文字の大きさ
大
中
小
435 / 878
連載
一旦は②
なんとなく気まずい気がするけど。私はシュタインさんと向き合う。シュタインさんもそうなのが、視線が一瞬さ迷った。
だけど、すぐに私と向き合う。
「ユイさん」
「はい」
「俺は、貴女に」
シュタインさんの灰色の目が、切なげに揺れている。
「貴女に、好意以上の、いや、違う」
マーファと同じ台詞が出てきそうになるが、途中で止まる。
「貴女が好きです、ユイさん」
直球できた言葉は、シュタインさんの切なげな目と共に私を貫く。
不覚にもドキッとする。イケメンのシュタインさんの言葉の威力が凄か。凄かけど、はっきりと自覚する。変に言い訳がましくしてはならないと。
「俺は、貴女が好きです」
「あ、ありがとうございます」
咄嗟に出た私の言葉に、シュタインさんの顔が、ふわっと歓喜に色が浮かぶ。
「お気持ちは、本当に嬉しいんですが。私には、シュタインさんの気持ちには答えられません。申し訳ありません」
私の心には、ホークさんがいる。
シュタインさんの表情に、さーっ、と色がなくなる。
私は、頭を下げる。
「…………………あの、戦闘奴隷のリーダーですか?」
ドキイィィッ
何でっ? え、嘘やろ? 両親や晃太にもばれてないのにっ。ちゃんと隠しているつもりなのにっ。
私は動揺してしまう。
「な、なんで……………」
「やっぱり」
ふぅー、と息を吐き出すシュタインさん。
「戦闘奴隷、ホークでしたっけ。あいつが称号があるって言った時」
あ、あの時。ホークさんに『天馬騎士(ペガサスナイト)』の称号があるって分かった時。
「手を、握って、見つめ合ってましたよね」
「あ、はい。はい?」
私が半端に出した手を、ホークさんが包んでくれた。見つめあって言われても、ほんのちょっとよ。確かに、あの時、いろんな人にみられていたかも知れないけど、本当にちょっとよ。
「あいつの目が、ユイさんに対してどう思っているか、直感したんです。ユイさんも受け入れていたように思えて」
だけど、と続けるシュタインさん。
「どうしても、俺は諦めたくなかった。勘違いかもしれないかもって思いたかった。だから、知りたかった」
ため息を吐くシュタインさん。
「やっぱり、俺は相手にされなかったですね」
自嘲するようなシュタインさん。
「あの、シュタインさん、そうやないんですよっ」
そんな姿に私は慌ててしまう。なんや、さっきまで言い訳しないっていう気持ちが逃げていく。
「座りませんか?」
そんな慌てる私に、シュタインさんはベンチを指差す。ホークさんとあの日話したベンチ。中庭にはベンチはこれしかないけど。
「あ、はい」
私はおずおずと座る。なんやろ、ドキドキする。なんか変な汗が出てきた。
なんだか、憑き物でも落ちたようなシュタインさん。
「聞いてもいいですか?」
「はい、何でしょう」
私は緊張して答える。何を聞かれるんやろ?
「マーファでは迷惑でしたか?」
あ、あの時?
「迷惑って、そんなことはなかですよ。そりゃ驚きましたけど」
手の甲に、ちゅ、だもん。鬘だったら吹っ飛ぶ衝撃だったし。
「嬉しかったですよ。あんな風に言われたのは生まれて初めてで、舞い上がるようでしたけど」
1人になって考えて、考え付いたのは吊り橋効果だった。
そして、私は女としての自信がないことを思い出した。それはシュタインさんには言わないけど。
「色々考えて、最後に思い浮かんだのは、熊に襲われて傷を負ったシュタインさんの姿でした」
「そう、ですか」
ため息つきそうなシュタインさん。視線は地面に落ちたままだ。
「ユイさん」
「はい」
「もし、俺が毎日、貴女に伝えていたら、変わっていました?」
「あ……………」
毎日? 毎日あれ? 毎日あれやられたら、イケメンのシュタインさんに言われたら、誰だって傾かない?
「あ、あ、それは、あっと……………私、そういうの、分からないというか、えっと」
「俺を好きになってくれました?」
こっちを見て聞いてくる。答えにくいっ。毎日、あれをやられたら、音をたてて崩れてるような気がするっ。いまさらだけどっ。
だってさ、ホークさんとの事だってさ、言われなければ自覚するのだって怪しい。いつかは気がついたかもしれないけど。多分、時間がかかっていたかもしれない。
「やっぱり。あいつと何かあったんですね」
「な、な、何かって、何か?」
何かって、ちょっとだけ、ちょっとだけ、だったよ、あれだけだし、あれから何にもないしっ。
…………………………………あら?
あれから、何にもない。
確かに私とホークさんの立ち位置は変わらない。主人と戦闘奴隷のリーダーだ。その距離感を保っているつもり。ホークさん、立場を崩さずにいる。別に私はそれでいいかなって思っている。今の距離感がありがたい、私はね。
あら? これでいいのかな?
「ユイさん。どうしました?」
「いえ、何でもないです?」
「疑問系ですね。そもそもあいつのどこが良かったんですか?」
「そ、それは」
聞かれたのは我ながら恥ずかしい言葉を絞り出す。
初めての対人戦で、フォローしてくれた事。
冒険者として不足している部分を補ってくれた事。
ノワールに乗って、魔境を私という荷物を抱えてくれた事。
色々話した事。
「ふーん」
と、聞いたシュタインさんが、何故か目を細めて聞いている。
「ユイさん、それ、吊り橋効果じゃないですか?」
シュタインさんの一言に、私はフリーズ。
「その対人戦あたり、まさにそうじゃないですか?」
私は返事ができない。
まさにそうやと思えてきた。
最初のきっかけと言われたら、まさにあの対人戦だ。
私は頭の中が混乱を始める。
えっ? まさか、私のこの気持ちって、勘違いなの?
あの安心感とか、嬉しかった事や、おくるみ抱いたイメージとか、全部勘違い? まさかの勘違い?
私の中で、ごちゃごちゃしそうになる。
シュタインさんに吊り橋とか言ってた当人が、自分の気持ちが、土台が崩れそう。
「ユイさん。俺が貴女が好きだと自覚したのは、あの熊の件で、ユイさんが見舞いに来てくれた時でしたけど。その前から意識してましたよ」
「はい?」
改めてのシュタインさんの告白。
「ユイさん、優しいし、飯旨いし、いい匂いするし、その色々」
何、色々って。いま、視線がどこにいってた?
「積み重なって、俺はユイさんが好きなんだって思って」
「そ、そうですか………………」
なんや嬉しか、恥ずかしか。
…………………………………………………………………あ、ちょっと、待って。それは、私にも当てはまらない?
あら? 私の中、ゴロゴロゴロゴロと気持ちがおかしくなる。崩れそうだったのに、ゆっくり順序立てて考える。今の関係が心地い。他から見たら、ぬるま湯のような関係が。前にも後ろにも進んでない関係が。
「ユイさん」
「あ、はい」
悶々としていた私は、シュタインさんがじっとこちらを見ながら聞いてくる。
「もしかして、迷ってます?」
「迷って……………ちょっと、混乱しただけで…………………」
事実を突かれて、崩れそうだったけど。
今の関係が心地いいし、何よりあの時頭に浮かんだイメージや、何より換えがたい安心感。それが、私にとって重要やし。
そうや、それで、今はいいかも。
そう思えて良かったかもしれない。
………………………ホークさんにしたら、不満やないかな? あら? いいのかな? あら? もしかしたら、私がぐずぐずしている間に、ホークさんが心変わりしたら? だって、私は自分に自信ないんやもん。
コロコロ考えが変わる。
シュタインさんは少し考えてから、口を開く。
「なら、まだ、俺にもチャンスあります?」
「なんでそうなるんですか?」
「だって、揺らいでいるでしょう? 俺だって、たった一回フラれたくらいで諦めたくない」
うっ、シュタインさんの灰色の目が、なにやら力強い。
「あいつとどこまでいってます? まだ、身体を許してないでしょう?」
ぐふうっ。シュ、シュタインさんっ、ダイレクト過ぎっ。
私の顔に、やっぱり、みたいなシュタインさん。
「もしあいつに迫られたとして、ユイさん、受け入れます?」
ぐふうっ。こ、こ、心の準備不足がぁ。
「いやっ、待って、そのホークさんはそんなことはっ」
はあっ、とため息つくシュタインさん。
「ユイさん、あのですね。男はですね、誰だって最後はそれを望みますよ」
ごふうっ。そ、そうなんだろうけどっ。
貴女を抱き締めたい
あ、あの時のあの言葉が、そんな風に受け取ってしまう。
「まあ嫌がるユイさんに迫るような事はしないでしょうけど」
ほーっ。
そ、そうだよね、ホークさん、そんなことしないっ。
そうだよっ、そうだよーっ。
「時間かかりそうですね」
ぐふうっ。
「だったら、そうなるまでに、俺が貴女を口説けばいい」
「あのっ、シュタインさんっ」
「ユイさんが、揺らいでいるのが分かって良かった」
立ち上がるシュタインさん。そして、私の前に片膝をつく。見上げるような体勢。
「俺は貴女が好きです」
「ですからっ、私は気持ちには応えられないっ」
おそらく、私の目は渦を巻くような混乱を示していたはず。
「変わるもんですよ、人の気持ちは」
なんやねん、その悟りみたいな言い方は?
「だから、ユイさんの気持ちが俺に傾くまでいい続けます。俺はユイさんが好きです、好きです、好きです」
む、胸に刺さる。シュタインさんの顔がみれない。
「で、ですから」
「応えられない? ユイさんはあいつと主人と戦闘奴隷のままで? おそらくユイさんは節度は守っているでしょうけど。それが、永遠に続くって思ってます?」
「で、でも。私の中にはホークさんがいて、それで」
「追い出すつもりはないですよ。ゆっくり、俺が貴女の心に入っていけばいい。ユイさん、好きです、貴女が」
私は鯉のようにパクパクし始める。
「だから、一回フラれたくらいでユイさんを諦めたくない。俺には『称号』もなにもないですが、貴女が好きです」
真剣に続けるシュタインさん。心臓がチクチクする。
「それでユイさんが俺をそれでも受け付けないって言うまでは、諦めないです」
だから。
「俺はユイさんが好きです」
私の手を取り、ちゅ、とする。
鬘だったら、再び吹っ飛ぶ衝撃。あわあわ。
「あ、あ、あ、あ、あの、シュタインさんっ、あ、明日早かしっ、わ、私、ねらんといかんからっ」
月が綺麗だからって見上げただけだったのにっ。
お休みなさいっ。
と、かみながら告げて、私は自室に走って逃げた。
一晩中、悶々としながら。
だけど、すぐに私と向き合う。
「ユイさん」
「はい」
「俺は、貴女に」
シュタインさんの灰色の目が、切なげに揺れている。
「貴女に、好意以上の、いや、違う」
マーファと同じ台詞が出てきそうになるが、途中で止まる。
「貴女が好きです、ユイさん」
直球できた言葉は、シュタインさんの切なげな目と共に私を貫く。
不覚にもドキッとする。イケメンのシュタインさんの言葉の威力が凄か。凄かけど、はっきりと自覚する。変に言い訳がましくしてはならないと。
「俺は、貴女が好きです」
「あ、ありがとうございます」
咄嗟に出た私の言葉に、シュタインさんの顔が、ふわっと歓喜に色が浮かぶ。
「お気持ちは、本当に嬉しいんですが。私には、シュタインさんの気持ちには答えられません。申し訳ありません」
私の心には、ホークさんがいる。
シュタインさんの表情に、さーっ、と色がなくなる。
私は、頭を下げる。
「…………………あの、戦闘奴隷のリーダーですか?」
ドキイィィッ
何でっ? え、嘘やろ? 両親や晃太にもばれてないのにっ。ちゃんと隠しているつもりなのにっ。
私は動揺してしまう。
「な、なんで……………」
「やっぱり」
ふぅー、と息を吐き出すシュタインさん。
「戦闘奴隷、ホークでしたっけ。あいつが称号があるって言った時」
あ、あの時。ホークさんに『天馬騎士(ペガサスナイト)』の称号があるって分かった時。
「手を、握って、見つめ合ってましたよね」
「あ、はい。はい?」
私が半端に出した手を、ホークさんが包んでくれた。見つめあって言われても、ほんのちょっとよ。確かに、あの時、いろんな人にみられていたかも知れないけど、本当にちょっとよ。
「あいつの目が、ユイさんに対してどう思っているか、直感したんです。ユイさんも受け入れていたように思えて」
だけど、と続けるシュタインさん。
「どうしても、俺は諦めたくなかった。勘違いかもしれないかもって思いたかった。だから、知りたかった」
ため息を吐くシュタインさん。
「やっぱり、俺は相手にされなかったですね」
自嘲するようなシュタインさん。
「あの、シュタインさん、そうやないんですよっ」
そんな姿に私は慌ててしまう。なんや、さっきまで言い訳しないっていう気持ちが逃げていく。
「座りませんか?」
そんな慌てる私に、シュタインさんはベンチを指差す。ホークさんとあの日話したベンチ。中庭にはベンチはこれしかないけど。
「あ、はい」
私はおずおずと座る。なんやろ、ドキドキする。なんか変な汗が出てきた。
なんだか、憑き物でも落ちたようなシュタインさん。
「聞いてもいいですか?」
「はい、何でしょう」
私は緊張して答える。何を聞かれるんやろ?
「マーファでは迷惑でしたか?」
あ、あの時?
「迷惑って、そんなことはなかですよ。そりゃ驚きましたけど」
手の甲に、ちゅ、だもん。鬘だったら吹っ飛ぶ衝撃だったし。
「嬉しかったですよ。あんな風に言われたのは生まれて初めてで、舞い上がるようでしたけど」
1人になって考えて、考え付いたのは吊り橋効果だった。
そして、私は女としての自信がないことを思い出した。それはシュタインさんには言わないけど。
「色々考えて、最後に思い浮かんだのは、熊に襲われて傷を負ったシュタインさんの姿でした」
「そう、ですか」
ため息つきそうなシュタインさん。視線は地面に落ちたままだ。
「ユイさん」
「はい」
「もし、俺が毎日、貴女に伝えていたら、変わっていました?」
「あ……………」
毎日? 毎日あれ? 毎日あれやられたら、イケメンのシュタインさんに言われたら、誰だって傾かない?
「あ、あ、それは、あっと……………私、そういうの、分からないというか、えっと」
「俺を好きになってくれました?」
こっちを見て聞いてくる。答えにくいっ。毎日、あれをやられたら、音をたてて崩れてるような気がするっ。いまさらだけどっ。
だってさ、ホークさんとの事だってさ、言われなければ自覚するのだって怪しい。いつかは気がついたかもしれないけど。多分、時間がかかっていたかもしれない。
「やっぱり。あいつと何かあったんですね」
「な、な、何かって、何か?」
何かって、ちょっとだけ、ちょっとだけ、だったよ、あれだけだし、あれから何にもないしっ。
…………………………………あら?
あれから、何にもない。
確かに私とホークさんの立ち位置は変わらない。主人と戦闘奴隷のリーダーだ。その距離感を保っているつもり。ホークさん、立場を崩さずにいる。別に私はそれでいいかなって思っている。今の距離感がありがたい、私はね。
あら? これでいいのかな?
「ユイさん。どうしました?」
「いえ、何でもないです?」
「疑問系ですね。そもそもあいつのどこが良かったんですか?」
「そ、それは」
聞かれたのは我ながら恥ずかしい言葉を絞り出す。
初めての対人戦で、フォローしてくれた事。
冒険者として不足している部分を補ってくれた事。
ノワールに乗って、魔境を私という荷物を抱えてくれた事。
色々話した事。
「ふーん」
と、聞いたシュタインさんが、何故か目を細めて聞いている。
「ユイさん、それ、吊り橋効果じゃないですか?」
シュタインさんの一言に、私はフリーズ。
「その対人戦あたり、まさにそうじゃないですか?」
私は返事ができない。
まさにそうやと思えてきた。
最初のきっかけと言われたら、まさにあの対人戦だ。
私は頭の中が混乱を始める。
えっ? まさか、私のこの気持ちって、勘違いなの?
あの安心感とか、嬉しかった事や、おくるみ抱いたイメージとか、全部勘違い? まさかの勘違い?
私の中で、ごちゃごちゃしそうになる。
シュタインさんに吊り橋とか言ってた当人が、自分の気持ちが、土台が崩れそう。
「ユイさん。俺が貴女が好きだと自覚したのは、あの熊の件で、ユイさんが見舞いに来てくれた時でしたけど。その前から意識してましたよ」
「はい?」
改めてのシュタインさんの告白。
「ユイさん、優しいし、飯旨いし、いい匂いするし、その色々」
何、色々って。いま、視線がどこにいってた?
「積み重なって、俺はユイさんが好きなんだって思って」
「そ、そうですか………………」
なんや嬉しか、恥ずかしか。
…………………………………………………………………あ、ちょっと、待って。それは、私にも当てはまらない?
あら? 私の中、ゴロゴロゴロゴロと気持ちがおかしくなる。崩れそうだったのに、ゆっくり順序立てて考える。今の関係が心地い。他から見たら、ぬるま湯のような関係が。前にも後ろにも進んでない関係が。
「ユイさん」
「あ、はい」
悶々としていた私は、シュタインさんがじっとこちらを見ながら聞いてくる。
「もしかして、迷ってます?」
「迷って……………ちょっと、混乱しただけで…………………」
事実を突かれて、崩れそうだったけど。
今の関係が心地いいし、何よりあの時頭に浮かんだイメージや、何より換えがたい安心感。それが、私にとって重要やし。
そうや、それで、今はいいかも。
そう思えて良かったかもしれない。
………………………ホークさんにしたら、不満やないかな? あら? いいのかな? あら? もしかしたら、私がぐずぐずしている間に、ホークさんが心変わりしたら? だって、私は自分に自信ないんやもん。
コロコロ考えが変わる。
シュタインさんは少し考えてから、口を開く。
「なら、まだ、俺にもチャンスあります?」
「なんでそうなるんですか?」
「だって、揺らいでいるでしょう? 俺だって、たった一回フラれたくらいで諦めたくない」
うっ、シュタインさんの灰色の目が、なにやら力強い。
「あいつとどこまでいってます? まだ、身体を許してないでしょう?」
ぐふうっ。シュ、シュタインさんっ、ダイレクト過ぎっ。
私の顔に、やっぱり、みたいなシュタインさん。
「もしあいつに迫られたとして、ユイさん、受け入れます?」
ぐふうっ。こ、こ、心の準備不足がぁ。
「いやっ、待って、そのホークさんはそんなことはっ」
はあっ、とため息つくシュタインさん。
「ユイさん、あのですね。男はですね、誰だって最後はそれを望みますよ」
ごふうっ。そ、そうなんだろうけどっ。
貴女を抱き締めたい
あ、あの時のあの言葉が、そんな風に受け取ってしまう。
「まあ嫌がるユイさんに迫るような事はしないでしょうけど」
ほーっ。
そ、そうだよね、ホークさん、そんなことしないっ。
そうだよっ、そうだよーっ。
「時間かかりそうですね」
ぐふうっ。
「だったら、そうなるまでに、俺が貴女を口説けばいい」
「あのっ、シュタインさんっ」
「ユイさんが、揺らいでいるのが分かって良かった」
立ち上がるシュタインさん。そして、私の前に片膝をつく。見上げるような体勢。
「俺は貴女が好きです」
「ですからっ、私は気持ちには応えられないっ」
おそらく、私の目は渦を巻くような混乱を示していたはず。
「変わるもんですよ、人の気持ちは」
なんやねん、その悟りみたいな言い方は?
「だから、ユイさんの気持ちが俺に傾くまでいい続けます。俺はユイさんが好きです、好きです、好きです」
む、胸に刺さる。シュタインさんの顔がみれない。
「で、ですから」
「応えられない? ユイさんはあいつと主人と戦闘奴隷のままで? おそらくユイさんは節度は守っているでしょうけど。それが、永遠に続くって思ってます?」
「で、でも。私の中にはホークさんがいて、それで」
「追い出すつもりはないですよ。ゆっくり、俺が貴女の心に入っていけばいい。ユイさん、好きです、貴女が」
私は鯉のようにパクパクし始める。
「だから、一回フラれたくらいでユイさんを諦めたくない。俺には『称号』もなにもないですが、貴女が好きです」
真剣に続けるシュタインさん。心臓がチクチクする。
「それでユイさんが俺をそれでも受け付けないって言うまでは、諦めないです」
だから。
「俺はユイさんが好きです」
私の手を取り、ちゅ、とする。
鬘だったら、再び吹っ飛ぶ衝撃。あわあわ。
「あ、あ、あ、あ、あの、シュタインさんっ、あ、明日早かしっ、わ、私、ねらんといかんからっ」
月が綺麗だからって見上げただけだったのにっ。
お休みなさいっ。
と、かみながら告げて、私は自室に走って逃げた。
一晩中、悶々としながら。
感想 867
あなたにおすすめの小説
「今日限りで君を解雇する」――20年仕えた地味なメイドですが、料理も手紙も暗殺者対策も私がやっていました
「エナメル。今日限りで君を解雇する」
20年仕えた屋敷をクビになった、地味なエルフのメイド・エナメル。
だが、晩餐会の料理も、侯爵への手紙も、調度品の手配も、屋敷を狙う暗殺者の処理も――すべて彼女が陰で支えていたものだった。
エナメルが去ったあと、屋敷は少しずつ綻び始める。
一方の本人は、そんなことも知らず。
「さて。次はどこで雇っていただきましょう」
地味で目立たないベテランメイド・エナメルの、新しい奉公先探しが始まる。
※本作は『メイドのエナメルは今日も静かにお仕えします』シリーズの第1作です。本作単体でもお楽しみいただけます。
異世界転移した僕と彼のスキルは「貯金箱」と「犬」だったので即追放。でもこれが意外と強かった
高校の英語の授業中、勇者召喚で僕たちクラスメイト7名は異世界にやって来た。
目的は魔王討伐では無くて、高難易度ダンジョンの封印?!
でも僕ユイトのスキルは「貯金箱」、エイジは「犬」。
役立たず認定で、二人とも城を追放されてしまった。
のんびり暮らそうとしたけどそうもいかなくなって。
僕たちは奇妙なスキルを駆使して異世界で生き延びる。
緩~いファンタージ物語です。のんびりと書いていきます。
本文はなるべく簡潔に、サクサク進むようにしています。
暇つぶしに読んでいただいて、楽しんでくださると嬉しいです。
なろう様にも投稿。
捨てられた幼女ですが、公爵家に拾われたら家族みんなの愛が重すぎました
幼い頃に母親に捨てられ、孤児院で暮らしていた少女リリア。
「役に立たなければ、また捨てられる」
そう思い、いつも“いい子”でいようとしていた彼女は、ある日、公爵家の馬車を助けたことをきっかけに屋敷へ招かれる。
そこで待っていたのは、娘に甘すぎる公爵夫妻に、妹を構いたがるレオン、そしてリリアを甘やかしたい使用人たち。
戸惑いながらも、少しずつ公爵家に居場所を見つけていくリリア。やがて夫妻から「私たちの娘になってほしい」と告げられて――。
これは、捨てられないために“いい子”でいようとしていた少女が、重すぎるほどの愛情に包まれ、本当の家族を見つけていく物語。
初夜のあとに愛する人がいると言われたので祝福で身体の時間を一日戻しました
夫婦となって初めて迎えた夜、セレンティアは夫リオールから「俺には、愛する人がいる」と告げられる。
彼が初夜を済ませた理由は、三年後に白い結婚として婚姻無効を申し立てられないようにするためだった。
けれどリオールは知らなかった。セレンティアの祝福《一日回帰》が、自分自身の身体にも使えることを。
セレンティアは自分の身体の時間を一日前へ戻し、三年間、侯爵家の妻として務めを果たすことを決める。
夫に愛されるためではない。三年後、白い結婚としてこの家を出ていくために。
番の証が出ないと捨てられたので、神様に確かめてもらいます
「番の証が出ぬからだ」
和平のために獣人国へ嫁いで四年。獣王ガイウス様との儀式は三度、三度とも証は出ませんでした。「人間の娘では神は認めぬ」——そう言われて、離宮へ。
雨漏りの下で眠り、井戸をさらい、畑を耕して。泣かなかったのは強いからではありません。獣人には、匂いでわかってしまうから。
嫁ぐ前に三年かけて読み込んだ婚姻法典。その第四章に、こうありました。
『既に誓いを結びたる者が、重ねて他者と誓いを立てんとする時、神は後の誓いを認めず』
——証が出なかったのは、わたしが人間だからではない。
長老会に申し立てたのは、解釈の確認だけ。わたしは悪くない、とは一言も書きませんでした。
遡誓の儀で神殿に浮かんだのは、六年前の秋の「成立」と、わたしの三度の「不成立(重複)」でした。
飛べないと捨てられたので、竜ごと出て行きます
「お前は竜に乗れもしない、ただの妻だろう」
竜騎士団長の夫はそう言って、飛べる従騎士の娘を選びましたわ。
ええ、わたくしは飛べません。十二年、地上におりました。
夜明け前に三十一頭の寝息を数え、歯を磨き、爪の砂を取り、冬に毛布を掛け、契約を編んで。——この国でただひとりの「調律者」として。
竜は、人を乗せない生き物ですのよ。竜自身が「乗せてもいい」と決めない限り。そして竜が誰の言葉で頷いてきたか、あの方は十二年、一度もお考えにならなかった。
離縁されて、わたくしは竜舎を出ました。
三日後から、竜は一頭も飛ばなくなりましたの。
怒っているのではありませんのよ。竜は報復をしませんもの。ただ——寂しいのです。
そして来月は、三年に一度の、契約更新日ですわ。
土下座する王妃の座などいらないので、冒険者に転職します。
「私が愛しているのはエルナ。君だけだ」
エルナは自分の夫でありハーメルン王国の国王であるカメルを愛していた。
彼がどれほど自分より隣国の聖女を優先しようとも。
結婚して二年が経っても初夜を迎えたことがなかろうとも。
しかし。
「エルナ。君に失望した。聖女を陥れていじめるとはな。罪を認め、ひざまずいて謝罪するように」
一年に一度の建国記念宴会であり結婚記念日に、カメルはすべての貴族や外国の使節団が見ている前で、エルナに身に覚えのない罪を認めろと断罪した。
愛が壊れるのは一瞬。
だからこそ、エルナはその場でひざまずいた。頭を地面にこすりつけて謝罪した。
「聖女を陰謀にかけた大罪人エルナは、この時間をもって王妃の座から退き、平民となりますことをお許しください。聖女様とどうかお幸せに」
*ゆるい設定です。不快に思われる方はブラウザバックをお願いします。
婚約破棄を受け入れた瞬間、王太子殿下が青ざめました
王都でもっとも華やかな春の夜会。その中央で、王太子エドワードは冷ややかな目を婚約者へ向けていた。
「リリアーナ・フォン・アルベルト公爵令嬢。君との婚約を、ここで破棄する」
会場が一瞬で静まり返る。
リリアーナは淡い金髪を揺らし、静かに王太子を見つめ返した。
「理由を、お聞きしてもよろしいでしょうか」
「理由など明白だ。君は嫉妬深く、心が狭い。それに比べ、私は真実の愛を見つけた」
そう言ってエドワードが隣へ引き寄せたのは、男爵令嬢のセシリアだった。