文字の大きさ
大
中
小
190 / 878
連載
祭り③
流血表現あります、ご注意ください。
「まあ、素敵」
そう言ってイザベラ様は、例の着る者を選ぶグラデーションワンピースの前に。
「生地の配色も素敵だけど、デザインもいいわ、とても上品で」
聞きながら、母が嬉しそう。
私が試着を勧めると、お付きのメイドさんの眉が寄った。そりゃそうだ。こんなテントで伯爵夫人のお着替えなんてね。だけど、うちには最強の警備員がいる。
「うちのビアンカとルージュは優秀なので」
後ろのテントにいたビアンカとルージュが顔を出す。
「まあ、初めて近くで拝見しましたわ。とても大きい上になんて美しいのでしょう」
イザベラ様の言葉に、私の鼻が高くなる。
ただ、ビアンカとルージュが出たので、3人のお孫さんの興味が移る。
触りたいようだが、別のメイドさんが必死に止めて、とうとう泣き出す。
「触るくらいいいですよ」
なんせやんちゃな孤児院の子供達にもみくちゃにされているから。
シーマス君が身をよじって触ると叫ぶが、メイドさんが止める。
「少しくらいいいじゃないか。ミズサワ殿の従魔は、子供を襲ったりはしないだろう」
抱え直すセザール様がメイドさんに言うが、メイドさんは首を絶対に縦には振らない。リザベルちゃんとタチアナちゃんも触りたそうだが、許可が出なかった。メイドさんとしては、正しい対応なんだろうけど。
シーマス君は、ぎゃん泣き、リザベルちゃんとタチアナちゃんは半泣き。服を見ていたシエナさんがぎゃん泣きのシーマス君を抱える。
『はあ、なんでそこまで制限をするのですかね』
『仕方ないわね』
のそり、とビアンカとルージュが立ち上がり、3人の元に。
「大丈夫ですよ。うちのビアンカとルージュは優しいですから」
そうは言ったが、一瞬空気が凍りついた。メイドさんは震えて前に立とうとするが、そっとセザール様が後ろに下げる。ビアンカはシーマス君をペロッ、ルージュはリザベルちゃんとタチアナちゃんをペロッ。驚いていたが、パアッと笑顔が浮かび、途端に上機嫌に。おっかなびっくり触ると、満足したようだ。再び奥のテントに戻っていくビアンカとルージュ。
「気を使わせたなミズサワ殿」
ダストン様が申し訳ないなさそうな顔だ。
「いえ、普通にあんなに大きな魔物に気楽に触れるのがおかしいんですから。うちのビアンカとルージュは特別なので」
「そうでしたな」
それからイザベラ様の試着が終了。
「どうかしら?」
うわあ、とてもお似合いです。お世辞? ないない、全くない。あのグラデーションワンピースが似合うこと。
「まるで私の為に誂えたよう」
「奥様、お似合いでございます」
試着に付いていたメイドさんが、ほう、とため息を付くようにいう。
「あなた、どうかしら?」
「イザベラ、よく似合うよ。ますます綺麗だ」
「まあ、あなたったら」
……………………あ、これが噂のリア充?
ダストン様とイザベラ様の周囲に漂う空気が、他を寄せ付けない程キラキラしてる。
くう、なんだか、悔しいのは気のせいか? 気のせいなのか? 行きおくれ三十路女のひがみか?
「これを頂くわ。いいでしょうあなた?」
「構わないさ。君には苦労をかけているからね」
ダストン様自身が身分証で支払いをする。あのワンピース、20万だけど、ぽん、と支払ったよ。
その後、シエナ様が子供服を2着とヘアゴムを2つ選び、セザール様がお支払。
話を聞いたら、このメンバーでお祭り回るのは最後だと。
だって、セザール様来年新婚だからね。お邪魔なんて野暮なことはしませんよ、おほほ、と。
イザベラ様はそのままワンピースを着て、ダストン様と再びお祭りに回る。
最後に天使的な子供達が、バイバイと手を振ったので、私も小さくバイバイ。あはははん、かわいか。外国の小さな子供って、本当に絵画に出てくる天使やん。
見送った後がさあ大変。
「イザベラ様がご覧になっていた服はどれですの?」
と、身なりの良さそうなご婦人達が押し寄せてきた。あのイザベラ様はいわゆるマーファのファッションリーダー的存在だそうです。いや、あの美魔女にかかれば何でも綺麗に着こなすような気がするけど。だけど、なかなか売れ行きが伸びなかったシルク地の服が売れ出した。
「まあ、よくみたら最高のシルクだわ。これがこんなお値段なんて。これくださる?」
「私はこちらを。あなたの今、お召しの物はどれですの?」
「えーっとですねー」
売れた。だけど、売るまでがまあ、話の長いこと。
営業スマイルが、頬骨が、こめかみが痛い。
気が付いたら、ヘアゴムは完売。服も数着を残すのみになっていた。子供服に関しては完売していた。
「お母さん、売れたね」
「そうやね」
母は始終嬉しそうだ。
まだ、お祭りは時間的にあるが、もう売り物が底を付きかけている。早めに引き上げようかと話していると、
『ユイ、雄達よ』
「雄って、誰ね?」
『ロッシュとかシュタインとかいう雄達よ』
「山風のみなさんね」
ビアンカとルージュが知らせてくれてすぐに聞きなれた声が。
「「ミズサワさーんっ」」
荷物を背負ったマアデン君とハジェル君が、手を振り走ってくる。後ろではロッシュさん、シュタインさん、ラーヴさんがそれぞれ荷物を背負っている。
「皆さん、お帰りなさい」
「「はいっ」」
元気や。
「ユイさん、今日はお洒落っすね。あ、ですね」
ハジェル君が嬉かことを言ってくれる。
晃太や両親もテントから出てきてご挨拶。パーカーさん一家ともご挨拶。
「実はね」
私が事情説明。
「ケイコお母さん、何でも出きるんですね」
マアデン君とハジェル君がトルソーに着せられた服を見て驚いてる。
「皆さん、今、マーファに?」
「はい、今日の最終便でさっき」
ちょっと髪が伸びたロッシュさんが答えてくれる。
奥のテントから元気達も出てきて、はみはみ、すりすり、ご挨拶。
「ギルドに到着報告する前に、ちょっと祭りを覗こうってなりまして。まさかミズサワさんが出店しているなんて思いませんでした」
お祭り会場の広場は、ギルドへの通り道だからね。
「皆さん、お怪我はないんですか?」
なんか、あちこちぼろぼろだけど。
「いつもの事ですよ。ミズサワさん、パンありがとうございます。おかげでダンジョンアタックが上手くいきました」
「ただのパンですよ」
麦美ちゃんのパンやねん。
話を聞くと、かなり戦闘がスムーズに済んだし、危ない場面ではラッキーな事が続き怪我の回避ができたと。
「気のせいですよ。皆さんの実力があるから、できたことです」
思い当たる節はあるけど、誤魔化そう。
あの時、山風の皆さんの無事を祈り、魔力がごっそり抜けた。まさかと思うが、『神への祈り』が発動したんじゃないかと思っていたけど。だけど、単なるラッキーが続いただけかも知れないしね。黙っておこう。
「ユイさん、あれから大丈夫でしたか? 変なのに絡まれませんでしたか?」
ルリとクリスを撫でていたシュタインさんが心配そうに聞いてきた。シュタインさんは伸びた髪を縛っている。
「はい、ギルドが配慮してくれましたし、特に問題ありませんよ。あの時はありがとうございました」
「いいんですよ、あれくらい」
両親もスカイランの件でお礼を言う。
しばらく話して、山風の皆さんはギルドに到着報告に向かう。次の晃太の支援魔法スキルアップ依頼を受けてくれる事になる。良かった。マアデン君とハジェル君が、やった、とガッツポーズ。
「では、来週の月曜日、10時にギルドで」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ロッシュさんと私がペコリ。
「ケイコお母さんのご飯っ」
「楽しみっすっ」
腕をわきわきさせているマアデン君とハジェル君の頭を、ラーヴさんがぽかり。
「こら、行儀悪いぞ」
「ぶー、だったらラーヴさんの分も食べますよ」
「そおっす。毎回、カレーの入ったパン食べてるじゃないっすか」
ぽかり。
カレーパンの事かね。どうやら大好評みたいや。ならば、カレーをリストに加えるかね。
「じゃあ、どっかでカレーにしようかね」
「「やったあっ」」
ゴツン。
今度はロッシュさんのげんこつが落ちて、痛いと頭を抱えるマアデン君とハジェル君。
「ミズサワさん、気にしないでください」
「いいんですよ。こちらがお願いしている依頼なんですから」
「すみません、まだ子供じみた事を言ってしまうんです」
「子供って、マアデン君もハジェル君もまだ10代でしょう?」
マアデン君は17歳、ハジェル君が16歳。日本人の私にしてみたらまだ立派な未成年だ。
「私にしてみたら、10代はまだ未成年ですよ。しっかり栄養つけないと」
そう言うと、マアデン君とハジェル君の嬉しそうな顔。
「リーダー30代だから対象外っすね」
ゴツンッ。
「いでえッ」
「お前、一言余計なんだよ」
マアデン君が踞るハジェル君に呆れた視線を投げる。
「ミズサワさん、お騒がせしました。来週、ギルド前で」
こめかみピクピクさせながら、拳を握るロッシュさん。
痛いと言うハジェル君を連れて、山風の皆さんはギルドに向かう。
「ユイさん」
見送っていると、シュタインさんが振り返る。
「それ、似合ってますよ」
イ、イケメンのシュタインさんに言われて、なんだか顔が熱くなる。
「あ、ありがとうございます」
あら、なんだか嬉しか。
あはははん、嬉しかあ。
シュタインさんがペコリして、ロッシュさん達に追い付いていった。
その後私は上機嫌で、片付け。誉められるってテンション上がるもんやね。
そんな中、奥のテントで臥せていたビアンカとルージュが、顔をバッとあげる。
『ユイ』
『冷蔵庫ダンジョンからこぼれ落ちたわ』
「え? 何が?」
上がっていたテンションが。
『魔物なのです』
あ、なんか、そんな事聞いたな。うっかりさんの魔物がたまに落ちるって。
「何が出てきたん?」
確か、あまり強くないが、一般人に脅威だから、警備の人がいたはず。
『おそらく熊なのです』
『上層階のボス部屋にいたやつみたいよ』
嘘やろッ。27階の熊? 脅威以前の問題やッ。あれ、確か支援をした私と晃太では全く手に負えない。レベル100超えのノワールでも、正面からの衝突を避けて、回り込みながら馬蹄を叩き込んでいたのに。
私はテントを飛び出す。
「従魔が通りますっ、道を開けてくださいッ。ビアンカ、ルージュ、援護に行ってッ。人命最優先ッ」
声を張り上げる。
驚いた人々の前に、ビアンカとルージュが奥のテントから飛び出し、悲鳴が上がる。
人々の波を縫う様に駆けていくビアンカとルージュ。
「晃太、アップば」
「優衣、なんば言いようと?」
母が混乱気味の顔で私を止めにかかる。
「主人の私がいかん訳にはいかん。怪我人がおったら対応せんと。大丈夫や、ビアンカとルージュは熊くらいで負けやせんよ」
「姉ちゃん、アップッ」
晃太が私と自身に支援魔法。
母の制止を振り切り、私と晃太は駆け出した。
冷蔵庫ダンジョンまで、そこまで距離はない。
距離はない。
私と晃太は人々の波を抜けて、冷蔵庫ダンジョンに到着。
すでに、ビアンカとルージュが到着し、熊はいない。怪我もしていないようや。
ああ、良かった。やっぱりうちのビアンカとルージュはすごかね。胸を撫で下ろした瞬間。
「うわぁぁぁぁッ」
「シュタインさぁぁぁぁんッ」
マアデン君とハジェル君の悲痛な叫びが、私の頭から血の気を引く。
視線の先に、山風の皆さんが。
さっきまで笑っていたマアデン君とハジェル君が叫ぶ。ロッシュさんとラーヴさんが顔面蒼白で膝を突いた先に横たわるシュタインさん。
シュタインさんの左腕の肘から先がない。そして、革の鎧で覆われていたはずの腹部が裂け、おびただしい出血をしていた。
それ、似合ってますよ
ついさっき、そう言ってくれたシュタインさんが、力なく、地面に横たわっていた。
「まあ、素敵」
そう言ってイザベラ様は、例の着る者を選ぶグラデーションワンピースの前に。
「生地の配色も素敵だけど、デザインもいいわ、とても上品で」
聞きながら、母が嬉しそう。
私が試着を勧めると、お付きのメイドさんの眉が寄った。そりゃそうだ。こんなテントで伯爵夫人のお着替えなんてね。だけど、うちには最強の警備員がいる。
「うちのビアンカとルージュは優秀なので」
後ろのテントにいたビアンカとルージュが顔を出す。
「まあ、初めて近くで拝見しましたわ。とても大きい上になんて美しいのでしょう」
イザベラ様の言葉に、私の鼻が高くなる。
ただ、ビアンカとルージュが出たので、3人のお孫さんの興味が移る。
触りたいようだが、別のメイドさんが必死に止めて、とうとう泣き出す。
「触るくらいいいですよ」
なんせやんちゃな孤児院の子供達にもみくちゃにされているから。
シーマス君が身をよじって触ると叫ぶが、メイドさんが止める。
「少しくらいいいじゃないか。ミズサワ殿の従魔は、子供を襲ったりはしないだろう」
抱え直すセザール様がメイドさんに言うが、メイドさんは首を絶対に縦には振らない。リザベルちゃんとタチアナちゃんも触りたそうだが、許可が出なかった。メイドさんとしては、正しい対応なんだろうけど。
シーマス君は、ぎゃん泣き、リザベルちゃんとタチアナちゃんは半泣き。服を見ていたシエナさんがぎゃん泣きのシーマス君を抱える。
『はあ、なんでそこまで制限をするのですかね』
『仕方ないわね』
のそり、とビアンカとルージュが立ち上がり、3人の元に。
「大丈夫ですよ。うちのビアンカとルージュは優しいですから」
そうは言ったが、一瞬空気が凍りついた。メイドさんは震えて前に立とうとするが、そっとセザール様が後ろに下げる。ビアンカはシーマス君をペロッ、ルージュはリザベルちゃんとタチアナちゃんをペロッ。驚いていたが、パアッと笑顔が浮かび、途端に上機嫌に。おっかなびっくり触ると、満足したようだ。再び奥のテントに戻っていくビアンカとルージュ。
「気を使わせたなミズサワ殿」
ダストン様が申し訳ないなさそうな顔だ。
「いえ、普通にあんなに大きな魔物に気楽に触れるのがおかしいんですから。うちのビアンカとルージュは特別なので」
「そうでしたな」
それからイザベラ様の試着が終了。
「どうかしら?」
うわあ、とてもお似合いです。お世辞? ないない、全くない。あのグラデーションワンピースが似合うこと。
「まるで私の為に誂えたよう」
「奥様、お似合いでございます」
試着に付いていたメイドさんが、ほう、とため息を付くようにいう。
「あなた、どうかしら?」
「イザベラ、よく似合うよ。ますます綺麗だ」
「まあ、あなたったら」
……………………あ、これが噂のリア充?
ダストン様とイザベラ様の周囲に漂う空気が、他を寄せ付けない程キラキラしてる。
くう、なんだか、悔しいのは気のせいか? 気のせいなのか? 行きおくれ三十路女のひがみか?
「これを頂くわ。いいでしょうあなた?」
「構わないさ。君には苦労をかけているからね」
ダストン様自身が身分証で支払いをする。あのワンピース、20万だけど、ぽん、と支払ったよ。
その後、シエナ様が子供服を2着とヘアゴムを2つ選び、セザール様がお支払。
話を聞いたら、このメンバーでお祭り回るのは最後だと。
だって、セザール様来年新婚だからね。お邪魔なんて野暮なことはしませんよ、おほほ、と。
イザベラ様はそのままワンピースを着て、ダストン様と再びお祭りに回る。
最後に天使的な子供達が、バイバイと手を振ったので、私も小さくバイバイ。あはははん、かわいか。外国の小さな子供って、本当に絵画に出てくる天使やん。
見送った後がさあ大変。
「イザベラ様がご覧になっていた服はどれですの?」
と、身なりの良さそうなご婦人達が押し寄せてきた。あのイザベラ様はいわゆるマーファのファッションリーダー的存在だそうです。いや、あの美魔女にかかれば何でも綺麗に着こなすような気がするけど。だけど、なかなか売れ行きが伸びなかったシルク地の服が売れ出した。
「まあ、よくみたら最高のシルクだわ。これがこんなお値段なんて。これくださる?」
「私はこちらを。あなたの今、お召しの物はどれですの?」
「えーっとですねー」
売れた。だけど、売るまでがまあ、話の長いこと。
営業スマイルが、頬骨が、こめかみが痛い。
気が付いたら、ヘアゴムは完売。服も数着を残すのみになっていた。子供服に関しては完売していた。
「お母さん、売れたね」
「そうやね」
母は始終嬉しそうだ。
まだ、お祭りは時間的にあるが、もう売り物が底を付きかけている。早めに引き上げようかと話していると、
『ユイ、雄達よ』
「雄って、誰ね?」
『ロッシュとかシュタインとかいう雄達よ』
「山風のみなさんね」
ビアンカとルージュが知らせてくれてすぐに聞きなれた声が。
「「ミズサワさーんっ」」
荷物を背負ったマアデン君とハジェル君が、手を振り走ってくる。後ろではロッシュさん、シュタインさん、ラーヴさんがそれぞれ荷物を背負っている。
「皆さん、お帰りなさい」
「「はいっ」」
元気や。
「ユイさん、今日はお洒落っすね。あ、ですね」
ハジェル君が嬉かことを言ってくれる。
晃太や両親もテントから出てきてご挨拶。パーカーさん一家ともご挨拶。
「実はね」
私が事情説明。
「ケイコお母さん、何でも出きるんですね」
マアデン君とハジェル君がトルソーに着せられた服を見て驚いてる。
「皆さん、今、マーファに?」
「はい、今日の最終便でさっき」
ちょっと髪が伸びたロッシュさんが答えてくれる。
奥のテントから元気達も出てきて、はみはみ、すりすり、ご挨拶。
「ギルドに到着報告する前に、ちょっと祭りを覗こうってなりまして。まさかミズサワさんが出店しているなんて思いませんでした」
お祭り会場の広場は、ギルドへの通り道だからね。
「皆さん、お怪我はないんですか?」
なんか、あちこちぼろぼろだけど。
「いつもの事ですよ。ミズサワさん、パンありがとうございます。おかげでダンジョンアタックが上手くいきました」
「ただのパンですよ」
麦美ちゃんのパンやねん。
話を聞くと、かなり戦闘がスムーズに済んだし、危ない場面ではラッキーな事が続き怪我の回避ができたと。
「気のせいですよ。皆さんの実力があるから、できたことです」
思い当たる節はあるけど、誤魔化そう。
あの時、山風の皆さんの無事を祈り、魔力がごっそり抜けた。まさかと思うが、『神への祈り』が発動したんじゃないかと思っていたけど。だけど、単なるラッキーが続いただけかも知れないしね。黙っておこう。
「ユイさん、あれから大丈夫でしたか? 変なのに絡まれませんでしたか?」
ルリとクリスを撫でていたシュタインさんが心配そうに聞いてきた。シュタインさんは伸びた髪を縛っている。
「はい、ギルドが配慮してくれましたし、特に問題ありませんよ。あの時はありがとうございました」
「いいんですよ、あれくらい」
両親もスカイランの件でお礼を言う。
しばらく話して、山風の皆さんはギルドに到着報告に向かう。次の晃太の支援魔法スキルアップ依頼を受けてくれる事になる。良かった。マアデン君とハジェル君が、やった、とガッツポーズ。
「では、来週の月曜日、10時にギルドで」
「よろしくお願いします」
「こちらこそ」
ロッシュさんと私がペコリ。
「ケイコお母さんのご飯っ」
「楽しみっすっ」
腕をわきわきさせているマアデン君とハジェル君の頭を、ラーヴさんがぽかり。
「こら、行儀悪いぞ」
「ぶー、だったらラーヴさんの分も食べますよ」
「そおっす。毎回、カレーの入ったパン食べてるじゃないっすか」
ぽかり。
カレーパンの事かね。どうやら大好評みたいや。ならば、カレーをリストに加えるかね。
「じゃあ、どっかでカレーにしようかね」
「「やったあっ」」
ゴツン。
今度はロッシュさんのげんこつが落ちて、痛いと頭を抱えるマアデン君とハジェル君。
「ミズサワさん、気にしないでください」
「いいんですよ。こちらがお願いしている依頼なんですから」
「すみません、まだ子供じみた事を言ってしまうんです」
「子供って、マアデン君もハジェル君もまだ10代でしょう?」
マアデン君は17歳、ハジェル君が16歳。日本人の私にしてみたらまだ立派な未成年だ。
「私にしてみたら、10代はまだ未成年ですよ。しっかり栄養つけないと」
そう言うと、マアデン君とハジェル君の嬉しそうな顔。
「リーダー30代だから対象外っすね」
ゴツンッ。
「いでえッ」
「お前、一言余計なんだよ」
マアデン君が踞るハジェル君に呆れた視線を投げる。
「ミズサワさん、お騒がせしました。来週、ギルド前で」
こめかみピクピクさせながら、拳を握るロッシュさん。
痛いと言うハジェル君を連れて、山風の皆さんはギルドに向かう。
「ユイさん」
見送っていると、シュタインさんが振り返る。
「それ、似合ってますよ」
イ、イケメンのシュタインさんに言われて、なんだか顔が熱くなる。
「あ、ありがとうございます」
あら、なんだか嬉しか。
あはははん、嬉しかあ。
シュタインさんがペコリして、ロッシュさん達に追い付いていった。
その後私は上機嫌で、片付け。誉められるってテンション上がるもんやね。
そんな中、奥のテントで臥せていたビアンカとルージュが、顔をバッとあげる。
『ユイ』
『冷蔵庫ダンジョンからこぼれ落ちたわ』
「え? 何が?」
上がっていたテンションが。
『魔物なのです』
あ、なんか、そんな事聞いたな。うっかりさんの魔物がたまに落ちるって。
「何が出てきたん?」
確か、あまり強くないが、一般人に脅威だから、警備の人がいたはず。
『おそらく熊なのです』
『上層階のボス部屋にいたやつみたいよ』
嘘やろッ。27階の熊? 脅威以前の問題やッ。あれ、確か支援をした私と晃太では全く手に負えない。レベル100超えのノワールでも、正面からの衝突を避けて、回り込みながら馬蹄を叩き込んでいたのに。
私はテントを飛び出す。
「従魔が通りますっ、道を開けてくださいッ。ビアンカ、ルージュ、援護に行ってッ。人命最優先ッ」
声を張り上げる。
驚いた人々の前に、ビアンカとルージュが奥のテントから飛び出し、悲鳴が上がる。
人々の波を縫う様に駆けていくビアンカとルージュ。
「晃太、アップば」
「優衣、なんば言いようと?」
母が混乱気味の顔で私を止めにかかる。
「主人の私がいかん訳にはいかん。怪我人がおったら対応せんと。大丈夫や、ビアンカとルージュは熊くらいで負けやせんよ」
「姉ちゃん、アップッ」
晃太が私と自身に支援魔法。
母の制止を振り切り、私と晃太は駆け出した。
冷蔵庫ダンジョンまで、そこまで距離はない。
距離はない。
私と晃太は人々の波を抜けて、冷蔵庫ダンジョンに到着。
すでに、ビアンカとルージュが到着し、熊はいない。怪我もしていないようや。
ああ、良かった。やっぱりうちのビアンカとルージュはすごかね。胸を撫で下ろした瞬間。
「うわぁぁぁぁッ」
「シュタインさぁぁぁぁんッ」
マアデン君とハジェル君の悲痛な叫びが、私の頭から血の気を引く。
視線の先に、山風の皆さんが。
さっきまで笑っていたマアデン君とハジェル君が叫ぶ。ロッシュさんとラーヴさんが顔面蒼白で膝を突いた先に横たわるシュタインさん。
シュタインさんの左腕の肘から先がない。そして、革の鎧で覆われていたはずの腹部が裂け、おびただしい出血をしていた。
それ、似合ってますよ
ついさっき、そう言ってくれたシュタインさんが、力なく、地面に横たわっていた。
感想 867
あなたにおすすめの小説
「今日限りで君を解雇する」――20年仕えた地味なメイドですが、料理も手紙も暗殺者対策も私がやっていました
「エナメル。今日限りで君を解雇する」
20年仕えた屋敷をクビになった、地味なエルフのメイド・エナメル。
だが、晩餐会の料理も、侯爵への手紙も、調度品の手配も、屋敷を狙う暗殺者の処理も――すべて彼女が陰で支えていたものだった。
エナメルが去ったあと、屋敷は少しずつ綻び始める。
一方の本人は、そんなことも知らず。
「さて。次はどこで雇っていただきましょう」
地味で目立たないベテランメイド・エナメルの、新しい奉公先探しが始まる。
※本作は『メイドのエナメルは今日も静かにお仕えします』シリーズの第1作です。本作単体でもお楽しみいただけます。
異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった
高校の英語の授業中、勇者召喚で僕たちクラスメイト7名は異世界にやって来た。
目的は魔王討伐では無くて、高難易度ダンジョンの封印?!
でも僕ユイトのスキルは「貯金箱」、エイジは「犬」。
役立たず認定で、二人とも城を追放されてしまった。
のんびり暮らそうとしたけどそうもいかなくなって。
僕たちは奇妙なスキルを駆使して異世界で生き延びる。
緩~いファンタージ物語です。のんびりと書いていきます。
本文はなるべく簡潔に、サクサク進むようにしています。
暇つぶしに読んでいただいて、楽しんでくださると嬉しいです。
なろう様にも投稿。
捨てられた幼女ですが、公爵家に拾われたら家族みんなの愛が重すぎました
幼い頃に母親に捨てられ、孤児院で暮らしていた少女リリア。
「役に立たなければ、また捨てられる」
そう思い、いつも“いい子”でいようとしていた彼女は、ある日、公爵家の馬車を助けたことをきっかけに屋敷へ招かれる。
そこで待っていたのは、娘に甘すぎる公爵夫妻に、妹を構いたがるレオン、そしてリリアを甘やかしたい使用人たち。
戸惑いながらも、少しずつ公爵家に居場所を見つけていくリリア。やがて夫妻から「私たちの娘になってほしい」と告げられて――。
これは、捨てられないために“いい子”でいようとしていた少女が、重すぎるほどの愛情に包まれ、本当の家族を見つけていく物語。
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
番の証が出ないと捨てられたので、神様に確かめてもらいます
「番の証が出ぬからだ」
和平のために獣人国へ嫁いで四年。獣王ガイウス様との儀式は三度、三度とも証は出ませんでした。「人間の娘では神は認めぬ」——そう言われて、離宮へ。
雨漏りの下で眠り、井戸をさらい、畑を耕して。泣かなかったのは強いからではありません。獣人には、匂いでわかってしまうから。
嫁ぐ前に三年かけて読み込んだ婚姻法典。その第四章に、こうありました。
『既に誓いを結びたる者が、重ねて他者と誓いを立てんとする時、神は後の誓いを認めず』
——証が出なかったのは、わたしが人間だからではない。
長老会に申し立てたのは、解釈の確認だけ。わたしは悪くない、とは一言も書きませんでした。
遡誓の儀で神殿に浮かんだのは、六年前の秋の「成立」と、わたしの三度の「不成立(重複)」でした。
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます
「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」
竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。
ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。
夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
土下座する王妃の座などいらないので、冒険者に転職します。
「私が愛しているのはエルナ。君だけだ」
エルナは自分の夫でありハーメルン王国の国王であるカメルを愛していた。
彼がどれほど自分より隣国の聖女を優先しようとも。
結婚して二年が経っても初夜を迎えたことがなかろうとも。
しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
*ゆるい設定です。不快に思われる方はブラウザバックをお願いします。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。