっ」
「ええ、そうです。その義務が私達大人にあります」
セザール様は興奮したように肩を震わす晃太に、静かに落ち着かせるように告げる。
「ユリアレーナ初代アレーナ女王の言葉。『子は宝、それを守るのが、我々先に生まれた大人の役割である』。私はそれを守ろう。だが、その前に」
セザール様はくるり、と向こうを向いて。
ガツンッ
右ストレートが、趣味の悪い男を直撃。
あ、なんか、ちょっと、すっとした。
趣味の悪い男は拘束されてるから逃げようがなく、まともに食らう。
「自分の罪を認識しろ」
「ガバッ……………、こんなことして伯爵の信用が…………」
「信用?」
「暴力を奮ったッ、動けない人間に」
あ、そうだ。だ、大丈夫かな、セザール様、何かあったら、ハルスフォン家や自身の結婚が危なくなるんじゃ…………
「それを誰が信じる?」
「何を…………」
「お前がそれを言って、何人、信じる?」
セザール様のイケメンな背中でも分かる、かなりの怒りを。
「お前は法を犯した犯罪者。そして、私はこのマーファの領主ダストン・ハルスフォンの嫡男セザール・ハルスフォン」
まるで言い聞かせるようにいい放つ。
趣味の悪い男、イケメン伯爵子息。
見た目だけでもセザール様に圧倒的軍配が上がっている。誰だってセザール様の言葉を信じるだろう。何せ向こうは書類偽造して、未成年を性奴隷にしようとしたんだから。
「お前は抵抗できない子供を使い詐欺を働いた。私はそれを防いだ。どちらを誰が信じる?」
はい、セザール様です。
「…………っ、だが、こいつらはっ、こいつらは、俺を脅したっ」
なんの事? まさか昨日の書面を耳を揃えてって事かな? あ、日本の言葉だけど、まずい言葉だったかな?
私の方にちらり、と振り返るセザール様。
「こちらは、マーファをドラゴンの未曾有の危機から救ってくれた、テイマー殿。彼女はだからといって、見返りを我々に何も求めない、横暴にもならない、傲らない。お前とずいぶん大違いだな。彼女の悪評でも喚くつもりか? 私達ハルスフォン家がそれを許すとでも? ギルドはどうだ?」
「もちろん、我々マーファのギルドは、テイマー殿達を全面的に擁護しましょう」
ダーウィンさんが、断言。
私は何故か、心が軽くなる。ああ、私達はマーファに受け入れられているんだ。きっとビアンカもルージュも、仔達も。ちょっと不安だった、私達の存在が、トラブルの種ではないかと、どこかで思われているのではないかと。
ああ、嬉しい。
趣味の悪い男はギリギリと歯ぎしり。そして、私を見て吠える。
「偽善者ッ」
そうだよ、偽善者だよ。全部私がやってるのは偽善や。だけど。
「だから、なんや?」
「はぁ?」
「私が偽善者で何が悪かと?」
開き直る。私は偽善者や、それが、なんや。私のしていることは、すべてビアンカとルージュの力があってのこと。始祖神様が、ビアンカとルージュの声に導いてくれたおかげ。時空神様からいただいた『ルーム』のおかげ。全部、私自身のものやない、やけど、それをどう使うか、私次第。だから、変わるつもりはない、ビアンカにルージュ、始祖神様に、時空神様に、いろんな人に感謝は変わらない。だから、私はそれに報いる必要がある。それが何かと言われたら、これだと断言できるものはないが、私ができる事を、手が届く事を全部やるだけや。
変わらないでくれ。
ルーム以外で初めて、時空神様の声が響く。私の背中を押す。
こいつに何が言われようが、かまうもんか、私が何かして、子供達や誰かが笑顔になれば、それでよか。今回色々考えさせられたけど。やけど。
「あんたみたいなのに、とやかく言われる筋合いないわ」
私は吐き捨てる。
『こいつ嫌いなのです。ねえ、ユイ、やっぱり噛みつくのです』
『そうね、死なない程度に食い千切るわよ』
低音の唸り声を響かせて、ビアンカとルージュが前に出る。ビアンカは風乙女(シルフィリア)で、ルージュは光を貴婦人(リュミライトレディ)になっている。
「ダメよ、ビアンカ、ルージュ」
私が制すると、趣味の悪い男は鼻で嗤う。
「はんッ、腰抜けッ」
吠えるが、後ろにいたチンピラ達の顔はこうだ、下手なこと言うな。
「子供達がおる、ここでそんなことはしたらいかん。やけど」
私は息を吸う。
「全員耳を塞いでッ、警備の方避難してくださいッ」
ざっ、と縛り上げられた趣味の悪い男を立たせていた警備兵さんが、男を放置。そして、一斉に避難。他の警備兵さん達もだ。放置された趣味の悪い男や縛られたチンピラ達は混乱の表情。セザール様も、ダーウィンさんも、晃太も父も、私も耳を塞ぐ。
「ビアンカッ、ルージュッ、最大音量で、吼えぇッ」
ご近所迷惑ならない程度に、と小声でつける。
次の瞬間、スラム街を震撼させるほどの咆哮が上がった。
これで、スラム街の孤児院騒動が、終わるわけなかった。
ダーウィンさんは掴んでいた趣味の悪い男を突き飛ばす。その手には示された書面。
趣味の悪い男は必死に起き上がろうとしてもがいている。
ダーウィンさんは書面を一瞥。
「このインクの乾き具合、昨日書いたな。しかも、只のインクだ。300万を越す借用の場合は指定された用紙に、特殊インクの使用が義務付けられている」
見ただけで、凄い、さすがリティアさんが最強と呼ぶ人だ。
「魔力を流した形跡もない、しかも未成年を性奴隷の担保だあ? ユリアレーナの法を理解しておらんのか? どんな理由があろうと、未成年を担保にしてはならないし、性奴隷と指定はできん。利率もあり得ん」
そうなの? 元々借金の利率なんて日本でも知らないけど。
「それと筆跡、この書面に借用額やラケスのサイン、全部同じ筆跡。昨日描いたサインだ、1年も前に死んだラケスが書けるわけがない。しかも見ろ、これが現役時代にラケスが実際にしたサインだ」
ダーウィンさんは何もない所から、一枚の書類を出す。あ、アイテムボックスあるんだ。
「よく見ろ、これとこれ、ラケスの筆跡とは別物だ」
2枚を突き出すダーウィンさん。
「くっ、そっちが偽物だっ」
「なんとみっともない。言い逃れする気か? このサインはな、儂が立ち合った際の書類。よく見ろ、これは儂のサインだ」
魔力を流すダーウィンさん。書類のダーウィンさんのサインが僅かに光る。確か、魔力を流したサインに再び魔力を流すと光るって、タージェルさんから聞いた。偽造防止だと。
「すべてを持って、お前が持ってきたこれは偽造だ。出るとこに出るがいい。商人ギルドが全面に戦おう、覚悟しろ、このバカ息子がッ」
ダーウィンさんは偽造と断定した書面を、趣味の悪い男に叩きつける。
なんとかなった、やっぱり餅は餅屋だ。リティアさんに相談してよかった。私は胸を撫で下ろす。始めからお願いすれば良かった。次回からそうしよう。ビアンカとルージュがいれば、問題ないって思っていた事があるが、やっぱりこういった時は、専門機関にお願いしないとね。
『ユイ、気を付けるのです。あの雄の気配が、不穏になってきたのです』
「え?」
趣味の悪い男は、肩を震わせている。そして、何かがキレた様に叫ぶ。
「うるせえええぇぇぇッ、殺れ、殺れ、殺れーッ」
時代劇みたいな展開に。チンピラ達が、武器を抜く。
『ルージュッ』
『分かっているわッ』
こちらも臨戦態勢に。一斉に回りにリンゴサイズの光がいくつも現れる。ルージュの魔法だ。
「ザックさん、マーヤさんと下がってッ」
「優衣も下がらんねッ」
父が叫ぶが、私が下がるわけにはいかない。
「なんばしようとかッ、下がらんねッ」
強引に私の腕を掴み、引き下げる父。
一斉に矢が方々から飛び込んでくるが、光のリンゴが撃ち落とす。
『ふんっ』
ビアンカが前肢を踏み込むと、地面が一斉に凍りつき、チンピラの足を巻き込む。
「うわぁぁぁぁぁっ」
「いでえぇぇぇっ」
初めてビアンカの魔法を目の当たりにした父は、驚愕の表情だ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ」
「あああぁぁぁぁぁっ」
悲鳴が更に上がる。見ると、黒い触手が、破壊音と共にチンピラ達を空高く縛り上げている。潜み矢を放った連中だろう。触手は次々に縛り上げ、地面に叩き付けては、別のチンピラを縛り上げていく。
「あ、あれは?」
「あれはルージュの魔法やね」
あまりにもの光景に、父の言葉が出ない。
「お父さん、大丈夫よ、ごめんね心配させて」
「もう、無理ばせんどって………」
しばらく阿鼻叫喚な展開が繰り広げられる。ザックさんはマーヤさんを庇いながら固まり、ジョアンさん達も身構えているが、顔色が悪い。
「よくもやりおったな」
ダーウィンさんが、足が凍り付いた趣味の悪い男を見下す。
「だが、もう終わりだ。来たぞ、ほら。警備兵が」
示した先には、入り口に立ち並ぶ、見知った格好の警備の方々。そして、金髪碧眼のイケメンが。
「セ、セザール様?」
そう、セザール・ハルスフォン様だ。
なんで、こんな所に?
「あ、ビアンカ、氷ば解除を。できる?」
『できるのですが、いいのですか?』
「お願い」
『分かったのです、えい』
パリン。
凍り付いた地面が弾ける。転げるチンピラ達。
『ユイ、外の雄達は警備の雄達に預けたわ。敵意はなかったから』
声がして、ルージュが姿を表す。
「お疲れ、ありがとうルージュ」
次々に縛り上げるられるチンピラ達。
なんだ、なんだ、手際がいい。
すう、と近付いてくるセザール様。あ、お辞儀しないと。
「ミズサワ殿、お久し振りです」
「はい、セザール様」
小さく、リティアから聞きました、と。本当に仕事ができる人やな。
「さて、話は大体聞きました。よくも我が領内で人身売買まがいの事をしてくれましたね」
くるり、と、セザール様が趣味の悪い男に振り返る。
うーん、イケメン、背中までイケメン。
次々に連れ出されるチンピラ達。趣味の悪い男は最後みたいだけど、ガタイのいい警備兵2人に押さえられている。
「うるさいッ、なにが悪いッ」
「その考え自体を改める必要があるようですね」
セザール様が辛辣に言う。
「逃げ場のない子供を盾に、自分が何をしたか分からないのか?」
更に辛辣。
「生まれる価値もないガキを利用して、何が悪いッ」
カチンッ。
「バカ息子め、それを言う資格はない」
ダーウィンさんが吐き捨てる。
「立てッ」
警備兵がやや乱暴に趣味の悪い男をたたせる。
「どうせ、社会のゴミだッ、野垂れ死にだけが関の山だッ、それを俺が有効活用して、何が悪いッ」
ど、カチンッ。
あの子達が何をした? あの子達が何をした? あの子達が何をした?
右腕を火傷したラフィちゃん、顔面を火傷をしたバテアちゃん、そして自分はいいからと治療を辞退しようとした背中を一面火傷したヨーラン君。性奴隷にされそうになったコルソン君の妹。行き場のない子供達。ただ、隠れてひっそり生きていこうとしている子供達、なんとかその子供達を守ろうと、必死になるザックさんとマーヤさん。
あの子達が何をした?
何かしたのか?
これ以上、追い詰められなくてはならない、事があるのか?
ただ、ひっそり、生きようとして、自分達を支えて生きようとしているだけなのに。
私の怒りの導火線が一気に短くなる。
握り締めた拳を私は振り上げる。
「優衣、よさんねッ」
父が私の振りかざした腕をつかむ。
動きを止めた私の横を走り抜ける影が。黙って傍観していた晃太が、殴りかかる体勢で走り抜ける。その横顔は、私でも初めて見る程、怒りに染まっている。一気に走り込んで、一発ガツン。とは、いかない。ダーウィンさんが、晃太を羽交い締めにする。
「子供はなっ」
じたばたする晃太。足で蹴ろうとして、伸ばすが残念、日本人サイズで届かない。
「親を選べんのやっ、だからってなあっ、お前なんかに傷つけられる理由はないんやっ」
晃太は叫ぶ。
「幸せになる権利があるんやっ」
「ええ、そうです。その義務が私達大人にあります」
セザール様は興奮したように肩を震わす晃太に、静かに落ち着かせるように告げる。
「ユリアレーナ初代アレーナ女王の言葉。『子は宝、それを守るのが、我々先に生まれた大人の役割である』。私はそれを守ろう。だが、その前に」
セザール様はくるり、と向こうを向いて。
ガツンッ
右ストレートが、趣味の悪い男を直撃。
あ、なんか、ちょっと、すっとした。
趣味の悪い男は拘束されてるから逃げようがなく、まともに食らう。
「自分の罪を認識しろ」
「ガバッ……………、こんなことして伯爵の信用が…………」
「信用?」
「暴力を奮ったッ、動けない人間に」
あ、そうだ。だ、大丈夫かな、セザール様、何かあったら、ハルスフォン家や自身の結婚が危なくなるんじゃ…………
「それを誰が信じる?」
「何を…………」
「お前がそれを言って、何人、信じる?」
セザール様のイケメンな背中でも分かる、かなりの怒りを。
「お前は法を犯した犯罪者。そして、私はこのマーファの領主ダストン・ハルスフォンの嫡男セザール・ハルスフォン」
まるで言い聞かせるようにいい放つ。
趣味の悪い男、イケメン伯爵子息。
見た目だけでもセザール様に圧倒的軍配が上がっている。誰だってセザール様の言葉を信じるだろう。何せ向こうは書類偽造して、未成年を性奴隷にしようとしたんだから。
「お前は抵抗できない子供を使い詐欺を働いた。私はそれを防いだ。どちらを誰が信じる?」
はい、セザール様です。
「…………っ、だが、こいつらはっ、こいつらは、俺を脅したっ」
なんの事? まさか昨日の書面を耳を揃えてって事かな? あ、日本の言葉だけど、まずい言葉だったかな?
私の方にちらり、と振り返るセザール様。
「こちらは、マーファをドラゴンの未曾有の危機から救ってくれた、テイマー殿。彼女はだからといって、見返りを我々に何も求めない、横暴にもならない、傲らない。お前とずいぶん大違いだな。彼女の悪評でも喚くつもりか? 私達ハルスフォン家がそれを許すとでも? ギルドはどうだ?」
「もちろん、我々マーファのギルドは、テイマー殿達を全面的に擁護しましょう」
ダーウィンさんが、断言。
私は何故か、心が軽くなる。ああ、私達はマーファに受け入れられているんだ。きっとビアンカもルージュも、仔達も。ちょっと不安だった、私達の存在が、トラブルの種ではないかと、どこかで思われているのではないかと。
ああ、嬉しい。
趣味の悪い男はギリギリと歯ぎしり。そして、私を見て吠える。
「偽善者ッ」
そうだよ、偽善者だよ。全部私がやってるのは偽善や。だけど。
「だから、なんや?」
「はぁ?」
「私が偽善者で何が悪かと?」
開き直る。私は偽善者や、それが、なんや。私のしていることは、すべてビアンカとルージュの力があってのこと。始祖神様が、ビアンカとルージュの声に導いてくれたおかげ。時空神様からいただいた『ルーム』のおかげ。全部、私自身のものやない、やけど、それをどう使うか、私次第。だから、変わるつもりはない、ビアンカにルージュ、始祖神様に、時空神様に、いろんな人に感謝は変わらない。だから、私はそれに報いる必要がある。それが何かと言われたら、これだと断言できるものはないが、私ができる事を、手が届く事を全部やるだけや。
変わらないでくれ。
ルーム以外で初めて、時空神様の声が響く。私の背中を押す。
こいつに何が言われようが、かまうもんか、私が何かして、子供達や誰かが笑顔になれば、それでよか。今回色々考えさせられたけど。やけど。
「あんたみたいなのに、とやかく言われる筋合いないわ」
私は吐き捨てる。
『こいつ嫌いなのです。ねえ、ユイ、やっぱり噛みつくのです』
『そうね、死なない程度に食い千切るわよ』
低音の唸り声を響かせて、ビアンカとルージュが前に出る。ビアンカは風乙女(シルフィリア)で、ルージュは光を貴婦人(リュミライトレディ)になっている。
「ダメよ、ビアンカ、ルージュ」
私が制すると、趣味の悪い男は鼻で嗤う。
「はんッ、腰抜けッ」
吠えるが、後ろにいたチンピラ達の顔はこうだ、下手なこと言うな。
「子供達がおる、ここでそんなことはしたらいかん。やけど」
私は息を吸う。
「全員耳を塞いでッ、警備の方避難してくださいッ」
ざっ、と縛り上げられた趣味の悪い男を立たせていた警備兵さんが、男を放置。そして、一斉に避難。他の警備兵さん達もだ。放置された趣味の悪い男や縛られたチンピラ達は混乱の表情。セザール様も、ダーウィンさんも、晃太も父も、私も耳を塞ぐ。
「ビアンカッ、ルージュッ、最大音量で、吼えぇッ」
ご近所迷惑ならない程度に、と小声でつける。
次の瞬間、スラム街を震撼させるほどの咆哮が上がった。
これで、スラム街の孤児院騒動が、終わるわけなかった。
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しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
*ゆるい設定です。不快に思われる方はブラウザバックをお願いします。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。